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第12話_「交錯する戦場」

Last-modified: 2014-04-01 (火) 01:22:36
 
 
 

「はぁ?まだ出撃するなだって?」
《ガモフ》のノーマルスーツルームでディアッカが
声を裏返して聞くとイザークが
「隊長からの御達しだ。
命令あるまで待機…それが今の任務だ。」
と本人もディアッカの心中を察したかのような
不満たらたらな口ぶりで言う。

 

更にディアッカは思い出したかのように、
「なぁ、さっきの見たかよ…?」と言ってニコルの顔を見る。
「あんな事…!許される事じゃありませんよ。」
普段は温和なニコルはやや興奮気味に語気を強めていた。

 

彼らもまたヒルダ・ビダンが散って行くのを
その目で見ていたのだった。
状況から判断すればあれがティターンズの用意した
人質だという事は想像に難しくなかった。
その光景を見た若きザフトの兵士達は
『血のバレンタイン』によって抱いた怒りの炎を燃やし
倒すべきはティターンズだという事を再認識していた。
隊長であるクルーゼはそれを逆手に取って
標的を先ずはティターンズのみに絞り込んでいた。

 

 
 

何度見てもモニターのウインドウに映し出されている
白い《Mk-II》に異常があるようには見えなかった。
何だ…?何でもなかったのか?
《Mk-II》の装甲は何でもない。
爆弾では無かったのか?
だが…この不愉快さはなんなんだ?
ジェリドは様々な思考が脳内を駆け巡ると共に
言いようもない不快感に見舞われていた。

 

「うっうっうっ…うあぁぁぁ!」
リニアシートに座るカミーユは
頭を左右に振り乱し、涙を流し絶叫していた。
目の前で起きた事全てが鮮明に脳の中でリピートする。
それを受け止められない彼の心から
ふつふつと心の奥底から何かが湧き上がると
視線の先に見える一つ目の巨人にその感情が向けられる。

 

カミーユは叫びながら、操縦桿を前に押し出し
フットペダルを全開まで踏み込むと
爆発的な加速度を加えて《ハイザック》に向かって行く。
「何でもないぞ!?
どうなっているんだジャマイカン!!」
漆黒の闇を切り裂く白い躯体が青い炎を煌めかせ
自分に向かってくるのを確認したジェリドは
一人そう叫びながら操縦桿を握り構えた。

 

「こいつだ…!…こいつが!
こいつがやったんだぁ!!」
カミーユは仇敵を目の前にした鬼と化していた。
躊躇など微塵も感じられない動きで
ビームライフルを構えると《ハイザック》に向けて撃ち放った。

 
 

《アーガマ》の艦内は再びアラートが鳴っていた。
「前方よりティターンズ艦隊捕捉!
アレキサンドリアとサラミス級が4です!!」
トーレスがそう叫ぶとシーサーが続いて
「モビルスーツの出撃を確認しました!
本艦に向かってます!数は11!」
と言うと、ブリッジがざわりとする。
「やはり罠に過ぎなかったか!」
眉間に皺を寄せてブレックスが吐き捨てる。
味方がここにいるというのに攻撃をするつもりなのか?
ブライトはそう考えると、
モニターを青ざめた顔で見ていたエマに言葉をかける。

 

「エマ中尉、君を解放する。
早くこの艦を降りてアレキサンドリアへ帰るんだ。」
その言葉にエマは驚き目を見開いてブライトを見る。
「…よろしいのですかブライト大佐?」
「君をここで殺せばティターンズと何も変わらんからな。」
そう言うとブレックスやヘンケンはブライトの目を見て
コクリと頷いたのをエマが確認する。

 

「…わ、分かりました…!ありがとうございます。」
エマはブライト達に頭を下げるとヘルメットを被り
バイザーを下ろしてからブリッジを後にする。

 

「よし!《アークエンジェル》と《モンブラン》に打電!
モビルスーツ隊全機発進させろ!」
ブライトがトーレスへ指示を送ると
即座に左舷カタパルトへ
クワトロの赤い《リック・ディアス》が
カタパルト射出装置へ足を接続し発進して行く。

 
 

「中尉、取り囲んでいるジムを落とすぞ!!」
ムウがそう言うとモニターから
ロベルトの顔が映り
「了解です!」と言ってムウが頷くと、
《アークエンジェル》右舷リニアカタパルトから
《メビウス・ゼロ》が勢いよく発進すると続いて
ロベルトの《リック・ディアス》が飛び出して行く。
《アーガマ》からも
アポリーの《リック・ディアス》が発進すると
《ジム・クウェル》に向かって照準を合わせた。

 
 

「くそ…!なぜ当たらん!」
《ハイザック》は《ガンダムMk-II》のビームライフルを
躱しながらマシンガンを撃ち放つも攻撃を当てられずにいると
ジェリドはとうとう《Mk-II》の接近を許してしまった。

 

全周囲を映し出すモニターに《Mk-II》の顔がでかでかと映し出されると
《ハイザック》のコックピット全体が大きく揺れる。
「貴様か!母さんを殺したのは!?」
コックピットが揺れると同時にカミーユの声と
荒い息遣いが接触回線を通してジェリドの耳に入る。
「母さん…?」
何を言ってるんだ?こいつは…?
ジェリドは
《Mk-II》から聞こえてくる声に一人怪訝な顔をしながら
操縦桿を前へ押し出しフットペダルを踏むと
《Mk-II》との相対距離を開け両手で
マシンガンを構えると、《Mk-II》に向け放ち続ける。

 

《Mk-II》はマシンガンを物ともせず、
シールドで受け止めると右手に持った
ビームライフルを放つと、
《ハイザック》のマシンガンに命中して
収束されたメガ粒子の火線はマシンガンのマガジンに誘爆して
爆発を起こす。
揺れるコックピットでジェリドはその衝撃で
苦悶の表情を浮かべ歯を噛み締める。

 

ジェリドは衝撃に耐えると《ハイザック》が
時間にして一秒二秒という一瞬だが動きが止まる。

 

それを見逃さなかったカミーユは《ハイザック》の後ろに回り込み背後を取ると
バックパックのウイングノズルを左手で掴み
右手のビームライフルの柄(え)で
《ハイザック》の後頭部を何度も殴りつける。

 

「殺すことは…なかったんだ!殺すことはなかったんだ!」
カミーユはそう叫びながら、
尚も《ハイザック》を殴り続けると、
再びカミーユの声が《ハイザック》のコックピットに響く。

 

この声…なんだ?
何処かで聞いた事のある声だ…
衝撃で体が前後左右に降られ、
コックピットのモニターが乱れる中でジェリドは
初めてではない聞き覚えのある声の正体に気付くーーー。

 

「確か…カミーユとかって女みたいな名前の…
…あんな子供に!」
子供相手に好きなようにやられている事に
気付いて妙な焦りに襲われると、
ジェリドは右手の操縦桿を前後に動かして、
フットペダルをさらに強く踏むと、
バックパックノズルから青い炎が噴き荒れ、
《Mk-II》を一気に振り払おうとする。
カミーユもそれに気付いたのか
操縦桿のグリップボタンを押し
バルカン砲を撃ち散らすと
ジェリドがそれは織り込み済みといった感じで
距離を開けながら《ハイザック》を反転させ、
左手に備え付けられた細長い濃緑のシールドでそれを防ぎきる。

 

そこへ濃紺色の《ガンダムMk-II》が
カミーユとジェリドの間に割って入る。
「カミーユ、ジェリド!離れなさい!!
ジェリド中尉、これに乗ってるのは子供なのよ!?」
エマはジェリドに通信で止めに入る。
エマの荒々しい声を聞いたジェリドは少し驚いた表情で
操縦桿を強く握る手は力を緩めた。

 

「落ち着けカミーユ君!
復讐心に支配されれば精神が壊れるぞ!!」
クワトロの《リック・ディアス》は後ろから
肩を触れて接触回線でクワトロがカミーユを諌める。

 

「邪魔するな!」
カミーユがそれを拒絶すると、
《リック・ディアス》を振り払って、
左手でバックパックのビームサーベルを引き抜く。

 

「カミーユ!!」
「殺してやる…殺してやる!」
クワトロは尚もカミーユを止めるが彼の感情は
この程度の制止で止まる事など難しかった。

 

エマの制止によってほぼ無防備となっていた
《ハイザック》へ《Mk-II》が再び襲いかかると、
サーベルで《ハイザック》のシールドごと左腕を溶断した。

 

「くそ…!エマ、こいつをなんとかしろ!!」
《ハイザック》の失った左腕を見て表情が歪むジェリドは
語気を強めエマに援護を求める。

 

「もうおやめなさい!カミーユ!」
エマは機体を操作して、
カミーユの乗る《Mk-II》の両肩を掴むと
接触回線を通してクワトロに続き、
カミーユを落ち着かせようとする。

 

その行動を見ていたジェリドは即座に通信を開いて
「……エマ!?貴様なぜそいつを撃たないんだ!?」
と言って《Mk-II》を攻撃しない
エマへ声を荒げ問いかける。

 

しかし、そんなジェリドの言葉にモニターに映るエマは
ジェリドに向かって鋭い目付きで訴えかける。
「こんな汚いやり方で事を片付けようなんて
軍のやり方じゃないからよ!」
「汚い…?何を言っているんだエマ!!」
「カプセルの中にはカミーユ・ビダンのお母様がいたのよ…!」
「な…なんだと!?」

 

エマの口から出た言葉はジェリドを動揺させるに充分だった。

 

あの小僧の母親だと…?
じゃあ殺したのは俺だってのか?
なぜそんな事をしたのだ…?
ジャマイカン…どういう事だ…

 

…いや……これは命令だ…
悪いのは俺ではなくジャマイカンだ…!
これは命令だったんだ!!
俺は悪くないぞ!

 

卑劣な作戦の犠牲者の内の一人とも言って良い彼は、
気付けば自分を庇うような考えに行き着くようになっていた。

 

「あなたはそれを知って心が痛まないの!?」
「俺は…俺はそんな事は知らない!!
…作戦は作戦だ…!軍人なら仕方ないだろう!?」
ジェリドはエマの訴えに臆する事なく
今の自らの気持ちを吐き出す。
軍人ならば一つ一つの感情に流されず
軍務に準ずるのが当然の事なのだから。

 

「それなら…!あの子を撃つなら私はあなたを撃つわ!!」
「な…に!?…狂ったか!?俺たちを裏切るつもりか!!」
エマの言葉を聞いたジェリドは驚きを隠さなかった。

 

そんな理由で鞍替えするというのかこの女は?
軍人一家の名家のお嬢様がこんな真似をして
全てを失ってまでこんな事が出来るのか…?
そう感じたジェリドの心は、
何かもやもやとした気持ちになっていた。

 

「自分の気持ちを裏切るわけにはいかない!
ジェリド中尉、今は《アレキサンドリア》へお引きなさい!
あなたの機体は戦える状態ではないわ!」
エマはジェリドにそう言って警告して撤退を促すと
ジェリドは妙に落ち着いてその言葉に納得していた。

 

その時、クワトロの乗る《リック・ディアス》に向けて
頭上から黄色く光る火線が2発3発と降り注ぐ。

 

「…?あれは交渉に出ていた《Mk-II》と
奪われたというもう1機の《Mk-II》か…。」
では交渉は成功したのか?
だがそれに関する合図が何もない…どうなっている?
そう考えながらも《リック・ディアス》に向けて
ビームライフルを放ったのはライラの《ガルバルディβ》だった。

 

「邪魔をしてくれる…!」
クワトロはビームライフルを躱すと
すかさずバックパックにマウントされた
クレイバズーカを手に撃ち抜き反撃を試みる。
ライラは煙の尾を引く砲弾の弾道を見極めて躱す。

 

「おかしい…なぜ奴らは動かない…?」
《リック・ディアス》と交戦しながら、
挙動のおかしい2機の《Mk-II》に気付き
ジェリドの《ハイザック》へ通信を送る。

 

「そこのザク、ボスニアの《ガルバルディ》隊だ。
ガンダムは何故動かないんだ?」
「黒い《ガンダムMk-II》のパイロットが裏切った!!」

 

彼女の問いにジェリドが吐き捨てるように言うと、
ライラが驚いて視線の先にいる2機の《Mk-II》に視線を向ける。

 

「俺はこの状態では戦えん!引かせてもらうぞ!!」と、
ジェリドは重ねて
アレキサンドリアに向かって反転し、
バーニアを噴かし引いていった。

 

「待て!!」
カミーユはヒルダを殺した《ハイザック》が引くのを見ると、
それを追おうとするがコックピットに、
熱源が接近する警告音が鳴る。

 

「ん…!?」
これ以上無いという程のタイミングで
カミーユの乗る《Mk-II》へ、ビームライフルを見舞ったが
無意識に操縦桿とフットペダルを動かして
鼻先を掠めるように《ガルバルディβ》の
ライフルから放たれた火線をカミーユは躱した。

 

「なに…!?今のを躱すのか!」
「お前も邪魔をするのか!」

 

カミーユはそう叫んで《ガルバルディβ》に向けて
ビームライフルを構えグリップのボタンを押すと、
銃口から放たれた黄色い光軸がライラ機を襲うと、
光軸の先に『自分』に覆い被さるような
“意思”とも“気”とも言えない“何か”を感じ、
ライラは慌ててフットペダルを踏み込んで躱すと、
距離を大きく開けて動きを止める。

 

「今のは…あの子はニュータイプとでもいうのか…?」
ライラは操縦桿を強く握ながら一人呟くが、
先ほどの“何か”を感じた彼女は自分の呟いた
言葉に違和感を覚える。

 

「…あの子?あの子と言ったのか私は…?」
そう考えていた彼女のノーマルスーツの中に着ている
シャツや下着は既にびっしょりと濡れていた。

 

動きを止めた《ガルバルディβ》に再びライフルを向けると
コックピットにまた警告音が鳴る。

 

カミーユがコンソールに目をやると、
10数もの熱源がこちら側に向かっているのが確認出来た。

 

コンソールから目を離し顔を上げると眼前から
何本ものビームの光軸がこちらに伸びてくる。
「く…!?」
「カミーユ、冷静になれ!!
数では不利だ。各個撃破で行くぞ!」
《アレキサンドリア》の僚艦の1隻、
サラミス改級《マダガスカル》から発進した
4機の《ジム・クウェル》は、
カミーユとクワトロのもとへと向かって行く。

 

エマの乗る《Mk-II》がクワトロ機の肩に掴むと接触回線を通す。
「クワトロ大尉!私はもうティターンズには戻りません!」
クワトロの目付きが鋭くなり、眉を軽く細める。
「本気か?エマ・シーン中尉。」
「はい。それを示す為にも今はエゥーゴと共に戦います!」
エマはそう言うと
《Mk-II》の右手に持ったビームライフルの銃口は
ライラの《ガルバルディβ》へ向けられると
その銃口からビームが放たれる。

 

ビームを躱したライラは
宇宙空間に馴染む濃紺の《Mk-II》を見据え、
「く…!本気で裏切ったというのか!」
と、ジェリドの言葉が本当の事だと理解して吐き捨てる。
するとコックピットから通信を知らせる音が耳に入る。

 

「隊長!こちらが押され気味です!!援護を頼みます!!」
それを聞いたライラは軽く舌打ちして、
「…奴らは《マダガスカル》の
《クウェル》隊に任せるか…!」と言って、
モニターに拡大表示されるクワトロの《リック・ディアス》や、
カミーユとエマの《Mk-II》を一瞥して部下の下へと急いだ。

 
 

《アークエンジェル》の豊富な武装と、
前線に出ている《アーガマ》や、
直掩機の頑張りでなんとか艦にダメージを受けずに済んでいた。

 

しかし数の上での劣勢は覆らず、向こうの直掩機も合わせれば、
ティターンズの戦力は軽く20機はいると見てよい状況に、
《アークエンジェル》のブリッジは焦りの色が出始めていた。
そこへ、モビルスーツデッキにいるチーフメカニックの
マードックから通信が入る。

 

「艦長!あのキラ・ヤマトって坊主が《ストライク》に!」
「…何ですって!?」
モニターに映る彼は慌てた様子で声をあげると、
ラミアスも目を見開いて立ち上がり、
「《ストライク》へ繋げ!」
と、CIC席に座るナタルはオペレーターの
ロメロ・バル軍曹へ指示を送ると、
通信モニターにノーマルスーツを着ていないキラが映る。

 

「キラ・ヤマト君、あなた何をしているの!?」
ラミアスが鋭い目付きでモニター越しのキラを見て
語気を強めて詰め寄る。

 

「勝手な真似をしてすいません。
僕も戦います!」
ラミアスの問いに答えたキラの表情からは
既に気の弱そうな印象が消えていた。
それを見たラミアスは、ヘリオポリスの
あの時の出来事を思い出していた。

 

「馬鹿な事はやめろキラ・ヤマト!!」
「早くハッチを開けて下さい!!
敵が多いんでしょう!?
避難民も守らなくちゃいけないなら戦える僕も出ます!」
ナタルがキラを諌めていると、被せるように反論をするキラ。

 

横目でそのやり取りを聞いていたラミアスは
腰に手を当て頭を抱えるような仕草で口を開く。
「……分かりました…
でもノーマルスーツだけでも着てくれないかしら?」
と、言うとブリッジがざわめく。
片手で額(ひたい)に手を当てているラミアスの表情からは、
観念したという様子が伺えた。

 

「……宜しいのですか艦長!?」
一つ息を飲んだナタルはラミアスの方へ体を向け
顔を見上げながらラミアスへ問うと、
「責任は私が取ります。
でも彼にいくら反対しても多分、
梃子でもコックピットから降りないわ。」
と言って、呆れ気味の顔をして問いに答える。

 

「…ありがとうございます。
ラミアス艦長…。」
「礼なんていいから早く着替えて来なさい。」
「はい!」
モニター越しに映るキラとそうやり取りをすると、
メカニックマンのブライアンに連れられて、
コックピットを降りノーマルスーツルームに向かって行った。
「マードック曹長、彼が戻るまでに
“エールストライカーパック”を準備して。」
「わっかりました!!急いで準備
しますぜ!」
ラミアスはそう指示するとマードックが、
気合のこもった声で意気揚々と答えると準備に取り掛かった。

 
 

ムウはライラ隊の《ガルバルディβ》と交戦していた。
ムウはおそらくこの敵の隊の中で、
空間戦闘における練度が高く、
一番厄介な相手達だと警戒していた。

 

「やっぱり黒いジムより動きが良いな!」
ムウが《ガルバルディβ》の2連ミサイルランチャーを躱すと
「だがこれは躱せるか!?」
と、叫ぶとガンバレルを展開する。

 

展開したガンバレルをモビルスーツの死角へと誘導すると
ガンバレルから連続してマシンガンが放たれる。
《ガルバルディβ》の頭部、シールド、脚部、右腕部を
的確に打ち据えると、
チタン合金・セラミック複合材製の装甲が、
次第に貫かれ始め、やがて爆発を起こす。
「よっしゃあ!!」
と言って軽く口笛を吹くと、
トドメの一撃としてリニアガンをコックピットに撃ち放つと、
大きな火球となって周囲の闇を照らした。

 

一歩遅く駆け付けたライラが到着するも状況は悪くなっていた。
「ち…!やはりあいつがいたか!!」
ライラは《メビウス・ゼロ》をその視界に入れると
操縦桿を握るその手が力み、
体が少し宙に浮くような感覚に陥る。

 

「ん…!?…この感覚は…」
ムウが反射的にそう呟くと、
“何か”を感じた方へ顔を向け、フットペダルを強く踏み、
ライラの《ガルバルディβ》へ向け加速して行く。

 

「近付いてくる…!この“感じ”…奴か…!?」
ライラの予感が確信に変わると、心臓の鼓動は途端に早くなる。
それと同時に何故か向かってくる存在が、
ハッキリと分かってしまう自分を不思議に思っていた。

 

「おい!そこのモビルスーツ!!
応答しろ!!」
ムウはオープン回線を使って、
《ガルバルディβ》にコンタクトを取る。
ミノフスキー粒子が戦闘濃度まで上がりきった、
この戦闘宙域は長距離通信機器が使用できない状況だが、
ムウは回線が通じる距離まで近付いていた。

 

「この声…やはり…!?」
ムウの独特の声を聞いたライラは完全に動きを止めた。

 

「おい!答えろ!!
俺はムウ・ラ・フラガ大尉だ!」
動きの止まった《ガルバルディβ》を見たムウも
呼び掛けをしながら《メビウス・ゼロ》の動きを止める。

 

「…久しぶりだな…ムウ・ラ・フラガ。」
ライラはムウの呼び掛けにようやく応じて、
「私はライラ・ミラ・ライラだ。覚えているだろう?」と言って、
落ち着いた口調で名乗った。

 

「そんな気はしていたが…やはりライラか……!」
彼女の名前を聞いたムウの中で、眠っていた記憶が
走馬灯のように脳の中を駆け巡る。
多くの若き男女の仲間と共に訓練に明け暮れた日々に、
死線をくぐり抜けた信頼する友…
彼女と過ごした多くの日々や肌の温もり。
時代の荒波によって信じていた仲間達との決別の刻ーーー。

 

「エゥーゴにいたなんてな!」
「いずれはこうなる運命だったんだろうな。」
怒りにも似た声でムウに話をするライラに
いつもの落ち着いた様子でムウが返す。

 

「連邦軍を裏切るというのか?」

 

「俺は裏切ったつもりはない。
だが腐敗しきった連邦政府は既にティターンズに迎合している…
そんな世界はフェアじゃない。」

 

彼女の問いを躊躇なく返すムウの言葉を聞くと
ムウ・ラ・フラガという男は、
こういう達観的な男だったと思い出していた。
だからこそ可能性や夢を彼に見ていた。
しかしコーディネイターという存在の出現や
ティターンズの誕生という歴史が彼らを引き裂いたーーー。

 

彼との記憶を思い出しながらも、
もう何も言うまいと
覚悟を決めたような様子で
「ならば私はあなたを撃たせてもらう!」
と言って操縦桿のグリップボタンを押すと、
ビームライフルを撃ち放つと《メビウス・ゼロ》目掛けて
メガ粒子の光軸が襲いかかる。

 

「くっ…!!待て、俺はお前とは戦いたくはない!」
すんでの所で《ガルバルディβ》のライフルから放たれた
ビームを躱して背後に回り込んで、ライラを諌める。

 

「甘いよ…!!アンタはみんなを引っ張れる男だった!
それを知っていながら私を…仲間を裏切ったんだ!」
激情にかられたライラは機体を反転させて、
堰を切ったようにビームライフルを乱射する。
「チ…!!連邦軍の腐敗はもう充分見たはずだ!!
なぜそれを分からないんだライラ!」
手当たり次第に撃ち放つライラの攻撃は
ムウの腕前からすれば容易に躱す事が出来た。

 
 

一方アポリーはロベルトや
《モンブラン》の《ジムII》隊と協力して、
包囲していた3機の《ジム・クウェル》を相手にしていた。

 

《アークエンジェル》と《モンブラン》の防衛をしている、
4機の《ジムII》は《ジム・クウェル》を迎撃していたが、
既に2機の《ジムII》が堕とされていた。

 

「ち…!あれじゃ力が足りんか…!?」
アポリーが汗を滲ませながら吐き捨てると、
《ジム・クウェル》に向けて、
クレイバズーカを撃ち放ち相手のシールドを破壊すると、
追い打ち様に左手に構えたビームピストルを2発、3発と浴びせ
《ジム・クウェル》の頭部とコックピット部分に直撃する。
熱核反応炉への誘爆はせず、
《ジム・クウェル》は両の手足をだらんとさせると、
宇宙空間に漂うデブリの一部となっていった。

 

 
 

「隊長、始まりました。」
「よし、モビルスーツ隊全機発進とガモフに通達。
こちらも残りの戦力を全て出すぞ。」
身を隠してエゥーゴとティターンズの戦いを
司令席に座って見ていたクルーゼは、
オペレーターからの報告にピクリと眉を動かすと、
相変わらずの淡々とした口調で指示を出した。

 

「よし、モビルスーツ隊発進を急がせろ!」
クルーゼの鶴の一言を待っていたアデス艦長が指示を出す。
今回の作戦は両軍が交戦し入り乱れた所を
奇襲してティターンズを叩くという単純なものだった。

 

「ティターンズに地獄を見せてやれ。
エゥーゴは気にする必要はない。各自の健闘を祈る。」
戦闘開始前で騒がしい《ヴェサリウス》と、
《ガモフ》の艦内、そして出撃前の
モビルスーツのコックピット内にクルーゼの声が響いていた。

 

《ヴェサリウス》のモビルスーツデッキでは
アスランが《イージス》のコックピットに乗り込んで、
一人考え事をしているとミゲルがコックピットに
体半分を突っ込みアスランの双眸(そうぼう)を覗き込んで話す。

 

「俺もまた出撃だ。
アスラン、ヘリオポリスの時のような
腑抜けた戦い方はだけは勘弁してくれよ。」
そう言うと、大破した専用機の《ジン》ではなく、
クルーゼより譲り受けた《シグー》に向かって、
その体を泳がせていった。

 

腑抜けてなどいない……。が、
外から見ればそのように見えるんだろうな…。
と、反論しかけた自分を押し殺して己を
半ば自虐的に分析していた。

 

《イージス》のコックピットハッチを閉じ、
オールビューモニターを作動させると、
内壁のディスプレイがデッキ内部を360度映し出す。
ハンガーから《イージス》が離れ、
カタパルトの発進位置に立つ。

 

「キラ…お前はそこにいるのか…?」
そう呟いて、カタパルトデッキの先に広がる
漆黒の宇宙に向けて薄紅色のガンダムが発進して行く。

 

「アスラン達が発進した!俺達も出るぞ!!」
《ガモフ》で発進態勢にあった、
イザークが回線を通じて指示を出すと、
「了~解!」と軽いディアッカの返事が返ってくる。

 

「よし、イザーク・ジュール、《デュエル》出るぞ!!」
イザークがそう言うと、《デュエル》の躯体が浮き上がり
前方へ発進しようとすると、
《デュエル》のバックパックにジョイントされた、
エネルギー供給用の弛んだケーブルが引っ張られ、
更に機体を前進させるとケーブルをパージすると
《デュエル》が勢いよくカタパルトから発進して行く。

 
 

《アレキサンドリア》のブリッジには
戦況を見ていたジャマイカンが呟く、
「ふん、エゥーゴの《アーガマ》もこれで終わりだな。」
勝利を確信したかのような物言いのジャマイカンに対して、
「エゥーゴなど所詮は烏合の衆です。
我々ティターンズのように統制された組織にしてみれば
このくらいは赤子の手を捻るくらい簡単な事です。」
と、副官のガディ・キンゼーが、
したり顔で言うと口元を釣り上がらせた。
その時、ブリッジオペレーターが悲鳴にも似た声を上げる。

 

その耳障りな声に副官のガディが
「落ち着かんか!!何事か!?」
と、一喝するように言うと、
「9時の方向!ザフトのモビルスーツ2機と機種不明機が3!
ナスカ級とローラシア級です!!」
その言葉に司令席に座っていたガティとジャマイカンが
驚いた表情を丸出しにして立ち上がる。

 

「迎撃!迎撃だ!!」
「展開しているモビルスーツを何機かこちらに戻せ!!」
上擦り語気を強めた声で、
ガティとジャマイカンが慌てた様子で指示を出す。

 

「エ…エゥーゴと交戦中の部隊が戻るまで10分はかかります!!」
「それまでなんとかもたせんか愚か者!!」
情けない声で指示に答えるオペレーターに
ガティが怒号を浴びせると
隣の司令席に座るジャマイカンが
「バスク閣下に繋げ!!」
と言って、今回の作戦終了後にグリプスへ戻る予定だった、
《ブルネイ》に乗り移っていたバスクへと通信を繋げる。

 

「まんまと横っ面を叩かれたようだなジャマイカン。」

 

モニターに映るバスクが軽く皮肉を、
ジャマイカンに浴びせると、
「は……」と少し歯切れの悪い返事を押し被せるように
「閣下、ここは一度グリプスへお戻り下さい。」
と言ってバスクの顔色を伺う。

 

「うむ、分かった。
作戦が上手くいかなかったのならば、
私がここにいる必要もあるまい。
以後の追撃任務は君に任せる。」

 

以外にもジャマイカンの策が、
上手く行かなかった事に対して、
追及しなかった事をジャマイカン本人は内心驚いたが、
あえて平静を装いつつ、「……は…。お任せ下さい。」
とだけ答え通信を終わらせた。

 
 

カミーユ機、エマ機の《ガンダムMk-II》と、
クワトロの駆る《リック・ディアス》は
4機の《ジム・クウェル》を撃破し、
《サチワヌ》隊の《ハイザック》部隊4機を相手にしていた。

 

「チ…キリがないな…エマ中尉、大丈夫か?」
物量で押してくる相手に対して、
クワトロが舌打ちしつつも、
こちら側に寝返ったエマ中尉を気遣う。
彼女からはティターンズに関する情報を聞き出す為にも
ここで死なれては困るからと考えての事だった。
宇宙での戦いに慣れているエゥーゴにとって
厄介なのはルナツーの部隊などの正規の宇宙軍兵達だが、
彼女のパイロットとしての腕は確かであり、
とても地球出身とは思えない空間戦闘能力を発揮していた。

 

「大丈夫です。《Mk-II》は良い性能を発揮してくれています。」
と、クワトロの問いにエマは凛とした声で返す。
《Mk-II》の性能を引き出せている彼女を、
クワトロは改めて感心している様子で、
『素質』がありそうだ…と、感じていた。

 

そうやり取りしている間に、
《ハイザック》が近付き、クワトロとエマは再び、
迎撃態勢を取ると、《ハイザック》隊は散開して
その内の2機がカミーユ機の方へと向かって行く。

 

ビームライフルを装備した《ハイザック》隊はどうやら、
各個撃破へとシフトし、2機の《ハイザック》が
カミーユの乗る《Mk-II》へ集中砲火を浴びせるーーー。

 

その《ハイザック》の撃ち放つ一筋の光軸が《Mk-II》を襲い、
その火線と共に乗って迫り来る殺気にカミーユは反応し、
咄嗟に左腕に装備されたシールドを構えると
メガ粒子の光軸はシールドにぶつかり放射線状に爆ぜる。

 

《Mk-II》はビームコーティングの施されたシールドで、
《ハイザック》の攻撃を防ぐと、
ビームライフルを左手に持ち替え、
腰にマウントされたバズーカを構える。

 

「ぞろぞろと出て来て…!!」
そう言って、グリップのボタンを押すと、
《Mk-II》の右手マニュピレーターが、
バズーカのトリガーを引くと砲口から
発射された弾頭が起爆し、数百個にも及ぶ鉄球が
2機の《ハイザック》目掛けて降り注ぎ、
小さな鉄球は《ハイザック》が撃ち放ったビームとぶつかると、
眼前に火球が幾つも発生し、やがて爆煙のみが広がる。

 

視界を奪われた1機の《ハイザック》が動きを止めると
爆煙の中から《Mk-II》が目の前に現れるーーー。

 

「みんな消し去ってやる!!」

 

《Mk-II》は右手に持ったビームを発生させていないグリップを、
《ハイザック》のコックピットの間近へ突き出すと、
ナイフのような形に高収束されたビーム刃が形成され、
《ハイザック》のコックピットをひと突きする。
機体は爆発を起こさずにパイロットは、
家族や恋人の事を考える間も無く一瞬にして蒸発していった。

 
 

一方、前方のティターンズ艦隊の異変に気付いたトーレスが、
その様子をブライトへ報告する。
「ブライト艦長!前方で光を確認、艦砲の光です!」

 

それに反応したブライトは、「どういう事だ?」
と、聞くとシーサーがブライトの言葉に被せるように叫ぶ。
「これは…ザフトです!
ヘリオポリスを襲って来た奴らです!」
シーサーがそう言うと、ブリッジにいた全員が
シーサーの方へ顔を向ける。

 

「ザフトの指揮官はキレ者というべきか、
手段を選ばない冷酷な男というべきなのか…」
そう呟くヘンケンの目付きは、
獲物を捉える獣のように鋭くなっていた。
ザフトのヘリオポリス襲撃によって
怪我は未だに完治せず、
少しは楽になったとはいえ腕の包帯とギブスは、
普段の生活を不便な目に合っているのだから無理も無かった。

 

「ん!?…ブライト艦長!!
《アークエンジェル》からモビルスーツが発進しました!」
「何…?」
《アーガマ》のライトオペレーター、サマーン軍曹が
ブライトの方へ振り返り大きく声を上げると、
周辺の宙域を映し出すモニターには、
《アークエンジェル》の前方を突き進む、
GAT-X105の照合番号が確認出来た。

 

あれは《ストライク》だーーー。
ブライトはすぐさま、《アークエンジェル》へ繋ぐように、
トーレスへ指示を送った。

 

「ラミアス艦長、《ストライク》の発進を確認したが…、
そちらで何かあったのか?」
ブライト以外の者達も《ストライク》に乗っているのは
誰なのかおおよそ見当はついていた。

 

「勝手をお許し下さい。
彼がそう望み、私の一存で許可致しました。」
ラミアスは席から腰を離して立ち上がると、
モニターへ映るブライトに頭を下げる。

 

「…仕方あるまい。我々と行動を共にすれば、
何れはそうなるのではないかと思っていた。」
その様子を見ていたブレックスは、
ラミアスを責める事はなかった。
その言葉の通り、彼が戦場に立つのは必然だと
言わんばかりの口調だった。

 

「申し訳ありません…
とにかく、フラガ大尉をフォローに回します。
戦場に出した以上は彼を死なせるような事はしません。」
ラミアスがそう言うと、ブライトとブレックスは大きく頷いた。

 
 

「ン?…小僧をフォローしろだあ!?こんな時に!!」
ライラの《ガルバルディβ》と交戦中のムウに、
《アークエンジェル》からの電文を受け、
コンソールに表示された文章を目にして、口中に吐き捨てる。

 

「反撃しろムウ・ラ・フラガ…!
今は敵同士なんだぞ!?」
一方的に《メビウス・ゼロ》に対して、
ビームライフルの雨を浴びせるが、
ライラの攻撃は掠める事も無く一向に当たらなかったーーー。
むしろ彼女本人もムウと戦いたくないという、
潜在的意識が手元を狂わせているのだが、
それに気付かないライラは焦燥に駆られていた。

 

その時、一人残ったライラの部下が近付き、
通信回線を寄越して来る。
「た、隊長!艦隊がザフト軍の奇襲を受けているそうです!!
ここからお引き下さい!」

 

「なんだと…!?」
その言葉を聞いたライラは艦隊のある方へ、
慌ててモニターを拡大させると、
確かに戦闘の光が確認出来た。

 

「くそ…!ここは引くぞ!!
《ボスニア》が落とされては恥だ!!」
「はっ!!」
ライラは《メビウス・ゼロ》を睨みつけると、
母艦の《ボスニア》へ向けて撤退して行った。

 

「ライラ……。」
去って行く《ガルバルディβ》の背を見ながら
ムウは物思いにふけるように呟いていた。
と、その時だったーーー。

 

「フラガ大尉!!」
キラの声が《メビウス・ゼロ》のコックピットに響くと、
いつの間に接近していた《ジム・クウェル》が爆散した。

 

《アーガマ》を攻撃していた《ジム・クウェル》が、
撤退をしつつ《メビウス・ゼロ》に、
ビームライフルを構えていた所を、
駆け付けた《エールストライク》が
ビームライフルで《ジム・クウェル》の
コックピットを撃ち抜いていた。

 

「…ん!?坊主か…大丈夫か?」
呼び掛けに気付いたムウは、
死ぬかもしれなかったと考える様子も無く、
心ここに在らずといった様子でキラへ語りかける。

 

「大丈夫も何も…
敵はもう引いていますよ?」
キラが怪訝そうにムウの質問に答える。
「ん…?…あ、ああそうだな。」
キラの返答を聞くと辺りを見回し、
レーダーを確認するとキラの言葉通り
周辺のモビルスーツは味方機だけだと気付いた。

 

「……?フラガ大尉こそ大丈夫ですか?」
付き合いは僅か数日とはいえ、
為人を分かっているつもりのキラは、
ムウの調子がいつもと違う事に気付き様子を伺う。
キラの言葉にムウは目を点にして、
数秒ほど二人の間に沈黙が訪れるが、
それを破ったのはムウだった。

 

「……お前に心配されるなんざ、俺もヤキが回ったか?」
「い…いや、そういうつもりじゃ…!」
突然いつもの調子に戻ったムウに驚くキラは
後退りするような思いで受け答えると、「冗談だ冗談。」
と鼻で少し笑って見せてから言った。
ムウの調子が元通りになり、キラが少し安心していると
「大尉、ご無事で?」
と通信を通して声をかけて来たのは、
アポリーと直掩部隊の援護に回っていたロベルトだった。
ムウは彼に「この通り大丈夫だ。」と答える。
どうやらロベルトは撃ち漏らした、
《ジム・クウェル》を追って来ていたようだ。

 

「ところでお前、何で出てきた?」
ムウが突発的と言って良いくらいのタイミングで
キラへ問うと、一瞬言葉を詰まらせたようだが
静かに口を開ける。

 

「…守りたい人があの船には沢山いるんです。」
モニターに映るキラの目には決意のそれが伺えた。

 

しかしその言葉に対して、
「だが、今回の戦いで《アークエンジェル》の被弾はない。
坊主に頼らんでも大丈夫だと思うんだがな?」
と、妙に意地が悪そうにムウが言葉を返した。

 

するとキラは一瞬下を向いたが、すぐに顔を上げて
「で、でも…!!こんな…
こんな悲惨な戦争を早く終わらせたいんです!」と叫ぶと、
ムウの表情が固くなり眉がピクリと動く。

 

それと時を同時にして、
「自惚れるな!!」
と、細面の顔からは想像出来ないほどの
ロベルトの野太い怒号がキラとムウのコックピットに響く。

 

「お前が戦いをすれば戦争が終わるとでも思っているのか!?」
そう言葉を被せて来ると、
キラはうっ…と少しだけ声を漏らしたが、尚も
「そんな事で戦争が終わるなんてのは
戦争を理解していない愚か者の言う言葉だ!」
と、先日に見せた穏和な表情とは違う
まさに戦士としての表情だった。

 

返す言葉の無いキラは下を向いて、
悔しそうに両拳を握り締めるーーー。

 

なんて甘い考えなんだ僕は…
僕が戦争を終らせる…?
僕が…?
そんな事出来るわけないのに…?

 

“違う…違う…!!”
“そうだ…戦争を終らせる為じゃない…!”
“守るんだ…大切な人達を…!”
“それだけで良いじゃないか…!”

 

キラは頭の中で自問自答を繰り返すと、
やがて下を俯いていたキラがスッと顔を上げる。

 

「僕は…守るべき者の為に戦います!!
戦争を終らせる為なんかじゃない!…この命に代えても!!」
とモニターに映るムウとロベルトを、
真っ直ぐに見てそう決するーーー。

 

「フ…こいつぁ顔の割に結構な頑固者だな中尉?」
キラの覚悟を受け止めたムウが、
いつもの軽い口調でロベルトへ言うと、
「ハハハ、そのようです。」
と、ロベルトも軽く笑いながら答える。

 

「キラ・ヤマト…これから俺達は仲間だ。
その覚悟…信じさせてもらうぜ。」
ムウが口元を釣り上げて伝えると、
キラは晴れやかな表情で大きく頷いたのだった。

 

「大尉、ティターンズがザフトの奇襲にあったそうです。」

 

ロベルトがそう言うとムウの目付きが鋭くなる。

 

「ザフトがまだこの宙域にいるという事は、
補給が済んでいない可能性があるな…
中尉、《アーガマ》のブライト大佐はなんと?」
「ザフトも戦力はあれが手一杯のはず…
ガンダム奪還のチャンスは今だと。」

 

ムウの問いにロベルトがそう答えると、キラに対して

 

「坊主…いや、キラ。
相手はコーディネイターだ…
お前の同胞を撃つ覚悟は出来ているか?」

 

「……分かりません…でも…
守るべき人達の為ならそれでも構いません!!」

 

キラのそれはもはや揺るぎないものとなり、
覚悟を決めた男の目に次第に変わっていくのだったーーー。

 
 
 

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