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機動戦士ザクレロSEED_第20話

Last-modified: 2009-01-26 (月) 01:08:41

「僕はユウナ・ロマ・セイラン。職業は自宅警備員だ」
 トール・ケーニヒとエルが住む秘密のシェルターに突然現れた男は、自分の事をそう紹介した。
 その自宅警備員様が何をしているかというと、居間のビデオデッキを駆使してビデオのコピーを大量生産している。何のビデオなのかはわからない。
「本当は、大学通ってたんだけど……“美味しそう”な娘がいてさ。僕は婚約者一筋なんだけど、ちょっと“浮気”しちゃってね。まあ、僕は浮気性みたいで、ちょいちょい“浮気”をしちゃうんだけど。いや、ともかく」
 ユウナは、訝しげな表情を浮かべているトールとエルを前に、作業の手の傍らペラペラと恋愛体験談を話していた。元は、自分の正体と何故ここにやってきたのかを話すはずだったのだが、すっかり話が変わってしまっている。
「夏期休業の一ヶ月を二人きりで過ごしたんだけど、楽しかったなぁ。特に彼女の“手”料理は最高だったよ。ピアニスト志望だっただけあって、なかなかに繊細でね。いつも二人で食事をしたな。美味しく料理を食べる僕を見る彼女の目は今も忘れられない」
 思い出しつつユウナは思わず舌なめずりをする。
 食事で大事なのは、料理の味ばかりではない。やはり食卓を共に囲む相手というのも重要だ。ただ、ずっと一緒にいたいという願いが叶わないのが少々問題だった。カガリとはずっと一緒に居る事に決めているので、同じ楽しみ方は出来ないだろう。
「彼女が無くなった時には、寂しくて涙が出たな。思い出と“彼女の欠片”を海に撒いて、それで僕の一夏の恋は終わったわけだけど……でも、その彼女の事でちょっと周りが騒がしくなってね。煩わしさを避けて、休学する事にしたんだ」
 その話を聞いたトールとエルの、ユウナと“恋人”は死別したんだなという理解は正しい。状況を正確に把握している訳ではないが、結論としては。
 ともあれ、ユウナはそれを良い思い出であるかの様に語った。それからユウナは、最後に肝心な所を全部飛ばして締めにする。
「次の恋と婚約者への愛を思いながら実家を守っていたら、今回のヘリオポリスの事件があってね。で、暇をしているならって事で、父に命じられて、僕はここに来たと」
「……あんた、本当に誰で、何しに来たんですか?」
 トールが訝しげな表情を崩さずに聞く。何せ、ユウナはまだ名前以外に何も言っていないに等しい。
 そんなトールの問いにユウナは作業の手を止め、苦笑を浮かべて答えた。
「セイランの名を出した時に気付いて欲しかったなぁ。ほら、氏族のセイランだよ。僕はそこの不肖の息子」
 エルが、セイランと繰り返されたのを聞いて思い出す。
「あ……パパの偉い人?」
「パパ?」
「あの……」
 問い返したユウナに、エルは自分の父親がヘリオポリスの行政官だった事を説明した。
 エルの父親であるヘリオポリス行政官が所属した政治派閥はセイラン派であり、つまりセイランは父親が仕えた人物だと言う事となる。
「そうか、行政官殿の……そう言えば、エルちゃんには昔、会った事があるね。ずっと小さい頃だから憶えてないかもしれないけど……セイラン派閥の集会にご両親と一緒に来ていた君は、妖精の様に可愛らしかったよ。僕は憶えている……」
 クスクスと笑いを混ぜながら記憶の中から過去を掘り出したユウナは、エルを嘗め回す様に見つめる。あの時は、ちょっと手を出そうか迷ったものだ……
 何となくその視線に嫌な物を感じて、エルはトールの背後に隠れた。それを見てユウナは、表情を変えて朗らかに笑って見せる。
「恥ずかしがり屋さんだなぁ。大丈夫だよ。僕は婚約者一筋だからね」
 先ほど、ちょいちょい浮気をすると言った人物の台詞ではない。
「まあともかく僕がセイランである以上、このシェルターの間借り人としての資格はあるってわけさ。ここなら、ホテル代が浮くしね。それより、君達の事を教えてくれないか? なぜ、君達は二人きりでここにいるんだい? 特に……君」
 ユウナはトールを指差す。エルは、行政官の娘という事で、ここにいる理由は理解出来た。しかし、トールの事はまだ何も聞いていない。
「ああ、俺はトール・ケーニヒ。カレッジの学生で……」
 トールは自分の事と、何故ここにいるかの説明を始めた。それには、あの惨劇の日の事を語らなければならなくなる。
 アスハの演説。市街で始まった戦闘。そして戦闘の中に渦巻いた人々の狂気……
「……そうして、俺は父を殺した」
 呟く様に言ってから、トールは黙り込んだ。
 狂気に囚われた父親を殺した事……やはり、その事を口に出すのは辛い。もっとも、まだ口に出せる程には軽い出来事であったのだとも言えるのだが。
「……続けて」
 ユウナは内心ではこの生々しい証言を喜んでいたが、それを隠して先を促した。
 トールは頭を振って、父の死に様を頭の中から追い出し、話を続ける。
「街を脱出した俺とミリィは、壊れた車を見つけて……中にミリィと彼女のお母さんが居て……」
 それでどうなった?
 ミリィは車の中にいて、でもミリィは一緒にいて医者を呼びに、車の中のミリィのお母さんを救う為に、でもミリィのお母さんはMSに轢かれて磨り潰されて……ミリィは……ミリィが……
 記憶が錯綜する。
「あれ? 思い出せないな」
 トールは表情の全く消えた顔で呟く。
「でも、気がついたら、このシェルターに向かっていたんだ。ミリィと二人で」
「へぇ……ミリィねぇ?」
 ユウナは、トールの説明がおかしい事に気付いていた。ミリィという少女とエルが、トールの中で混じり合っている。
 問いつめてみても良かったのだが、トールの様子から狂気の匂いを感じたユウナは、敢えてその事に触れるのは避けた。
「エルちゃんの話も聞いてみようかな。いや、ミリィちゃんだっけ?」
「ミリアリア・ハウです」
 トールは、ユウナが親しげにミリィと言った事が気に障って、少し強い口調で彼女の名を訂正する。
「うんうん、良い名前だ。でも……」
 本当の名前じゃあない。
 ユウナは、トールの軽い嫉妬混じりの言葉を聞き流しながら言いかけた台詞を途中で切った。エルが、名前の事が話題になった途端に、辛そうな表情を浮かべたからだ。
 話題を続けて、その表情をたっぷり楽しみたいという欲求はあったが、それで話が進むとも思えなかったので諦める。
 そして、情報を整理すべく少し考えた。
 何があったのかは知らないが、トールにとってエルは、ミリアリア・ハウという少女の代わりになってしまっているのだろう。
 そして、こんな状況だ。エルの方は、ただ一人の同行者であるトールに頼らざるを得なかった。例え、自分に他の人間を重ねて見られていたとしても。
 その辺りの細かい事情は、エルの話を聞けばわかるだろう。
 ただ、エルとしての話を聞くには、エルをミリィだと思っているトールの存在は邪魔になりそうだった。
 エルの話は、エルがミリィではない事実に基づくだろう。トールはそれを理解する事を拒むだろうから、恐らくはトールの中だけの真実に基づいて口を挟んでくる。事によっては話を止める為に実力行使をするかもしれない。
 エルに話を聞くなら、トールが居ない時が良いだろう。きっとその内、チャンスはあるはずだ。そう判断してユウナは、話の流れを変える為に冗談めかして言った。
「トール君には焼き餅を焼かれてしまったみたいだね。こりゃあ、お邪魔虫はあまり余計な事はしない方が良いかな」
「え? いや、そんなつもりじゃ!」
 トールは慌てふためきつつ照れている。この反応だけなら、思春期の少年そのままの微笑ましさだ。背後には、狂気に犯された本質があるにしても。
 ユウナはそんなトールに笑う。これは随分と面白い物を見つけたものだと、内心で喜びつつ。
 ユウナのその笑みを見て、エルは強い不安が沸き起こるのを感じていた。
 それは、少女の勘だったのかも知れない。エルにはユウナが、自分とトールを再びあの地獄の様な戦場に連れて行く存在のように思えたのだ。

 

 

 朝、エルは一人、ベッドの中で目覚めた。隣のベッドに寝ていた筈のトールの姿は無い。これはいつもの事だ。
 エルは起き出してすぐ、身支度も調えずパジャマのままスリッパをつっかけて部屋を出た。着替えなどは、トールを“起こして”からでも出来る。
 ただ、途中で洗面所によって歯を磨く事は忘れなかった。トールが気にするとも思えないのだが、やっぱりエル自身が恥ずかしいかなと思うので。
 エルはその後にシミュレータールームへと向かう。トールはそこでシミュレーターを動かしているはずだった。それをエルが止めて、それから二人の一日が始まる。
 それがいつもの事。しかし、今日は違った。
 シミュレータールームの扉が開いた直後、エルの耳に大きな音が飛び込んでくる。
 砲声と爆発音の入り交じる暴力的な音。そして、その音の中から、一つの声が届く。
「おはよう、エルちゃん」
 シミュレータールームの中、コントロール卓に座るユウナ。彼の前にある大型モニターが映像を映し出しており、エルが聞いた音はその映像に合わせて発生していた。
「これを見た事はあるかな?」
 ユウナは、入り口で足を止めて不安げな表情を浮かべるエルにモニターを指し示す。
 コントロール卓を弄った事はないので、モニターが映っているのを見るのは初めてだ。
 モニターに映し出されていたのは宇宙だった。そして、星の海を飛ぶ、鋼の蜘蛛の如き試作型ザクレロ・ミステール1。その姿は、格納庫で見た物と同じ。
「トール君だよ」
 ユウナはモニターを見つめて薄く笑う。
 モニターの中でミステール1は戦いを続けていた。
 MSジンの放つ銃弾を装甲ではじきながら高速で宙を突き進み、擦れ違いざまにヒートサイズでジンの胴を薙ぐ。直後に放ったビームが、ミステール1を狙撃しようとしていたもう一機のジンを貫き、火球に変えた。そしてミステール1は、加速してその場を離れていく。
 目標は、眼前に浮かぶZAFTのナスカ級。ミステール1は、対空砲火を受けて装甲表面に火花を上げながら高速接近し、艦の直前で対艦ミサイル四発を放った。迎撃しようも無い距離で放たれたミサイルは、次々に艦に突き刺さって爆発する。
「おっと、ナスカ級じゃあトール君に失礼だったか」
 ユウナは言いながら、手元のコンソールを弄くる。
「じゃあ、これはどうかな? オーブの最新鋭艦だ」
 オーブ軍イズモ級宇宙戦艦が、撃沈されたナスカ級の向こうに現れた。直後、猛烈な砲撃と迎撃のMAメビウスの群れがミステール1に襲いかかる。
「お兄ちゃん!?」
 エルは思わず悲鳴の様な声を上げた。そんなエルに、ユウナの笑み混じりの声がかけられる。
「大丈夫だよ。これは現実じゃない」
「お兄ちゃんに意地悪しないで!」
 ユウナを睨み付け、エルは言った。ユウナはエルのその怒りを、笑顔で受け流す。
「意地悪じゃないさ。それより……ちょうど良いや。君からも話を聞こうと思っていたんだ。トール君の居ない所でね」
「え?」
 トールの居ない所でと言われ、エルは戸惑い、怯えて後ずさった。ユウナは、悪意のない事を示す為に両腕を大きく開いてみせる。
「何もしないよ。今はね。ともかく……トール君から事情を聞いたけど、エルちゃんに遇った辺りから彼の記憶が歪んでいるね? 君をミリィと呼んでいるのもおかしい。違うかい?」
 ユウナに問われ、エルは少しの沈黙の後に頷いく、そのまま口をつぐんだ。
「事情を聞かせてくれないかな? トール君は普通の状態じゃない。このままにしてはおけないだろう?」
 利用するにせよ排除するにせよ。そう続く所をユウナは敢えて言わなかった。
 助けるとか治療するとかいった考えはない。しかし、ユウナの台詞に、エルはそれを期待したのだろう。
 だから、エルは重い口を開いた。
「お兄ちゃんは……ミリィって言う人を殺されちゃったの」
 そしてエルは、トールを襲った悲劇と、エルとエルの母親に起こった出来事を語り出す。
「……あの日、家でママが私を呼んだの。パパの所に行くって」

 

 

 あの日……エルは自宅の居間のソファに身体を預け、テレビのリモコンを片手にチャンネルを回していた。楽しみにしていたアニメが入らないかと思ったのだが、どの局も同じ映像しか流していない。
『みんな、本当に大事なものが何かを考えて欲しい!
 オーブの理念が失われようとしてる今、私達は何をすべきなのか。
 このまま、オーブの崇高な理念が失われるのを見ていて良いのか!
 心あるオーブ国民のみんな、私達と共に戦おう! オーブの理念を守る為に!』
 テレビの中、カガリ・ユラ・アスハが強い言葉で訴えかける。エルはそれに興味を持てず、退屈さに溜息をついていた。
 そんなエルとは裏腹に、家の中は騒がしい。母親や使用人達が、かなり慌ただしい様子で家の中を歩き回っており、時折、電話をしては声を荒げている。
 そんな状況ではあったが、最初のMS襲撃があった後の事であり、一時とはいえシェルターに逃げ込むなどの騒ぎがあった後なので、騒がしいのも仕方がないとエルは思っていた。むしろ、それを理由に仕事から帰って来られない父親の方を心配していた。
「エル……」
 身体を揺すられ、エルは目を覚ます。ソファの上で、少し眠っていたらしい。
 目の前に母親が居た。泣いた様に目を赤くした彼女は、エルをソファから立たせながら言った。
「あのね……今から一緒に出かけるの」
「? 何処に?」
 問い返すエルに、母親はエルのお気に入りのリュックを背負わせながら答える。
「パパが作った秘密の場所よ。ほら、地図もあるわ。エルのリュックに入れておくからね? もし私に……ううん、一緒に行きましょうね」
 そう言って、母親は最後に首を横に振って自分の言葉を打ち消した。そして、一枚の紙をエルのリュックに入れる。
 リュックは何が入っているのか、かなり重い。エルは後で知った事だが、リュックにはディスクがたくさん入っていた。
「ねえ、秘密の場所にはパパも来る?」
「!」
 エルの無邪気な問いに、母親の表情が強張る。そして、その両目に涙の滴が浮かんだ。
「……ええ、そうね。パパも待っているわ」
 言いながら、母親はエルを抱きしめる。エルは……何となく、父親に何かあったのだと悟った。
「ママ? パパに……」
「奥様! お嬢様! お急ぎください!」
 問いを重ねようとしたエルだったが、それは部屋に踏み込んできた老執事の声によって妨げられる。
「来ました。連中は、奥様やお嬢様までも手にかけるつもりです。お嬢様、失礼」
 老執事は、そう言いながらエルの身体を抱き上げ、足早に歩き始める。母親はその後について歩き出し、流れた涙を指で拭き取った。
 三人は家のガレージへと向かう。普段、外出の時は家の入り口まで車を回してもらうのだが、今日はそうではないらしい。それに、ガレージには車があったが、運転手の姿が無かった。
 老執事はそこでエルを下ろし、先に立って車のドアをあける。
「どうぞ」
「……貴方は?」
 車を前に、母親が聞いた。それに答え、老執事は笑う。
「別に逃げさせていただきます。ご安心を」
「……」
 老執事の言葉に、母親は何かを悟ったのか沈黙し、ゆっくりと首を横に振った。
 そんな母親に、老執事は笑顔で別れを告げる。
「奥様には、御本家の頃からお仕えさせて頂きました。今思い返してみれば、こんな老爺にはもったいない、本当に充実した日々でした。残念ですが……これにて、お暇を頂きます。さあ、奥様、お急ぎください」
「……ごめんなさい。ありがとう」
 母親は俯きながらそう言って、逃げる様に車の運転席へと乗り込んだ。
 エルはそんな母親と老執事のやりとりを黙って見ていたが、母親が車に乗ったのを見て、自分も助手席へ乗り込む。
 老執事は、運転席と助手席のドアを閉めて回り、それから深々と頭を下げた。
「行ってらっしゃいませ」
「いってきまーす!」
 いつもの様に、エルは出立の挨拶をする。
 走り出す車を、老執事はいつになく晴れやかな笑顔で見送っていた。
 車はガレージから出て庭を駆け抜け、正門ではなく裏門へと向かう。そして、車が門をくぐって屋敷の外へと出た時……タタタタンと言う弾ける様な連続した音が、屋敷の方で鳴ったのをエルは聞いた。
 母親が身を強張らせ、アクセルを踏み込む。車は加速し、街の郊外へと向かって走り始めた。だが……その背後に一台の車が迫ってきたのは、まだ走り出してからそう時間の経たぬ内の事だった。
 それは、軍用エレカ。高機動車というオフロード車に似たタイプの物で、屋根の上に軽機関銃が設置されており、屋根に空いた穴から身を乗り出した男がそれを構えている。軽機関銃は、エルと母親の乗る車に向けられていた。
 母親は、それに気付いてすぐに車を加速させる。しかし、軍用エレカは全く遅れずについてくる。
 その時のエルは、母親の強張った表情と、背後にぴったりと付けてくる軍用エレカの関係はわからなかったが、何か怖い事になっているのだとは悟り、助手席で震えていた。
 やがて、車は街を出る。この先は開発地域とやらで、何もない平原や森が続き、外壁に当たるまでは何の施設もない。
 車は、郊外の森の側を抜けていく。と、そこに来た時、エルはふと窓の外を見上げた。
 空から下りてくる人……MSジンの姿が見える。
 直後、背後から、先ほど屋敷を出る時に聞いたのと同じ連続音が響き、車がいきなりスピンを始めた。エルは助手席にシートベルトで留められたまま振り回される。
 ――僅かな時間、エルは気を失っていた。
 目覚めたエルは、まっさきに母親がいる運転席を見る。母親は……右肩を鮮血に染め、ハンドルにもたれる様に身体を倒していた――

 

 

 過去を話すエルは、堪えきれぬ涙を滴にして落としていた。
 トールとミリアリアとの出会い。母親の死。そして、対MS用ホバークラフトの墜落とそれによるミリアリアの死。それ以降、エルの事をミリィと呼ぶ様になったトール。
 シェルターに逃げ込み、そしてそこで出会ったMA。シミュレーターの虜になり、エルが呼び戻さなければずっと戦い続けるトールとの生活。
 それが、エルの体験した全てだ。
「……辛い話をさせたね」
 内心、最高のジョークを聞いた様な浮き立つ気分が湧いていたが、ユウナはそれをおくびにも出さず、エルに優しく言ってやる事に成功した。そっと指先で涙を拭いてあげる仕草など、実に絵になった事だろう。
「そうだ、君のママが持たせてくれたディスク……後で見せてくれないかな? きっと、大事な物が入っていると思うんだ」
 言われて、エルは素直に頷いた。
 ユウナが思うに、セイラン派にとって隠蔽したいが消す事は出来ない何かしらの資料か、今回の事件の裏事情の記録か何かだろう。何にせよ、回収しておく必要がある。
「ありがとう。じゃあ、トール君のシミュレーションも終わった様だし、みんなでご飯にしようか。トール君を呼んできて欲しいな」
 それからユウナはそう言って、シミュレーターのコックピットを開放する操作を行う。
 シミュレーションは既に終了していた。連戦であったが為、さすがにイズモ級とその麾下のMA隊を撃破する事は出来なかったか、ミステール1はモニターの中で撃破された瞬間のまま停止している。
 どうも、メビウスの編隊から対艦ミサイルの飽和射撃を受けたらしく、全身を爆炎に包まれていた。さしもの怪物も、数十倍という数の差の前には苦戦するらしい。それとも、トールがまだミステール1の真価を発揮出来ていないだけか……?
 ともあれ、トールの方はまだシミュレーターを続けるつもりの様で、先ほどからコンティニューを選択し続けている。それは、ユウナが止めていた。幾ら何でも身体に負担がかかるシミュレーターをやりすぎだと感じたし、ユウナもそろそろ朝ご飯を食べたかったのだ。
 シミュレーターのアームに振り回されていたコックピットが停止して、ハッチが開く。それを見て、エルは小走りにトールの元へと向かった。
 コックピットに身体を入れて何事かをしているエルを見ながら、ユウナは僅かに口元に笑みを乗せる。
 ユウナは、トールとエルの話を聞いて理解していた。地獄と化したコロニーを逃げまどい、幾多の死に関わった果て、恋人の死によって心を壊したトール。そして、エルの事を。
 エルの母親は、暴徒に襲われたのではなく、軍に襲われたのだろう。
 恐らくは父親である行政官も、同じく粛正の対象となっている筈だ。カガリの“公式発表”では、戦いを前にして逃げた事になっているが、何処にも逃げ場のないコロニーから何処に逃げるというのか? また、逃げるとしても妻子を置いて逃げるものか?
 彼らが消された理由は、恐らく「オーブの理念に反する」という理由。ただ、それは現場の人間に与えられた大義名分であり、本当の理由はカガリの演説とその後の武装蜂起を阻止される事を事前に防ぐ為だろう。
「しかし、酷いなぁ」
 ユウナの口から呟きが漏れる。
 最後の対MS用ホバークラフトの墜落の下りがエルの証言通りだとするなら、彼らは意図して避難民の真上に墜落したという事になる。
 その理由もまた、恐らくは「オーブの理念に反する」というものだろう。今のオーブで叫ばれているオーブの理念に対する観点に立てば有り得るし、逆にそれ以外で避難民を殺す理由は思いつかない。
 なるほど、彼らはオーブの理念に殉じた英雄というわけだ。ユウナ自身。自分がサイコパスである自覚はあるが、それでもそこまで狂っていない自信がある。
 ユウナが、見つからない様に色々と気配りして、やっと一人ずつ殺してると言うのに、彼らは堂々と数十人数百人を殺してみせた。しかも、ユウナは見つかれば縛り首だが、彼らは英雄としてもてはやされている。
「本当、酷い不公平だ。あやかりたいねぇ」
 ユウナは喉の奥で笑い、そうなった時に自分が楽しめるかどうかに思いをはせた。
 国民の前で、ユウナは賞賛を一身に浴びながら、全てを失って絶望に沈むカガリに緩慢な死を与える。そして、その死体を保存し、ユウナという一人の英雄を讃えた永遠のオブジェとするのだ。全国民がカガリの死体を侮蔑する中、ユウナだけがそれを愛し続ける。
「……おっと」
 その想像に熱い物がムクムクと頭をもたげてきた感触を感じ、ユウナは少し前屈みになりながら想像する事を止めた。
 トイレで発散出来る程度ならまだ良いが、ここで堪えきれなくなると少々困る。ここにいる二人は、ユウナにとって重要な存在となりそうなのだから。
 シミュレーターの中から出てくるトール、彼を気遣うエル。ユウナは、このシェルターには寝床と作業場を求めて来ただけだったのだが、思いもかけない拾い物をしたらしい。
「狂気に囚われた少年と、正義の名の下に父母を奪われた少女……か」
 ああ、随分と楽しめそうじゃないか。ユウナは内心に沸き立つ物を感じていた。

 

 

 ヘリオポリス市街。ZAFTの襲撃から二週間が経った今でも、戦場となった市街には戦いの傷跡が深く残されていた。
 弾痕の刻まれた建物や焼け焦げた建物が未だ残り、崩壊していくままに放置されている。
 死体などは、人々の回収作業により見える範囲では全て回収されていた。だが、未だに見つけられず、埋もれている死体も多いと推測される。
 建物から出た瓦礫や戦闘に巻き込まれて破壊された車などのゴミは車道からどけられ、かつて歩道だった部分に積み上げられていた。
 道は狭くなったが、何一つ問題はない。今のヘリオポリスを歩く人はほとんど居ないし、走る車も緊急車両以外は見かける事もないからだ。
 ZAFTが出した治安維持の為の外出禁止令は解かれていたが、外へ出ても商店も職場も開いていないので何もする事がない。ゆえに誰も家の外に出ようとはしない。
 数日前までは復興に向けた動きがあり、アルバイトやボランティアとして参加した人も多く、破壊された市街にもそれなりに活気があった。
 また、商店などは営業再開に向けて働き始めていたし、企業でも瓦礫の中から書類を掘り起こしてでも仕事を再開しようと努力していた。
 失われた物への悲しみを振り切り、破壊されたヘリオポリスを元に戻そうという熱意がそこには見られた。
 しかし今、人々は重苦しい諦観に沈んでいる。
 『オーブ本国が、ヘリオポリス市民を断罪しようとしている』この事実が伝わってしまったのだ。自分達にオーブ国民としての未来がない事を知った人々からは復興の熱意は完全に消えてしまった。
 それは、ヘリオポリス市庁がオーブ本国との超長距離通信を復旧させた頃から、通信技術者とその上司、さらにその通信によって得た情報を渡された議員達、そういった人々から少しずつ漏れ出ていた情報ではあった。
 しかし、それはまだ一部の人々以外には噂の段階でしかなかったのだ。
 状況を決定的にしたのは、オーブ本国での放送を収めたビデオ。
 今のヘリオポリスでは視聴出来ない本国の放送である以上、外部から持ち込まれた物である事は確実である。極僅かな人数であるがオーブ本国から自主的にやってきた、復興支援スタッフの誰かが持ち込んだのだろう。それも意図的に。
 ビデオはヘリオポリスにある民放テレビ局へと送りつけられた。また、市街のあちこちで、何者かがビデオを置いて回ってもいる。
 全ての情報を隠す事が出来なくなり、ヘリオポリス市庁は本国との通信によって得られた情報を含めて全てを公開した。
 すなわち……ヘリオポリス市民には最早未来を生きる事は許されていないのだという事を。

 

 

 オーブ本国。その日、プラントより、ヘリオポリス襲撃事件とオーブの中立違反に対する交渉が持ちかけられた。
 オーブに突きつけられた条件は以下の通り。
 
・中立違反に関わる連合加盟国と取り交わした約定や協力内容等の情報開示
・連合加盟国との協力関係の即時停止
・上二件の遂行を確認する為の査察団の受け入れ
・中立違反に対する賠償金の支払い
・ヘリオポリスの領土割譲
 ・ヘリオポリスに現住する全オーブ国民の移住
 
 以上を受け入れれば、オーブの中立の維持を認める。ぬるい条件だった。
 これは、この機にオーブが連合軍として参戦してしまう事を恐れた為だろう。
 オーブは、ZAFTにとって重要な地上拠点であるカーペンタリア基地への格好の橋頭堡となりえるし、宇宙に軍を上げる為に必要なマスドライバーを有してもいるからだ。
 幾ばくかの賠償金を取り立て、何人かのスタッフを送り込んで中立を維持させれば、プラントとしては十分に利益が出る。オーブにはコーディネーターも多いので、同族殺しを嫌った事もあるかも知れない。
 オーブとしては、中立維持の為に連合を売る事に躊躇はない。情報開示と協力関係の停止は喜んでやるだろう。査察団の受け入れも大した問題ではあるまい。
 問題は別にあった。それは、ヘリオポリス自体だ。その事で、オーブ国会は紛糾した。
「『他国の侵略を許さず』オーブの理念をお忘れか? ヘリオポリスはオーブ領だ。プラントによる占領を許してはならない!」
 議員の多数を占めるアスハ派議員が声を上げる。それに対して噛みついたのは、別のアスハ派議員だった。
「占領!? ヘリオポリスは未だ継戦中だ。オーブは、他国の侵略を許さない」
「では、オーブとプラントは戦争中か? ならば、中立違反の賠償を支払う意味は何処にある?」
 アスハ派議員及びそれに従う氏族の派閥の議員達が声を上げ合っている。他の派閥の議員には、発言の機会すら与えられない。発言を行おうとする議員の挙手に、議長は無視を決め込んでいる。
「プラントに、ヘリオポリスの無償での即時返還を求めよう。それが、オーブの理念的に正しい対応というものだ!」
「それを聞き入れる理由がプラントにあるのか!」
 痺れを切らした他派閥の議員が、席を立って声を荒げた。議長がその議員を咎めるが、その議員は言葉を並べ続ける。
「プラントに賠償金なりを払ってヘリオポリスの返還交渉を行うべきだ!」
「賠償金を支払うという事は、プラントの侵略行為とその結果によりヘリオポリスが奪われ、プラントの物となったと認める事だ。侵略を許した事になる!」
 そうだそうだと、議場を割れんばかりの賛同の声が埋め尽くす。
 その勢いに黙り込み、発言していた他派閥の議員は、憮然とした表情でそのまま議場から出て行った。その後に、何人もの議員が続いて出て行く。正直、馬鹿らしくて議論を続ける気にもならなかったのだろう……どうせ、何を言っても無駄なのだ。
 他派閥の議員の多くが消え、アスハ派を中心とする主流派と呼ぶべき議員だけが残り、邪魔は居なくなったとばかりに議論は弾んだ。主に、オーブの理念を守る為にはどうするかという方向で。
 許されるなら、尻尾を振って見せてでも、中立国としての座に戻りたいのがオーブの隠す事なき本心だ。しかし、ヘリオポリスの存在が、プラントとの対立を自国の戦争としてしまう。
 オーブの理念『他国の侵略を許さず』により、ヘリオポリスへの侵略を許すわけにはいかない。侵略を許す事になるプラントへの領土割譲などもってのほか、プラントと戦ってでも奪い返すより他に道はないのだ。
 しかし、オーブより遙かに強大な連合軍が苦戦するプラントを相手に、オーブ軍の勝算は無いに等しい。
 連合軍に参加して助力を得るという手段も、『他国の争いに介入しない』というオーブの理念によって使えない。
 今となっては、ヘリオポリスはオーブにとって厄介物だった。
 もし、ヘリオポリス襲撃時に、ヘリオポリス自体が破壊されていればこの様な事はなかっただろう。
 失われた地を取り戻す事は出来ない。対応は賠償問題とならざるを得ないのだ。それならば、中立違反との相殺を計る事も出来ただろう。賠償をプラントが拒否しても、『他国の侵略を許さず』と拳を上げつつ地道に賠償を求めていくというパフォーマンスが出来た。
 しかし、ヘリオポリスは存在している。
「ヘリオポリスさえ無くなれば問題は無くなるのですよ!」
 誰かがそう叫んだ事に、議場は大いに喝采した。
 とはいえ、それで何か決まるわけではない。結局、プラントに対する返答に猶予はまだある事から、この議論は持ち越しとなった。
「……くだらないな」
 議場を去ることなく、一人の観客として眺めていたウナト・エマ・セイランは呟く。
 どうして、現実に即した対応が出来ないのか? むしろ、現実をオーブの理念にあわせて曲げようとするのは何故なのか? 問いたいが、問うても答えは返らないだろう。答えではなく、オーブの理念のお題目が飛んでくるだけだ。
 ウナトは呆れながら、酷い議論の飛び交う議場を見渡した。その中、ウズミ・ナラ・アスハの渋面を見つけて、ウナトは意図せず眉を寄せた。
 どうやら、この議論はアスハ派が中心となってはいるが、ウズミが中心という訳ではないらしい。アスハ派の中で派閥の分裂でも起こっているのだろうか? では、ウズミに対立する、もう一派は何なのか……カガリを担ぎ上げている者達なのは確実だが。
 ウナトが考え込んでいる間に議題は次に移っていた。
 次に議題にかけられたのは、現在ヘリオポリスに住む市民への対応。プラントからの要請にもあった「ヘリオポリスに現住する全オーブ国民の移住」の件だ。
 しかしこれは、プラントからの要請とは関係なく議論される事になる。
「次に……ヘリオポリスの反逆者の件です」
 議場がざわついた。
 平然としている議員が多い様だが、驚いたり不快げにしたりしている議員も少数だが居る。ざわめきは、後者が起こしたものだ。
 それら後者の議員はウズミを中心に座っている。彼らは生粋のウズミ派という事だろう。
 しかし、その数は少ない。恐らくは、個人的にもウズミと親しい者……つまり、ウズミの思想を直接知る者だけなのだろう。
 それ以外の者達は、オーブの理念を守る事こそを重要と考えているという事だ。
「ヘリオポリスでは、軍民問わず決死の抵抗運動が行われた事は周知の通りです。しかし一方で、恥ずべき事ながらオーブの理念を守るという国是に従わず、ヘリオポリスを明け渡した者達が居る事もまた事実です」
 議題を述べた議員が、議場のざわめきを無視して言葉を並べる。
「彼らオーブの理念への反逆者は、未だヘリオポリスで罪に問われる事無く、生き延びています。これは、命を賭して戦ったヘリオポリスの真の国民達への裏切りでもあり、決して許されない事です」
 その議員は言葉を止め、改めてはっきりと言い放つ。
「全ヘリオポリス市民を逮捕拘束し、オーブ本国へ移送。厳正なる司法の場で裁きを行う事を提案します」
 言い終えるや、あらかじめ決められていたかの様に拍手喝采が巻き起こる。誰もが賛同している様だ。
「……なるほど、生け贄が欲しいか」
 唸る様にウナトは言った。
 ヘリオポリス市民の抹殺に等しい行為を行う意図は、恐らくは単純な事だ。
 見せしめと、自らの正当性の宣伝。
 つまり、オーブの理念にさほど熱心ではない者には、オーブの理念を守らなければヘリオポリス市民同様に扱われるのだという恫喝となる。
 一方、オーブの理念を守らない事を犯罪として裁く事によって、自分達、オーブの理念を第一に掲げる者達を法に認められた正義と印象づける効果もある。
 なるほど、素晴らしく効果的だ。しかも、今の流れならば、それは正義の行いとして讃えられる事だろう。
 ウナトは吐き気を覚え、席を立つ。これ以上、愚劇を見続けるのは苦痛以外の何物でもない。
 去り際にウナトは、ウズミの席に目をやった。
 ウズミは苦悩しているかの様に両手で頭を抱え込み、じっと何かを考えている。
 やはり、この流れはウズミが作った物ではないのだろう。ウズミが糸を引いていたのなら、彼はもっと堂々とし、さらには事態の前面に立っているはずだ。彼の娘のカガリが、今まさにそうしているように。
 ウズミとは一度会って、腹を割った話をしてみるべきかもしれない。今の流れを何処かで変えないと、自分にとってもウズミにとっても望まぬ結果に導かれるだろう。
 ウナトは、ウズミと会見の機会を得る事に決めた。
 そうしてウナトが去った後、その日の議会は「残留するヘリオポリス市民の即時回収」「その為のオーブ宇宙軍の派遣」を決定して終了する。
 それは、戦地にある国民を保護するという名目ではなく、外患援助の罪を犯した犯罪者の逮捕という側面に重きが置かれていた。

 

 

 ウナトは自らの屋敷の隠し部屋に入り、そこに置かれた超長距離通信機の前に座って、へリオポリスにいるユウナに連絡を取っていた。
 通信は連合の衛星を介して厳重に秘匿しており、オーブの他氏族に漏れる心配はない。情報をやりとりする以上、それだけの用心をする必要があるとウナトは判断していた。
「……と言うわけだ。そちらに、市民を逮捕すべくオーブ軍が派遣される」
『へぇ~? なりふり構わないものだねぇ』
 へリオポリスのシェルターの中に用意された通信室にいるユウナが、ウナトの連絡にニヤつきながら答える。そんなユウナに、ウナトは任務を任せた事への若干の不安を感じながらも、質問を返した。
「お前の方の首尾はどうだ?」
『MAとシェルターは確保したよ。色々と情報も仕入れた。やっぱり、行政官殿は降伏の準備をしていて……オーブ軍に抹殺されたらしいね』
「ほう? それが明らかになれば……」
 ユウナの返事に、ウナトは興味を持って身を乗り出す。しかし、ユウナは肩をすくめて首を横に振って見せた。
『残念、この情報は、オーブ本国では意味がないよ。オーブの理念という大義名分の前じゃあね。売国奴は皆殺しって雰囲気でしょ?』
「むぅ……」
 ユウナの言うとおりなので、ウナトは呻いて黙り込む。
 行政官が謀殺されたと発表しても、その理由がヘリオポリスの降伏工作を進めていた事だと言われれば、行政官が一方的に悪にされかねない。
 へリオポリスでの情報収集にはウナトも期待していたのだが、そう簡単には都合の良い展開にはならないようだ。
「まあ良い。MAを回収出来ただけでも成功だ。お前は、MAをシャトルに積んで脱出しろ。オーブ軍が来る前にな」
『ああ……その事だけどね』
 ユウナは、まるで今思いついたのだとばかりに軽く言い放つ。
『連合軍とのコネを紹介してくれないかな? 政治にも関われるような、出来るだけ偉い人が良いや』
「な!? 何を言ってるんだ?」
 突然の申し出に戸惑うウナトに、ユウナはまるで何でもない事の様に言う。
『んー、へリオポリスの住人が反逆者だって言うなら、もっと本格的に反逆者にしてやろうかと思ってね。父さんもほら、無実の市民が麦みたいに首を刈り取られる所なんて見たくないでしょう? だったら協力してよ』
「それは……だが、お前は何を望んでいるんだ?」
 ウナトが、確実に賜れるだろう市民の死を避けたいのは事実だ。
 しかし、それを避ける為に何をしようと言うのか? 背筋に寒い物を感じつつ、ウナトはユウナに聞く。今は、息子である筈のユウナが全く理解出来ない。
 ユウナは、実に晴れやかに笑う。
「僕が望むのは、カガリだけだよ」
 ユウナは笑っていたが、その目だけは暗い光を宿していた。