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機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第四話(後)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:15:03

「日の出前に決着をつけたい。セーヌの無人エリアへ…」
ミネルバブリッジにて。デュランダルの個室に置かれていた手紙の内容を反芻し、
タリアは様々な感情を込めて溜息をついた。
「艦長?」
「なんでもないわ」
アーサーの不安げな声を打ち消し、タリアは宣言する。
「ミネルバ、発進します!」

「行くしかない。たとえ相手が野蛮人であろうと…!」
レイもまた、愛機に乗り込む。
「ガンダムローズ、出陣準備完了だ!」

『あーそうそう、その辺に急所があるから』
「ここねっ!? …開いた!」
携帯していたノートパソコンでヴィーノのアドバイスを聞きつつ、磁力器具やドライバーを駆使して、
ようやくルナマリアはトイレ脱出に成功した。
『しかし意外なミスだったなぁ。そっか、扉が逆についてたんだ』
「意外ですますなぁ――っ!!」
思いっきりパソコンのマイクにシャウトして、ルナマリアは通信を切った。

「あー、もう少し優しくできないかね」
「無茶言わないで下さい…っと」
「ぬっ! ……きつく縛りすぎではないか?」
「いざというときには解けますよ。きっと」
無責任なことを言いつつ、シンはデュランダルから手を離した。
がっちりとエッフェル塔に縛り付けていることを確認し、満足げに頷く。
偽装誘拐である以上、デュランダルを『捕まえた振り』をすればいいだけの話なのだが、そんなことはすっかり頭の外である。
徹底的にやらなければ気がすまないタチらしい。
これであとはレイが来るのを待つばかり、と迎賓館の方向を振り向けば、ちょうど白い光が近づいてくる。
そこからもう一つの白い光が生まれ、先行してきた。
ナポレオンの帽子のような頭部を持ち、サーベルを抜き放った白い巨人、ネオフランス代表ガンダムローズ!

「よし、来たなレイ=ザ=バレル!」
シンがぐっと拳を握り締める。ローズはサーベルをシンにつきつけ、言い放った。
「シン=アスカ!」
「応!」
「こんな手段を使うとは、お前には羞恥心がないようだな…と言いたいところだが! お前に用事はない!」
「はあ!? 俺は議長を人質にしてるんだぞ!?」
「お前のような野蛮人に我がフランス語が書けるわけなかろう」
「うっ!」
図星である。

「ああ、そうか。それは盲点だったなぁ」
「……い、イタリア語なら少しは書けるぞ!」
暢気なデュランダルに、精一杯虚勢を張るシン。レイは深々と溜息をついた。
が、顔を上げると今度はデュランダルを見据える。
「ギル…じゃなくてデュランダル議長! お遊びにもほどがあります! グラディス艦長もお怒りですよ!」
という言葉と同時に、到着したのは白い飛行戦艦、ミネルバである。
『議長!! あなたという人は!』
怒り半分、呆れ半分、それ以外の感情少々。タリアは声を張り上げた。
『多少は国家元首の自覚を持って下さい!! そこのネオジャパンがお人よしだったからいいものの、
 もしものことがあれば…!』
「やあタリア、すまないね。でも心配してくれて嬉しいよ」
『国が傾くのを避けたいだけです!!』
(艦長、あんまり怒鳴るとまたシワが…)
『アーサー、何か言った!?』
『いえいえいえいえとんでもないっ!』
ミネルバから声が飛んでくる。デュランダルはにこやかにそれを見ていた。楽しんでいるようにも見える。
「むっ」
彼の様子に気付いたレイは、己の中のタリアへの嫉妬が大きくなったのを感じた。
デュランダルとタリアの関係は、知らないわけではない。しかし敬愛する議長の関心を全部己に向けさせたい、という欲求も、あるにはあるのだ。
「シン=アスカ! やはりファイトは申し込む!」
「うお!? ま、まあやる気になってくれたんならいいけど」
自己分析をするより早く、レイは口走っていた。

いきなりのことにシンは驚く。ネオチャイナのフレイといい、今回といい、どうにも最近は振り回されっぱなしだ、と思う。
しかしせっかくファイトする気になってくれたのなら、断る理由はない。
ぱん、と頬を叩き、気を取り直して――高々と右手を掲げる!
「出ろぉぉぉっ! ガンッダァァァムッ!!」
パチィィン!
小気味いい指の音が響くと同時、キャリアーから発進してきた三機の飛行物体が高速変形合体!
夜のパリに、白い巨人、インパルスガンダムが降り立った!

「ギル、見ていてください! 俺はギルのために不届きなネオジャパンを倒してみせます!」
「うむ、頑張ってくれたまえ」
「さあ行くぞ、シン=アスカ! 我が騎士道を見せて差し上げよう!」
「……おい、騎士道か? 本当に騎士道なのか、それ?」
レイは自分が『議長』ではなく『ギル』と呼んでいることに気付いていないらしい。
少々マグロの目になりつつ、シンは突っ込んだ。
「当然だ! ギルへの忠誠こそ俺の騎士道!」
「さいですか」
何となく、突っ込み担当ルナマリアの気持ちが分かったような気がした。

「ともあれ、行くぞレイ=ザ=バレル! ガンダムファイトォォ!」
「レディ!」
『ゴォォォ――――ッ!!』

シグナルと同時、インパルスは腰から両手にナイフを引き抜いた。ローズのサーベルに対抗するためだ。
インパルスにはビームサーベルの装備案もあったようだが、パルマフィオキーナ搭載によるエネルギーの制約から没になったらしい。
代わりに装備されたのが、この二振りの対装甲ナイフ、フォールディングレイザー。超接近戦仕様に拍車をかける武装である。
だが、得物を相手にするなら、素手よりは遥かにマシだ。
「おおおおおおっ!」
右を繰り出す。ローズは左肩のマント型シールドで受け、サーベルを突き出してきた。
すぐさま左のナイフで払いのけるが、ローズの切っ先がインパルスの装甲をかすめる。
刀身の差にレイの技量も相まって、完全な回避が難しい。
数度切り結ぶが、そのたびにインパルスに細かな裂傷が出来ていく。
「ち…ならっ!」
繰り出されたサーベルを、シンは今度はナイフ二本がかりで受けた。
「むうっ!」
レイが唸る。耳障りな金属音。刃が火花を散らす。

「ああ、始まっちゃってる!」
ようやく現場にたどり着いたルナマリア、二体の巨人の激突を見て頭をかきむしった。
「うむ、さすがは私のレイ」
「…って何やってるんですか議長ぉぉ――――っ!!」
エッフェル塔に縛られた議長を見、渾身の叫びを上げるが、デュランダルには全く効果がないようだ。
「はっはっは。なに、レイと君らネオジャパンを戦わせてみたくてね」
「アンタ本当に国のトップかっ!!」
「いやいや、これは重要なことなのだよ。君達はラウの下で動いているのだろう?」
ルナマリアが凍りつく。
「クルーゼ隊長のこと、知ってるんですか…」
「シン=アスカ君のファイト介入でこちらも様々あってね」
「……申し訳ありません」
「国際委員会を通して、彼が君達の上司であると知ったのだよ。極秘回線で、君達に先にネオロシアに回るよう言ったそうじゃないか」
「え…ええ」
「それでは我々は無視されたことになる。ネオフランスの恥だ」
「…………」
無視しようとしたのはお宅のファイターですよ、とは思ったものの言えなかった。
今回は完全にシンに非があるのだ。
「なんか微妙に納得いきませんけど、とりあえずロープほどきますね」
「ああ、頼むよ。シン君は念入りに縛ってくれたようでね」

二人の会話は、シンとレイにも聞こえていた。
「そうか…俺が無視しようとシン=アスカが無視しようと、外の者には『出会いながら闘わなかった』という事実が伝わるのみ。
 それでは我が国の、ギルの恥ともなる…!」
鍔迫り合いを演じながら、レイは己の無知を悟り、恥じた。
「すみません、ギル! 俺がつまらないプライドに拘ったばかりにそのような真似までさせてしまうとは!
 もう芝居などする必要はありません、早く安全なところへ!」
「それが解けないのよ、このロープ!」
ルナマリアが悪戦苦闘しながら叫ぶ。
「解けない!? 馬鹿言うなルナマリア、ちゃんと見ろ!」
「アンタの力でぎちぎちに締めたら解けにくくなって当然でしょうがぁ!!」
「ルナマリア君、耳元で絶叫はやめてくれるか」
「す、すみません」
「くそっ!」
気を取られたシンの力が弱まる。
レイはそれを逃さなかった。ナイフを抜け、インパルスの頭部を目掛けて突きを入れる。

「!?」
間一髪かわしたシン。モビルトレースシステムを通じ、頬に痛みが走った。
「ファイト中だ。シン=アスカ」
「レイ…」
ローズの目がこちらを見据えている。レイのアイスブルーの瞳が、氷の視線で己を射抜いているように思われた。
シンは一瞬呆然とした。しかし次の瞬間には笑みを取り戻す。
「そうだな…ファイターなら、そうこなくっちゃあな!」
叫ぶや否や、シンは両手のナイフを投げつけた。同時にブーストをかける。
「!?」
予想外の動きに、とっさにマントで防御に入るレイ。
飛んできたナイフをマントで受け止め、カウンター気味にサーベルを突き出す。
「それを待ってた!」
「何っ!?」
敵を自分の思い通りに動かすのは戦法の基本。正面に突き出されたサーベルを横に回って回避し、インパルスは横手からローズの右手を殴りつけた!
シュバリエサーベルが夜空を舞い、地に突き立つ。
舌打ち一つ、レイは後ろに跳んだ。

ミネルバブリッジにて、タリアとアーサーも観戦している。
「ああっ、レイが丸腰に! 艦長!」
「落ち着きなさいアーサー。ガンダムローズの武装はあれだけじゃないでしょう」
「そ、そうか…ところで艦長、議長の救出はしなくていいんですか?」
「いいの。議長には少し怖い目に遭ってもらわなければ」
「はあ…」

シンは勝利を確信した。これでローズに白兵武器はない。
しかしインパルスには伝家の宝刀、パルマフィオキーナがある。
「やるな、シン。俺の剣を落としたのは、ギルを除けばお前が初めてだ」
レイの声には賞賛の響きがある。
「だが、これで終わりではないぞ!」
ローズのマントの上部が跳ね上がる。そこから飛び出してきたのは、無数の赤い何か。
「……赤い薔薇!?」
シンが警戒し、後ろに飛ぶ。
「これぞネオフランス脅威のメカニズム! ローゼスドラグーンだ!」
シンの目の前で、一機のローゼスドラグーンが上を向き、するする、と蕾から花開いて見せた。
「た、確かに脅威のメカニズムだ」
シンは唸った。
ここまで無駄な造型に金をかけるとは、ネオフランスのメカニックはヨウランやヴィーノと気が合うかもしれない。ちらりとそんなことを思う。
「薔薇の葬列でヴァルハラへお送りしよう…ローゼススクリーマー!」
レイの声に応じ、無数の薔薇がシン目掛けて一斉に動いた!
「ちぃっ!?」
薔薇が放つビームを避けるべく、後ろに飛び、胸部CIWS、通称バルカンで叩き落そうとする。
しかし如何せん、数が多い。後ろへ後ろへと飛びながら、バルカンで数を減らしていく。
それでも間に合わない。
相手をしては時間と労力の無駄、とばかりにシンは後ろへと駆け出した。ぐるりと街路を回って、ローズの場所へと舞い戻るつもりだった。
しかし、角を曲がったところで、待ち構えていた薔薇の大群に鉢合わせする!
「しまった!?」
不覚を悟るが、もう遅い。ローゼスドラグーンはインパルスに集中砲火を浴びせた。

シンは咄嗟に後退ったが、足に砲火を浴びてしまう。推進系に異常、インパルスは仰向けに倒れてしまった。
そこを取り囲む薔薇の大群。エネルギーを放射し、赤い光の檻を形成する。
ビームネット、ビームワイヤー、ビームロープ……未来世紀の技術は、奇妙な言葉だが、ビームの柔軟な加工を可能にしていた。ローゼスドラグーンのビームは互いに干渉し合い、インパルスを封じ込めたのである。
「こ、こいつら…! 思うように動けない!」
ビームの檻と電磁波の干渉。二重の障壁にインパルスは倒れたままだ。
ゆっくりと、地響きが近づいてくる。辛うじて頭を上げれば、ガンダムローズが悠然と歩み寄ってくるのが見えた。右手にサーベルを取り戻している。
「変幻自在のローゼスドラグーン。お前は『詰み』へと誘導された」
「く…!」
「諦めろ、シン=アスカ。チェック・メイトだ!」
ローズが、サーベルを振り上げた。

「甘いわっ!」
「何?」
すっかりデュランダルのロープを解くのを忘れて観戦していたルナマリア、ぐっと拳を握る。
「シン! 見せてやってよ、ネオジャパン脅威のメカニズムを!
 あの二人の趣味人度合いがネオフランスメカニックに敵わないとでも言う気!?」
「そうだなルナマリア…その通りだっ!」
シンの目に火が灯った。
「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶぅ!!」
インパルスの右手が輝きだす。
そう、これこそは整備士達の意向で何故かインパルスに搭載されてしまったオーバーメカニズム!

「パルマッ! フィオッ!! キィィィナァァァァァッ!!!」

インパルスの輝く右手が、ローゼスドラグーンの赤い檻へと打ち付けられた!
さらなる高出力のエネルギーに耐えられず、ドラグーンが次々に爆散していく!
誘爆は広範囲に及び、檻の周囲を取り囲んでいたドラグーンまでが爆発する。
そのエネルギーは、崩壊しかけたエッフェル塔に最後のとどめを刺した。
嫌な音を立て、エッフェル塔の鉄骨が折れ、倒れていく!
「ギル!」
レイの反応は早かった。ローズが、めりめりと倒れていくエッフェル塔へと走る。
「レイ!?」
「逃げる気か!?」
「騎士は…敵に後ろは…見せぬ!」
ローズが反転する。両腕を掲げ、倒れこんできたエッフェル塔を支えた。轟音を立て、塔の倒壊が止まる。
その背後にはデュランダルとルナマリアがいる。
「レイ…お前…」
シンは立ちすくんでいた。右手の光も消えていく。
レイは、勝負を捨ててデュランダルとルナマリアを救ったのだ。
「国家の威信をかけて闘うのがガンダムファイターだ。だが、主君を見殺しにして得た勝利になど、何の意味もない!」
レイはエッフェル塔を支えたまま、吼えた。
「レイ…しかし、君が優勝しなければ、私のプランは…」
「ギル、たとえそこにいるのがその少女一人だったとしても、俺は見殺しにはできません!」
「!」
「そんなことをすれば、俺はネオフランスの誇り以前に! 『人』として、誇りを失います!」
「レイ…」
驚いたように、デュランダルはガンダムローズを見上げる。
「さあ、とどめを刺せ、シン=アスカ!」
レイの叫びが、この国に来てより焦燥に満ちていたシンの心を震わせた。

ファイトが終わり、ネオフランス一同はミネルバに乗り込んでいた。
ガンダムローズの修理光景を眼下に、レイとデュランダルは並んでいる。
「申し訳ありませんでした、議長。議長より賜ったこのガンダムローズを、このような目に遭わせてしまうとは…」
「いいや、君が謝ることではないよ、レイ。私が少々軽率だったのさ」
にこりと笑い、隣のレイを見下ろすデュランダル。
「それに、見たまえ。ガンダムローズの頭部は綺麗に残っている。
 君の騎士道精神に応じ、彼も彼の武士道を見せてくれたのだろうね…」

「……勝利よりも、人として…か」
夜明けの空にミネルバを見送りつつ、シンはぽつりと呟いた。
あのとき、レイが気付かずにエッフェル塔を支えていなかったら――デュランダルもそうだが、
ルナマリアも今自分の隣にはいなかった。
(何のための力か…自分は何がしたかったのか…)
アカデミーの記憶。青い髪の少年を思い出し、シンは右手の紋章に目を落とした。
「ねえシン」
思考を遮るように、ルナマリアの声が聞こえた。
隣を向けば、少女は悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「ああいうときが来たら…私でも守ってくれる?」
ぎょっとした。まさにそれを考えていたのだ。
しかし、彼女に負けず、からかうように笑ってみせる。
「お前ならその前に力ずくでさっさと逃げ出すだろ」
「あ、ひっどーい! 女の子のロマンス壊さなくたっていいじゃないの!」
ルナマリアの怒り顔を笑って受け流し、シンは身を翻した。
「さあ、ネオロシアに行くぞ!」
「もう!」
ルナマリアは腰に手を当て、不満げな顔をして…すぐに笑ってシンを追った。

次回予告!
ドモン「みんな、待たせたなっ!
    ボルトガンダムと戦うため、ネオロシアに来たシンは、刑務所に入れられてしまう!
    果たしてシンは無事脱出し、ガンダムファイトに戻れるのだろうか!
    そして! 謎の囚人、フォー・ソキウスの正体とは!
    次回! 機動武闘伝ガンダムSEED DESTINY!
    『大脱走! 囚われのガンダムファイター』にぃ!
    レディィ… ゴォォォ――――ッ!」