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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第15話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:16:29

唐突ではあるが、シンはこちらの世界に来て早一年近く、その間、もう滅多な事で驚く事などあるまいと思い
込んでいた。
 リヴァースマウンテンの出鱈目な景観、凪の帯に棲む海王類の巨体、悪魔の実の能力者達が振るう様々な能力
等々、前の世界の常識からすればほとんど夢か幻としか思えない事象の数々にも、いい加減慣れてきたと。
 だが、それがとんでもない甘い考えだと、痛烈に思い知らされた。

「巨人がいるとは聞いてたけど……MSよりでかいとはなあ」

 大きな汗を垂らすシンの目の前では、傷だらけで血にまみれた巨人二人が座って抱きあい、互いの無事を泣き
笑いで喜び合っていた。
 周囲には、ルフィ達麦わら一味が――サンジは不在だったが――集まっていた。
 つい先ほどまで、彼らはバロックワークスの追手であるMr.3ペア、Mr.5ペアと戦っていたのだ。
 蝋を体から分泌して操るドルドルの実の能力者であるMr.3、絵の具を用いた心理操作「カラーズトラッ
プ」を使いこなすミスゴールデンウィークなどの能力に苦しめられたものの、カルーやシンと連携したウソップ
の働きや、有無を言わせぬルフィの暴れっぷりによって追手達は撃退された。
 一応シンも、最後にドルドルの実の能力で自分の蝋人形を大量に作ってかく乱しようとしたMr.3をミラー
ジュコロイドバージョン2によって「全部ほぼ同時にぶっ飛ばす」と言う活躍を見せはしたのだが。

 シンとしてはその辺の事よりも、ウソップが見せた度胸と矜持に、改めて感心した。付き合いはまだ浅いが、
なるほど、彼もまたこの一味の一員であるだけの事はあるのだな、と。

 リトルガーデンについて早々、ビビとルフィ、カルーが冒険に出かけ、サンジとゾロは狩り勝負、ナミとウソッ
プが留守番となった。シンも島の探索に出ようかと考えたのだが、無言で泣きながらすがってくるナミとウソッ
プに、仕方なく彼らに付き合う事とした。

 そして、出会ったのだ。身も覚悟も、器までも、あまりに巨大すぎる彼らに。

 もはや原因すら定かでなくなった決闘を、それでも百年にもわたって続けてきた彼らは、普通に考えるならば、
馬鹿としか言いようがないだろう。しかし、今のシンには、彼ら巨人と呼ばれる真の所以が、そこにあるように
思われてならなかった。

 つまりは――意地、矜持、そう呼ばれるもののぶつかり合いと言う事なのか。

 互い死線ぎりぎりの攻防を交わし続けて来た彼らが、互いの無事を喜び合う姿を見ながら、シンは、胸中そう
一人ごちた。憎みあったわけではなく、むしろ互いを信頼しきっている彼らだからこその、百年だったのだろう
と。
 ウソップが彼らに強く憧れるのも、解る気がした。

 シン個人に限って言うならば、やはり彼らから学ぶものは大きかった。守ると言う事への覚悟をより確かなも
のへと変え――だからなのだろうか、ミスバレンタインがウソップを押しつぶさんとした所に割り込んだシンは、
初めて鉄塊を成功させる事が出来たのだ。
 ちなみに、ミスバレンタインは鉄塊によって硬化したシンの全身――直接ぶつかったの腕だが――にもろに足
をぶつけ、その痛みにもがき苦しんだ所をナミとビビによって撃退された。
 当然、いかに鉄塊で強化したとは言え、1万キロもの重量を支えたシンの全身も割りとえらい事になったのだ
が、ビフとの修行期間でたいがいの怪我はこなして来たシンにとり、決して耐え切れないものでもなかった。
 一度だけビフに食らわされた必殺技の方が遥かに強烈だったなあ、などと思ったほどだ。

 何て言ってたっけ。あのゼロ距離からモーション無しでぶち込む掌打。手加減したとか言ってたけど、あの時
はアバラは折れるわ心臓止まりかけるわでエライ目にあったよなあ。3日は寝込んだっけ。

 六式奥義、六王銃――元来は拳で打ち込む技だそうだが、ビフなりにいじったそれは、両の掌底で衝撃波を相
手の体内に浸透させる、文字通りの必殺技だ。片腕を失った上に、あくまでも見本としての技であったので、威
力は格段に落ちていたのだが、それでも死なない方が不思議と言うほどの技だ。
 そんなものを食らっておきながら、3日寝込んだだけで回復したと言う辺り、シンももはや充分に大海賊時代
の住人と言えるだろう。少なくとも、肉さえ食えばどんな傷も治ると豪語するルフィを異常と言う事は出来ない
だろう。

 ともあれ――バロックワークスの追手を退けた一行は次の島を目指す事となった。本来、リトルガーデンで次
の島へのログが溜まるには一年と言う長い期間がかかるのだが、別行動を取っていたサンジが、どういう訳だか
アラバスタへのエターナルポースを手に入れていたのだ。

「じゃあ巨人のおっさんに丸いおっさん、俺達行くよ!!」
「そうか……まあ……急ぎの様子だ」
「残念だが、止めやしねえ……国が、無事だと良いな」
「ええ、ありがとう」

 別れを告げるルフィに、ドリーとブロギーは答え、ビビもまた、彼等の言葉に礼を持って応じた。

「と――そうだ、赤い服のお前」
「え、俺?」

 メリー号へ戻ろうと踵を返しかけたその時、ドリーがシンを呼び止めた。

「ああ。お前、出身はどこの海だ?」
「俺は――ええと、イーストブルー、だな」

 本当の事を言えば、どこの海でもない、全くの異世界なのだが、正直説明は難しい。だから、こうした質問に対
してシンは、いつもビフの島のあるイーストブルーを出身地と言う事にしていた。ナタル達のような、同じ世界か
らの来訪者相手ならばまた別なのだが。が――

「イーストブルーか……じゃあ、違うのか」
「どういう事だ?」
「どうしたドリー」

 ブロギーも怪訝に思ったか、宿敵にして親友たる巨人の考え込むような顔を覗きこんだ。

「いやな……ブロギー、お前は覚えてやせんか。ワシらがまだ駆け出しだった頃に会っただろう。ほれ、あの『赤
いピアノ弾き』だ」
「おお、アイツか!! いや、覚えてるぞ。グランドラインを放浪するピアノ弾きの赤い服を着た海賊」
「そう、それよ。たった一人でピアノを載せた船で旅を続けていたと言う、アイツよ」
「赤いピアノ弾き……?」

 何か、その言葉は、やけにざわりと、シンの心を触った。

 そのピアノ弾きは、遠い、はるかに遠い所から、グランドラインへ来たのだと言う。一台のピアノを相棒とし
て、グランドライン上をあても無く流離いつづけたのだとも言う。
 ある時は海賊船に乗り込んで腕を披露し、ある時は島の酒場で腕を披露し喝采を浴びた。故郷を想う歌、家族
を懐かしむ歌で人々の涙を誘い、未熟な兵士が戦場に向かう歌で人々の勇気を鼓舞した。
 多くの人々が、彼に留まってくれるように願ったが、しかし、そうした時彼は何時も「いつかきっと、故郷に
帰りたいと思ってるんです」と答え、彼らの申し出を固辞したのだと言う。
 しかし、彼の願いは叶わず、グランドラインの上から、ある日忽然と姿を消したのだと言う。

「せめて、あの星空に一番近い場所へ行きたい」

 年老いた彼が残したのは、そんな言葉だったそうだ。そして、その後の行方は杳として知れないとも。

「ワシらも一度だけ会った事がある。その頃で、もうかなりの年だったがな。それで、お前さんのその赤い服を
見て、ふと思い出したのよ」
「それって……どれぐらい昔の話なんだ?」
「そうさな、ワシ等が海賊として駆け出しだった頃だから……おいブロギー、ありゃあ何年前だ?」
「ふむ、少なくとも150年は……前じゃないか?」

 150年前。そんな数字はシンには何ともピンとは来ない。しかし。

 あの星空に一番近い場所へ――その言葉が、やけに引っかかった。もし、そのピアノ弾きが帰りたがったと言
う故郷が、星空の向こうであるとしたら?

 確証は何もない。だが、もしそうであるとしたならば、一つの可能性が浮かび上がってくる。
 100年以上も前には、ザフトもプラントも存在していないのだ。もし、そのピアノ弾きが自分やナタル達と
同じように、あちらからこちらへと来たのであるならば。

「向こうとこっちとで、時間の繋がりはない……?」

 考え込むような顔をしたシンの前に、ドリーの指先がでん、と置かれた。

「もしかして、お前もそのピアノ弾きの故郷から来たのかと思ったんだが、関係のない話だったのかも知れんな
……すまん」
「あ、いや――多分、全く無関係って事もない、と思う」
「そうか……ならば、いつか、彼の墓を見つけてやってはくれんか」
「墓を?」
「ああ。故郷を思うアイツの歌は、ワシらも好きだった。だが、あのピアノ弾きは、結局故郷に帰れず、姿を消
してしまった。ワシらもここでこうして決闘を続けておるが、いずれは故郷エルバフに帰りたいと思ってはおる」
「そうよな……ワシらにもあの気持ちは良く解る……あの歌を歌ったアイツが、結局故郷に帰れず終わったのは、
不憫と言うものだ」
「遺骨だけでも連れて帰れ――とは言わん。お前も海賊なら、いずれこの海で果てる事とて考えてはいるだろう
からな。だが」
「うむ。せめて、故郷を知るお前が、アイツの墓を見舞ってやってはくれまいか。まあ、その墓の場所も定かじゃ
ないがな」
「……解ったよ」

 一人でに、シンの右手は胸の皮袋を握り締めていた。

「おーいシン! 早く来いよー!!! もう船出すぞーっ!!!」
「あ、今行く!! じゃあ、俺行くから!」
「おう。無事な航海をな!」
「達者でなあ!」

 ドリー、ブロギーと別れ、メリー号の場所にまで戻ると、ルフィの言葉通り、すでに船は動き始めていた。

「勘弁しろよコラ!! 『フォース』!」

 川岸から高速ダッシュで川面を滑り、船尾から飛び込んだシンを、ルフィとビビの拍手が出迎えた。

「おー、さっすがシンだな!」
「凄いわね、軽業師君。水面を走るなんて」
「その前に言う事ねえのか、お前ら……」

 やがて、河口に至ったメリー号は、ドリーとブロギーの奥義「覇国」によって送り出され、アラバスタを目指
して航海を再開した。

 その行く果てに待つものは、果たして――

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