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第13話〜強者の理想と弱者の叫び〜

Last-modified: 2011-12-10 (土) 17:18:41

 
 

「お兄ちゃん……カッコ悪い」
ショックだった。あの後、気絶したことを知らされたマユちゃんの一言が僕の心に突き刺さった。
だから、僕は今度こそトレーニングする事にした。昨日はマラソンして、その後は筋力トレーニング。
久しぶりに疲れた………
「なのに……なんで変わってないの?」
おかしい? トレーニングした翌朝は目覚めたら筋肉ついた実感があったのに……あれって、普通じゃ
なかったの?
「やだ。もう飽きた」
こんなペースじゃ、やってらんない。予定ではMSのGが平気になるまで3日だったんだけど、
これだと何時になるか分かんないや。
そもそも、トレーニングするとマユちゃんと一緒の時間が減る。
「お兄ちゃん、朝だよ。トレーニングするんでしょ?」
うっ……何て言い訳しよう……でも、嫌なものは嫌なんだよ。
「お兄ちゃん?」
「あの……え!」
僕はマユちゃんを見る。その格好は……
「その服?」
「うん♪ マユもトレーニングに付き合うの。お兄ちゃんと一緒に居たいし♪」
そう言って笑顔を見せるマユちゃんの服装はブルマだった。
……って、事はだよ。トレーニングをすればブルマ姿のマユちゃんと一緒に居れるわけで……
「よし! 行こうか!」
「うん。頑張ろうね♪」
よ~し! 頑張るぞ! そんで、マユちゃんが見てる前で、3人娘を達磨にしちゃる!

 
 
 
 
 

第13話~~強者の理想と弱者の叫び

 
 
 
 

 
 

俺はどうも気を使われてるらしい。
「おい、何ボケッとしている。お前は一応護衛なんだろ?」
「はいよ」
俺はバナディーヤの街でアスハの護衛をする羽目になった。普通はパイロットをアークエンジェルから
離すなんて馬鹿げた行為なんだが、そのパイロットが最近、友人との関係が上手くいってないと思われ
気を使ったようだ。
つまり、気晴らしをしろってことだろう。
正直、気を使ってくれなくても大丈夫なんだが……まあ、ステラのことを思い出した俺は、助けに
行けないことを落ち込んでいたので、誤解されても仕方ないか。
「それにしても、のどかだな」
「平和そうに見えたって、そんなものは見せかけだ」
そんなもんは何処でも一緒だろ? 例えばオーブなんかも。
要は見かけだけでも活気があって平和そうなのは良いことなんだよ。世の中には、そう振舞う余裕すら
無い国がたくさんあるんだから。
「これでだいたい揃ったがぁ、このフレイって奴の注文は無茶だぞ。プロテインだの筋肉増強剤だの、
 こ~んなところにあるもんか」
……たしかに無いだろ。つーかさ、なんつーもんを注文してんだ。ホントに変わりすぎ。
「じゃあ、休憩にしようか。あー、疲れたし腹も減った。ケバブ喰おうか」
「好きだな。アンタも」
そう言いながら注文をし、目の前に出されたドネルケバブ。
「よし、喰うぞ。ほら、お前も食えよ。このチリソースを掛けてぇ…」
「あーいや待ったぁ!ちょっと待ったぁ!ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!このヨーグルト
 ソースを掛けるのが常識だろうがぁ!」
……どっかで聞いた声。
「いや、常識というよりも…もっとこう…んー…そう!ヨーグルトソースを掛けないなんて、この料理に
 対する冒涜だよ!」
……何してんだ。このオッサンは
「なんなんだお前は!」
……アスハ、今言っても信じてくれんだろうが、アンタの目の前に居る変なオッサンが砂漠の虎、
アンドリュー・バルトフェルドなんだよ。
ケバブにかけるソースについて熱く論じ合う男女が、未来の一国の元首と一軍の事実上のトップだと
知ったら、笑うだろうか呆れるだろうか……ん?
「「伏せろ!」」
俺と虎の声がハモる。殺気を感じてカガリを押さえつけたが……襲撃?
「へ~~、良い勘してるね少年」
「……どういたしまして」
「な…なんなんだ一体…」
チッ! この様子だとこっちの正体に気付いてたか……
「死ね! コーディネイター! 宇宙の化け物め!」
「青き清浄なる世界の為に!」
なるほどね……何をしてるかと思ったけど、俺達と接触すると同時に…
「構わん! 全て排除しろ!」
自らブルーコスモスを誘き寄せる餌になってたか。
すでに配置されていたザフト兵の手でブルーコスモスの構成員は一網打尽になっていた。
「死ねぇ!」
やけくそのブルーコスモスの1人が爆弾を投げつけようとしてる。
俺は咄嗟に銃を抜き、そいつの手を打ち抜いて爆弾を落とした。
我ながら良い反応だ。射撃訓練なんて、この身体じゃ一回しかやってないのに……体力自体も簡単に
アップした。キラさんがずぼらになった理由がよく分かったよ。
「隊長! 御無事で!」
あ! ダゴスタだ……この頃から一緒にいたんだ。
「ああ! 私は平気だ。彼のおかげでな」
「ぁ…アンドリュー・バルトフェルド…砂漠の…虎…」
お? アスハもやっと気付いた。さすがに変なオッサンが砂漠の虎と知ってショックだったか?
「いやぁ~助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。それでは失礼します」
そう言って、この場を離れようとしたんだが……
「いやいや~、お茶を台無しにした上に助けてもらって、彼女なんか服グチャグチャじゃないの。
 それをそのまま帰すわけにはいかないでしょう。ね? 僕としては」
やっぱりダメか……

 
 
 
 
 

 
 

「どう?コーヒーの方は?」
「少し酸味が強すぎます。若者向きじゃありませんね」
感心しながら頷く副司…じゃなく虎。おそらく頭の中ではコーヒーのブレンドについて考えてるんだろう。
あの後、虎に屋敷まで連れてこられ、アスハは着替えに案内され、俺はクジラの話をしながらコーヒーの
味を聞かれていた。
「アンディー」
その時、頭の悪そうな声……虎の愛人らしい女がアスハを連れてきた。
「おやおや!」
………ドレスって……やはり、この人は気付いてるな。アスハがオーブの王女だって。
「ドレスもよく似合うねぇ。と言うか、そういう姿も実に板に付いてる感じだ」
「勝手に言ってろ!」
「しゃべらなきゃ完璧」
「余計なお世話だ!」
……ダメだ。アスハは気付いてないよ……って、コイツが気付くわけ無いか。
俺は未来のオーブの惨状に思いを馳せる。
そもそもオーブの悲劇は、CE71年6月のオーブ解放作戦で大西洋連邦の保護下になった事から始る。
俺の家族も、この戦いに巻き込まれて死んだ。
まあ、それは置いといて、問題はその後のユニウス条約で再び主権を取り戻したことから始る混乱。
この時、首長に3隻同盟で戦った英雄扱いのカガリ・ユラ・アスハが選ばれた。しかし、彼女は幼く、
政治を取り仕切るには未熟だった。それどころか、今回のアフリカでの行動を見ればバカだと分かる。
そこで補佐役に抜擢されたのがウナト・エマ・セイラン。彼は実質的にオーブの政治を取り仕切り、
中立を唱えてはいるが、オーブを大西洋連邦寄りに変えていった。
そして大西洋連邦の支援を受けたオーブは瞬く間に復興した。オーブ解放作戦では国の主要産業だった
モルゲンレーテとマスドライバーを破壊しておきながら、短期間でこれだけ復興できたのはウナトの
非凡さの表れだったんだろう。
でも、これは後になったらよく分かるんだが、当事の人はそう思わなかった。
あまりにも早く復興したので、その苦労が良く分からなかったってのも大きいが、やはり問題は
大西洋連邦に媚びた事を気に入らない人が多いってこと。まあ、当たり前だ。そもそもオーブを
焼いたのは大西洋連邦なんだし、俺みたいに家族を失った人間だって居る。俺だって、オーブに居れば
不満をぶちまけただろう。
そんなわけで、この頃のオーブでは、大西洋連邦に物を売った金で、大西洋連邦から買った麦から作った
酒を飲みながら大西洋連邦の悪口を言う。それが日常だった。
そんな時、ブレイク・ザ・ワールドと、それに伴う戦争が勃発。
詳しくは長くなるから割愛……とにかく、宰相のウナトは息子のユウナとともに死んだ。
しかも、何時の間にかアスハが返り咲いたオーブはラクス・クラインと共に勝者になっていた。
つまり今まで嫌われていたセイラン親子と大西洋連邦寄りの政治家は一掃され、公平で慈悲深くて、
勇敢なカガリ様が実質上のトップになったわけだ……大西洋連邦嫌いの軍人を侍らせながらね。
大西洋連邦はオーブを恐れた。立場が逆転したんだからな。賠償金や何らかの条約を結ばなければ
ならないと覚悟した。
でも、そこは人の良いアスハ。大西洋連邦を責めるでも無く、今後は良い関係をと懐の深さを示す。
だが、彼女は知らなかった。それに周りの軍人も忘れていた。敗戦国の国民の感情を。
手っ取り早く言えば、オーブは大西洋連邦の国民に嫌われた。ちなみにユーラシアもアジアも同様で、
オーブは大事な商売相手に嫌われてしまったんだ。
食料なんかは嫌いな相手からも買わなければいけないが、オーブの商品は違う。質が悪くても他国にも
同じようなものを売っている。しかも、これを機にオーブは強大な商売敵を持ってしまった。
それがプラント。ラクス・クラインをトップにしたプラントは、これまで商売が成り立たなかった国とも
関係を結んだ。
しかもプラントの商品はオーブより高品質の上に低価格。まあ、元々オーブは共存するコーディネイター
の技術で持ってた国だし、純粋なコーディネイターの集まりのプラントと勝負すれば勝ち目は低い。
さらにプラントに住む人達は、最近まで半植民地の生活だったから、オーブの国民に比べ質素な生活に
慣れてるから人件費も安くて済む。
これにより、反コーディネイターの人間は質が悪くても、ナチュラルだけの国のものを、そうでない
人はプラントの製品を購入するようになった。
もし、連合各国との間に商売上の条約でも結んでいれば強引に売りつける事も出来たが、そうは
しなかったオーブは瞬く間に転落。
アスハは結婚もせずに日夜働いてるが事態は好転せず。
ロゴスを失った世界は、経済的にも不安定で、オーブが復興する目処は未だにたたない。
ついにはセイラン親子をオーブ復興の英雄と崇め、アスハは無能な戦争屋と罵倒する者まで出てくる。
「なんだかな……」
「おい、また溜息吐いてるぞ。この前も言ったが幸せが逃げたらどうする?」
だから、アンタにだけは言われたくないよ!
「まあ良い……それよりお前、ほんとに砂漠の虎か? 何で人にこんなドレスを着せたりする? 
 これも毎度のお遊びの一つか!」
無謀にも虎に喰って掛かるお姫様……勝てるわけ無いだろ。
「ドレスを選んだのはアイシャだし、毎度のお遊びとは?」
「変装してヘラヘラ街で遊んでみたり、住民は逃がして街だけ焼いてみたり。ってことさ」

 
 

「いい目だねぇ。真っ直ぐで、実にいい目だ」
「くっ! ふざけるな!」
ほら、余裕の虎に対し、感情的な王女様。話にならん。
「君も死んだ方がマシなクチかね?」
へ?……いきなり話が飛んだ? 
「そっちの彼、君はどう思ってんの?」
「え?」
「どうなったらこの戦争は終わると思う? モビルスーツのパイロットとしては」
「お前どうしてそれを!」
「見てたんだろ。俺がバクゥのパイロットを逃がしてたところを。まあ、カマをかけた可能性も
 あったんだがな。その場合はお前のお陰で正解が得られたわけだ」
「あ…」
「あまり真っ直ぐすぎるのも問題だぞ」
笑いながらアスハをからかう虎。余裕だな。
「それで、どうだね? 戦争には制限時間も得点もない。スポーツの試合のようなねぇ。
 ならどうやって勝ち負けを決める?」
「勝てないと思った方が降伏すれば良いだろ。まあ、条件付でな」
違う。奴が言いたいのは、そんな事じゃ無い。
「だったら、先日の件はどう思う?」
「タッシルか?」
「そう。正確には、そこで逆らうゲリラさ。彼等が勝てると思っているのか?」
「なんだと…貴様! みんな必死で戦ってるんだ! 大事な人や大事なものを守るために必死でな!」
横からアスハが口を出す。だが…
「大事な人? 本気でそう思ってるのか!」
「キラ?」
まさか、俺に反論されるとは思っていなかったであろうアスハは愕然としてる。
「虎が言っただろ? 君も死んだ方がマシなクチかと……タッシルにはもう抵抗は止めてザフトに
 従おうって奴等も多いってっ聞いた。それの殆どが女だって。つまり弱い奴等さ。
 でも、その言葉は聞き入れられない。弱い奴の言葉は届かない。無謀と勇敢の区別もつかずに
 抵抗を続ける連中が、そんな弱者の言葉を臆病者、裏切り者と言って封じてる。
 そいつ等は良いさ。死んだ方がマシだって思ってるのかもしれない。
 でも、死ぬのは本人だけじゃ無い。強者の理想や理念に踏みにじられる弱者の事を少しは考えろ!」
「キラ…お前……」
俺は重ねていた。タッシルに住む弱い人たちと幼かった自分と家族を、そしてゲリラの主張とオーブの
理念を。さらに虎がアスハに追い討ちをかける。
「そう。そして、そこが今回の戦争の最大の問題なのさ」
「もん…だい?」
「そう。その少年が言ったとおり、弱者の意見は通じない。例えば戦争は嫌だと思っても、すでに
 プラントは核を撃たれ、地球にはNジャマーが投下された。それを許せないと叫び、復讐に燃える
 強者によって、戦争を避けようと願う者は封じられている。困ったものさ」
「あ…で、でも…」
自分が弱者の味方をして、ザフトと戦っていると思っていたアスハは、自分が弱者を踏みにじっている
立場に立っていた事に気付き、顔を青ざめている。
「それで、少年。先程の質問の続きだが? どうやって勝ち負けを決める? すでに世界は冷静な判断を
 する者が、正論を言えない立場になってしまった。
 このルールの無い殺し合い……どうけりをつけるね?」
そうか……だからこそ……
「ルールが無いというのは正確じゃありませんね?」
「そうだ。厳密に言えばルールはある。しかし、誰がそれを守る? まさか、核が、Nジャマーが、
 つまり、民間人を犠牲にするやりかたがルール違反で無いとは思ってないだろ?
 だが使われた! そして、それを罰しようとしてる結果が今だ!」
そう、ルール違反をして、その相手を罰しようと相手を殺し合っている。それが今の戦争。
だからこそ、この人は……
「アンタは、ルールを見張る審判が必要だと言いたいのか?」
……ネオザフトを作ったんだ。厳格な規律と精神。理想の軍隊。敬礼は平和の象徴たるラクス・クライン
の名前を言わせる事で、戦場で起きやすい暴走や殺戮を封じた……まあ、やる方は恥ずかしいが。
「まあ、それが出来れば今回の問題もマシになるだろ?」
やはり、そうだったんだ。この人は、この時点で、すでにプランを持っていた。
「……でも、もっと良い方法がありますよ」
「ほう? それは?」
「もっと、根本的な問題。コーディネイターについて……コーディネイターは人のエゴ、欲望の
 産物です」
「……まあ、確かに」
……つまり、この人が俺の夢を……
「つまり、そんな物を生み出そうとしてる時点で、この世界の人間はおかしいんですよ。だったら…」
一時とは言え、争いの無い世界を生むデスティニープランを潰した張本人。
「…人を管理してしまった方が良い」

 
 
 

「人を管理?……正気かね?」
「はい。争いの要因になるのは主に貧困です。それを抑えるため、安定した職業を与え、同時に管理する。
 俺は、それくらい厳しくしないと、この先も争いは無くならないと思いますがね?」
「いくら管理したって争いは無くならんよ。少年は共産主義って知ってるか?」
「ええ。AD世紀に唱えられた社会体制ですね」
「じゃあ、それがどうなったかも知ってるな?」
「それを目指した国家は、全て崩壊しました。つまり、俺の案もそうなると?」
「そうだ。そもそも少年のアイディアは、実現さえ無理さ。今の争いから目を逸らしていないか?」
そう。確かに実現不可能に見える……でも、それを成そうと、いや、実現の一歩手前まで行った人を
俺は知っている。
「貴方はロゴスを知ってますか?」
「ロゴス?」
「彼らの表の顔は軍需を担う重工業会社の経営者たちで、ロゴスは利潤確保を目的とする裏の業界団体
 として結成されたものみたいですが、地球連合軍の実質的な権力を何らかの手段で手に入れてます。
 そして、同時にブルーコスモスの支援者です。ちなみにメンバーには国防産業連合理事でブルー
 コスモス盟主、ムルタ・アズラエルの名前があります」
「なん…だと?」
「そいつ等に生贄になってもらいます。つまり、今回の戦争は彼等が利益欲しさに、起こした事だと。
 まあ、完全に外れってわけでも無いですし、今日まで甘い汁を吸っていたんだ。構わんでしょ?」
「怖い事を言う少年だな」
「つまり、共通の敵を持つことでナチュラルとコーディネイターを共闘させる。これが第一段階。
 次に戦後の事ですが、ロゴスは別に悪の秘密結社じゃありません。それどころか、地球のほぼ全ての
 企業がロゴスに関与してます。存在しなければ地球圏の経済界は大混乱に陥り空前のインフレーション
 を招くでしょう」
現にそうなった。
「ですから、ここで新たな管理社会を築くチャンスがあるんです。遺伝子の適正を調べ、その人にあった
 職業に就ける。先程の共産主義の欠点は、そのシステム上、労働意欲の低下から始る貧困が主な
 原因です。この方法だとそれが防げます」
「どうやって、適正を調べるんだ? それにだ。例え、出来たとしても根本的な問題が残ってるな。
 それは人の欲望には限りが無いって事だ。少年も言っただろ。コーディネイターは欲望の産物だと。
 どれだけ、安定した生活を持つ世界を作ったところで、やがて不満は生じる」
「ですが、しばらくは持ちます」
「それは問題の先送りにすぎん。しかも、下手に管理が行き届いていると、溜まった欲望が爆発する
 ときが大きすぎる。その際の被害は歴史上に例を見ないものになるぞ」
「それでも、今は傷を癒し、人の業を見つめなおす時間が必要です」
「人は、そこまで謙虚にはなれんさ。君の発案で訪れるのは、かりそめの平和にすぎん。
 未来の人間に、災厄の種を押し付ける自覚はあるのか?」
「貴方の考えも、その場凌ぎにしかなりませんよ。審判だって腐敗する。だったら一時とは言え、
 争いが無くなる分マシだ!」
「そして自分達が一時の平和を享受したツケを未来に押し付けるのか!」
「未来が絶望的なんて決定して無いだろ! アンタの予想は悲観的だが、そうじゃない可能性だって
 残ってる。いや、そうなるためにも休息が必要なんだ!」
「状況は最悪を予想して動く…!……いや、止めようや少年。僕たちが、ここで議論しても意義のある
 問題じゃ無いだろ?」
「……そうですね。俺達は軍人です。政治家じゃ無い」
そう。どっちが良いかなんて結論は出ない問題。政治の問題は正解なんてありえないんだからさ。
結局のところは、どちらを取るかメリット、デメリットを踏まえ多数決で決めるか、あるいは力で
従わせるか。そして、議長は…俺は彼等に負けたんだ。
「なあ、少年……」
「なんです?」
「僕の元へ来ないか? 君はコーディネイターだろ?」
「部下になれと?」
「いや。同志だ」
アスハが驚いた顔で、こちらを見てる……心配するな。
「……残念ですが、お断りします。色んなしがらみがありますので」
「そうか……ま、今日の君は命の恩人だし、ここは戦場ではい。帰りたまえ。話せて楽しかったよ。
 よかったかどうかは分からんがねぇ。また戦場でな」
「そうですね。本当に……コーヒー、ご馳走様でした」
「ああ、もし、再び振舞う機会があったら、酸味は抑えよう」
「……ええ、もし、あれば、お願いします」
おそらく、その機会は来ないだろう。今度会うときは戦場だから。

 
 
 
 
 

 
 
 

「なあ、キラ……お前、凄いな」
「は?」
アークエンジェルへと戻る道を急いでいた俺に、後ろからトボトボと歩いていたアスハが、声をかける。
「……それに比べて、私は……はぁ~~」
「おい……溜息吐くと幸せが逃げるんじゃ無かったのか?」
お前の場合は、ただでさえ幸薄いんだから。
「ん~~」
いかん。何か知らんが、思いっきり落ち込んで元気が無い。
それに歩くペースが遅くて苛々するので、手を握って引っ張る。
「キラ?」
「急げ。多分、みんな心配してる」
「……うん……はぁ~~…」
また溜息かよ……慰めるのも面倒だし、無視しよう。
俺は再び、虎のことを考える。俺と彼のどっちが正しいのかなんか分からない。
だけど、彼が俺の夢を壊したのは間違いじゃ無かった。
燻っていたもの、ずっと疑問に思っていた事に答えは出た。
でも、それが分かったところで意味は無かった。
帰り際に副司令が言った通り、よかったかどうかは分からない。
所詮はデスティニープランは、あの時、ギルバート・デュランダルだからこそ行えた政策だ。
一応は職業の選択の自由はあったらしいが、才能が無いと言われた職業に固執する奴は少ない。
ロゴスを共通の敵にしたて破壊し、その後はデスティニープランによる新しい経済体制を根幹にした
管理社会。
エイプリール・フール・クライシスとブレイク・ザ・ワールドで混乱し、疲弊した社会を安定させる。
だが、すでにロゴス喪失の傷も癒えた状況では、余計な混乱を招くだけだ。
だから、俺が元の世界に戻っても、再び実行する気は無い。
今まで通り、クラインの猟犬として生きるだろう。副司令に従って……
だが、ここでは違う。八つ当たりかもしれないが、借りはきっちりと返す。
今度は俺が奴の夢を奪ってやる。今度の戦場で……アイツには抱いた夢と一緒に死んでもらう。
「戦場で……だ」

 
 
 

続く

 
 
 
 
 

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