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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第32話

Last-modified: 2012-08-07 (火) 18:03:58

「おいおい海軍さん、俺たちゃアラバスタの市民軍だぜ? バロックワークスなんて聞い
たこともねえよ」

 スモーカー大佐の別名を受け、独自に動いていたナタルたちドミニオン隊とは別にアル
バーナに入城したたしぎ曹長だったが、明確な証拠なしに相手を捕縛する決断の苦しさに
惑っていた。
 明らかに混乱を広げようと動いている者を見出しては問い詰めるものの、彼らは一様に
バロックワークスなど知らぬ存ぜぬとばかりに言葉をもてあそぶばかりであり、また、た
しぎの側にも彼らを明確に敵とするべきものがないのでは、うかつに動けない。
 動かねばならないと、解っているのに。

「海軍は基本的に国の内政には口を出さないもんだろ? 俺たちゃこの国を変えるために
戦ってるんだからな!」

 もし国民が心からそれを願いこの反乱を起こしているのなら、海軍は確かにそれに介入
する権利を――表向きでこそあっても――持たないし、持てない。

 どうする。どうするべきなのだ。この反乱が仕組まれた茶番だと言うのは解っているの
に、わたしは、一体どうしたらいいの。

 嘲笑うような男の表情に、唇を噛み、拳を握り締めながら、己の無力さを痛感するたし
ぎの目じりに、悔しさの涙が浮かぼうとしたその時だった。

「変える、か。それは、クロコダイルが支配する国に変える、と言う意味だな?」

 そういう声が、男の背後から掛けられたのは。

「へ?」
「ああ、返答はいらん。どの道私は確信しているのだからな」
「ナ……ナタル少佐?!」
「な、何のこったよ? 俺たちゃ」
「市民軍だと、そう言いたいのだろう? ならば何故貴様は他の市民と同じように、同胞
を助け、あるいは国王軍へと殺到しない? 何故先ほどから後ろで市民軍を煽るようにし
か行動していない。いたずらに王国軍に攻撃し、反応があればすぐに他の市民の背後へ隠
れるような真似を、何故貴様らは繰り返してばかりいる? ああ、答える必要はない」

 うろたえる男を尻目にまくしたてたナタルは、小さな盾を生じさせた右拳で男を殴り飛
ばし背後の部下に周辺の不審人物捕縛を命じた。

「少佐……」
「曹長。君はここに何をしに来た?」
「何を、って。それは」
「解っているのなら、そうしたまえ。義務を果たせ。君が正しいと信ずるところを為せ」
「義務、を」
「そう。義務だ。あの旗に、秩序と正義の守り手たらんとすることを誓った者が等しく負
う義務だ。いや、それ以前に――不仁や不義に憤れる者ならば、誰しもが負う義務だ。そ
れを果たせ」
 言うだけ言うと、ナタルはきびすを返して部下たちを引き連れて立ち去った。
 残されたたしぎは、ナタルの言葉を脳裏に繰り返しながら、眼鏡をはずし、袖で目元を
ぬぐい、目の前に広がる騒乱へと目を開いた。

――そうだ。私は一体何を迷っていたのか。こんなことでは、到底彼らに顔向けなどでき
ないではないか。

-----

「立てるか?」
 突如上空から現れた赤い服の少年が、自分に右手を差し出してそう言うのを、ミーアは
半ば信じられずにいた。
 その服よりもなお赤い視線は、ミスター6たちの方へと据えられたまま動かない。しか
し、ミーアには彼が今とても厳しい表情をしているだろうことがうかがえた。
「どうした。怪我してるのか?」
「い、いいえ」
 促されるようにして、差し出された手を取る。あちこちにたこが出来た、無骨とも言え
るだろう感触は、しかし、今のミーアにとって、どんなぬくもりを持った手よりも、頼も
しく思えた。
 そして同時に、これが、決して自分が作り出した都合の良い妄想などではないのだと、
理解した。
「てめぇ……あの海賊団のヤツか?! レインベースで捕まってたはずが、どうして?!」
「んなもん決まってるだろ。抜け出したんだよ。もちろん、俺だけじゃなく、全員な」
「なっ……!」
 ミスター6同様、ミーアもシンの言葉に驚きを隠せなかった。
 まさか、あの狡猾なクロコダイルの罠を噛み破って来るものがいるなどと、それも、あ
の場にいた全員が。
「ちっ……まあ良い。抜け出してきたんだろうがなんだろうが関係ねえ。この場でしとめ
りゃ同じことよ!」
 号令一下、ミスター6の背後にいたビリオンズたちがめいめいに得物を手にする。
 だが、二十に近い銃口が向けられてもなお、シンは微塵のひるみもうかがわせはしなか
った。

「やれ!!」
 銃口が火を噴き、鉛玉がシンめがけて殺到する。先ごめ式パーカッション銃の球形弾で
は舟形弾ほどの速度こそないが、むしろ口径が大きく弾自体も重いため、近距離では舟形
弾以上の脅威となりかねない。
 そうしたことこそ知らぬミーアでも、とどろく銃声に絶望と共に身をすくませるより他
はない。だが。
「鉄 塊 ! !」
 赤服の少年は、ミーアの前へと歩み出て両手を広げ、叫びと共に弾丸全てを受け止めて
見せた。
「あ……あ?」
 ミスター6の間抜けな声にも、ミーアはいっそ共感を覚えていた。
「な、なんなんだてめえは?! 鉄砲玉くらってどうして!!」
「エ ク ス カ リ バ ー !!」
 そして、シンはそうしたミスター6の叫びも意に介さず、背後のビリオンズとひとまと
めにして吹き飛ばさんと、長剣から斬撃を飛ばしてみせた。
「ちぃっ!!」
「へ? あ――ぐぁっ!!!」
 ミスター6は、とっさに手近のビリオンズの一人を盾にして、斬撃をしのいだ。が、盾
にされた者も含め、刃の一振りでミスター6を除く全員が戦闘不能となっていた。
「えげつない真似するな、アンタ」
「てめえに言われたくねえな……なんだ、てめえ何かの能力者か?」
「鍛え方が違うだけさ。このまま引くなら、俺は追わないぞ」
 切っ先を向けたまま言うシンの言葉に、ミスター6の目の色が変わった。
「てめえ……俺をなめてんのか?」
「そんな汚いつら誰がなめたがるか。俺は急いでるんだ。さっさと決めろ」
「……ん……の……ガキがぁぁぁあああっ!!!」
 盾にしていたビリオンズを、片腕だけで振り回しシンの方へと投げつけた。膂力だけは、
少なくとも一人前ではあるらしいと、シンは思った。
「気にいらねえなあ……気にいらねえ気にいらねえ気にいらねえ!! 俺ぁなあ! 下に
見られんのが何より気にいらねえんだよ!! どいつもこいつも俺の事はそのアマの付け
足しみてえにあつかいやがって!! その上なんだぁ?!『逃げるなら見逃す』だぁぁあ
あ?! 調子こくのもたいがいにしやがれこのクソガキがぁぁああああっっ!!!」
 叫び、トロンボーンに口をつける。
 何かをさせる間も与えまいと、とっさにシンは剃でミスター6めがけて突進を――しよ
うとしたのだが、しかし。
「ぐっ……!!!」
 まるで全身の血が沸騰したかのような熱と衝撃が、シンを襲った。踏み出そうとした一
歩は制御できず、シンはそのまま前のめりに倒れこんだ。
 一体何が起こったのか、理解できぬシンの耳に、ミスター6の狂笑が響いた。
「たーっははははははははははははは!! どうよ! どうよ!! ああ?! なめてた
相手に一発くらって地べた舐める感想はよぉ?!!」
「今のは……?」
「コレだよ、コレ。俺様の『音』さ」
「音、だと?」
 嘲笑を浮かべたミスター6が誇らしげにかざすトロンボーンに、シンは疑問の視線を向
け――咄嗟に、思い至った。
「そうか……高周波振動か……!!」
「こまけえ理屈なんざどうでも良い。俺はな、こいつを相棒にしてこの海まで来たんだ。
これが俺の切り札。俺の力だ!! 手前ぇがどんだけ早かろうが、空飛ぼうがなんだろう
が、音にはかなうめえ」
「くそっ……この程度……っ!!」
 歯を食いしばり、立ち上がろうとするも――
「あめぇってんだよ!!」
 ミスター6の「演奏」が全身を責めさいなむ。頭蓋骨の中までが煮えたぎるかのような
耐え難い熱さと震えに、のたうつ以外の何も出来ない。
「俺ぁなあ、こいつでいつかあのクロコダイルだって下してやるんだ。あいつがスナスナ
の能力者だってのは、俺も知ってる。しかぁーし! この俺の『演奏』の前には、どんな
能力者だろうが関係ねえ!! どいつもこいつも、俺を見下すヤツらは全員手前ぇみてえ
にはいつくばらせてやる!!!」
「この……っ クソ野郎……っっっ!!!」

-----

 希望は、また絶望へと、塗り替えられようとしている。
 降り立った赤服の少年は、ミスター6の音の攻撃にのたうち、地に倒れている。
 終わりなのか。これでもう、全ては終わりなのか。あの世界で、苦痛と悲哀の狭間で倒
れた後から、ずっと自分は苦境にあり続けた。
 海賊たちの手先として使われ、望まぬ歌を歌わされ、挙句人々を無為の死へと追いやる
陰謀の片棒をかつがされて。
 また、あきらめるしかないのか。いや、それが正しいのか。
 自分である事を否定し、自分以外の何かでありたいと願い、他人をうらやみ、その位置
に成り代わりたいと願い――そんな、浅ましいことを考えた自分だから。
 だから、ここでこうして終わるのが正しいのか。

 でも、だとしたら――あそこでああしている彼は。彼は、どうなるのだ。

 脳裏で響く、そういう己の声に、ミーアは視線を上げた。そして、その視線がシンのそ
れとからみ合い――瞬時に、理解した。
 彼は、この期におよんでなお、自分にこう言っている。
 逃げろ。ここは俺がなんとかする。だから、あんたは逃げろ。

 言葉はない。ただ、赤い瞳の視線だけがそこにある。けれど、聞こえた。聞こえたよう
に思えてならなかった。
 自分が罵り、拒絶した彼は、それでもなお、逃れようのない音の攻撃にさらされて、地
にのたうちながらもなお彼は、自分を、自分のことを案じている。
 それに気づいた時、ミーアの脳裏で、何かがはじけた。

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「ちっ……しぶてぇガキだなあ……」
 勝ち誇り、嘲笑いつつも、ミスター6は次第にいらつき始めていた。
 何度音を食らわそうとも、目の前の赤服はいつまでたっても立ち上がろうとする。
 鼻、耳、爪の間などからは、すでに末端の血管が破れているのだろう、血がしたたって
いる。
 それは眼窩にもおよび、文字通りの血涙が、両の頬に赤い筋を作っている。
 にも、関わらず。
「くっ……まだ……まだだ……っっ!!」
 赤服は、それでも屈しきらず、立ち上がろうとする。いや、それどころか、実際に震え
る膝を殴りつけ、身をおこしてさえいる。
「あーあーあー、たいしたもんだよ。認めてやろう。これだけ俺の音を食らってまだ死な
ねえその生き汚さだけはなあ。が、それもこれで終わりだ」
 赤服がその背後にかばうミス・エイプリルフールにまで影響が及ぶことを考えて、これ
までは音にも多少の手加減をしていた。だが、ここまで抵抗されてはいい加減その我慢も
限界だった。
 だから、ミスター6は大きく息を吸い込み、トロンボーンのマウスピースに口をつける
と、かなう限りの最大出力で、音を叩きつけようとした。

――あばよ赤服。水の詰まった風船みてえに、弾け飛べ

 吸い込んだ大量の空気をそのまま、音へと変えて叩きつけた――はずだった。しかし。

「……あ?」
「…………?」

 鳴らなかった。確かに、吹いた。それでも、鳴らなかった。

「な、何だ? くそっ!!」

 もう一度、大きく息を吸い込んで吹き鳴らす。しかし。

「何だ?! いってえどうして?!!」

 相棒は、微塵の音も響かせない。確かに吹いた感覚はある。トロンボーンから確かに音
を飛ばしたその感触さえあった。だのに。
 ふと、赤服の背後に座り込んだ姿が――否、立ち上がった姿が目に入った。

「手前ぇ……まさ、か」

 うつむき加減の顔は、ピンク色の前髪が垂れ下がり、表情はうかがえない。だが、その
前髪の隙間から、確かに視線が、こちらを射抜いていた。

「ミーア、さん?」
 赤服も背後の気配に気づいたのか、振り返って驚いていた。
 この際、赤服はどうでも良かった。すでに死にかけの相手など、どうでも良い。だが、
これは。これだけは、何をおいても我慢がならない。
 いつもびくびくとおびえていた女が、自分を恐れ、唯々諾々と従っていた女が、自分に
あんな視線を向けるなど、断じて許せなかった。
「手前ぇかぁ!! 手前ぇが邪魔しやがったのか!! 俺に逆らおうってのか、ええ?!!」
 だから、いつものようにどやしつけてやる。脅し、睨み、怒鳴りつけて跪かせてやる。
「ミス・エイプリルフール!!!」

 しかし。

「その名前であたしを呼ぶな!!!!」

 帰ってきたのは、自分のそれを遥かに凌駕する怒声だった。怒声の主は、右手で星型の
髪飾りを掴み、毟り取るようにして投げ捨てた。

「このアマ……食らえぇぇぇえ!!」

 もう一度、音の塊を二人めがけて叩き付ける。だが――今度こそはっきりと、彼女はそ
の喉から、ミスター6の音を完全に打ち消す対極の音を、「歌」を発していた。

「やっぱりか……手前ぇ、俺と同じ真似を」
「そうよ。あなたがそのトロンボーンで、あたしの歌を打ち消してしまうのと同じ。私に
だって同じ事ができる。私の歌が、単に人の心を操るだけだと思ったら大間違いよ」
「調子乗ってんじゃねえぞ、ミス・エイプリルフール!!!」
「黙れっっ!!! その名前であたしを呼ぶなと言ったでしょう。あたしを誰だと思って
るの。ミス・エイプリルフール? 違う!! ラクス・クライン? 違う!!!!」

 最前まで、自分をかばってくれていた体をいたわるように、その前へと進み出ながら、
昂然と顔を上げて、彼女は宣言した。

「あたしはあたしよ!! ローレライ、ミーアよ!!!」

To be continued...

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