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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_5話

Last-modified: 2013-04-28 (日) 18:16:35

レイ・ザ・バレルは元オーブ国民の住宅を訪問し、インターフォンを鳴らしていた。
少年の後ろで、カガリ・ユラ・アスハは落ち着かぬ様子で待っている。
これから国を離れた技術者と会い、国に戻ってきてくれぬか頼もうと彼女は考えていた。
そわそわ。何を話そうか考えているカガリを他所に、警護に当たっているアレックスの表情は硬い。
彼女は楽観的に考えているが、アレックスはこの会合が成功するように思えなかった。
ポジティブに考える傾向のある彼女とは反対に、少年はネガティブな考えに陥ることが多い。

 

「どなたでしょうか」
「ザフト軍所属、レイ・ザ・バレルであります」
「…………軍!あ、あの、どういったご用件でしょうか?」
「ご安心ください、マダム。あなた方にお会いしたいという要人の方をお連れしただけです」
「要人の方、ですか?」

 

軍のものが唐突に訪れたことに警戒し、怯えていた女性の声が和らぐ。
聞こえてくる声色からして年若い女性のように思われた。
少しでもインターフォン越しに居る女性が落ち着けるよう、レイは表情を緩め話しかける。
表情と同じように、彼の声色も柔らかさを含んだものとなった。

 

カガリは気に喰わなかった。
この少年はこういった応対も出来るのに、何故自分には棘のある応対をするのか。
何か気に障ることでもあると言うのか、初対面だと言うのに。
一瞬、負の感情に囚われた彼女であったが、頭を振ってその思考を霧散させる。
これから、元オーブの国民に帰ってきてくれるよう頼むのだ。
こんな気持ちを抱えたままでは成功するものも、成功しない。
口元に引きつり気味の笑みを浮かべ、カガリは待つ。
住人が玄関を開け、自分達のことを招き入れてくれるときを。

 

「今お開けいたします、お待ちいただけますか?」
「ええ、よろしくお願いします」

 

やっと開けてくれる。カガリは奮い立つ気持ちを落ち着けるため、襟首を整えた。
身を硬くしているカガリのことがおかしくて、アレックスは口元に苦笑を浮かべる。
つい先ほどまでこの国の頂点の議長に、対しあんなに反骨心丸出しで会談していたというのに。
彼女らしいと言えば彼女らしい。

 

『ガチャリ』

 

気を緩めかけた彼もまた、身を強張らせた。いきなり銃でも突きつけてくることなど無いだろうが、
自分の職務は彼女の身の安全を守ることにある。
公私共にパートナーであるカガリに、毛筋ひとつでも傷など負わせるものか。
アレックスの瞳に鋭い光が宿った。殺気漂うそれは、年若い少年が纏うには余りに悲しい。
ゆっくりと玄関が開き、中から人が出てくるのが分かる。シルエットは細身に見え華奢な印象を受ける。

 

「どういった方が、いらしてるんですか?」

 

玄関の前でレイと穏やかに話している若い女性。
この家の奥方であろうか、レイの影からちらちらと見える姿は、
上品に笑いかけて話している様子から、カガリは好感が持てた。
レイと話し込んでいるのか、女性はまだカガリたちの存在に気が付いていないようだ。

それでもいいさ、すぐに話しかける時間はやってくる。
少女の引きつっていた笑みは、自然な微笑みに変わっていた。
ようやく、国外に移住してしまった国民と触れ合うことができる。
これをきっかけに人口流出に歯止めをかけ、なおかつ難民として国外で苦しい生活をしているであろう
国民たちを呼び戻したい――――カガリの胸の内では心の底から善意で動いていた。

 

「あちらの方です、マダム。気を確かにお持ちください」

 

女性がレイの最後に言った言葉を冗談と受け取り、笑って見せた。
『もう、冗談の上手い人』とでも思っていたのか、女性の表情には朗らかなものであった。

 

(何だ、その言い草は! まるで私の訪問が不吉なもののように思われるだろう!)

再び憤慨しそうになるカガリは、住人とやっと顔を合わせることができた。

 

「申し遅れた、私は――――「カガリ………ユラ・アスハ」」

 

自己紹介をしようとしたカガリの声は、女性の声に遮られてしまう。
女性が口元に手を当て、悲哀の篭った声で少女の名を呟いた。
瞳が揺れ、女性が動揺しているのが見て取れる。
女性はすぐ隣に居るレイを見上げる。彼は意味深に首を横に振るだけで答えてくれない。
何故そんなに動揺しているのか分からぬカガリは、首を傾げるがすぐに気にならなくなり
女性が迎え入れるより先に、玄関をくぐり中に入ろうとしていた。

 

「すまないが、上がってもいいだろうか?少々あなた方と話したいことがあってな。
 出来れば、あなたの夫も同席してもらえると助かる」

 

彼女の中では、もう応接室にでも上がり話し込むのが決定されているようだ。
ブルブルと細い体を小刻みに震わせる若い女性。その姿が余りに哀れに思えたのか、
レイはそっと顔を彼女の耳元に寄せ、呟いた。

「ご安心ください、マダム。何かあれば私が全力でお止めいたします」
「――――ほ、本当ですか?」
「はい、この国と国民の安全を守るのが、我らザフト軍の責務ですので」

 

レイの言葉に安心したのか、口元を微かに緩め頷く女性の姿を確認するとホッとした。
背中を向け、カガリたちを応接室に案内をする女性。
背を向け、自分の表情が彼女に悟られないようになると、一瞬レイの表情が冷たく凍った。
レイは内心で憤慨していた。女性に対してではない、カガリ・ユラ・アスハに対してだ。
品位もなく場の空気を読もうともせず、一応は敬語を使って見せているが男言葉で
聞いていて耳障りである。

 

(こんなやつらのために、アイツは)

 

目を見開き奥歯を喰いしばり、拳を握り締め憤怒の顔を覗かせるレイ・ザ・バレル。
だが、それは一瞬のこと。自分の立ち振る舞いで、婦人を不安がらせてはならない。
強い自制心でもってレイは己を押さえ込んだ。
応接室に通されると、カガリは当たり前のようにソファーに腰掛け、対話のときを待った。
ふわふわそわそわとしてる様は、まるで幼子のようである。

 

女性が奥へと消えていく。その様を視界の片隅に捕らえると、レイは耳を澄ました、
何をしているのか、把握するためレイは己の五感を研ぎ澄ます。

 

―――がい、…………もどって
私ひとりじゃ――――、…………

 

途切れ途切れに聞こえてくる会話に、レイは居た堪れなくなった。
微かに聞こえてくる彼女の悲哀に満ちた声。これから起こりえることが彼には容易に想像できた。
こいつらは、何故考えない。自分たちが招かれざる客だということを。
背筋を伸ばし傍らで控えているアレックス・ディノも聞き取れたのか、顔を顰めていた。

 

やや待っていると、女性がティーカップに澄んだ琥珀色の紅茶を準備しやってきた。
カガリの前にそっと置き、レイとアレックスにもそれぞれ勧める。
アレックスと同じようにソファーに腰掛けることなく控えているレイは、軽く会釈をし
ティーカップを受け取り紅茶を飲んでみせる。
品よく注がれているアールグレイの芳醇な香りが、レイの鼻腔をくすぐる。
そっと一口飲む。香りと同等に味も抜群に良い。
思わぬところで出会った美味な紅茶にレイは顔をほころばせる。
紅茶を入れてきた彼女は、そんなレイの表情を視界に捉えていた。
視線を感じ、レイは女性のほうに視線を向ける。
自分の用意した紅茶を美味そうに飲んでくれた少年の表情が嬉しかったのか、彼女も顔をほころばせていた。
レイは緩めた顔を見られたのが恥ずかしかったのか、フイッと顔を逸らす。
子供っぽい姿すら婦人には愛らしく映ったのか、彼女はクスクスと上品に笑っていた

 

「…………ッ」

 

カガリは無性に腹が立った。目の前に居るザフト軍人である少年のほうが自分よりも
元オーブ国民とコミュニケーションが取れている。その事実が、気に障った。
カガリは、女性が用意してくれた茶菓子と紅茶を口に頬張り、気を紛らわせた。

 

『主人を呼びましたので、おくつろぎになってお待ちください』

 

婦人の声が微かに震えているように、レイには聞こえてた。
カガリは言葉どおりにくつろぎ、女性の夫が帰ってくるのを待った。
瞼をきつく閉じ、ただ時が過ぎるのを待っているアレックス。

 

応接室にて静かに待ち続ける。元来じっとしているこの苦手なカガリは落ち着くことなく
そわそわしている。次第にそれがイライラに変わっていくのが見て取れた。
ソファーの片隅に腰掛け待ち続けている婦人の顔に、不安が浮かぶ。

 

(…………大丈夫だろうか、私たちは)

 

オーブ国家元首。本来であれば、自分たちが一生のうちに接点を持つことなど無い存在。
一体何の用できたのだろう? それすら知らぬ彼女は、苛立ちを隠そうともしないカガリ・ユラ・アスハの
表情を見てどうしようもなく不安に駆られ暗くなる。

 

『ガチャガチャ』と玄関のほうで音がするのが聞こえてきた。
婦人の顔に明るさが戻った。夫が帰ってきてくれたのだ、
彼のドアを開ける音がこれほど待ち遠しいのは初めてであった。

 

お帰りなさい、あなた」「ああ、今帰った。だが、すぐに戻らなきゃならんがな」
え?」「心配するな、オーブの要人とやらに丁重に帰って頂いた後の話さ
そ、そう……よかった」「忙しい最中だからな、出来れば今だって抜けたくなかった位だ
ごめんなさい、あなた」「お前がそんな顔をするな、悪いのはオーブのやつらさ
――――でも」「大丈夫だ、俺が何とかする

 

小さく囁くような声で夫婦が会話をしている。声色の端々に色濃く浮かぶ感情の色。
怒り、焦燥、不安、憎しみ。

 

彼女は――――カガリ・ユラ・アスハは果たして受け止められるのだろうか。
国外に逃れた市民たちの気持ちを、その想いを。

 
 

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