Top > 機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第04話
HTML convert time to 0.005 sec.


機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第04話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 17:54:26

イーストブルーの名所を挙げろと言われた場合、たいがいの人々は、水上レストラン「バラティエ」とともに、ローグタウンの名を挙げるだろう。
始まりと終わりの街――海賊王、ゴールド・ロジャーが生まれ、処刑された土地であるが故の別名だ。

「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ…探してみろ、この世の全てをそこに置いて来た」

またそれとは別に、ロジャーが処刑に際して笑いながら口にしたこの言葉から始まった「大海賊時代」と呼ばれる今日、ローグタウンはイーストブルーから「偉大なる航路」へ向かう入り口に最も近い街であるため、ここから「偉大なる航路」へ向かおうと言う冒険心にあふれた者達と、彼らを見込んだ商人たちなど多くの人々が集う、旅立ちの街と言う顔も持っていた。

そして、海軍本部はこのローグタウンをイーストブルーでも最も重視している事の表明として、支部ではなく本部直轄とし、戦力を派遣していた。
その戦力を預かるのが、「白猟」の異名を取る本部大佐、スモーカーだった。
今、そのスモーカーのオフィスに、一人の女性将校が、従兵をしたがえて報告に訪れていた。

「スモーカー大佐。バジルール・ナタル少佐、巡回査察任務を完了し、ただいま帰頭いたしました」

ぴしりと背筋を伸ばし敬礼する姿は、「堅物」と言う彼女の異名――実際には、そこにはまた別の背景があるのだが――を、彷彿とさせるものだった。
それに対するスモーカーは、葉巻2本をいっぺんにくわえ、デスクに足をでんと乗せたぞんざいな格好だった。

「おう、ご苦労」

スモーカーは、ナタルから事前に送られていた報告書をめくりながら、顎で椅子を示した。
それを受け、ナタルは、室内に据えられたソファに腰を下ろした。彼女の従兵――赤みがかった髪をポニーテイルにした若い女性だった――は、その後ろに書類束を抱えたまま控えた。

「また手柄立てたみてえだな。シグナルはじめ不良将校に、小粒とは言え海賊団4つ……ま、お前さんにしちゃあ、大人しい方か?」
「……自分は、任務を果たしたまでです。それに」
「あん?」
「ほとんどは、『彼』のした事です」
「ああ、このルーキーか」

スモーカーが、デスクの脇に置かれた束から、一枚の手配書を取り上げた。「赤服のシン」賞金800万ベリー。
そこには、そう書かれていた。言うまでもなく、シン・アスカ――この世界での呼び方に従えば、アスカ・シンその人である。

「800万か。大げさな気もするがな。お前さんから見てどうなんだ?」
「さて、自分も、あまり彼が暴れている現場は見ていませんから」

嘘だった。あのシグナルを捕縛した後も、ナタル達はたびたびシンが暴れている現場に出くわしていた。そして、その度シンの行動があくまでも義憤に駆られたものであると知り、ナタルともう一人――今ナタルの背後に控えているフレイ・アルスターは、安堵にも似た思いを抱いた。
ナタルとフレイがこの世界に現れたのは、この世界の時間で、3年ほど前になる。ヤキンドゥーエの戦いで死んだと思った二人だったが、気がつけば、揃ってイーストブルーのとある島に流れ着いた形となっていたのだ。
以後、2人は協力しあいながらやがて海軍に入り、もともと軍人であり、ある事情によって力を得たナタルは、とうとう本部少佐にまで昇進を果たしていた。フレイの方は、基礎から鍛えなおしと言う有様であった為、今も伍長と言う階級でしかないが、ナタルが自身の権限によって従兵として自身の側に常に控えさせるようにしていた。

2人とも、この世界に来た理由などについてはまるで解っていなかったのだが、ここを新天地とし、過去の世界とは決別しよう、と言う点についても、また共通していた。
たぶん、間違いなく状況からして、自分達はすでに死者として扱われているだろう、と言うのがまずあったし、この世界で新たに得た知己や絆などもある。それらを振り切ってまで、戻るべきほどの魅力が、コズミックイラの世界には、感じられなかったと言うのもあった。
そんな2人にとり、明らかにコズミックイラからの来訪者であろう――何しろ、服がザフトの赤と来ている――シンの出現は、驚きと戸惑いを覚えさせるものだった。

もし仮に、あのザフトの少年が、コーディネイター特有の根拠のない優越意識に溢れるような輩であれば。
もし仮に、あのザフトの少年が、ラウ・ル・クルーゼのごとき怪物であったなら。
2人は、何をおいてもシンの事を排除しようとしただろう。だが、シンは短気にすぎるきらいこそあったものの、ナタル達が危惧するような人物ではないように思えた。彼が起こした揉め事は、全てが義憤にかられての行動であり、その刃が向けられたのは、全て無辜の市民を虐げる奴等に対してだったのだ。
何処で習ったのか、不可思議な体術を駆使し、一人で航海までしてみせる辺りから察するに、この世界についての知識も、きちんと備えてはいるのだろう。
だから、ナタルはあえてシンの事を最初報告書には載せずにおいたのだが、何しろ行く島で必ずと言って良いほど面倒に巻き込まれ、あるいは起こしと言う有様だ。ナタルが報告せずとも、その存在は海軍に知られる所となってしまったのだ。

――出来るなら、彼も海軍に誘ってみたい所なのだがな

そんな風に思っていたナタルには、少々残念な話ではあった。
あの戦闘能力もそうなのだが、若いとも言えるあの義侠心が、正しく育っていくのを、見て見たいとも思ったのだ。
因みにフレイは、シンについて特に含む所はないのだそうだ。コーディネイター憎しの感情も、この世界に来てからは、相当に和らいでいたせいであろうか。
だいたい、この世界に来て見ると、ナチュラルだのコーディネイターだのと言う分類が、ばかばかしくなってしまうと言うのもあった。

「まあ、コイツも問題は問題だが、どうやら、近いうちにもう一人ルーキーの手配書が来るらしい」
「ルーキー、ですか?」

スモーカーの言葉に、ナタルは意識を引き戻した。

「ああ、ノコギリのアーロン……アイツをぶっ飛ばしたらしい」

魚人海賊団のアーロンは、当然ナタルも知っていた。CE世界のコーディネイターもかくやと言う差別意識の持ち主で、魚人王国の建設を目論んでいるとさえ言われる、イーストブルーきっての大物だ。
いつか、ナタルも対さねばならないだろうと考えていた相手だ。それを、撃破したと言う。

「他にも道化のバギーや首領クリークも、そいつにやられてるらしい……これまで辿った航路から、大方ここに来るだろう。そいつが『偉大なる航路』を目指すなら、間違いなくな」

スモーカーの言葉に、ナタルは自然に身が引き締まるのを感じた。

「まあ、実際この赤服も無視は出来んだろうがな」
「そちらは、私にお任せ願えませんか」
「あん……?」

スモーカーは、しばしナタルの顔を見詰め、ちいさく鼻息を漏らして目を閉じた。

「ま、良い。好きにしろ……」
「有難う御座います」

一方その頃、渦中の人物アスカ・シンは何をしていたかと言うと――ローグタウンの広場の一つで、ジャグリングの大道芸を道行く人に披露していた。

時間は、しばし遡る――

ローグタウンについたシンがまず赴いたのは、船大工の工房だった。ローグタウンの港に入る少し前あたりから、あちこち浸水が激しかったのだ。シンとしてはなるたけ大事に乗ってきた積りだったのだが、いかんせん船の年齢自体がかなり古かったのと、海賊達との立ち回りなどで少なからぬダメージを負っていたのだ。
船大工の親方は、一当たり船を調べると「これはもう、外洋を渡るのは無理だな」と診断を下した。

「見てみな。ほら、この帆柱と竜骨を繋げてる所だ。ここで、竜骨が歪んでるだろう。帆に加わる風の力が、竜骨を曲げてるんだ。その歪みが、全体に影響して浸水を起こしてるんだな」
「直せないんすか、コレ」
「んー……ちょっとな。まあ、帆柱を外して、島の近海で漁に使ったり連絡船に使うぐらいならまだまだ行けるだろうが」
「そっか……」

デスティニーの一件以来、シンは、ものを思いやると言う心を、深く自覚するようになっていた。そんなシンにとって、親方の言葉は寂しいものだったが、しかし、それだけに、この船にとって、そうしてやる事が良いのではないかとも、思えた。船として、静かな余生を過ごさせてやるのも、また一つの選択肢なのではないかと。

「何なら、ワシの所で引き取ってやっても良いぞ。適当な値段は払うよ」
「じゃあ、お願いします……今までありがとうな、お前」

船べりを手でさすりながら、別れを惜しむシンの表情に、親方は鼻を小さくこすり上げた。
結局、船はここで補修と小さな改造を受けて生まれ変わる事となり、シンは、中古船の代金としては少々多めな額を手に入れた。シンも少し多すぎないかとは言ったのだが――

「なあに。お前さんが気に入ったからな。それに、客船に乗るにしろ新しく船を買うにしろ、元手は多い方が良かろう?」

親方は、笑ってそう良い、代金をシンの手に押し付けたのだった。

とりあえず船と別れを告げたシンだったが、この後どうするか、少々迷っていた。
「偉大なる航路」の事はビフからも聞かされていたが、到底今の状態ではそこへ向かう事など不可能だった。
客船が行ってくれるはずもないし、一人で「偉大なる航路」へ行くなど、ほぼ自殺行為に等しいだろう。
腕が立つとか何とか言う以前の問題として、だ。

どこかの海賊団に入団するという手もあるのだろうが、今の所宛てはない。そもそも、これまでシンが出会った海賊は、どれも正しく「ろくでなしのクズ」以外の何者でもなかったのだ。

さて一体どうしたものか――迷った挙句、シンはとりあえず、目先をそらして見る事にした。
島々を渡る上で、何がしかのたつきは必要だろうと、ジャグリングで、少し小銭を稼いでおこうと考えたのだ。
あの親方の言う通り、金はあって困るものではないのだし、と。

ジャグリングをシンに奨めたのは、ビフだった。もともと動体視力が高く、反射速度も人並みはずれたシンだ。
後は手先の訓練で、どうにか芸として通用するぐらいのものにはなれた。
芸の売りとして、ナイフとお手玉を同時に操ると言うものも考えた。
2つのお手玉と2本のナイフを器用に操り、時折わざとナイフの刃の方を掴んでみせるなど、客をはらはらさせるような演出などもこなしてみせた。
結果、最初はまばらだった観客も、やがて小さくはあるが人だかりを作るようになり、前においた空き缶には、すでに結構な量の小銭が入っていた。

「よし。じゃあ次はもうちょっとレベルを上げよう。ええと、そこアンタ、その穿いてるサンダルを貸してくれないかな」
「え? 俺かっ?!」

シンが声を掛けたのは、観客の中でもとびきり目を輝かせてシンの芸を見詰めていた若者だった。その若者は、左目の下に傷跡があり、麦わら帽子を被っていた。

】【戻る】【