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第10話_「揺れる思い」

Last-modified: 2014-04-01 (火) 01:10:07
 
 
 

ザフト軍の《ヴェサリウス》と《ガモフ》は
ヘリオポリスからほど近い暗礁地帯に
ダミー隕石を展開して身を隠していた。

 

「まさかこのような事態になろうとは…。
いかがされます?
中立国のコロニーで戦闘行為をしたとなれば評議会も…」

 

《ヴェサリウス》のブリッジで渋い表情をしながらアデスは悩んでいた。
中立国のコロニーでの破壊工作。
そしてエゥーゴとの戦闘行為による接触。
全てが無承認による作戦行動…
考えれば考えるほど、
胃袋が針金のような物できつく締め付けられる感覚だった。

 

「ですが…蓋を開けて見れば、奴らはエゥーゴでした…
これについても評議会の承認無しでは…」

 

アデスは典型的な型にはめたような軍人気質の男だった。
元々は連邦軍部隊の副官を務めていた男だっただけに、
クルーゼの目に余る行動には少なからず疑問を抱いていた。
少しはこのように自分の意見を言う事はあるにしても
元連邦軍兵でも無いこの男の優秀な頭脳と実力。
何よりも底知れぬ力を肌で感じていたのも事実であり、
上官の命令は絶対だと言うのも分かっていた。
そんな自分の性格も合間って更に自分を悩ませていた。

 

「スパイの情報ではハルバートン艦隊の新型兵器だった筈だ。
それが間違いだったとは思えん。
ならば直前にエゥーゴへの参加が決まっていたと考えられる。」
「…しかし……」
クルーゼが腕を組んで色々と推測をしてみるが、
アデスにとっては結果が思わしくない事が問題だった。
そんな心配するアデスを黙らせる一言を言い放つ。
「住民のほとんどは避難シェルターに逃げ込んでいる。
さして問題はないさ。
『血のバレンタイン』の悲劇に比べれば。」
「…うっ…」

 

アデスの反応を見て、フッと笑うとクルーゼは次の指示を出す。
「合流したとサラミス級と移動している奴らを追う。
予測進路は分かっているか?」
「解析予測コースは…地球周回軌道上と思われます。」

 

オペレーターからの報告を聞いたクルーゼは組んだ腕をほどくと
顎に指を当てて考える。
「ふむ…何かやろうと言うのかな?エゥーゴ共は。」

 

「やはり、追われますか?」
考え込むクルーゼにアデスがそう聞くと
「当然だ…今度の戦いはまたとなたいチャンスになる。
必ず良い結果が出ると確信しているさ。
本国も我々を認めざるを得ないほどにな。」
と、答えクルーゼはニヤリと笑ってみせた。

 

 

「《ストライク》の調整はまだ出来ない?何故だ?」

 

《アーガマ》のブリッジにいるブレックスが
やや不満そうな表情でモニターに映る
ラミアスからの報告を聞いていた。
どうやら問題はキラ・ヤマトが書き換えてしまった。
という根本的な問題であって今の《ストライク》は
コーディネイターの彼にしか動かせないという
全くの別物の機体になってしまったらしい。

 

コーディネイターという存在が明らかになって
当時の連邦軍人のコーディネイターらが操縦していた
モビルスーツだけではなく
ボールやセイバーフィッシュなども同様だった。
そのような記録があったのをその場でブレックスは思い出していた。

 

モニター越しに映るラミアスは気まずそうな表情で
「現状、他のパイロットが操縦してバーニアを噴射しようものならば、
通常の倍以上のGが肉体にのしかかって
場合によっては死亡する可能性もあると…
そのように技術スタッフから報告がありました。」
と言うと、ブリッジにいたブライト達も驚いていた。
すると、ヘンケンがラミアスに一つの疑問を投げかける
「では先の戦闘で見せた《ストライク》の性能は
キラ・ヤマトにしか引き出せない…という事か?」

 

「はい。残念ながら…」
ラミアスがそう返答するとブレックスは
元々、技術士官の彼女の言葉は説得力があるのも確で
なんとも言えない気難しそうな顔をした。
ラミアスは申し訳なさそうな表情でさらに続ける
「仮にここでOSを調整する場合、
基本的な構造体をキラ・ヤマトが変えてしまったので
フラットな状態にしてもらうしかありませんが、
ロールアウトを前倒しにしていた弊害で
充分な模擬戦やテストを行う事が出来ていません。」

 

ラミアスのこの一言がトドメの一撃のような感覚だった。
ブレックスは大きく溜息をついて
「ではグラナダに到着してから、その調整と模擬戦を行おう。
幸い今はフラガ大尉やロベルト中尉もいる事だしな。」
と言うと、ラミアスが即座に
「申し訳ありません閣下…。」
と謝って来たが、彼女の責任ではなく
ハルバートンのせっかちジジイがそうさせたのだから
こればかりは仕方が無い…。
ブレックスはそう考え、
「謝る事ではない。
とにかく、今は目の前の作戦の為に急ごう。」
というと《アークエンジェル》との通信を切った。

 

すると、ブライトが何か感心したように
「しかし…今の話を聞く限りでは《ストライク》は実用段階に無かったという事ですね。」
「ああ、それをあんな少年がモビルスーツを撃退する事までやってのけたのだ。
コーディネイターというのは底が知れんよ。」
とブレックスと言葉を交わすとブリッジにいた全員が改めて、
コーディネイターの凄さというモノを感じたのだった。

 

 

ヘリオポリスを出発してから4日が経過していた。
懸念されたティターンズや
ルナツーのパトロール艦とは
まだ遭遇する事もなく
今のところは順調な航海となっていた。

 

キラ達がいる《アークエンジェル》の
居住ブロックの部屋からは賑やかな声が聞こえていた。

 

同級生であるフレイもその中におり、
さながら学校の旅行にでも行くかのような賑やかさだった。
その中にはフレイと共に《アーガマ》へ逃げ込んだエルと
その母アンリも一緒にいた。
エルはフレイの膝の上に座り、
フレイと一緒に歌を歌っていた。
ヘリオポリスの一件以来、
エルはかなりフレイに懐いていた。

 

フレイは兄妹もおらず母も早くに亡くしている。
父親は連邦軍の事務次官という要職に着いているため、
唯一の家族である父親とも中々会えずにいた。
その為、彼女は常に誰かといないと不安になる性格なのか、
常に親友だったジェシカやミーシャと一緒にいた。
しかし、ヘリオポリスの騒乱によって彼女らとは離れ離れとなってしまった。
そんな彼女にとってエルはサイやミリアリアと共に
寂しさを埋めてくれる存在になりつつあった。
フレイもお姉さんになったつもりでエルと触れ合っている。

 

終始賑やかな声が響く居住ブロックの彼らの部屋に
そこへロベルトが部屋に入ってくる。
先にロベルトへ話しかけたのはサイだった。
「あ、ロベルト中尉。どうしたんですか?」
賑やかな部屋でそう言ったサイの声は半分消されていたが
ロベルトは辛うじてサイの言葉を聞き取る事が出来た。

 

すると、ロベルトはフレイの隣に座るアンリに声をかける。
「奥さん、すみませんが
この子達と話がありますので、
少しの間だけ外してもらっても良いですか?」
と、言うと歌っていたフレイやエル、ミリアリアも歌をやめ
部屋の中が唐突に静まりかえる。

 

アンリは少し戸惑っていたようだが「あ…すみません…。
エルちゃん、この人がお姉ちゃん達とお話しするから
ママとお部屋に戻りましょうね。」
そう言って何かを感じ取ったように
フレイの膝の上に座るエルを抱えて
ロベルトに頭を下げ部屋から出て行った。

 

部屋の中の沈黙は破られる事なく、
キラ達は不思議そうな表情でロベルトを見ていた。
向かいの部屋にエルやアンリが
入ったのを確認すると
ロベルトは黙ってドアの横に備え付けられたボタンを押す。
すると開放されていたドアが閉まった。

 

「ロベルトさん、僕たちに話があるって…何ですか?」
部屋に漂う沈黙の空気を破ったのはキラだった。
ロベルトの表情から少し不穏なものを感じたキラが恐る恐る聞いていた。
するとロベルトの表情は少し柔らかくなり、
ようやくキラ達へ話を始める。
「お前達、みんなと一緒にいて楽しいか?」
キラ達は彼の言葉が威圧的なものではなく
どこか穏和な空気を感じ取れた。

 

ロベルトの問いかけにサイが答える
「はい。楽しいって言うより、みんなが側にいるから
不安な事も忘れられるかなって思います。」
とロベルトの目を真っ直ぐに見てそう答えた。

 

その言葉にロベルトは決して柔らかい表情を崩す事もなく
「そうだな…だが、他の人達はどうだろう?」
と言ってキラ達の顔を順番に見やる。

 

するとその言葉の意味を理解したトールやミリアリアの表情が固まる。
それと同時にロベルトの表情が少し固くなると
「…実はな…避難民の一部からラミアス艦長へ
お前達に関して苦情が来ていてな…。」
ロベルトがそう言うとフレイやサイ達の表情も固まり部屋の中の空気を押し潰す。

 

「お前達が悪いという訳ではないがな。
やはり不安なのかもしれんし
もしかしたら笑顔でいられるお前達が疎ましいのかもしれんぞ?」
ロベルトは少年達にそう言うとサイが
「もしかして…その人達は僕達がうるさく感じてるって事ですか?」
と言って、ロベルトへ質問を返す。

 

それを聞いたロベルトの口元の濃い髭の片方が上に釣り上がると
「うるさいってのとは違う。」
とロベルトは答え
「ここの避難民はヘリオポリスだけじゃなく、
グリーンノアの民間人もいるのは知っているだろう?」
全員にそう聞くと、皆が頷く。

 

それに応えるようにロベルトも頷くと、
グリーンノアの人々は自分達が住むコロニーの基地化を
ティターンズに反対して命の危険に晒され、
安住の地としてヘリオポリスへ逃げ込んだ事を話した。
しかしヘリオポリスもあのような状態となり、
自分達にとっては安住の地など何処にもないのではないか?
そういう不安定な精神状態で追い詰められた
人々がいる事をロベルトは彼らに伝える。

 

その話を聞いた少年達は少し落ち込んでいた。
するとカズイが俯きながら
「すいませんでした…
他の人達の気持ちを知らないで自分達だけ呑気に…」
と言うと、キラ達は顔を上げてロベルトの顔を見る。

 

「お前達の笑顔を守るのが俺たち大人の仕事だがな。
中にはこういう状態で子供にあたってしまう人もいる。
だからお前達のその元気を少しでも不安に
なっている人達に元気を分けてあげるとかな。
まあ何か出来る事があるんじゃないか?って事だ。」
ロベルトの表情は既に先ほどの柔らかい表情に戻っていた。

 

そんなロベルトの問いにキラが
「僕たちに…出来る事……?」
と聞くと、大きく頷くロベルト。

 

「そうだ。何も戦争に参加しろってんじゃない。
まだ若いんだ。自分達なりにそれをしっかり考えるんだな。」
そう言うと、ロベルトはドアを開けて部屋を後にした。

 
 

ロベルトが部屋から出ると、
ムウが壁に寄り掛かって立っていた。
ラミアスが避難民とキラ達の間にあった問題は
航海を始めて2日目に起きた事で、
ストレスの多い艦内生活に慣れていない民間人にとって
素早く対処しなければならない問題だった。

 

ラミアスは当初、自分が彼らと話をしようとしていたが
ロベルトは艦長の手を煩(わずら)わせないと言って
自身が名乗り出た格好だった。

 

二人は無言のまま居住ブロックを抜けて、
無重力ブロックに入ると
リフトグリップに手をやって移動をしながら話を始めた。
「盗み聞きするつもりはなかっあんだが…
ちょいとばかり坊主達が気になってな。
すまなかった。
クワトロ大尉の部下である中尉にこんな事させちまって。」

 

ムウはそう言うと、ロベルトは少し気が楽になったような表情で
「いえ、戦争を知らないでいる事はこの時代では危険です。
それに自分があいつらにしてやれる事は
戦い以外ではこのくらい事だけです。」
と言ったロベルトに
「充分すぎると思うがね。
クワトロ大尉が羨ましいぜ。
ロベルト中尉みたいな部下に恵まれてな。」
「褒め言葉として受け止めておきますよ。フラガ大尉。」
と言って二人はフッと笑ったのだった。

 

 

ブリッジに座るブレックスが安堵の表情を浮かべていた。
「そうか、避難民の問題は解決したか。」
そう言ってブレックスが大きく息を吐いて肩を撫で下ろす。
グリーンノアの避難民がたらい回しの状態では
ささいな問題に気を配らねばならい状況だった。

 

「ロベルト中尉が話をつけたみたいだな?」
ブライトがクワトロに目を送って聞くと、
「私の方からロベルトに対処するように言っておきました。
結果的に避難民を
あちらに押し付けるような形になりましたから
せめてもの償いとしてです。」
とクワトロはその理由をはっきりと示した。
クワトロは冷静にそう言っていたが
ロベルトを信頼しての事で戦争を知っている人間の
言葉を直接少年達に聞かせてやりたかったのが本音だった。

 

「なんにせよ戦闘になる恐れがあるからな。
不安要素を今の内に取り除いておくのは良い事だ。」
ヘンケンがそう言うと、ブレックスらはコクリと頷いた。

 

すると索敵センサーの音がブリッジ内に木霊する。

 

「来たか!?」
ブライトが身を乗り出してセンサー長のシーサーに確認する。

 

「3時の方向!サラミス級、数は1です!接触は約15分後!!」
シーサーがそう叫ぶとブライトは艦長席の手元にある、
スイッチを押すと艦内にアラートが鳴り響く。
横にいたヘンケンが指をポキポキとならしながら
「よっしゃ!」と言って意気揚々とCIC席に腰を下ろす。

 

 

《ボスニア》はようやく
レーダーでエゥーゴの艦隊を捕捉する事が出来ていた。
ブリッジではチャン・ヤー少佐が、
カタパルトデッキで待機をするライラに指示を出す。
「ライラ、いいな?艦隊を止めて臨検をするんだ。
沈めるのが目的ではないからな。」
と、ライラに何か念を押すような口ぶりでいた。

 

「わかっています。そんな戦争好きに見えますか?」
ろくな仕事も出来んくせにどの口がそんな事言ってる?
意地の悪い上官にライラは内心そう思っていたが、
冷静に尚且つ、いつもの調子で皮肉っぽく返す。
そんなライラに対して言った言葉に
悪びれる様子もないようだ。
ライラの皮肉っぽい物言いに
「ふん、見えるな。」
と、応えるとモニター越しに映るライラが少し笑いながら
「ふ…ではいつかご期待に応えましょう。」
と返すと、ブリッジオペレーターから発進の合図が出る。

 

「リニアカタパルト射出準備OK、ライラ隊発進せよ!」
ブリッジオペレーターの声と共に、
カタパルトにいた誘導員が、
緑色に光る発光スティックを大きく振ると、
それが発進の合図となる。

 

「よし、ライラ・ミラ・ライラ。
《ガルバルディβ》出る!!」
合図を確認すると、やや顎を引き前方を見据えて
操縦桿を強く握り両方のフットペダルをぐっと踏み込む。
すると《ガルバルディβ》バックパックスラスターの
青い炎が噴射すると機体の乗るリニアカタパルトが
前方へ勢いよく滑走する。
体にGがかかると目が少し痛くなるような感覚が襲う。
カタパルトデッキの先端部までカタパルトが
到達して《ガルバルディβ》の足とカタパルトが
離れてその勢いのままスラスターの推進力が合わさり
振り返れば母艦の《ボスニア》が小さくなっていた。
続く3機の《ガルバルディβ》も一気に発進をすると
ライラと編隊を組んで、前方に見える《アーガマ》を目指した。

 

 

《アークエンジェル》のブリッジは
《アーガマ》からの情報によって騒然としていた。
レーダーにはサラミス級が確かに表示されており
かつての友軍との戦いを目前に全員が緊張していた。

 

《アークエンジェル》のモビルスーツデッキに
ムウが飛び出してくると、《リック・ディアス》に
乗り込もうとしているロベルトに状況を聞いていた。
「ロベルト中尉、捕捉されたって!?」
「はい、サラミス級が1隻だけですがおそらく哨戒艦です。」

 

「チッ…て事は後続にティターンズがいる可能性もありか!」
ムウはそう言って舌打ちをしながら、
《メビウス・ゼロ》に乗り込んだ。

 
 

艦内にはアラートが鳴り響き居住ブロックにいる
避難民が不安と恐怖の表情を浮かべていた。
その中で、高齢の老人が「もうダメだ!みんな死ぬんだぁ!!」
と言うと、周りの避難民も声を上げて叫び出していた。
その光景はまさに阿鼻叫喚と呼んで良いものだった。
「お姉ちゃん…!みんな死んじゃうの…?」
エルはアンリの腕に抱かれていた。
しかし周りが騒ぎ出した事によって、
エルも恐怖を感じ取り体を震わせてフレイに聞いた。

 

「え……?…」
フレイも感じていた。
ヘリオポリスでの体験とは比べものにならない程の恐怖を。
彼女を襲う恐れはエルの言葉に励ます事も出来なかった。

 

横でその様子を見たキラは意を決したように立ち上がると
避難民の人々の前に出ると大きな声で叫ぶ。
「皆さん落ち着いて下さい!!
絶対助かりますから…!
だから落ち着いて下さい!」
キラはそう叫ぶと避難民達は大人しくなる。
しかしそんなキラに一人の男性が
「何が大丈夫なんだ!?
噂じゃこの戦艦は下っ端の軍人しか
乗ってないっていうじゃないか!」

 

その言葉にキラは反論出来ずに歯軋りをする。
男の言葉は更に避難民の恐怖を増長させてしまい、
また周りが騒然となる。

 

そこへトールとサイが一緒に立ち上がると反論する。
「小さな子供が怖がってるんだ!
大人が子供を怖がらせるような事を言わないで下さい!」
「そ、そうですよ!
絶対大丈夫だって信じればきっと助かりますから!」

 

そう言うと、避難民達が再び静かになる。
そこへ避難民の一人の男が立ち上がると避難民達に言う。
「皆さん、この子達も怖いんです。しかし我々のような
大人がそんなんでどうするんです。信じましょう。」
男はそう言うと、しばらくの沈黙ののち避難民達は
キラ達に「すまない。」
と、言ってその恐怖が去るのを待つ事にした。
それを見ていたミリアリアが隣に座るフレイに
「サイ…カッコいいじゃん。」
と言うと、フレイもミリアリアの顔を見て
「うん…トールも。」
と言って、彼女達も少し気が楽になったようだった。

 

そんな中、キラはただ一人立ち尽くして拳を強く握り締めていた。

 

 

「よし、見つけた。
《ボスニア》へ信号弾で知らせろ。」
ライラはそう指示すると、
僚機の《ガルバルディβ》の頭部から信号弾が発射された。」

 
 

ライラ隊の放った信号弾が爆ぜると辺り一帯を白い閃光が包み込む。
その閃光は《アーガマ》や
《アークエンジェル》のブリッジにも届く。
《アーガマ》通信長のトーレスはその閃光を確認した。
「見つかりました!信号弾の光です!」
「位置を母艦に知らせたか!」
トーレスの言葉にブライトが反応した。

 

「見つけたよ、エゥーゴのコソ泥め!数はやはり3隻か。」
レーダーに映る熱源のサイズは艦艇クラスと見て
間違いないが報告にあった2隻ではなく、
3隻に増えている事が発進前からの疑問だっ。
HUD(ヘッドアップディスプヘイ)に表示されている
艦艇を徐々に拡大して行くと、2隻の白い艦艇に気付く。

 

「何だあの戦艦は?
ペガサス級が2隻…?違う…あんな戦艦は連邦軍にはない。」
《アーガマ》と《アークエンジェル》をモニターで
確認したライラはもしかして
エゥーゴでは無いのかもしれないと感じていた。
どういうことだ…
臨検する必要はあるな…だが受け入れるか?
そう考えながら《アーガマ》に近付いて行く。

 

ブリッジにはブライトの声が響く。
「モビルスーツ、発進用意!」
それに続いてCIC席に座るヘンケンが砲雷科に指示を出す。
「対空戦闘用意!」
そう声を上げた瞬間、ブライトが迫り来る機影から
光が点滅しているのを確認すると、手を横にスッと伸ばすと
「待て!発光信号だ!」

 

そう言うと、全員が戦闘体制に入っていたが手を止める。
センサー長のシーサーか発光信号を解読すると、その内容が分かる。
「停戦信号?」
ブライトが驚き気味に言うと、
ブレックスも怪訝な表情を見せて声を上げる。
「停戦しろだと!?」

 

ヘンケンがふと不思議な顔をして
「我々が脅威ではないのか?」
と疑問を抱いて呟くと
「グリプスのバスクの隊でないからな。
こちらを詳しくは知らんのだ。
モビルスーツが来るぞ?」
ブレックスがそう言うと、警戒を促す。
するとシーサーがセンサーに映った機種と数を確認する
「機種判明、ルナツー所属の《ガルバルディβ》4機です。」
「《ガルバルディβ》が4機もか!?」
その報告にブレックスは驚く。
《ガルバルディβ》自体数は少なく、
性能は抜群に高いという訳ではないが
ザフトの《ジン》やティターンズの《ハイザック》よりは
数段上の性能を持つバランスの良い機体だった。

 

「クワトロ大尉は待機。
アポリー中尉とカミーユは
ティターンズ本隊との戦闘に備えて出撃はするな!
《アークエンジェル》《モンブラン》にも
許可があるまで待機するように通達しろ!
指示があったらいつでも出られるようにしておいてくれ。
サエグサ、減速はするなよ。」
ブライトは各所にテキパキと指示を出すと、
ブリッジの真上をライラの《ガルバルディβ》が
猛スピードで通過する。

 

「速いな!?」
通り過ぎた《ガルバルディβ》を見たクワトロは
思った以上のスピードを出してくる機体に舌を打つ。
「速度は落とさないな…怪しいな、
戦艦がモビルスーツに勝てると思うなよ。」
ライラは反転をすると、再び《アーガマ》に近付いて行く。

 

「また来ます!」
トーレスがそう言うと、ブライトは落ち着いた口調で
「指令があるまでは撃つなよ。」
と、言っていたがクワトロからブリッジに通信が入る。
「キャプテン、出るぞ。」
「もう少し待ってくれ。
なるべくこちらから扇動はしたくない。」
クワトロの言葉に、ブライトはどっしりと構えながら言うと
ライラがオープン回線を寄越して来た。

 

「聞こえるか、貴艦の所属を明らかにしろ。
当方の命令にこれ以上従わない場合は撃沈をする。」
「我が方はエゥーゴだ。命令は聞けない。」
ライラの要求に対して、ブライトはきっぱりと拒否をする。

 

「了解した。では貴艦を撃沈をする。」
ライラはその返答に対してそう言うと
右手に持つビームライフルをブリッジに向けると
「好き勝手な事を言う!」
と言って、クワトロが《ガルバルディβ》に向けて
2発、3発とビームピストルを放つ。
「…!!こいつ!?」
ライラはフットペダルを踏み込むと
スラスターを噴射させて火線をスレスレで躱す。

 

撃ち終わりを狙ったライラが反撃とばかりに
ビームライフルを撃ち返す。
「やる…!」
クワトロの言葉通りに、ライラの戦闘能力は高かった。
あとコンマ一秒でも遅ければ
間違いなくコックピットをやられていた。
「そこだ!」
ライラがそう叫ぶと、
左手のシールドから2連装ミサイルを放つ。
「何だと!?」
クワトロが操縦桿を操作して、グリップのボタンを押すと
武器をクレイバズーカに持ち替えて構える。
「えぇい!」 
クレイバズーカから放たれた砲弾がミサイルに向かって行くき
やがてぶつかり合うと大きな火球が起きる。

 

「よし!後続の《アークエンジェル》と《モンブラン》に
モビルスーツを出させるように打電!!」
ブライトがそう言うと
トーレスが「了解!」と言って通信電文を送る。
展開した《ガルバルディβ》が
先頭を行く《アーガマ》との交戦に入る。

 

「来るぞ!対空放火!蜂の巣にしてやれ!!
《アークエンジェル》には避難民が乗っているんだ!
被弾させないようにこっちが盾になるつもりでいろ!」
ブライトがブリッジのクルー達へそう檄を飛ばしていると
下から突き上げられる衝撃が襲う!
「くっ!!いきなり当てられたか!弾幕張り続けろ!」
「機関部に損傷!!戦闘継続は出来るようです!」
トーレスがブライトにそう報告すると、
ブライトはじわりと汗が滲み出て来る。
機関部とはいきなりまずい。
それに機関を真っ先に狙う辺りは戦いを熟知しているようだ。
そう感じたブライトの拳はギュッと締まる。

 

「ラミアス艦長!《アーガマ》より
モビルスーツ発進の許可が出ました!」
オペレーター席に座るチャンドラがラミアスへそう言うと
「分かったわ!!《アーガマ》に張り付いた
モビルスーツの掃討が優先!
バジルール中尉!」
ラミアスはそう指示を送るとCIC席のナタルへ目を配らせる。
ナタルが大きく頷いてカタパルトデッキにいる、
フラガとロベルトへ回線を回す。
「了解です!
フラガ大尉、ロベルト中尉、
聞こえましたね?発進して下さい!」

 

「了解!ロベルト機、《リック・ディアス》出る!」
「……ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!!」
カタパルトデッキに『LANCH』の文字が青く表示されると、
両舷から《メビウス・ゼロ》と
《リック・ディアス》が一気に発進する。

《モンブラン》からもジムIIが2機発進して直掩機として、
《モンブラン》と《アークエンジェル》を防衛する。

 

「迂闊な…!」
ライラは赤い《リック・ディアス》に向け
ビームライフルを2発、4発と撃つがクワトロも
ライラの戦い方に慣れたのか、余裕を持って躱す。
「チッ…あの赤いモビルスーツ…!
……もしやあの赤い彗星?」
《リック・ディアス》の機体の色と相手の
実力を肌で感じ、無意識に出た言葉だった。

 

クワトロは《アーガマ》に張り付く
《ガルバルディβ》を狙い撃つ。
機体はビームピストルでコックピットごと撃ち抜かれると
核融合路に誘爆して、大きな火球となって消えた。

 

「えぇい…実戦慣れした部隊だ…!ようやく1機か。」
クワトロは先ほどの《ガルバルディβ》といい
他の機体も戦い方が直線的ではなく、
効率の良い動きで的を絞らせない戦い方をしていた。

 

その時、背後からライラが
クワトロの《リック・ディアス》をロックオンする。
「赤いの…撃たせてもらう!!」
ライラがそう言うと彼女の機体のコックピットに
アラートが鳴り響く。
「ロックオンされている…!?」

 

「クワトロ大尉!援護する!!」
《リック・ディアス》のコックピットのHUDにムウの顔が映ると
背後から
《メビウス・ゼロ》が《ガルバルディβ》へ
リニアガンを1発、2発と発射する。
「っ!敵の援護か!?」
ライラは咄嗟にシールドを構えて、防御態勢に入る。
その時コックピットに強い衝撃が走る。
「ぐ…!?」
《メビウス・ゼロ》のリニアガンがシールドを撃ち抜き
内臓していたミサイルが爆発を起こす。

 

「ち!迂闊だった……!」
レーダーに映った方へ目をやりモニターを確認すると
ライラの心臓が強く跳ね上がる感覚に陥る。
「あ、あれは…《メビウス・ゼロ》!?そんな馬鹿な…!!」

 

ライラの頭の中は混乱し始めていた。
《メビウス・ゼロ》を見て、心臓の鼓動が
異常なほど早くっている事はライラは分かっていた。
その時、戦闘宙域を赤く照らす光が広がる。

 

「ボスニアからの撤退命令!?…チッ…私が動揺するなんて!」
撤退信号に気付いたライラは慌てて、撤退をすると
2機の《ガルバルディβ》もそれに追従して来ていた。

 

「隊長、お怪我は?」
「問題ない。シールドをやられただけだ…」
『赤い彗星』と『エンデュミオンの鷹』が相手だったと思いたい…
でなければ立場がない。
しかしあれが本当に『エンデュミオンの鷹』なら……なぜだ?
コックピットの中でライラは独り呟いていた。

 
 

そんな事を考え込む彼女の心臓の鼓動は
まだ高鳴っていたのだったーーー。

 
 
 

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