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機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第六話(前)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:15:52

ラクス「ホーッホッホッホ! 全国一億二千万人のラクシズファンの方々、な・が・ら・く、お待たせいたしましたわね!
     わたくしラクス=クラインの名の下に、ラクシズ完全復活を宣言いたしますわ!」
キラ「というわけで帰っていいよ、君」
カナード「それが本業を蹴ってまで待機していた代役にかける言葉か貴様ぁ!!」
アビー「では約束どおり報酬はステーキ定食のみですね」
カナード「チッ、寿司より杏仁豆腐を優先させるべきだったか…」
メイリン「え、ええと、ごめんみんな、苦労かけました!」
ルナ「メイリィィ――ン! ああ、よかった、よかった…」
メイリン「や、やだなお姉ちゃん、泣かないでよ恥ずかしいなぁ」
ステラ「うぇーい! メイリン、よかった! ルナ、よかった!」
レイ「これでルナは救われたな」
シン「でも劇中にはまだ出てこないのに」
レイ「ツッコミの苦労を知る者がいるといないとでは大違いだ」
シン「そんなもん?」
アスラン「お、俺の役…」
イザーク「貴様が不甲斐ないのが悪いのだ。全く、ノロウイルス如きにヤキンの英雄が倒れるとは何事か!」
アスラン「イザーク…」
イザーク「悔しいと思ったら新たな役で輝け! それが貴様に出来る全てだろうが!」
アスラン「……ああ! ありがとうイザーク!」
ディアッカ(おい、やけに優しい言葉かけるじゃん? 『ヤキンの英雄』なんて持ち上げるし)
イザーク(馬鹿者! 我々がこの役を得たのは奴が失調したおかげだということを忘れるな!)
シホ(つまり隊長は後ろめたいんですね)

ユーレン「あー、その、撮影現場はここでしょうか?」
シン「え? ええ、そうですよ。ひょっとして今回の役者ですか?」
ヴィア「ええ、少しだけあの世から舞い戻ってきたんです」
シン「ああ、あなたがたが! よろしくお願いします、俺、シン=アスカです!」
ヴィア「よろしく、シン君」
キラ「…………」
ラクス「どうなさいました、キラ?」
キラ「本当の両親って言われてもピンとこないなーと思ってさ」
ラクス「あらあら」
ユーレン「君がキラ…なのか?」
キラ「ええ、僕がスーパーコーディネイターの『キラ=ヤマト』です」
ユーレン「…………」
メイリン「キラさん、まさか狙ってやってます?」
キラ「何を?」
メイリン「……いえ、何でもないデス」

アーサー「本番行きまーす! 3・2・1・Q!」

**************************************************************** Edit

「せっかく来ていただいたのに、このネオ京都もこんなありさま。大したもてなしも出来ませぬが…」
「いい。人と待ち合わせているだけだ」
ネオキョウト。ネオナラと並ぶ、ネオジャパンの古都。
ネオジャパン人ならば、常識として知っている。地球の現状を伝えるための典型例として、
社会の資料集にはよく載っているし、TVでもたびたび取り上げられるのだ。
そう、ネオジャパン人なら知っている。ここがかつてはどれほど栄えた都市であったのか。
シンはそれを知らない。だからこうして、崩れかけた寺にいながら、外の景色を目に焼き付けようとする。
ルナマリアと合流するまでの時間、『自国』の姿を胸に刻んでおこうと思った。

しかし、ふと自分の感傷が自分の決意と矛盾しているような気がした。
地に目を落とす。
「お連れ様、ですか」
声をかけながら、住職が茶を出してくる。シンはごく自然にそれを受け取った。
「ああ。そいつに会ったらすぐに発つ。少し早く来すぎたらしいな」
言って、茶をひとすすり。
「いえいえ。ルナマリアさんはどのみちいらっしゃいますよ」
「!?」
何故知っている!?
目を剥いて振り向く――と同時に、視界が揺らぐ。
「薬…!?」
湯飲みを取り落とした。茶が畳にぶちまけられるが、気にする余裕はない。急速に意識が遠のいていく。
その中でシンは、住職が合掌しながら、にんまりと笑ったのを見た。
(なんの…つもりだ…!)
叫ぼうとしたが、体は言うことをきかない。
そのままシンは倒れ付した。懐の写真がひらりと宙に舞い、落ちる。
それを拾ったのは、住職ではなく――語り部たるドモン=カッシュ。

「さてみんな、準備は良いか?
 今日はいよいよ、この写真について話すことになる。
 そう、この写真の少年……
 既に名前だけは、ネオロシアのロンド=ミナ=サハクが明かしていたな。
 『キラ=ヒビキ』。果たして彼は何者なのか。何故シンはこの少年を捜すのか…
 全ての答えは、今日の対戦相手――史上最強のデビルフリーダムが教えてくれるだろう」

ドモンがマントをばさりと脱ぐ。
下から出てきたのはピチピチの全身黒タイツ、即ちファイティングスーツだ!

「それではッ!
 ガンダムファイトォォ! レディィ…ゴォォォ――――ッ!!」

第六話「闘えシン! 地球がリングだ」

空を埋め尽くすMSの大群。
戦争とは無縁となった現在でも、もしものために軍は存在する。その『もしも』が眼下に起こってしまっている。
郊外の高級住宅に赤いマグマが噴出している。
「第一小隊、第二小隊! エリアAからFを! 第三小隊から第五小隊、エリアGからLを囲め!
 いいか、奴が一瞬でも姿を現したときが唯一のチャンスだ! 絶対に外すな!」
隊長機に乗る金髪の男が叫ぶ。視線は眼下のマグマ帯に注がれたまま。
ちらり、とマグマの中から何かが顔を出した。
「てぇーっ!!」
号令と同時、あらん限りのミサイルが『何か』に飛んでいく。ことごとく着弾、爆発し、煙はマグマを覆い隠した。
『やった…クルーゼ隊長、やりましたよ!』
「油断するな! 奴は…!」
部下に釘を刺す間もなかった。
煙を突き破り、虹色の光線が空を薙ぎ払う。直撃はしない。機体をかすめ、腕や足を蒸発させていく。
『うわああああっ!?』
バランスを崩し、落ちていくMS部隊。
「ちぃっ!?」
唯一全弾かわしたクルーゼ隊長も、バランスを崩していた。部下の安否を気遣っている暇はない。
バランスを建て直し、サーベルを手に取る。
「やはりこの手で始末をつけるしかないか…!」
MSを飛ばす。『ジン』と呼ばれるこのタイプは旧式であるが、クルーゼの癖のある操縦には一番合っていた。
「コクピットに一撃! それで終わりだ!」
煙の中の巨体に、矢の如く近づき――
瞬間、巨体が舞い上がった。
「な!?」
舞い上がったように見えた。
蛇腹が伸びる。見慣れたフェイスが遥か高みからクルーゼを見下ろす。
クルーゼは背筋が凍りつくのを感じた。
「デビルフリーダム…!」

ひときわ大きな爆発が起きた。

「もう一年経つのか…」
「はい。ようやくこの辺りも復興し、事件の面影すら残っておりませんが…」
「ま、ほっといたままにはしとけないからねぇ」
エアカーの後部座席で、ユウナ=ロマ=セイランは相槌を打つ。前で運転しているのはラウ=ル=クルーゼ、
一年前にここで悪魔と交戦したクルーゼ隊長である。最も、今は顔の半分を隠す仮面をしているが。
「他のコロニー国家に知られるわけにもいかないし」
「ええ、その通りです」
「でも、そのためにガンダムファイトを利用されちゃ困るんだけどなぁ」
どうにかならないか、と言いたげに、ユウナは頭をかいた。
セイラン家の嫡男ユウナは、ネオジャパンのガンダムファイト委員長である。国際ルールは百も承知だ。
今回のファイトで優勝したらネオジャパンの首相に、という自身の野心も合わせて、余計な波風や障害を立たせたくないのだ。
彼は、今直面している事態がどれほどのものかを知らない。
「申し訳ありません」
と、こちらはあくまで腰の低いクルーゼ。
「…ですが、まずはテストをご覧下さい。シン君は間もなく目を覚ますでしょう。
 そう、これから彼が見る幻想は、長いアカデミーの修行から帰ったその日の出来事なのです……」
「悪趣味だね。その仮面も合わせて」
「褒め言葉と受け取りましょう」
エアカーは一つの建物に入っていく。かつては豪邸だったであろう廃墟に。

――シン… シン…

「う…」

――ねえ、起きなよ。いつまで寝てるつもりなんだい?

「待ってくれ…頭が妙にガンガンする…」
誰に話しかけられているのかは分からない。それでもシンは、痛みを抑えてうっすらと目を開けた。
ぼんやりとした像が、徐々に一つになっていく。目の前の少年がはっきりとしてくる。
「……え?」
まばたき一つ。
シンは自分の状況が分からなくなっていた。
さっきまで寺にいたはずで…薬を盛られて…でもここは確かにヒビキ家、つまり自宅。
目の前にいるのは…褐色の短い髪に紫の大きな瞳、整った顔立ちの少年は…
「キラ…兄…?」
「どうしたのさ、シン。また寝ぼけて夢と現実とごっちゃにしたの?」
キラが笑う。
「え…ああ…」
そうか。今までのは夢だったのか。
そうだよ、そんなはずないじゃないか。
いくらキラ兄がさりげなく自信家でSっ気があってキレると何するか分からない奴だとしても…
「もう、お兄ちゃんったらぁ! また昔の夢見てたんでしょ!」
隣からも声がする。
振り向けば、そこには最愛の義妹がいた。
「マユ…」
「せっかく帰ってきたんだから、もっとリラックスして! お兄ちゃんが悲しいとマユだって悲しいもん」
「ああ…!」
シンは思わずマユを抱きしめた。いきなりの抱擁に目を白黒させるマユ。
「相変わらずマユには甘いんだからなぁ、シンは」
「うっさい、キラ兄! 俺はこう、兄貴としてだなぁ!」
涙目になりつつも、振り向いてキラに噛み付く。
と…

「お帰り」
壮年の男の声。
「ちゃんとご飯食べてた?」
年かさの女の声。
そちらを向けば、ソファには一組の男女が座って、笑ってこちらを見ていた。
ユーレン=ヒビキ。ヴィア=ヒビキ。
キラの実の両親であり、シンとマユの義理の両親。
「た…」
シンはマユを放した。両親に向かい、敬礼する。
「ただいま…。父さん、母さん」
それを見たキラとマユは、顔を見合わせ、いたずらっぽく笑った。

「大丈夫なのかい、クルーゼ君?」
「ガンダムファイト国際ルールのことですか?」
「そうだよ。一度地球に下ろしたファイターを、ファイト期間中にコロニーに戻してはいけない。
 ちゃんと決まってるんだ。それをわざわざ破って、やるほどの価値があるの? このテスト」
「ご心配はもっともですが、このままではユウナ委員長も安心できないのでしょう? シン君を信用できないのでしょう?」
「まーねー」
「このテストで、シン君が今回の事件を解決するのに最適な人物であると立証できるのです。やる価値はあると愚考しますが」
映像越しにヒビキ家の団欒を見ながら、ユウナは一つ唸った。

マユに誘われ、シンは外に出た。
気が進まなかった。リビングを出たら、この平穏が…家族が全て崩れてなくなってしまいそうで。
「どうしたの? そんなに怖がるお兄ちゃん、お兄ちゃんらしくないよ」
「そうそう。怖がりは僕の役目じゃないか」
「キラお兄ちゃん、そんなこと言ったら情けないよぉ」
などとじゃれあいながら外に出ると、そこは玄関先。いつもの場所だった。
日が傾きつつあり、空が群青に染まりゆく。家の壁も玄関先のアスファルトも、うっすらと群青に染まっている。
マユが駆け出した。近くの茂みから飛び縄を引っ張り出してくる。
「あ、マユ! ちゃんと片付けなさいって言ったじゃないか!」
「だってキラお兄ちゃん、シンお兄ちゃんが帰って来るんだもん! ここに隠しておけば、いつでも練習できるから」
「……練習?」
「うん! 見ててお兄ちゃん、マユね、二重とびが連続十回できるようになったんだよ!」
言いながら、マユは縄を広げて構える。
(そうだ…マユは縄跳びが苦手で、いっつも俺が教えてたんだ)
軽やかとは言いがたい縄の音をさせながら、マユが二重とびを披露する。
七回、八回、九回… ぱん!
「あっ! ひっかかっちゃった…」
「でも凄いじゃないか、マユ。僕が見てたときは七回が精一杯だったのに」
「うん… でも、もう一回やる! ちゃんと昨日は十回できたんだもん!」
そう言って、また挑戦するマユ。
(昨日、か…)
どうしてこの光景が消えると思ってしまったのだろう。
家から出れば玄関先がある。兄弟三人で遊んだ、『いつもの場所』がある。当然のことだ。
(何考えてたんだよ、俺…)
…七回、八回、九回… 十回、十一回… ぱん!
「やった! マユ、新記録だよ! 十一回だ!」
「わーい! シンお兄ちゃん、見ててくれた!? …お兄ちゃん?」
シンを見る二人が、心配そうな顔つきになる。
「シン? どうしたの?」
「……いやさ、マユのがんばりに感動したんだ」
震える声で言って、シンは後ろを向くと、目をこすった。

と、視線の向こうに見覚えのある赤い跳ね髪が見える。
「……ルナ?」
「シン…」
視線が合う。ルナマリアは、何か申し訳なさそうな顔をしていた。
「どうしたんだよ? 何か用事か?」
「誰、友達?」
「ン… ああ、アカデミーの同期。ルナマリア=ホークって言ってさ、気が強い女で。
 特技はマグロの目と当たらない射撃」
「なぁんですってぇ!?」
「うわ!? い、いつの間に近づいてきたんだよ、ルナ!」
「あ、お姉ちゃん、ひょっとしてシンお兄ちゃんの彼女?」
『ちっがーう!』
「俺とこいつはただの同期!」
「そ、そうそう! ただの友達よっ!」
「甘い甘い。そう言って年頃の女の子はごまかすんだよっ」
「マ、マユ、どこでそんなこと覚えたの」
「キラお兄ちゃんのパソコンを借りたら、色々出てきたの」
「ええーっ!? あのプロテクトを突破したのか!?」
「キラ兄ぃぃぃ!! 妙なこと教えるんじゃねぇ!」
「僕のせいっ!?」
「残念でしたー! シンお兄ちゃんは渡さないもん!」
「だから違うってば! なあ、ルナ!」
「え、ええ! 違うわよ、マユちゃん、だから安心して…ね…?」

ルナマリアは早々に会話を打ち切り、その場を離れた。

最初は歩き、段々と駆け足になって。最後には全速力で。涙が流れるに任せ、拭わず。

完全に離れ、荒い息をつきながら、瓦礫に倒れこむように座る。そのときになって初めてルナマリアは振り向いた。

そこには――廃墟のアスファルトで、ただ一人しゃべり続けるシンがいた。
やがて誰かと小突きあうように、ふらふらと歩いて、なんでもない瓦礫に座る。
「……うまいよ! やっぱり母さんの作る料理は最高さ!」
そう言うシンは、何も食べていない。ただ、仕草をするだけ。
闇の中のパントマイム。シンは自分が道化であることを知らない。

ヒビキ家の食卓には写真が一枚飾られてある。
肩を組んで笑うシンとキラ。シンの背に乗っかって悪戯をするマユ。それを見守るユーレンとヴィア。
幸せな一家の象徴とも言える。
「それ、俺がアカデミーに行く前に撮っといた奴だよな?」
「うん。確か六年前だったよね。シンがアカデミーに行ったの」
「ああ、そうだよ。六年間、ひたすら修行修行修行、でさ」
「お兄ちゃんは強い人になるんだもんねっ」
「ああ! 強くなって、マユもキラ兄も母さんも父さんも守ってみせる!」
「じゃ、まずは僕に勝たないとね」
「言ったなキラ兄? 久々にやるか?」
「僕は受けて立つよ?」
「へっ、昔の俺と同じと思うなよ! シン=ヒビキ復帰後第一回食卓ファイト!」
「レディィィ…!」
「やめないか、キラもシンも。マユ、調子に乗ってストップウォッチ持ってくるんじゃない」
「もう。今日はシンが戻ってきたお祝いよ? そういう殺伐としたことは後でね」
「ちぇっ、そんなこと言われたら仕方ないか。キング・オブ・ハートの実力を見せてやろうと思ったのに」
「キング・オブ・ハート? じゃあコロニー格闘技覇者のシン=アスカって」
「俺のこと! ヒビキって名乗ると周りが親のコネだ何だってうるさいから、昔の名前で出たんだ。ほら、証拠の紋章」
「すごーい! お兄ちゃん!」
「まあねっ! これも俺の実力さ!」
「そっか…じゃあ次は僕の番だな」
「キラ兄の番?」
「そう、私とキラも完成させたんだ。人類の夢をね」
そうユーレンが言うと、ヴィアは少しだけ体を固くした。
「いいじゃない、今日はお祝いなんだから、そういう研究の話は抜きにしましょうよ」

ふと、シンは我に返った。
研究一辺倒の義父ユーレン。それをなじり、自分達に優しくしてくれる義母ヴィア。
元々の性格か、連れて来た責任感からか、自分達の面倒を見る義兄キラ。
義父は自分やマユを鬱陶しがってたのではないかと思っていた。
それがシンをアカデミーに行かせる動機のひとつともなった。
だが、少なくとも今は、ユーレンは自分が帰ってきたことを喜んでくれている。
ヴィアは、今日だけでもユーレンの心が研究に舞い戻らないようにと願っている。
シンはそう理解すると、目の前の料理にかぶりつき始めた。
「し、シン? どうしたの?」
キラの言葉に反応は返さず、ひたすら料理をかきこむ。
「もぐ…むぐ…うまいよ! やっぱり母さんの作る料理は最高さ!」
すると、ヴィアはほころぶように笑った。
「じゃあもうずっといてちょうだいな! 母さん、あなたがいないと寂しくって…」
「心配しないで。もうどこにもいかないよ。やっぱり家族といるのが一番幸せさ」
「そんなこと言って。ホームシックにでもかかってたんじゃない?」
「んなっ…なめるなよキラ兄! 俺だって十六だ、もう子供じゃないんだぜ!」
「あら、親にとっては子供はいつまでも子供よ?」
「うん、確かにな」
「マユもマユも! マユにとってはお兄ちゃんはずっとお兄ちゃんだからね!」
「じゃあ僕にとってはずっと弟だね」
「それだけは御免だね。いつか下克上してやる」
「シン、僕は厳しいよ?」
『あっはっはははははははは!!』

「幻覚による深層心理テスト、ねぇ。彼、完全に順応しちゃってるけど?」
「ご心配なく。いよいよあの日のように、デビルフリーダムの登場です」

「酷い…酷すぎる!」
ルナマリアは呻いた。だが、そう思ったところで、何が変わるわけでもない。
「……ルナ」
降ってきた声に顔を上げると、そこには知った顔がいた。
「ヨウラン…」
「……ごめん。俺達、止められなかった」
「ううん…ヨウラン達のせいじゃないわ」
「でも、あの幻覚装置を作ったの…俺達なんだ」
「え!?」
「まさか…まさかこんなことに使うなんて思ってなかった…ッ!」
ヨウランが息を詰める。歯を噛み締め、拳を固め、瓦礫に振り下ろす。鈍い音がした。
「畜生! 畜生、畜生!」
「よ、ヨウラン! やめて!」
「何故だ! あいつが何をした! 悪いのはあいつの兄貴だろ! 血も繋がってないのに! なんで…!」
「駄目っ!」
ルナマリアが立ち上がり、力ずくでヨウランの拳を止める。
荒い息をつきながら、ヨウランはゆっくりと拳を下ろした。
「ずるいわよ、ヨウラン…」
「ルナ?」
「目の前で暴れられたら…あたしが暴れるわけにはいかなくなるじゃないの…!」

食事を終えた一家は、秘密の研究所に来ていた。
キラが電気をつける。
カッカッカッと明かりが順々につき、うずくまる巨体を光にさらした。
下半身は甲虫のようなデザイン。巨大な足が四対。前脚はこれまた大きな鋏。
甲虫の下半身から蛇腹が伸び、見慣れたガンダムの胸から上がついている。
下半身の灰色と上半身の青と白が、奇妙にミスマッチのようで、全体を見るとバランスが取れている。
「……ザリガニ?」
「言うと思った」
シンの呟きに、キラが苦笑する。
「確かに外見はナニかもしれんが、これには人類の夢がかかっておるのだ」
ユーレンも言うが、シンはどうにも信じられない。見ればヴィアもマユも同じ気持ちのようだ。
「ザリガニに人類の夢、ねぇ…」
「ザリガニから離れてよ。こいつが一機あれば、どんなことでもできるんだ。そう、どんなことでも…」
その口調に、ふと寒気がした。
「キラ兄?」
「うん?」
「どういう意味だよ、それ」
「いや、なんでもないよ」
言って、いつものように笑うキラ。
次の瞬間――

『動くな!』
照明が赤くなる。声を振り向けば、銃を構え武装した警察が次々に入ってくる。
「なんのつもりだ!」
「あなた!?」
「心配するなヴィア、やましいことは何一つない」
『どの口がそんなことを言う! ユーレン=ヒビキ博士、並びにキラ=ヒビキ!
 二人を国家反逆罪の疑いで逮捕する!』
警察の拡声器ががなりたてる。
「なんだって…?」
咄嗟のことにシンは呆然としていた。腕をマユがぎゅっと掴んでくる。それで我に返り、小さな手を握り返した。
ユーレンが叫ぶ。
「待て! 一体何のことだ!」
『お前達はその完成したガンダムを兵器として使用し、コロニー連合と地球を破壊した上で制圧しようとしている!」
「な…そんな馬鹿な!」
「そ、そうだ! そんなことあるわけない! 確かに父さんはマッドなところあるし、
 キラ兄はキレるとどうなるか分からないけど、少なくとも良識はある! なあ、キラ兄!」
必死にフォローしようとしながら、シンはキラを振り向いた。だが…
「フフッ…」
「……キラ兄?」
「ハハハ…… ハーッハッハッハッハッ!!」

傲慢。

そうとしか言えないだろう。そのときのキラの顔は。
喧嘩して泣きながら最終兵器を持ち出したり、食卓ファイトで最後のウインナーを賭け争ったりしたときの、
シンが見慣れた必死な顔ではない。
明らかに自分は上の人間、と確信している顔。
その場の自分以外の全てはゴミに等しい。それが当たり前と思っている顔。
それはシンが見たことのない…想像すらしたことのない義兄の顔だった。
「意外に早かったね、軍警察の皆さん!」
「キラ兄…?」
「シン。そいつらの言ってることに間違いはないよ」
「お前、正気か!?」
「いやあ、悪いね父さん。でもこのガンダムは、もう僕の玩具なんだよね…。こんな風にさ!」
パチン、とキラが指をはじく。
途端、ガンダムを拘束していたコードが全て弾けとんだ。ツインアイに光が灯る。
「馬鹿な、まだ起動は…!」
「出来るよ。僕の命令があればね」
「な!?」
「まあ見ててよ。今証明するから」
警察部隊はどよめいている。隊長が必死に士気を盛り立てようとしているのを見、キラは薄笑いを浮かべ――
「撃て!」
ガンダムがバルカンを一斉射する。爆音を立てて飛ぶ弾丸、為すすべなく薙ぎ倒される警察部隊。
地獄絵図だった。血飛沫が上がる。咄嗟にシンはマユの顔を自分の体に押し付けた。
「あ…し…死んで…」
「マユ、見るな! これは…これは違う! これは」
「これは何かの間違いよ!」
ヴィアがヒステリックに叫んだ。こんな場にいて正気を保てる女ではない。

ヴィアはキラに駆け寄り、肩を掴んで揺さぶった。
「ねえ、キラ、キラ! こんなことはやめて!」
涙ながらに訴える母を、キラは薄笑いで見下ろす。
「キラ、お願いだから…ねぇ、これは何かの間違いでしょう!?」
それを見て、警察隊長は残された力を振り絞って銃を構えた。
最後の力でキラを撃つつもりだ。
それに気付いたヴィアが咄嗟に身を投げ出した。
我に返ったシンが走る。
乾いた音がした。
ヴィアが小さく痙攣した。胸が赤く染まっていく。
「――――ァッ!!」
シンの手の中でマユが震えた。彼女は見てしまっていた。
だが、シンにしても、マユを気遣う余裕はなくなっていた。
「母さんっ!」
必死で母親に駆け寄ろうとする。
キラはヴィアを一瞥すると、たった一言、
「うるさいな」
バルカンがまた爆音と共に放たれる。
警察部隊が弾けとんだ。ヴィアの体が霧散した。

重い衝撃と共に、シンの左腕が軽くなった。
「マユ!?」

思わず手を握る。よかった、手はつないだままだ。

振り向いた。

マユの手はあった。

体はなかった。

「……え?」

シンは、マユの右腕だけを握り締めていた。