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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第19話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:21:32

 いまだワポルの暴政がドラム王国の人々を苦しめていた頃――ドクター・ヒルルクが、チョッパーと暮らし
始めてしばらくたった頃の事だ。
 ドラム王国に、一艘の小さな船が流れ着いた。乗っていたのは、男女二人の大人と、少年一人。
 男女は夫婦で、少年は自分達の息子だと、彼らは名乗った。
 流れ着いたその時すでに、少年は病に苦しんでいた。医療大国と呼ばれたドラムではあったが、その頃すで
にワポルによる医師の独占が行われていた。

 男は悪魔の実の能力者だった。だが、かつて「大きな力に振り回され、多くの人々を無為に死なせた」と過
去の過ちを悔いていた彼は、その力を濫用する事を拒否していた。故に男は、その力でワポルに歯向かう事よ
りも、ワポルの手を逃れ続けていたドクターくれはに息子の治療を依頼する事を選んだ。

 だが――力を持った存在が自分の手の内にない事を、ワポルは良しとするつもりはなかった。
 チェスらの進言により、まず男を王宮へと呼び出したワポルは、イッシー20による治療を餌にして得た密
告から男の妻子が潜伏していた場所をかぎつけ、そこに配下の兵を送り込んだのだ。
 彼ら一家の事を知ったくれはとヒルルクにより妻だけは捕獲を免れたが、病床にあった息子はワポルの城へ
と連れ去られてしまった。
 結果、男は息子への治療を盾に、ワポルの暴政を支える手ごまの一つとして働く事となった。

 男の名は、デュランダル・ギルバート。妻はタリア、息子はレイといった。

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「レイ! レイ!」
「……シン? お前は……シンか?」
「そうだよ、俺だ! シンだよ!」

 実際の所、ミネルバクルー達とこの世界で出会う可能性は、シンも考えた事が無いわけではなかった。だ
が、それがよもや、レイであろうとは。
 シンにとって、レイは出会う相手としてあまりにも生々しすぎた。
 すでにこの世界に来て一年近くが過ぎているが、それでもなお、レイと言う存在はあの世界の記憶を、あ
の頃の感情と共に呼び覚ましかねないものだったのだ。だが。

「お前――なんでこんな……」

 レイの姿は、そうした戸惑いや感情を吹き飛ばすだけのものだった。
 頬はそげ、目は落ち窪み、肌は張りを失い、髪もばさばさとつやを失い、そこには、かつてアカデミーの女
子候補生達を魅了した美貌は、見る影も無かった。

「君、どいて! 彼は重病人なんだ!」
「重病って……」
「本当なら、彼は入院でもさせて時間を掛けて治療をせねばならんのだ。だが……我々がワポルの力に屈した
ばかりに……っ!」
「これまでにも、時折診察はさせてもらえたのだがな……圧倒的に時間が足りなかった」
「どういう……事だよ」

 イッシー20の、血を吐かんばかりの言葉に、シンは呆然となるばかりだった。シンの混乱を鎮めたのは、
予測もしていなかった人物の言葉だった。

「レイ君……よ、良かった……君は、まだ生きていたのだな」
「動くなドルトン君! 君とてまだ!」
「ドルトンさん?!」
「シン君……だったな……君は、レイ君を知っているのか?」
「え、ええ……その、友達、です」
「そうか――レイ君はな、人質にされていたんだよ、彼のお父さんをワポルが従える為のね」
「レイの、お父さん――って、まさか?!!」

 シンの脳裏に、ワポル一味がメリー号に乗り込んで来た時の記憶が蘇った。あの時聞いた、どこかで聞き覚え
のある声。あの声の主は。

「デュランダル議長か?!!」

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 ドルトンによって語られたその内容は、事情を詳しくは知らないウソップやビビ、果てはゾロにすら何か重く
暗いものを感じさせるものだった。
 相手が下衆であると解りながら、外道と知りながら、息子を助ける為に膝を屈せねばならなかったそのデュラ
ンダル・ギルバートと言う男が味わった屈辱は、どれほどであったのだろうかと。

「ワポルがギルバートさんに着目したのは、あくまでも悪魔の実の能力者と言う点だった。能力者を従える事が
出来ると言う事は、この上ない武力を得ると言う事だからね。だが、あの人の才能はそれに留まらなかった……
シン君。君は、さっき議長と言ったね」
「ええ」
「君は、ギルバートさんの事も知ってるんだね?」
「……知ってます。あの人は、俺が住んでいた国の――元首でした」
「やはりな……」
「元首? って事は元王様だってのか?」

 ドルトンとシンの会話に割り込むように問うウソップに、シンは首を振って応えた。

「王様ってのとは、違うな。何て言うのかな……俺のいた国は、何人かの議員が話し合いで政治を決めてたんだ。
あの人は、その議会の議長だったんだよ」
「共和制だったのね……でも、その議長だった人がどうして……」
「……戦争でね。色々――色々あったんだ」
「!!……ごめんなさい」

 思わず口を押さえて言うビビに、シンは、力の抜けた、何処か暗さを湛えた笑み首を振り、構わないと言った。

「元々、私はただの衛兵隊長でしかなかった。政治に関する詳しい事など、ほとんど解らなかった。そんな私が感
じていた疑問に、ギルバートさんは何時も真摯に答えてくれたものだ……政治とは、一体何なのか。政府とは、一
体何をするべきものなのか……政治に携わる者が何を目指すべきなのか」
「何を目指すべき……って、そりゃあ国を幸せにする事だろう?」

 首をひねるウソップにドルトンは肯いた。

「そうだ。だが、その為には何が必要なのか、何をするべきなのか……そういう事を、ギルバートさんは教えてくれ
たんだ。自分は――為政者として道を誤り国を追われたが、私にはその轍を踏まずにいて欲しいと言ってね。だが…
…このザマだ……!!!」
「落ち着けドルトン君!! まだ傷口が!」

 身を起こし、地面に拳を打ちつけるドルトンの発する声は、血と、涙に彩られていた。

「ギルバートさんだけではない!! ドクターヒルルクの遺志ですら、私は生かせていないではない!! 私がもっ
と早く決断していたら!! 私が、レイ君をワポルの元から引き離せていれば!! もっと、もっと早くに、ワポル
を討っていたら!!!」

 シンは、慟哭するドルトンから、イッシー20に診察されているレイに視線を移した。ベッドに横たわり、あばら
の浮いた胸を開いて聴診器を当てられながら、レイもまた、シンを見詰め返していた。
 シンは、そのレイの目から――もはやまともに動かす事すら億劫になってしまった口の代わりに発される言葉を、
しっかりと受け取った。

 ギルを――助けてくれと言う言葉を。

 シンはレイに肯いて見せると、城がそびえる山頂の方を仰ぎ見た。

「ヤツは、城に行ったんだな」

 独り言のように呟き、歩を進めるシンを、ウソップが慌てたように呼び止めた。

「ま、待てよ?! 城って言ったってお前、どうやって行くんだよ! 雪崩れで山道だって塞がれちまってるだろう?!」
「何かある筈なんだ。考えてもみろ、ドクターくれはとか言う医者は、どうやってあの城から素早く降りて来れるんだ。
街と街の間をあんなに素早く動きまわってるのはどうしてだ。だから、何かある筈なんだ」
「そんな事言ったってよう……」
「おーい! ちょっとこっち来てくれー!」

 シンとウソップの会話に割り込むように、街の住民の一人が、広場の外れで声を挙げて手招きしていた。

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 果たして――彼が指し示したものは、大木のうろを利用した家に繋がれた、一本の太い、白く塗られたロープだった。

「ここは……以前ドクターくれはが住んでいた家じゃないか? 誰がこんなものを……そうか?!」

 幾人かの住人に支えられたドルトンがシンの方を振り向く。先ほどのシンの疑問に対する回答がこれであろう事に、気
付いたのだ。

「誰か、ゴンドラを持って来い!! これを使えば城まで行ける!!」
「解った!」

 人々がそういうのを無視するかのように、シンは身を翻し、ロープに飛び乗った。

「軽業師君?!」
「お、おいどうすんだよ。今ゴンドラを用意するって言ってるぜ?!」
「……成る程、お前なら、訳はねえな」

 それまで沈黙を守っていたゾロが、何事かを了解したかのように呟き、苦笑してみせた。

「ゾロ、ウソップ、ビビ……俺は先に行ってる」
「いや、だから先ってお前」
「そうよ!」
「お前等……コイツの肩書きがなんだか忘れたのか?」

 ゾロの言葉に、シンは歯をむき出した獰猛な笑みを浮かべた。

「悪ぃ、後は頼む」

 言い残し、ドルトン達の更に後ろ、ベッドに横たわりこちらを見詰めるレイに向かって、右の拳を突き出し、親指を立てる。
 レイの右手が、ゆっくりと、しかし確かに、自分の右手と同じサインをして見せたその瞬間――

 ど 「フ ォ ー ス!!!」 ん

 シンは爆発的な加速でロープの上を滑り、駆け上って行った。

 ルフィ達が、ワポルが――デュランダル・ギルバートが待つであろう、城へと向けて。

To be continued...

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