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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第17話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:19:21

まだ、何も知らなかった子供の頃、自分がオーブの住人である事を、シンは幼いながらも誇りに思っていた。
 ウズミ・ナラ・アスハの掲げるオーブの理念は、その頃、確かにオーブを豊かで平和な国としていたからだ。
 だが、その誇りが裏切られた後、プラントに渡りアカデミーの座学で歴史を学ぶ内、シンはつくづくと、アスハ
の掲げる理想や理念が如何に的外れであったかを思い知った。

 かつてあった永世中立国達がそれを選択したのは、純粋に必要に迫られていたからだ。陸路の要衝であり、常に
他国の軍の通り道とされかねない国家達は、そうする事で自分達の安全を確保しようとしたのだ。
 誰にも味方せず、誰にも敵さず、ただひたすらに自力のみで国家と国民の安全を保障せねばならないそれは、正
に茨の道と言って過言ではない。
 だが、アスハ家の――ひいてはウズミの掲げたそれは、むしろ先に理念があり、その後に中立と言う立場があっ
たように、シンには思えてならなかった。
 その挙句が、あの結果だ。カガリ・ユラ・アスハは、むしろそれに惑わされた一人だと、今のシンならば言える
だろう。だが。
 己の理念を優先し、国家と国民を巻き込んでそれらを戦火にさらし、挙句娘一人を逃がして己は生きて為政者の
務めも果たさず死んでいったウズミは、今なおシンにとって、生々しい怒りの対象だった。

 それすらもまた自分の認識違い、間違いではないと言う保障はどこにも無い。そう自制する声もシンの中にはあっ
たのだが、まだ、シンはそれに耳を貸せる程に大人ではなかった。

 ドルトンによって語られたワポルの振る舞いに、シンが激しく、しかし静かに反応したのは、無理からぬ話だっ
た。

「お、おい、シン、お前、何をそんなに物騒な顔してんだよ」
「え? ああ、悪い。ちょっと、昔を思い出してな」
「……そっか」
「軽業師君……」

 今、シンとウソップ、そしてビビの三人は、元いた街から隣街――とは言っても数キロ離れているのだが――か
ら、更にその先の街へソリで向かっている最中だった。
 ルフィ達を見送った後、ドルトンからこのドラム王国を襲った災難と、その時国も国民も見捨てて逃げ出したワ
ポルについて聞かされた直後、隣街にただ一人の医者だと言うドクターくれはが降りてきたと言う知らせを受けた
のだ。
 すれ違いの可能性もあるが、しかし、成る丈早くルフィ達の事を知らせた方が良かろうと、シン達はドルトンと
共に隣街へ向かう事にした。
 だが、その街でもまた、すでにドクターは次の街へ向かったと言う情報が残されているのみだったのだ。
 更に、早速ドクターを追おうとした彼等の許に、より衝撃的な情報がもたらされた。

「ワポルのやつが、帰ってきやがった!!!」と。

 報せを受けたドルトンは、ほとんど条件反射のような勢いで飛び出して行った。
 それは、無理もない話だろうと、シンにも思えた。痛々しいまでに。実際、ナミ達の事がなかったなら、シンも
ドルトンの後を追っていたかもしれない。
 ドルトンからワポルの行状を聞かされて以来、シンにとって、ワポルは断じて許しがたい存在になっていたのだ。

 自分でも、少し暴走気味だと思わぬでもない。だが、やはりそれを押し止められるほど、シンは大人ではなかっ
た。
 ギリギリ行動に出ずにいられたのは、ナミの為に土下座までしてみせたビビとルフィの姿が、脳裏に焼きついて
いたからだ。
 仲間を助ける為、それがまず第一にあるのだ。それこそは、自分をこの世界に導いてくれた「彼」の心に通じる
事な筈だと、シンは、首から下げた「彼」の破片を入れた皮袋を握り締める事で、どうにか自制を取り戻したのだ。
 しかし、それでも心の内で感情は静かに燃え続け、それが険しい表情として表にあらわれていたのだ。
 ビビとウソップが共に恐る恐るといった様子で、手綱を握るシンの顔をうかがうのも、無理はなかった。

「あの、軽業師君?」
「ん、何だビビ」
「その――あなたの故郷って」
「お、おいビビ!」
「良いんだ、ウソップ。まあ、気にはなるだろうしさ」
「ごめんなさい……アタシ、つい」
「だから、良いって。ビビには、あんな質問もしちゃったしな。けど――悪い、今は、まだちょっと、話せない」
「うん――こっちこそ、ごめんなさい」

 そりの手綱を握ったまま、少し表情を和らげるシンだったが、しかし、そこには寂しげな様子があるように、ビビ
とウソップには、思えてならなかった。
 ぎこちなくなった空気を払うように、ウソップが咳払いした。

「ま、まあともかくだ。今はまずギャスタとか言う町に急がないとな!」
「そうだな――って、この方角で良いんだよな、ビビ」
「えっと、少し自信は無いんだけど」
「そりゃ困るだろうがよ。しっかり地図見てくれよ、王女なんだから」
「関係ないでしょう? ウソップさんこそ、途中看板がある筈だから見落とさないでね?」

 ビビとウソップの会話に思わず肩を落とし、がっくりとうなだれるシンだった。

「お前らなあ……仕方ない」

 苦笑ではあったが、シンは顔を綻ばせて手綱を引き、そりを止めた。

「おい、どうすんだ? こんな所で止まって」
「上の方から地形を確認してみる。ビビ、地図貸してくれ」
「上の方……?」

 怪訝そうな表情で言うビビから地図を受け取ると、シンは一旦そりを降りて、剃と月歩で上空へと上ると、手近な
木の頂上に掴まり周囲を眺め回した。ビビとウソップの目には、シンがまるで瞬間移動のようにしか見えなかった。

「相変わらず軽業ってよりは忍者っつった方が良いよなあ」
「と言うか、ホントに何者なのかしら……」

 などと二人が話していると、シンが地図を片手に降りてきた。

「どっかで道間違えたみたいだぞ。このままだと山の方に向かう事になる」
「山ぁ?! そりゃまずいだろ。ビビ、だから地図をしっかり見とけって俺が」
「ウソップさんこそ看板を見逃さないようにって」
「今はそんな場合じゃないだろうが。このままじゃ医者に会うどころか、俺たちが遭難しちまう。ともかく一度引き
返そう」
「お、おう、悪ぃ」
「ごめんなさい」

 そりを回して元来た道を戻ろうとしたその時。

「……?」
「どうしたビビ?」
「ねえ……何か、聞こえない?」
「何かって……え?」

 辺りを見回し不安げに言うビビに、ウソップが耳を澄ましてみると、確かに、何か唸るような、重低音が感じ取れた。
 いや、それはむしろ――

「!」

 何事かに気付いたシンが再度剃によって宙に登って辺りを見回すと――遠い山頂から、怒濤の如く押し寄せる雪がその
視界に映った。

「ヤバイ!! 雪崩が来るぞ!!!」

 熱でぼんやりとした意識が、徐々にはっきりとして行く中、ナミは、誰かが自分を見下ろしているのを感じとっ
ていた。
 しかし、それは同じ見下ろす視線であっても、決してアーロン達魚人のような、侮蔑の視線ではなく、むしろ。

「……ベルメール……さん?」

 幼い日、彼女とノジコに母だと名乗ってくれた女性に似た匂いを持った視線だった。だから、ついその名を呼ん
でしまったのだが、やがてぼやけていた視界がはっきりとするにつれ、それが間違いだと言う事に気付いた。
 そこにいたのは、あの頃のベルメールよりは年かさだろう、しかし、それでも十分な美しさを備えた女性だった。

「目が覚めたかしら?」
「ここは……?」
「病院よ。あなたは、麦わら帽子を被った若い人に背負われてたわ」
「麦わら……ルフィが」
「ルフィって言うのね、あの子。あなたともう一人を抱えて、この山を上ってくるなんて大したものだわ」
「もう一人?」
「ええ、なんだか不思議な眉毛をした金髪の人が一緒だったわ」
「サンジ君も……」
「素敵な仲間を持ったわね、貴女」
「ええ……!」

 ナミがその女性に微笑んだ時、部屋の戸口から、やや舌足らずな声がかけられた。

「タリア、薬の換え持ってきたぞ」
「あら、ご苦労様、チョッパー」

 その声にナミが戸口の方を向くと――明らかに人間ではない何かが、薬を載せたお盆を手に、立っていた。

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