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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第09話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:00:28

「雑魚に用はねえ “ホワイトブロー”!!!」
「うわぁ!」
「くぅっ!」

いきなりではあるが、シン達は危機に陥っていた。広場を脱出後、しばらくして一人の女性海兵に出くわし、何か因縁があるのか、ゾロが彼女の相手をするために一旦別れた。それは良い。問題は。
ロギア系悪魔の実「モクモクの実」の能力者、海軍本部大佐、スモーカーがその直後に待ち受けていたのだ。
体を自在に煙に変えるスモーカーには、ルフィの拳、サンジの蹴り、シンの剣や槍も通用せず、逆に煙の腕でサンジとシンを壁に叩きつけ、ルフィを押さえ込んでしまった。

「くそっ この化け物が!」
「サンジ、アンタ先に港へ行ってくれ!」
「ああ? 何言ってんだお前」
「良いか。さっきルフィを殺そうとしてた連中、奴等が少しでも頭回るなら、船の方にも何か手を回してておかしくない。そうでなくても、海軍が向かってる事だって有り得る!」
「なるほど、ありえるか……あっちにゃナミさんと、ついでにウソップしかいねえからな。よし、ここは任せたぞ新入り!」
「ああ!」

サンジが港へ駆けていくのを後目に、シンは槍形態の両面宿難を構え、ルフィを押さえ込むスモーカーの背中に向けて、大声を叩き付けた。

「おい、オッサン! ウチの船長、返してもらうぜ!」
「ああ? ったく、雑魚に用はねえと……言ってるだろうが!」

再び、スモーカーの腕が煙に変化し、シンに向けて伸びる。だが。

「剃!!!」

煙が触れる直前、シンの姿が掻き消えた。スモーカーが視線を巡らせると――「何ぃっ!」――建物の壁、庇、路上、街灯の柱、ともかく足場と成りそうな所そこかしこに、十数にも上るシンの姿があった。

「ミラージュコロイド!」
「ちっ……分身たあ、中々面白ぇ小細工じゃねえか!」

剃の移動速度を利して、高速移動を繰り返し残像で敵をかく乱すると言う戦術は、シンが剃をものにしてすぐに思いついたものだった。もっとも、この場合それは、かく乱よりも、一種の威力偵察的な行動だったのだが。

――やっぱりだ。あの煙、気流に弱い。ビフの言ったとおり、どんな能力にも弱点はある!

剃によって起こる気流の乱れに、スモーカーの煙が途切れ、あるいは流されるのを見るシンの脳裏に、ビフから受けた講義が蘇る。

『良いかシン。この先、お前がこの海を押し渡って行く上で、とんでもない力の持ち主に出くわす事もある筈だ』
『それって……悪魔の実の?』
『ああ。どれもそれぞれにやっかいではある。しかしな、どんな能力だろうが、必ずどこかに弱点はある。戦術もそうだ。どんな戦術だろうが、必ずどこかに穴はある』
『必ず……どこかに』
『そうだ。良いか、どんなに完璧に見えても、どこかに必ず、どんなに小さくても、歪みってもんが出る。完全無欠、完璧なんてのは、ありゃしないんだ』

その話を聞いた時、想起したのは、キラ・ヤマトの存在だった。完全無欠の遺伝子。人類の夢たるスーパーコーディネイター。
彼にも、何か歪みはあったのだろうか。
だから、シンはその時、「もし仮に」と言う建前で、ビフに聞いてみた。
あらゆる方面に優れた才能を持ち、どんな状況に対してさえ対処してみせるような人物がいたとしたら、と。

『さあてなあ。もしそんなヤツがいたとしたら、まあ周りに散々妬まれて、孤立するのが落ちじゃないのか?』
『もしそいつの周りにいるのが、そいつを好きなヤツばかりだったら?』
『何だよ、そういう知り合いでもいんのか? まあ、もし周りにそいつを好きなヤツしかいないなら、それはそれで問題だな』
『何でだよ』
『才能と心は別問題だからだ。才能があろうがなかろうが、良いヤツは良いヤツだし。ロクデナシはロクデナシだ。それぐらいはお前も解るだろう』
『あ、ああ』
『もし周りにそいつをちやほやするヤツしかいないなら、そりゃそれでとんでもない不幸さ。ロクデナシをロクデナシと言ってくれるヤツがいなけりゃ、そいつは何時まで経ってもロクデナシを卒業できねえからな』

ロクデナシ。まあ、自分も多分、その一人だ。復讐の一語に縋り付いて、文字通りろくでもない事ばかりしていた気がする。キラ・ヤマト。あんたは、大丈夫かい?

そんな苦笑に口元が歪むのを、抑え切れなかった。

「ちっ……面倒だ、“ホワイトアウト”!!!」

煙の腕から逃れ続けるシンの分身に業を煮やしたか、スモーカーは、煙を周囲一帯に広げようとした。これならば、何処に本体がいようが関係はない。だが。

「ケルベロス――ハ ウ リ ン グ!!!」

煙が広がりかけた瞬間、スモーカーの眼前に現れたシンの両手から、槍の穂先が――その穂先から、突風にも似た衝撃波が繰り出された。
攻撃そのものは、スモーカーにはダメージとはならない。だが、その衝撃波は、槍を受けて煙となったスモーカーの体を、その場から吹き飛ばしていた。その下には。

「立てルフィ! 逃げるぞ!」
「よっしゃー!!!」
「ちぃっ!! この……!!」

ルフィの腕を掴んで立たせ、一気に駆け去ろうとするシンを追おうとするスモーカーだったが、その肩を、握り潰さんばかりに掴む者があった。
それは――

「貴様……ドラゴン?!」
「くく……男の船出だ、祝福してやってはどうだ?」
「何で手前ぇがあんな海賊を?!」
「世界は、我々の答えを待っている……そういう事だ」

顔の左半面に刺青を入れたその男は、不敵に笑ったまま嘯いた。そこに、嵐による突風が襲いかかる。

「くっ!!」

スモーカーでさえうずくまるその大風の中、ドラゴンと呼ばれた男はゆっくりスモーカーから離れながら、ルフィとシンの背中を見やり、楽しそうに笑っていた。

「海賊か。それも良い。それに――『来訪者』の仲間か。思うように進むが良い。それがお前のやり方なら……!」

一方――港では。

「おいおいおいおい! やべえ、そろそろ縄が持たねえ! ルフィと、その新入りってのはまだなのかぁ?!」
「海軍大佐とやりあってる! くそっ、こんな事なら俺もあっちに残りゃ良かった!」
「引き返すなり何なりすりゃ良かったろうが」
「明後日の方向へ行こうとしてたクソ剣士の道案内してやったのは誰だと思ってやがる!!」
「アンタ達、喧嘩してる暇なんかないわよ!!」

先行していたサンジは、途中どこをどう通ったのか、目の前を通り過ぎようとしたゾロを掴まえ、ゴーイングメリー号の所にまでたどり着いていた。シンの言った通り、バギー一味の猛獣使いモージが船に火を掛けようと来てはいたが、モージは自滅、つれていたライオンリッチーは、ウソップの機転によって卵に気を取られ、後から駆けつけたサンジとゾロによって気絶させられていた。
ようよう船に乗り込んだ一行だったが、迫る嵐の規模はあまりに大きく、接岸しているのが危険なほどであった。
しかし、ルフィとシンがまだ乗り込んでいない状態では港を離れるわけにも行かず、往生していたのだが。

「縄が……!!」

ついに、艫綱がぷっつりと切れてしまった。

「やば……! 錨上げて! 早く!」
「何言ってんだ、ナミ! まだルフィ達が!」
「この波と風じゃ錨綱だってもたないわ! それに、岸につけてたら船だって危ないのよ!!」

ウソップの抗議に、ナミが怒声を張り上げた。実際、嵐による高波が予測される場合、船は本来港から離すのが普通だ。波に翻弄される船体が岸に当たり、破損する恐れがあるからだ。
サンジとゾロはナミの言葉に船室に駆け込み、錨を引き上げると、櫂を出して岸から距離を取ろうとした。しかし今度は波が強すぎ、上手く距離と方向を制御できなくなっていた。

「くそっ、これじゃ港から離れすぎるぞ! 何とかなんねえか、ナミさん!」
「おい、あれ!!」

ウソップが港を指差すと、そこには、ルフィとシン――そして、距離を取って対峙するナタルの姿があった。

時間は、しばし遡る――

どうにかスモーカーから逃れたルフィとシンは、そのまま港へ向けて駆けていった。だが、二人の視界に港が見えた頃には、すでにメリー号は岸から離されつつあるところだった。

「ああっ! 何でメリーが出てんだよ!」
「多分、岸につけてると船が壊れるからだ。見ろ、この荒波じゃ、岸のそばにいたらああなるのがオチだ」

シンが指し示す方には、幾つかの船が岸や防波堤にぶつかり、破損している姿があった。

「でも、どうすんだ? 俺カナヅチだから泳げねえぞ」
「悠長な事は言ってられないしな……」

シンの脳裏には、一つだけ手段が浮かんでいた。だが、それを実行するには、自信が足りなかった。

――出来るのか、俺に。確かに、それならこれぐらい距離は。でも、俺にそんな事が出来るのか。

岸に立ち、心中でそう一人ごちながら、無意識に胸元をまさぐると、指先に、何かが当った。それは、デスティニーの破片を入れた袋だった。服の上から握り締めると、脳裏に、またあの声が聞こえたような気がした。

『大丈夫だよ。シンなら、きっと。僕も、ついてるから』

「……! そうだよな、出来る出来ないじゃない。やらなきゃならないんだ!」
「ん?」
「ルフィ、俺に考えがある……けど、これはお前が俺を信じてくれるのが、大前提だ」

シンは、ルフィに自分の考えを告げた。逆の立場であれば、シンならばきっと躊躇しただろう、デタラメなアイディアを。だが。

「そっか……面白ぇ! 任せたぜ、シン!」
「い、良いのか?! そんなあっさり!」
「良いぜ。お前を信じれば良いんだろ? お前を誘ったのは俺なんだから、そりゃ信じるさ」
「ったく……悩んでた自分がバカみたいだな。まあ良いや。じゃあ、ルフィは俺にしっかり掴まっててくれ。なるたけがっちりな」
「おう! じゃあ……これでどうだ!」

ルフィはシンの背におぶさると、足と手を伸ばし、背負子のように結んでしまった。

「さすがはゴム人間……ま、良いか。じゃあ行くぞ!」
「おう!」
「アスカ・シン!!」

ルフィを背負い、海に向けてクラウチングスタートの体勢を取ったシンの背後から、呼ぶ声があった。振り向けば、そこには。

「ナタルさん」

バジルール・ナタルが、嵐の中に立っていた。

「ん? 知り合いか?」
「ああ……ナタルさん、俺行きます。さっきも言いましたけど、誘って貰ったのは、嬉しかったです」

シンは、身を起こしてナタルに向き合った。ナタルの表情は、帽子の陰になって、シンからは伺い知れなかった。

「私が見逃すと思うのか?」
「この距離じゃ、盾はここまで届かないんじゃないんですか? それに、仮に届くとしても、その前に俺は跳びますよ」
「……行けるのか?」
「行けるかどうかじゃない。『行く』んです」
「そうか……なら、行ってみせろ。この場は見届けてやる。だが、次はないぞ」
「解ってます……ナタルさん」
「何だ」
「有難う御座いました!」

くすりと、ナタルの口元が笑みを作ったように、シンには見えた。シンも、それに小さく笑みを返し、海へと向き直った。

「じゃあ、改めて――行くぞ、ルフィ!!」
「おう! 行け、シン!!」

再度クラウチングスタートの体勢を取り、そのまま細かな踏み込みを繰り返し――地を蹴って海へと向けて飛び出した。

「剃!!!」

「なっ! バカかアイツは!!」
「ちょっと、こんな荒れた海に落ちたら……!!」

メリー号の甲板から、岸を見ていたウソップとナミが悲鳴を挙げる。あろう事か、ルフィを背負ったその男は、そのまま海へと飛び出したのだ。二人の悲鳴に、ゾロとサンジも上がって来た。

「何やってんだ、あのクソ赤服!!」
「いや……見ろ!!」

ゾロの指し示す先、海上に飛び出し、今正に波濤に飲まれんとしたシンが――そのまま波頭を蹴り、更なる跳躍を見せた。

「「「「なっ……何だありゃあーーーーっ?!!」」」」

メリー号の面々が驚愕するのを他所に、シンの背中のルフィは歓声を上げていた。

「すっげーーーーっ!!! すげえなシン!! やれたじゃんか!!!」
「俺も驚いたーっ!!」

何気に台無し気味な事を言いつつ、シンは次に踏むべき海面までの距離を推し量っていた。

――行ける! 月歩はまだ無理だけど、海面なら、まだ何とかなる……!

月歩の肝要は、密度の極めて薄い空気を、如何に蹴り足で捉えるか、と言う事にある。空気はまだまともに捉えられないシンだが、空気よりは密度の遥かに濃い水であれば、どうにか剃の足場とする事が出来た。
とは言え、シンにしてもこれは初めての挑戦であり、果たして本当に出来るかどうか、自信は無かったのだ。

「よーし、後ちょっとだ!!」
「おう!!」

ルフィとシンに向けて、メリー号からも声援が飛ぶ。

「頑張れ新入り!!」
「後少しよー!!」
「落ちんなよ、クソ赤服!!」
「そら来い! 来い! 来い!!!」

もう一歩、と言う所で、シンとルフィの眼前に、巨大な波が盛り上がる。

「うぉぉぉおおおおおっ!!!」
「いっけぇーーーーーっ!!!」

 ば ん っ !!!

最後の一踏み――波頭を粉砕する程の踏み込みで、シンはルフィを背負ったまま、メリー号の甲板へと飛び込んだ。
それを、サンジとゾロが、がっしりと受け止めた。

「良いぜナミさん!!」
「ウソップ! 帆を!!」
「よっしゃあ!!」

ナミの号令で、ウソップがロープを引き、帆が広がる。

「ゾロは舵について! サンジ君はウソップと帆の操作!! ルフィとそこの赤いのもさっさと動く!!」
「赤いのって……俺か?!」
「気ぃつけろ、シン。ナミはすっげえおっかねえからな」

「きしし」と歯を剥いて笑うルフィの頭に、ナミのゲンコツが炸裂する。

「無駄口叩いてる暇があったら働けっつーの!!」
「な」
「わ、解った」

ナミの指示で皆が動き、やがて、メリー号はローグタウンを離れ、外洋に出た。波は荒く、吹く風も、降りしきる雨も、共に激しい。だが、そんな中でも、一行は臆さず――もっとも、ウソップだけは震えを隠せなかったが――遠くに見える灯台の明かりを見詰めていた。

「と、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は、アスカ・シン。今日から、世話になる。よろしく」

シンの挨拶に、皆はめいめいに、自己紹介する。

「で、アンタ何が出来る……って言うか、さっき十分見せてもらったわね。アレって何なの? 波を蹴るとは言うけど、ホントに蹴って跳ぶなんて非常識にも程があるわよ?」
「ああ、アレは……」
「シンはな、軽業師なんだ!」
「軽業で済むのか、アレは」
「ま、良いじゃねえか。腕っこきなら大歓迎だ」
「違いねえ」

実に楽しそうに言うルフィに、ウソップが冷や汗を垂らしながら言い、サンジとゾロが笑いながら混ぜっ返す。
そんな様子を見ながら、シンは、また胸元の袋を握り締めていた。

――デスティニー。相棒。これが、俺の新しい仲間だ。一緒に行こう、お前も。この先、何があるか解らないけど、こいつ等と一緒に。お前も一緒に。

「さあて、そんじゃあ新入りの歓迎も兼ねて、偉大なる海に船を浮かべる進水式と行くか」

サンジが、酒樽を持ち出し、皆の中央に置いた。そこに、まずサンジが足を乗せた。

「俺はオールブルーを見つけるために」
「俺は海賊王!!!」
「俺ァ大剣豪に」
「私は世界地図を描くために!!」
「お……お……俺は勇敢なる海の戦士になるためだ!!」

やがて、ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップもそれに倣う。自然、皆の視線はシンに向いた。それらを受け、シンはゆっくりとその片足を樽へと乗せた。

「俺は……守りたいと思ったもの、守りきれる男になるために」

皆の足が同時に上がり、そして――

「いくぞ!!! “偉大なる航路”!!!!」
そして、航海が始まった。

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