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機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第十一話(後)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:21:15

 ミナレットが拳で突きを繰り出す。シンは左で殴りつけた。
 巨人の拳と拳はぶつかり合い、火花を散らすや一時反動で跳ね飛ぶ。
 しかしすぐさま、その反動すら利用してミナレットが飛び込んでくる。
「このぉぉぉ!!」
 シンは叫んで体を捻り、迫るミナレットの腕をかわして抱え込んだ。
 左腕一本を巻きつけるようにロックし、そのまま体を捻って引きずり倒そうとする。
『苦し紛れにしても、ちょっとお粗末じゃないか?』
 ミナレットはもう片方の腕をインパルスの首根に回した。姿勢が確保されてしまう。
 シンが呻く間もなく、ミナレットは組み付くようにインパルスを担ぎ上げ、跳躍した。
 二機の巨人は集会場の屋根へ、次に廃ビルの屋上へ。
 鉄筋の建物の天井を踏み砕いては更に黒い雨空に飛び上がり、落下する。
 インパルスを下にして。
 
 シンは不覚を悟るが、もう遅い。身じろぎする。動けない。
 先程とは逆にミナレットの腕と体にロックされてしまっていた。脚を動かそうとするが、やはり固められている。
 慌ててスラスターを吹かせるが、落下の加速は和らぐ気配はない。
 ミナレットのスラスターもまた吹かされているのに、シンは気付かなかった。闇色に塗りこめられた街が視界を流れる。

 衝撃。

 首根と背中と胸と腹、体の両面から強烈な圧力が襲い掛かる。胃と肺の底からシンは血の混じった息を吐き出す。
 ミナレットのGまで押し付けられて地に打ちつけられたインパルス、その下の石畳は大きく陥没し、
網の目か蜘蛛の巣のようにひびが広がった。淀んだ雨水が逃げ場を見つけ、これ幸いと流れ込んでくる。
 ミナレットは悠々と体を起こす。地面とインパルスに挟まれた片手をひょいと掲げ、握ったり開いたりを繰り返した。
 破損の広がる白い腕は、銀の輝きと共に元の姿を取り戻す。横に向ければ、手のひらから数本の触手が伸びる。
 触手は遠くに横たわっていた円月刀を拾い上げ、ミナレットの内部へと戻ってくる。
 シンは辛うじて首を上げた。ちょうど白い巨人が円月刀を振り下ろしてくるところだった。
 まるで旧世紀の処刑道具のように、刃が首目掛けて落ちてくる。咄嗟に左手と右肘で巨大な刃を止める。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
 傷口を更に抉られ、シンはまたも悲鳴を上げた。左手にまでひびが入り、右肘の放電は更に激しくなる。
『諦め悪いね。そのへんもアイツ譲りってところか?』
「だ……まれ……よっ!」
 シンは歯軋りした。これが悪あがきであることは分かっていた。
 円月刀の圧力が増す。両腕が軋む。警報が耳をつんざく。絶望が迫る。

 俺はこんなところで終わるのか――

「優しいその指が 終わりに触れる時
 今だけ 君だけ 信じてもいいんだろう」

 
 円月刀の圧力が弱まる。シンもまた、その柔らかな声を聞いた。
 激しい雨音も警報音も縫い、アルトの女声は伴奏もなしに響いてくる。

「誰もが崩れてく 願いを求めすぎて
 自分が 堕ちて行く 場所を探してる」

 
 ルナマリア。その名が浮かぶのに、少しの時間がかかった。
 だがどうやって歌声をここまで響かせているのか。コクピット内に視線を走らせるが、通信機器は沈黙したままだ。

「傷つけて 触れるしか出来ない
 ざわめく想いが 僕らの真実なら」

 
 低い音程は、女声にはきつい。低音を出すことが出来ずに消えかかる。
 シンはこの歌を知らない。だが明らかに、女が歌うことを念頭に置いた曲ではないと分かる。
 両手の中で円月刀が震え出す。のしかかっていた圧力は、一押しすれば跳ね除けられるほどに弱まっていた。

「壊れ合うから動けない 眩しい羽根重ねて
 出遭う光の無い時代の 眩しさを魅せて」

『……ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!!』
 
 ハイネの絶叫が響き渡る。
 ミナレットが円月刀を放り出した。巨大な刃は建物を数件打ち倒し、新たな瓦礫を作り出す。
 白い巨人は体をよろめかせ、耳を塞ぐ。たった今まで闘っていたインパルスを無視し、殺気をみなぎらせて振り向く。
 
 崩れかけた酒場の屋上に、ルナマリアはいた。雨に降られながら、細いコードをマイクのように持ち、歌い続けている。
 コードのもう片方は、傍らの朝顔型のスピーカーにつながれていた。あの青年が頭を 掻き毟りながらスピーカーと格闘している。
 
 あれが発信源。そうと知るや、ミナレットは走り出した。
 
 邪魔な建造物を殴り飛ばし、車も人も街灯も踏み潰し、白い巨人は走る。イスタンブールに響く歌声は消えない。
 腕を振るう。巨大な手で少女に掴みかかろうとする。それでもルナマリアは歌をやめない。ミナレットを
――中にいるハイネを見ている。歌いかけている。
 巨人の手を前に、青年が何事か叫ぶ。ルナマリアは動かない。ミナレットの手のひらがルナマリアに到達する。
 
 だが、拳が握られることはなかった。

 重い金属の破砕音が雨夜を駆け抜ける。僅かにつんのめったミナレットは後ろを振り返った。
 背には袈裟懸けの裂傷が出来ていた。
 視線の先にはインパルスが立っていた。放り出されていたはずの円月刀を構え、切っ先を地に打ちつけて。
「アンタの相手は、俺だ……!」
 荒い息と共に言葉が搾り出される。
 インパルスの全身にも疲労と損傷が見て取れる。円月刀を止め続けていた両腕はボロボロだ。
 右腕の放電は腕の中で小規模な爆発を起こしているらしく、時折煙と光を吹き上げる。
 明滅する金色の光はインパルスの全身にまで及び、左に持った円月刀にまで飛ぶ。
 途端に、鋼鉄を切り裂く巨大な刃には無数の亀裂が走り、砕け散ってしまった。支えを失い、インパルスがよろめく。
『邪魔するんじゃねぇよ……この薄汚い地上人がぁぁぁッ!!』
 ミナレットの背中から銀の鱗と触手が湧き出し、瞬時に損傷が修復される。だがハイネの声から余裕は消し飛んでいた。
 ミナレットが地を蹴る。シンは反応出来なかった。既に心身ともに疲労はピークに達している。
 加速のついた白い巨人の左手はインパルスの首を鷲掴みにし、地面に押し倒した。
 建物がまた薙ぎ倒され、炎が上がる。雨がそれを消し、赤い光を黒煙へと変えていく。
 シンは喉の圧力に喘いだ。後頭部の痛みより、呼吸が苦しい。視界が狭まる。
 通信はつなげていないのに、ハイネの悪鬼のような形相が見えた気がした。
 ルナマリアの歌が聞こえる。雨の叫びやレッドアラート、煩わしい音の何もかもを縫って、少女の声が耳に届いてくる。
 それが少年の意識を辛うじて繋ぐ。
 雨音を縫って届く歌は、当然ハイネにも聞こえているだろう。首を圧してくる力は震え、狐目の青年の定まらぬ心を示す。

『あの女ァ……!!』
 憎々しげな、暗い地の底から天を恨むような声。
 シンは首の圧力が消え失せたことを知る。視力が急速に回復。
 ミナレットがよろめき、背を向けるのが明瞭さを取り戻していく視界に入った。
 奴が向ける視線の先は、歌い続ける赤い少女。
 黒に塗りつぶされた雨夜の中にただ一つ浮かび上がるワインレッドの色彩。
 ミナレットは足を踏み出した。よろめきながら少女へと走り出す。
 シンは奥歯を噛み締めて身を起こす。
 近くのアスファルトの道路に、先程打ち払われたフォールディングレイザーが横たわっているのが見えた。
 左手を叩きつけるように掴み取る。

「ハイネェッ!」
 一声叫び、立ち上がる。左手にナイフを握り締めて。
 ミナレットは足を止め、振り向いた。赤い双眸のままに。
 シンは自分でもわけの分からない雄叫びを上げて、ナイフを左手に突進した。
 馬鹿正直に突っ込んでも軽く捌かれるだけだろう。だがシンには考えている余裕はなかった。
 このままではあの少女が死ぬ。それも師の――もしかしたら恋人の手にかかって。
 耐えられなかった。失いたくない、その感情のままに少年は走った。
 刃を突き出した。

 歌が、止まった。

 ミナレットは信じられないとでも言うようによろめいた。後ろへ二歩、三歩。
 錆び付いたような動きで自らの胸を見、何が起こったのかを確認すると、猛烈な勢いで胸部に突き立ったナイフを引き抜いた。

 装甲の傷口から、中のファイターがコードごと胴を真っ二つにされているのが見えた。
 
 血は流れていない。
 ただ放電を繰り返すだけだった。

 ミナレットが吼えた。慌てたように胸部装甲が修繕されていく。そのスピードも、先程までとは比較にならないほど遅い。
 パイロットがいないガンダムなど、魂の入らない仏と同じ。
 その理屈はDF細胞に侵されていても変わることはない。オートパイロットで発揮できる能力などたかが知れている。
 ルナマリアはそれを知っていた。だから彼女はハイネに呼びかけ、DF細胞の支配を跳ね除けてくれることを期待した。
 シンもそれを知っていた。だが彼は、相棒を殺されかけてまでハイネを信じることは出来なかった。
 あるいはシンにそれなりの力量があれば、ファイターはそのままに、機体のみを無力化することも出来たかもしれない。
 だがミナレットガンダムは完全にDF細胞に乗っ取られている。
 ハイネの技量を潜り抜け、その上再生し続ける機体を無力化するなど、今のシンとインパルスには到底届かない境地。
 喩えるならば、地上からコロニーを竹槍で狙い打つようなものだった。
 やっと胸部の修復が終わったとき、既にインパルスは左手をミナレットの頭部に当てていた。
 光が左手から静かに溢れ出し、白い巨体の全てをゆっくりと包み込んでいく。
 本来のファイトには到底使うことの出来ない光。弱々しく、金属の一片の破壊すらできない光。
 何者かの断末魔の絶叫が聞こえる。ミナレットが最後の抵抗とばかりに左腕に手をかけてくるが、シンは構わなかった。
 奥歯を噛み締め、目を強く閉じて、ひたすら左手へと神気を込めていた。
 頬を伝うものはそのまま流れるに任せ、ただ光を、神気をミナレットに流し込んだ。
 
 ハイネの声は聞こえない。何者かの声も、もう聞こえない。
 
 ミナレットの巨体の全てが文字通り崩れ落ち、瓦礫の一部となって沈黙しても、インパルスは
立ち尽くしたまま、光を放ち続けていた。
 それも長くは続かず、蝋燭の炎が燃え尽きるように光は 消える。
 インパルスのカメラアイも力を失い、白と青の巨人もまた膝から崩れ落ちた。
 警報が消える。雨が支配する静寂が戻ってくる。

「アンタが悪いんだ……アンタが奴に負けるから……」
 
 だと言うなら、その涙の理由は何なのか。
 少年の嗚咽はコクピットの中にのみ響き、誰にも聞こえることなく消えていった。

 雨はそれからも降り続けた。光なきインパルスの頬を濡らして。
 目を赤く腫れ上がらせ、少年はよろめきながら機体から降りた。天よりの雫は冷たかった。
 
 何故ミナレットが無防備なままにインパルスのナイフを受けたのか。理由は各々が想像するより他にない。
 少年は自身の願望も含んだ推測を立てていたが、口にすることは出来なかった。特に、彼女の前では。

「ガンダムファイト国際条約補足、過失によるファイターの殺傷。委員会は認めてくれたわ」
 地上で待っていた少女は。傘も差さず、髪も頬も服もずぶ濡れになっていた。目は真っ赤に充血していた。
「それと、隊長から指令。地上ネオジャパンの新宿に向かえって」
 事務的に伝える少女の声に、時折ノイズのように震えが交じるのは、雨音のせいだけではないだろう。
 少年は彼女を直視することが出来ず、顔を伏せた。ふらつきながら足を動かす。ぎこちなく少女に近付く。
「ごめん」
 すれ違いざまの言葉。少女は体を震わせた。
 少年はファイティングスーツのまま、少女に背中を向けて立ち尽くした。両の拳は震えていた。
「いいの。ハイネなら絶対に言ってるわ。『割り切れ、でないと死ぬ……」
 震え、言葉が途切れる。
 彼女に感情を排した会話など出来るわけがないのだ。少年はそれもまた、知っていた。
 背中に冷たい感触。限界だったのだろう、少女が背中にすがりついてきた。
 少年が身を跳ねるのも構わず、彼女は額を背に押し付け、嗚咽した。握り拳を何度も叩きつけてきた。
 雨に打たれて冷たくなった拳を、何度も。
 
 少年は振り返ろうとして、やめた。
 彼女を抱き止めることは出来ない。
 自分の胸に招き入れることは出来ない。
 それはたった今自分が手にかけた、あの男にのみ許されることなのだろうから。
 
 拳が止まった。小刻みな震えは、止まらなかった。
「デビルフリーダムよね……。デビルフリーダムが、ハイネをこうしちゃったのよね……!」
 背中の少女は、嗚咽しながら、自身に言い聞かせるように呻いた。重く、掠れた声。
 少年は奥歯を食い縛り、拳を強く握り締めた。黒髪から大きな雫が跳ね落ちた。
 雨の囁きが強くなる。天の嘆きはまた勢いを強めてきている。
 いつの間にか、前にはあの青年が立っていた。
 呆然として、土砂降りの雨に濡れて。傘を差すことも、カメラを回すことも忘れているらしかった。
 
 二人は無言で青年とすれ違った。挨拶をする気力すらなかった。
 背後から声がかけられることも、なかった。

          ※          ※          ※

「……はいこちら…………だからそっち側持てって! タイミング合わせなきゃダメだろ!」
 煩い、と思った。闇の中に心地よくまどろんでいるのを邪魔してくる。
「よし、いくぞ! せーの!」
 重く軋む音。光が差し込んでくる。眩しくて、煩い。
「そっちそのまま! 落とすなよ、ここまできてペシャンコなんて死んでも御免だからな!」
 煩い声が耳に響く。文句の一つでも言ってやろうと、目を開く。光が眩しい。
「……生きてる? 生きてるんだな!? そのままじっとしてろよ、今助けるから!」
 光が飛び込み、青年のシルエットを描いていた。
 どちらかと言えば面長、背は高い。瓦礫を慎重に伝って降りてくるのが見える。
 彼に向かい、手を動かそうとした。酷く重い。あれほど熱を持っていたはずの左腕も、死んだように動かない。
 
 ああ、俺は死んだんだった。今更そう思い出す。
 アイツは泣き叫んでいた。知人を殺すのは辛かっただろうに、よくやってくれたものだ。
 気に病んでいるだろうか。多分そうだろう。元々気性が優しい上に、あのお人好しの弟子だ。
「枕元に立てるかな……どうやるんだか……」
「縁起でもないこと言うなよ! アンタまだ生きてるんだぞ!」
 あの煩い声がする。今度は耳元で。
 視線をめぐらす。青い髪と、一房の金メッシュが目に入る。その青年はこちらの体を抱え、背負い上げた。
 腹に激痛。思わず呻いた。
「痛くても今は我慢してくれ。ここから出なきゃどうにもならない」
「ああ……死んでても痛みってあるんだな……」
「だからアンタはまだ生きてるっての!」
 光が段々と強くなる。目を細める。一歩ずつ瓦礫を上っていくこの青年は、荒い息の合間にも話しかけてくる。
「奇跡みたいなもんなんだからな!? あの少年ファイターに感謝しろよ!?」
「シンか……もちろん……」
「それから自分が死んでるなんて言うな! アンタはちゃんと生きてる! 一週間ここに埋もれてたけどな!」
 目を見開く。一気に外の世界が広がった。闇とばかり思っていた場所は瓦礫の下の空洞だった。
 一部が取り払われたために、光が差し込んで全てが見えていた。
 腹が酷く痛む。対装甲ナイフを突き刺されて両断されていたはずが、何故かつながっている。
 自分で動くことは出来そうにないが。そっと首を振り、左手を見てみる。銀の鱗は跡形もなく消え去っていた。
「なんで生きてるんだ、俺……」
「そりゃあ、あの二人がアンタに死んでほしくなかったからだろ!」
 煩い声だ。理屈も支離滅裂。だがこの自信と力強い言葉は心地よい。
 ひたすらに前向きな言葉は、たとえ気休めでもありがたく思える。
「心配するな、アンタは死んだ扱いになってる。国際条約だっけ? あれで死亡認定されたってさ」
「ああ……過失によるファイターの……」
「それでアンタにかかってた指名手配も解除! 自由の身だよ、アンタは」
「……そこまで知ってて、どうして俺を助ける……殺人犯だぜ、俺……」
「アンタばかりのせいじゃないからさ!」
 無自覚なのだろうか。これほどの自信を持って言い切ることが、時に聞き手の神経を逆撫でし、時に安心を与えるということを。
「今年に入って、いくつか似たような事例が出てきてる。全部に共通してるのは、銀の鱗と化け物じみた触手!
 エイリアンかバイオハザードか知らないが、アンタはそいつらに取りつかれただけだ! 
 違うか、ヴェステンフルスさんよ!」

 息をつく。長く、長く。肺には異常はないようだった。
 瓦礫を上るにつれ、下と違った乾いた空気が近付いてくる。
「……ハイネだ。苗字は長ったらしくていけない」
「そりゃごもっとも!」
 青年が上部の瓦礫に手をかける。
「ここ出たら、静養してなよ! 今は被災者救助でごたごたしてるけど、しばらくすりゃほとぼりは冷める!」
「ああ。情けないが、しばらく動けそうにないからな……。お前は?」
「俺はこの事件を追う。人や機械を乗っ取るアンノウンが地球にいるなら、ガンダムファイト自体
 さっさと中止させないと、とんでもないことになるからな。
 各国のガンダムが全部乗っ取られたら地球滅亡の危機だぜ、冗談抜きで!」
「ああ……」
 相槌を打ち、何人かの知った顔を思い出す。確かに彼らが悪魔に取りつかれたら、止められる者はいないだろう。
「それでさ、アンタからも色々聞きたいんだ。
 暴れてたときの記憶とか、いつどこでどうしてやられたのかとか。体力的に辛いなら後でもいいしさ!」
「そう……だな……俺も、このままじゃいられない……」
 瓦礫の穴蔵から、二人はやっと抜け出した。あれほど降っていた雨はやみ、燃えるような夕焼けが広がっている。
 傍らには数機の作業用MSが巨大な足を下ろしていた。
「サンキュー! もう下ろしていいぜ!」
 青年の声に、MSは支えていた瓦礫をそっと下ろした。僅かな砂交じりの風が重低音と共に吹きつけてくる。
 向こうからいくつかの人影が担架を運んでくる。
 何人かがこちらを見て顔をしかめた。当然の反応だな、とハイネは漠然と思った。
 自分が何をしたのかを考えれば、このまま瓦礫に潰されても文句は言えないのだ。
「だから、全部がこいつのせいじゃないって言っただろ!」
 青年が叫ぶ。明らかに不機嫌に。
「しかしねジェスさん、そいつは……」
「こいつだって犠牲者なんだよ! ネオトルコは怪我人を見捨てるような冷たい国なのか!?」
 ジェスと呼ばれた青年は、心底腹が立つと言わんばかりに声を上げた。

「ネオジャパンに行ってみてくれ」
 担架に乗せられたハイネは、ジェスに向かってそう言った。
「ずっと呼ばれていた気がする。行かなきゃならないと……そう思ってた、気がする」
「分かった。情報提供感謝するぜ」
 ジェスは力強く頷いた。屈託がなかった。
 裏も表もない素直な男か。何故かシンを思い出し、ハイネは苦笑した。
 現実を見ず奇麗事を口にする相手は、あの少年の最も嫌う相手だというのに。
「気をつけろよ、危ないと思ったらすぐ撤退しろよ……何か分かったら俺にも教えてくれ、俺も無関係じゃいられない。
 それから……あいつらに会ったら伝えてくれ。俺は無事だって」
「ああ、了解だ。今はゆっくり休んでなよ」
 その言葉が、ひとまずの別れの挨拶となった。
 橙の夕日の中、ハイネは担架に運ばれ、緊急に開設された病院へと搬送されていった。

次回予告!
「みんな、待たせたなっ!
 謎のMS軍団によって廃墟と化した東京の町。そこでシンとルナマリアは、一人の格闘家に助けられる。
 彼こそ、シンの師匠! 先代のキング・オブ・ハートじゃあないか!
 次回! 機動武闘伝ガンダムSEED DESTINY!
 『その名は東方不敗! マスター・アスラン見参』にぃ!
 レディィ… ゴォォォ――――ッ!」

※挿入歌:『ignited』

********************************************************** Edit

アーサー「はいカット! OKでーす!」
ジェス「おつかれっしたー!」
一同『おつかれっしたー!』
ルナ「って、いつの間に来てたんですか?」
ジェス「取材だよ取材。犬猿のラクシズとミネルバが共同作業やってるっていうし、俺の知り合いも出てるし。
    そうしたらそこの艦長に引っこ抜かれて」
ルナ「はあ」
ドモン「その柔軟性ある対応、さすがだなタリア」
メイリン「そんなレベルじゃねぇだろぉ!?」
ルナ「あれ、メイリン!?」
メイリン「あー、またやっちゃった……ただいま、お姉ちゃん」
ルナ「…………(じわっ)」
メイリン「ど、どうしたの?」
ルナ「メイリィィィィン! 会いたかったよぉぉぉぉぉ!!」
メイリン「何じゃそりゃぁぁ――――っ!? なんでポジティブシンキングが取り得のお姉ちゃんまでっ!?
     お前ら一体何させてたんだぁぁぁ!?」
レイ「何のことはない、ツッコミのストレスを一気に自覚したのだろう」
シン「なんだよ、最近はこいつだってボケ倒してたじゃんか。撮影中はシリアスだし」
レイ「気にするな、俺は気にしない」
シン「そのセリフ使えすぎだろ常考……へっくし!」
ハイネ「さっさと体拭いとけよ。でないと風邪引くぜ? ほら、タオル」
シン「へっくし! ……すみません」
レイ「ところで師父、何故メイリンがこちらに」
ドモン「うむ、アスランが最後の仕上げにかかっていてな。俺とメイリンは一足先に戻ってきた」
シン「仕上げぇ?」
ドモン「シン、お前には土産がある。シャワーの後でいい、コレを見ておけ」
シン「は、ありがとうございます。……ビデオテープ?」

数十分後、特設訓練室

シン「うおおおおお! パワーレベル最大!! 消費MP基本六倍、倍率ドン、さらに倍ッ!!」
ドモン「む! この気迫、勝負を賭けたか! 来い、シン!」
メイリン「なんか久々にシンの格闘見たけど色々変になってるぅぅ!? アンタいつの間にRPGキャラになったんだぁ――ッ!?」
レイ「倍率ドンだと!?」
ルナ「知っているの、レイ!?」
レイ「うむ、かつて喰頭陀阿鼻意という知能競技があったのだが……」
メイリン「ちょっと待てレイまさかそれ民明書房発の情報ッ!?」
レイ「出版社など気にするな、俺は気にしない」
ジェス「気にしろよっ!? メディア全部いっしょくたにされたらこっちだって迷惑だぞ!?」
ルナ「あなたいつの間に、ってカメラはNGですよ! ストップストップ、撮影料ちゃんと払ってもらわなきゃ」
メイリン「おねーちゃんいつの間にそんな商売人になってるのぉ!?」
シン「アロンダイトソォォォドッ!!」
メイリン「だべってる間にシンの木刀が光って唸ったぁぁ!?」
シン「人は生きるために食うのではない、食うために生きるのだ! 流派東方不敗が奥義……!」
メイリン「シンそれ流派違う! 似てるけど全然違う!! どっちかっつーと盟主王のネタだ――!!」
シン「アロンダイト縦横微塵玉葱滅多切り! 涙の一撃必生ォォォッ!!」
ドモン「ならばこちらはドッコイソード起動! 焼肉定食八宝菜烏龍茶斬りでキメだぁ!!」
メイリン「もはや何のつながりもねぇ――――っ!!」

アビー「見事です、メイリン」
タリア「倍率ドンに反応出来るとは、レイもやるわね」
ハイネ「艦長、歳がばれますよ」
タリア「もしもし整備班? バルキリーをガウォークに変形させたら変形機構オミットしといて」
ハイネ「しかしいつ見ても艦長って綺麗ですよね。一回芸能界デビューしてみません?」
タリア「整備班、スピーカーポッド取り付けなさい! 変形機構? 撤去する必要がどこにあるの!」
アビー「変わりすぎです艦長」
ハイネ「それじゃ俺、超時空要塞七番艦の二十四時間テレビで歌ってきますから。次回までには帰ります」
アビー「いつの間にそちらまで出張していたんですか……。まあいいですけど」
タリア「台本は渡しておくわね。おみやげにグババのキーホルダーよろしく」
アビー(……!)
ハイネ「了解! 女性陣のおみやげにはそれかな」
アビー「そ、そんなふさふさのキーホルダーなんていりません!」
ハイネ「ほぉ?」
アビー「……で、でもどうしてもと言うなら、もらってあげてもいいです」
ハイネ「そうかそうかなるほど分かった。じゃあどうしてもあげたいんでもらってくれ」
アビー「くぅっ…………///」

廊下

ステラ「すこっぷ……べると……銃……電車……??? アーサー、あそんでた?」
アーサー「いやあ、ちょっと違うんだけどね。ステラ、ドモンさんが今どこにいるか知ってる?」
ステラ「うぇい! ドモン、シンとしゅぎょーちゅー」
アーサー「そ、そうか、よかった……。さすがに今回は生命の危機を感じたからな……」
シュバルツ「この程度で音を上げるとは、まだまだ修行が足りんな」
アーサー「フッ、今回はさすがに何も言えんよ。油断など我々にあってはならぬというのに」
ステラ「???」
アーサー「ところでステラ、そのコーヒーカップの中で泡立ってる緑色の液体は何だい?」
ステラ「コーヒー……シンに差し入れ。ステラがつくった」
アーサー「……誰かに教わったの?」
ステラ「うぇい。虎の人にそーだんしたらレシピくれた。シン、絶対喜ぶって」
アーサー「……そうか。まあ、喜んでくれるよ絶対に」
ステラ「うぇーい!」

数分後、特設訓練室

ルナ「ね、ねえ、このグリーンコーヒー、ボッコボコに泡立ってるんだけど……」
ステラ「うぇい! 泡があるとおいしいって」
レイ「色が変わった!?」
ステラ「うぇい! のみごろになると赤くなるって」
ドモン「これは! コーヒー達が挽かれて喜んでいる!?」
メイリン「なんじゃそりゃあぁぁ――――っ!?」
シン「なんじゃも何もあるか! だってステラの心が篭っているんだぞ!?
   コーヒーはステラに、『愛を込めてくれてありがとう』って言ってるんだ!」
ステラ「うぇーい! コーヒーさんありがとう! シン、飲んで」
シン「もちろんさ! ステラが俺のために作ってくれて、コーヒー達さえ喜ぶほど心を込めてくれたんだ……
   ありがたくいただきます! こくん」

そしてエターナル

ハロ「ハロッ! ハロッ!」
ダコスタ「レシピに取り付けた盗聴器が起動しました!」
ラクス「さあさあ来ましたわよ、その瞬間が!」
レイン「あの~虎さん、いいんですか? 自分のコーヒーをこんな風に使われて」
バルドフェルド「……まあ、失敗も見方を変えれば成功になるということさ」
ラクス「うふふふふ、さあカラフルコーヒーよ! 主役の夢を見続けた哀れな脇役の目を覚まさせておやりなさい!」 

シン『…………』
ルナ『し、シン?』
レイ『固まってるな』
メイリン『ああもう言わんこっちゃない! ドモンさん、タンカを……』
ドモン『いや、待てメイリン!』
シン『……う……』
メイリン『う?』
シン『うまぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~い!!!』
メイリン『し、シンが巨大化して口と目から怪光線出した――っ!? そのままミネルバの天井ぶち破って遥か彼方へッ!?』
ステラ『シン、シーン! 戻ってきて!』
レイ『見事なまでのぶっ飛び様だな。星になったぞ』
ドモン『なるほど、通常のリアクションでは表現出来ん程に美味いということか!
    ものを見た目で判断してはいかんな。コーヒー達の喜びは伊達ではなかった!』
ルナ『あまりの不味さにトリップしただけなんじゃないの?』
レイ『ならばルナ、お前も飲んでみればいい』(がしっ)
ルナ『ってこらレイ! 問答無用で後ろから羽交い絞めするんじゃないわよ! 』
レイ『気にするな、俺は気にしない。さあ師父』
ドモン『うむ』
ルナ『ちょ……め、メイリン! ステラ! 助けて!』
ステラ『ルナ、ステラの飲んでくれないの?』(じわっ)
ルナ『はうっ!? じ、地雷原に踏み込んだ気分……!』
メイリン『さよならお姉ちゃん。あとのツッコミは私に任せて星になって』(ナムナム)
ルナ『この姉不幸者ぉーっ!!』
ドモン『よし、口が開いた。好機!』
ルナ『むぐっ! …………』
レイ『シンと同じく固まったが』
ドモン『いや、これからだ! レイ、下がれ! 巻き添えを食うぞっ!』
ルナ『……お……』
メイリン『お?』
ルナ『おいし~~~~~~~~~~っ!!!』
メイリン『おねーちゃんまで巨大化してぶっ飛んだ――っ!? またミネルバの天井に穴がぁっ!?』
シン(上空)『このさらりとした喉越し! 程よい苦味! 雄大な大地を思わせる豊潤な香り!』
ルナ(上空)『口の中一杯に広がるカフェインの満足感、幸福感! まさしく飲料の最高峰の名に恥じぬ風味!』
二人(上空)『ああ! コーヒーの! コーヒーの宇宙が見えるぅ~~~~っ!!』
メイリン『危ないヤクやってる風にしか見えない――――っ!!』
レイ『どうやら本物の極上コーヒーらしいな。ステラに惚けたシンの世迷い言だけではない、か』
二人『ステラァァァ~~~~ッ!!』
メイリン『二人が超高速で降りて……じゃなくて落ちてきた――――っ!?』

 どんがらしゃ!

シン『ありがとうステラ! 風邪気味だったのが嘘みたいに調子いいよ!
   今の俺ならたとえ師匠でも負けない……そんな気がしてくる!』
ステラ『うぇーい!』
ルナ『ステラ、ありがとう! これならこの先に待ち受けるであろうボケもすべて捌ききれる……いやっ!
   もっとボケ持ってこいやぁぁ! ってなもんよ!』
ステラ『うぇーい! シン、ルナ、元気になった! よかった!』
ドモン『この効果、凄まじいな。ステラ、俺の分もあるか』
ステラ『うぇい! まだまだある! みんな飲んで』
メイリン『あ、私も! アビーにも持ってってあげなきゃ』
ステラ『うぇーい! かんちょーにもアーサーにも飲んでもらう!』
レイ『(ぴっぽっぱ)ギル、公務中すみません。極上のコーヒーが手に入りましたのでミネルバへお招きしたく』
メイリン『議長まで呼ぶんかい! つーか携帯で直通っ!?
     ところでステラ、これどうやって作ったの?』
ステラ『うぇい。これ、虎の人にもらった』
メイリン『あの人のコーヒーレシピかぁ……あんまりいい思い出ないけど……(パラパラ)げっ!?』

ハロ「ハロッ!?」
ダコスタ「あ、盗聴器に気付かれました」
ラクス「そんなことはどうでもよろしいのです!
    どういうことですの!? ミネルバクルーを悶絶させるはずが……
    虎ッ! あなた一体何を渡したのです!?」
バルドフェルド「カラフルコーヒーのレシピですが。これがコーヒーの実物です」
ラクス「くっ、先程このわたくしを打ち負かした忌むべき存在……! ならば何故ミネルバクルーは美味しくいただいてるんですの!?」
バルドフェルド「そればかりは私も分かりませんよ」
ダコスタ「私も飲みましたけど、普通に美味しくいただきましたよ? ラクス様がカフェインに弱いだけなのでは」
ラクス「そ、そんなはずは……! ええい、もう一杯いただきます!」
バルドフェルド「はい、どうぞ」

場面戻ってミネルバ

メイリン「何このレシピ……配分がメチャクチャ……隠し味にトカゲの目玉と毒ムカデと(他自主規制)って……
     ステラ、この通りに作ったの?」
ステラ「うぇい。でもトカゲもムカデもないから、おさかなのほねにした」
メイリン「それでも相性悪いんじゃ……」
ステラ「そんで、豆こんだけで、こんくらいにひいて、どばーって」
メイリン「…………
     ステラ、ひょっとして豆と時間の単位間違えてない?」
ステラ「うぇい?」

ルナ『うらぁぁぁっ! ネタ持ってこいやぁぁぁ!!』
アビー『そう言ってハンマーで暴れているあなた自身がネタです、ルナマリア』
タリア『ふう……久々にリフレッシュした気がするわ……』
デュランダル『大分お疲れだったようだね、タリア。それにレイも』
レイ『いえ、議長のためであればこの程度』
アーサー『スコップの傷もなんのそのぉ!! この世に女体のある限りぃぃ!!』
シュバルツ『甘いぞアーサー! 空中浮遊ルナパンチラという絶好のチャンスを逃すとは未熟、未熟、みじゅごぺっ!?』
アビー『覚醒ルナの目の前で盗撮話など自殺行為ですよ、変態覆面』
ドモン『シン! そうまで言うからには俺も多少本気を出させてもらうぞ?』
シン『望むところです! 次回に向けてぇ! 俺はぁぁ……やるッ!!』

メイリン「……ま、結果オーライだしいいよね。あたしにもちょうだい」
ステラ「うぇーい!」

            第十二話舞台裏につづく