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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第03話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 17:49:00

「ぶはぁっ!」

海面を割って浮上したシンは、粗末な茣蓙が敷かれたデスティニーの掌の上にあがると、持っていた網から貝を取り出し、幾つかは脇に置いた桶に、幾つかは海へと投げ戻した。

「ひのふのみ……と。こんだけあれば、晩飯には充分かな……ふう」

一つ溜息をつき、空を仰げば、抜けるような青空と、はぐれ雲がいくつか、そして、中天に輝く太陽が目に入る。
この世界に来て、はや半年近くになるが、その間、退屈などしている暇は、ほとんど無かった。出会った人間と言えばビフただ一人だが、そのただ一人が、ビフであった事は、きっと幸運だったのだろうと、シンは思っていた。

「なあ、デスティニー」
パイロットスーツを切って作った水着姿のまま、シンは膝を抱え、茣蓙ごしにデスティニーの掌をなぜた。
「俺、こっちに来れて、良かったと思うよ。お前のお陰だ。有難うな、相棒」

――どういたしまして、相棒。

そんな声が、聞こえた気がした。

シンが岸辺を離れて小屋の方に戻ると、畑にビフの姿はなかった。たいがい、昼前のこの時間は、右腕一本で畑仕事をする姿が認められたのだが。
さて、一体どうしたのかと見回せば
「おう、戻ったか」
上から声がかけられた。何事かと見上げれば、小屋の屋根に登ったビフが、望遠鏡を覗き込んでいる姿があった。

「ただいま。晩飯になりそうなのが見つかったよ。後、仕掛け網の方は直しといた」
「おう。ご苦労さん」

そう答えるビフは、相変わらず望遠鏡を覗き込んだまま、動こうとしなかった。

「どうしたんだよ、何か見えるのか?」

「ああ、まあ、な」
言ってから、ビフは初めてシンの方に視線を向けた。「とりあえず昼飯にしようや。カマンとベールの方は、俺がやっとくから、お前は着替えて来い」
「はいよ」

シンが小屋に入ると、ビフは腰を上げ、右手だけで器用に望遠鏡をしまい、ぽつりと呟いた。

「大して、時間は残ってねえな」

その視線の先では、島を取り囲む巨大な渦潮が、いつもと変わらぬ勢いで波飛沫を上げていた。

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夕食後――普段ならば、航海術やこの世界についての基礎知識の講義にあてられる時間だが、その日ビフは、シンを小屋からやや離れた所にある物置へと連れてきていた。
扉を開けたそこには、一艘の船――ボートと言うよりは、ヨットに近い――があった。

「これは?」
「オレがここに来る時に使った船だ。これで出発すると良い。一本マストで三角帆だが、これでも外洋を渡るのは可能だ。本当なら、こいつの扱い方もみっちり教えたい所なんだが」
「……だけど?」
「時間がねえ。もうじき、嵐壁(ウォールストーム)が来る」
「嵐壁……?」

ビフの説明は、次のようなものだった。
この島のある海は、東西南北、あちこちから来る海流がぶつかる辺りに該当する。事に、「凪の帯」や「赤い土の大陸」にさえぎられて帰ってくる海流までもが、この辺りで一度合流している為、非常に複雑な潮を形成している。
島を囲む渦潮は、その複雑な潮目が生み出しているのだ。
だが、この時期、その複雑な潮目が、一時ゆらぐ事がある。「凪の帯」にぶつかった海流が、この辺りの海域で嵐を生んでいる海域にぶつかると、水温の次第によって、複数の台風が一列に並んだ巨大な嵐――嵐壁が発生するのだ。

「嵐壁の発生するのは、毎年って訳じゃねえ。が、今年の嵐の量からすると、来る確立が高い。そして、嵐壁が発生する時は、あの渦潮が、僅かな時間だが治まるんだ。オレがこの島に辿りついた時もそうだった」

「じゃあ……」
「次、何時嵐壁が来るかはまるで解らねえ。実際、オレがここに来てからの5年間、嵐壁が発生したのは最初の一回と、3年前の一回だけだからな。こんなチャンスは、次いつあるか」
「でも……俺、まだ……」

まだまだ、自分は弱い。まだまだ、自分は未熟だ。そう、シンは思っていた。こんな事で、本当にこの新しい世界を渡っていけるのだろうかと。そんな、臆病とも言える心理が、シンを支配していた。だが。

「『頭銃』」

   ご い んっ

鋼の額が、シンの頭頂部にぶつけられた。

「ったぁ~~~! 何すんだよ!」
「アホ。お前、何時までもこの島にくすぶってるつもりか? 冗談じゃねえ。『アイツ』は、そんな事の為にお前をここまで運んで来たわけじゃねえだろうが」
「あ……」
「おっかねえってのは解る。所詮、お前にゃまだ見たこともない世界だ。けどな。お前は探すんだろ? この世界で自分に出来る事を。本当にやりたい事を。だったら」
「そ……っか」
「明日からすぐ、こいつの扱い方も講義の中に入れる。やる事ぁ一気に増えるぞ」
「ビフ……」
「あん?」
「もう一発、『頭銃』頼む。気合、入れてくれ」

見上げるシンの目に、もはや臆病さが無いのを見て取ったビフは、口の端を大きく歪めて笑った。

「よおし……歯ぁ食いしばれ!」

   ど ご ん っ!!

「ぶも……?」
「も……?」

響き渡ったその音に、カマンとベールが迷惑そうに眠い目をこすっていた。

翌日から、ビフの宣言どおり、操船術の講義が始まった。更に、六式の鍛錬、航海術、基礎知識の講義にも、これまで以上の集中力をもって、シンは打ち込んだ。
この新しい世界で、自分が何をするのか。それはまだ解らないが、それでも、自分をここまで運んでくれた相棒に、顔向け出来ないような事には、決してなるまいと、必要だと思われるものは全て吸収しようと。

やがて――吹き荒れる嵐の量も増え、明日にも巨大嵐、嵐壁が発生するだろうと思われる日がやって来た。

シンは、一人海に潜り、デスティニーのコクピットへと来ていた。ここに来て早半年以上経過したそこは、蟹や小魚達の、格好のすみかとなっていた。今の住人達を驚かせた事を心中詫びつつ、シンは、久しぶりにシートについてみた。
不思議と、あの最後の戦いの記憶は、蘇っては来なかった。それで、良いのだろうとも思った。あの時、自分は一度死んだようなものなのだ。自分が考えるべきは、この相棒が連れてきてくれた世界で、どう生きて行くのか。それだけなのだろうと。

息苦しさを感じ、そろそろ戻ろうとした時、視界の端に、ゆらりと漂うものがあった。それは、デスティニーのメインモニターの破片だった。最後の戦いでひびわれたそれから、落ちたものだろう。シンは、ふと思い立って、それを掴むと、一気に海面まで上がって行った。

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そして、翌日。とうとう、南の海で、嵐壁が発生したのを、ビフが望遠鏡で確認した。
シンは、あの船に、ビフはカマンやベールと一緒に、急ごしらえの筏に乗って、北側の渦潮の近くまで来ていた。

「やっぱりだ。潮目がだいぶ変わってる。後数分もすりゃあ、渦が一度消えるだろう。その時一気にここを突っ切れば、外の海に行ける」
「ああ……なあ、ビフ」
「あん?」
「これを、後でデスティニーのところに、持って行ってやってくれないかな」

シンが差し出したのは、ピンク色の、携帯電話だった。

「これは……?」
「妹の、形見なんだ。こいつを、デスティニーのコクピット……腹の中に、置いて来て欲しい」
「良いのか?」
「ああ。俺が、本当にこの世界で生きて行く覚悟の為に。これは、持って行っちゃいけない気がするんだよ。その代わり、俺はこれを持っていく」

シンは、赤服の襟元から、ネックレスのように首にかけた革紐を引っ張り出した。そこには、小さな皮袋が下がっていた。

「デスティニーの、破片だ。ほんの小さなかけらだけど……そのかけらだけでも、俺は、アイツを連れて行ってやりたいんだ。俺の見るものを、アイツにも、見せてやりたいんだ」
「解った」

ビフは、携帯を預かり、懐へとしまいこんだ。その脇では、カマンとベールが寂しそうに鳴き声を――否、泣き声を挙げていた。

「カマンとベールも、今までありがとうな。カマンのミルクで作ったチーズやヨーグルト、美味かったよ。ベールも、遊び相手になってくれて、ありがとうな」
「ぶもー……」
「もー! もー!」

カマンとベールの頭を撫でつつ、ビフが口を開いた。

「シン。俺からも頼みがある。とは言っても、無理にじゃねえ。会えるかどうかも解らねえ相手だからな」
「どういう事だ?」
「この世界のどこかに、ニコ・ロビンって名前の女がいる。CP9が、海軍が、政府が何もかもを奪い、罪を被せた女だ」

「ニコ・ロビン……?」
「生きてるかどうかも解らねえ。だから、無理に探せとは言わねえ。ただ、もしその女に会ったなら、伝えて欲しいんだ。一言、『済まなかった』ってな」
「ビフ」
「解ってる。謝った所で、何一つ償いになんざなりゃしねえ。そもそも、アイツはオレの事なんざ知りもしねえだろう。でもな……オレがあの時、あのクソ野郎のそばに居られたら、あのクソ野郎をぶっ殺してでも止めていたら。そう、思ってな」
「良くは解んないけど……解った。伝えるよ」
「頼んだぜ」

二人が笑みを交わすのとほぼ同時に、ぴたりと、風が止んだ。そして、目の前の渦が、次第にその勢いを止め、やがてはついに、完全に消え去っていた。

「よおし! シン、構えろ!」
「おう!」
「良いか、渦が消えてるのはほんの数分、その間、風も止まる! だから、オレの嵐脚とお前の剃、同時に蹴りを出し合って、ぶつかった衝撃で、そっちの船を外洋にまで飛ばす! 良いな!」
「いつでも良いぜ!」

シンが帆柱に体を縛りつけ、足元を踏み固める。筏では、カマンとベールが錨を投げ下ろしていた。

「一発勝負だ。覚悟は良いな?」
「任せろ。のるかそるかってのは、慣れっこだ」
「行くぜぇぇぇぇぇえええ!!」
「来ぉぉぉぉぉおおおい!!」

二人の蹴り足が同時に繰り出される。空を切り裂く勢いで打ち出された蹴り足の、靴底同士が激しく衝突し、やがて。

「「おぉぉぉぉおおりゃぁぁぁぁぁあああっ!!」」

撃ち出すビフの蹴り足と踏み下ろすシンの蹴り足が生む衝撃は、一陣の風となって、船の帆を大きく膨らませた。

    ば  んっ !!

膨らんだ帆に衝撃をはらんだまま、シンの乗った船は、宙を舞う。眼下では、再び動き出した渦潮がゆっくりと、その勢いを増していく。

「行って来ぉーい! シーン!!」
「ぶもーーーっ!!
「もーーーーっ!!」
「行って来るぜー! みんなーっ!!」

波濤の中、筏の上でビフとカマン、ベールが叫ぶ。シンがそれに叫び返す。視線の先には、半年を過ごした島と、その岸辺に覗く、デスティニーの右手。

行って来るよ、デスティニー。そして、一緒に行こう、デスティニー。お前が連れてきてくれたこの世界で、色んなものを見よう。色んな事を聞こう。一緒に、体験しよう。なあ、相棒。

衝撃と共に、船が着水する。渦潮も、筏も、島も、すでに遠い。突如、起こった風が、帆をさらに膨らませる。
シンは、振り返らずに、帆を操作した。船は勢いを増し、シンを大海賊時代と呼ばれる、波乱の海へと、誘って行った。

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