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第14話_「理想と現実」

Last-modified: 2014-02-02 (日) 18:41:30
 
 
 

ノーマルスーツルームでイザークの怒号と共に、
ロッカーに何か大きなものがぶつかる音が響く。

 

「貴様!どういうつもりだ!
お前があそこで余計な真似をしなければ…!」
イザークは右の拳を握ったままで、
ロッカーに背を預けているアスランが
唇の端から血を流して、やや斜め下に視線を置いている。

 

「とんだ失態だぜ。
しかもあの傭兵を攻撃したんだって…?」
それを止めるでもなく辛辣(しんらつ)な言葉を、
ディアッカはアスランに浴びせていた。

 

あと一歩の所で《ストライク》を落とせたはずが、
シーマ隊やイザークを妨害したアスランの行為に
イザークは激昂し、追及していると
既に着替えを終えていたニコルとミゲルが
ヘリオポリスで負った怪我の具合も
だいぶん良くなったラスティと共に部屋に入って来た。
しかし部屋に入るなり彼らの視線に入ったのは
胸ぐらを掴み力一杯に腕を振り上げ
今にもアスランを殴りつけようとしていたイザークの姿だった。

 

「…何やってるんですか!?やめて下さいこんなところで!」
誰がどう見ても普通ではない光景を見て、
何が起きているのか察知したニコルは、
慌てた様子で床を蹴り体を泳がせてすぐさま止めに入る。

 

「あれだけの数でかかったんだぞ!
それで仕留められなかった…こんな屈辱があるか!」
イザークはニコルの制止を振り切るように、
火山の噴火の如く収まらない怒りを吐き出す。

 

「だからといって、
全てをアスランに押し付けても仕方ないでしょう!」
ニコルはとにかくこの場を収めようと声を荒げ、
「イザーク…!これ以上はやめろ!」
とラスティがイザークへ諌めるように続いて言う。

 

「うるさい!!俺を止めるな!」
「アスランを殴ったところで今度は
アイツらに勝てるわけじゃないんだぞイザーク!」
未だに収まらない怒りを収めようと、
ミゲルもイザークの体を抑えてイザークを説き伏せる。

 

「なに…!?お前ほどの男が
いつからそんな弱気になったミゲル!」
「俺達はザフトでも精鋭部隊だと自負してる。
だが《ストライク》1機をようやく落とした所で、
結果は変わらなかったと思うがな。」
ミゲルは敢えて客観的見地に立って説き伏せようとすると、
「確かにそうだな。
実際のところティターンズなんかと比べても、
エゥーゴは戦い慣れしてる。
悔しいけどもっと相手を知ることが必要だな。」
と、ディアッカがミゲルの言葉に同調した。

 

コーディネイターである彼らのポテンシャルは
間違いなく紛れもないエース級の腕だが、
経験に裏打ちされたエゥーゴの
操縦技術や戦場における判断力は想像以上で、
彼らに勝つ為には相手の実力を最大限認め、
戦闘データを検証してしっかりと準備しなければ
二の轍を踏む事になるのは明白だった。
ミゲルやディアッカはクワトロと対峙して、
説明のつかない“何か”見えない力のようなものと、
味わった事のない戦慄をあの戦場で肌で感じていたのだ。

 

実力を認めている彼らの言葉が、
信用に足るものと分かっているイザークは、
少し落ち着きを取り戻したのか舌打ちをしてから、
体を抑えるミゲルを振り払い、
アスランを鋭い眼つきで一瞥してから、
ノーマルスーツルームを飛び出していった。

 

「アスラン。貴方らしくないとは僕も思います…でも…」
「今は放っておいてくれないか、ニコル……。」
途端に静かになった部屋でニコルはアスランへ
話しかけ何かを言おうとするも、
それを言いきる事もなくアスランが言葉を被せ
ニコルを突き放すような態度を見せる。

 

「ニコル、俺達じゃそいつから理由を聞けないだろ。
本人がそう言うなら今は放っておこうぜ。」
ディアッカがアスランを見ながら、
皮肉っぽく言うとニコルは下を俯いた。

 

「アスラン、クルーゼ隊長が呼んでるぞ。早く着替えて行け。」
ミゲルは口元の血を拭うアスランに言伝だけ伝えると、
ノーマルスーツルームをラスティと共に出て行ったーーー。

 
 

着替えを終えたアスランは赤服を身に纏い
クルーゼのいる司令室の前に立って緊張の面持ちでいた。

 

「アスラン・ザラ、出頭致しました!」
「…あぁ。入りたまえ。」
《ヴェサリウス》の司令室の扉の向こうから
アスランの畏(かしこ)まった声が響くと、
クルーゼは手元の通信モニターのスイッチを切って
部屋に入るようアスランへ施すと、
扉が横に開きアスランが入ると敬礼をしてみせ、
手を後ろに組んで直立していた。

 

「色々とバタバタしていてな。
君と話すのが遅れてしまった。」
「はっ…!先の戦闘では、申し訳ありませんでした…。」
「話を詳しく聞いておきたい。
あまりにも君らしからぬ行動だからな…アスラン。」
先程の戦闘での行為についての話をする為に
クルーゼはアスランを呼びつけていた。
ちなみにイザークはアデスから隊長が話す前に
余計な事をするなとお叱りを受けたようだった。
クルーゼもクルーゼで、
アスランの思いもよらぬ行為で、
シーマの怒りを冷ますのに少し苦労したようだが、
狡猾なクルーゼは上手い事その場を収めたようだ。

 

「ミゲルからの報告でヘリオポリス以来、
君の様子がどうもおかしいと聞いていてな。」
クルーゼは冷静な口調でアスランへ、
あのような行動に走った経緯を伺うと、
少しの間、部屋の中が沈黙に包まれる。
そしてクルーゼが何かを言おうとした時に
アスランが意を決したように口を開ける。

 

「申し訳ありません…
思いもかけぬことに動揺し…報告ができませんでした……。
《ストライク》…あれに乗っているのはキラ・ヤマト。
月のローレンツ幼年学校で一緒だった
幼馴染のコーディネイターです。」
「ほぉ…」
アスランは正直に事の経緯を話し始めた。
それを聞いたクルーゼは心の中は
どす黒い何かが広がって行っていた。
アスランとキラの悲劇的な再開をまるで楽しむかのように、
しかしマスクの下に隠されたクルーゼの表情からは
そんな事を読み取るのは難しかった。

 

「まさか…あのような場で再会するとは思わず…
私はどうしても確かめたくて…」
「…そうか。戦争とは皮肉なものだ。
君の動揺も仕方あるまい…仲の良い友人だったのだろう?」
「…はい。」
アスランは拳を握り辛そうな表情を見せる。
マスクの下では冷酷な笑みを浮かべ、
さも彼を心の底から気遣うように装っている。
そして彼は一つ面白い事をしようと何かを思いつく。

「分かった。そういうことなら我が隊に君を外そう。」
彼の言葉にアスランは思わず「え!?」と声を上げ、
いつも情け容赦無い命令を下す隊長にしては
随分とらしくないと一瞬考える。

 

「そんな相手に対して銃は向けられまい。
私も君にそんなことはさせたくないからな…
本国防衛艦隊に転属させるように頼んでおこう。」
「いえ!隊長、それは…!」
「君のかつての友人でも、いま敵なら我らは討たねばならん。
それは分かってもらえると思うが…」
クルーゼのさらに意外な言葉に迷いが生じていた。
だがそれは正論なのかもしれないと考えるも
自分以外の誰かがキラを殺そうとする事に心臓の鼓動は高鳴る。

 

「…キラは!…あいつは…
ナチュラルにいいように使われているんです!
優秀だけど、ボーっとして…
お人好しだから、そのことにも気づいてなくて…
だから…彼を説得したかったんです…」
「君の気持ちは分かる。
だが結果、彼は聞き入れなかったのだろう?」
アスランは必死にクルーゼに理解を求めるように
まくし立てるが、全てを言い終えるのを待たずして
クルーゼは厳しい現場と結果をアスランへ突き付ける。

 

クルーゼの言葉はカウンターのパンチのように
彼の言葉に歯止めをかけると、
途端に意気消沈したかのように下を俯き「…はい。」
と、やや消え入りそうな声で返した。

 

「君に彼を撃つ覚悟は出来ているのかいないのか…
それを確かめたいんだよアスラン。
君はザフトの赤服を着ている軍人なのだぞ?」
クルーゼはそう言って、俯くアスランに
とどめとばかりに追い討ちをかけるように問うた。
アスランはクルーゼの問いにすぐには答えられず、
暫くの沈黙が二人の間を彷徨う。

 

「すぐに返事をしろとは言わんよ。
君も知ってのとおり、我々は本国へ戻るからな。」
沈黙を破るようにクルーゼが静かに口を開き、
一見、考える時間を与えてくれるような口振りだが
その実、答えは一つしかないと言うのは明白だった。

 

「…は。お心遣い感謝します…。」
アスランはただただこのくらいの言葉しか返せない状態だった。
しかしあの時のキラと交わした言葉の数々から考えても
もう答えは出ているのも事実で、
その理想と現実の狭間でアスランは苦しんでいた。
話を終えるとアスランは部屋を後にして行ったのだった。

 

 
 

カミーユは応接室のソファに座り顔を俯かせていた。
その席にはクワトロとレコアも座っており、
カミーユの隣に座るレコアは、
カミーユの肩を抱えて介抱しながら口を開いた。

 

「誰のせいでもないわ。あそこは戦場だったのよ。」
「僕が飛び出したりなんかしなければ…」
レコアは彼のせいではないと言うものの、
自責の念にかられているカミーユの耳には入らない様子だった。

 

あの時《Mk-?》に乗って、
衝動的な行動を起こさなければ、
おふくろは死なずにすんだんじやないのか…ーーー?
と、戦闘によって張り詰めていた気持ちが解放されると、
目に焼き付いた残酷な光景だけが途端に蘇っていた。

 

「君が飛び出さなくてもいずれ
ティターンズは君の母上を殺したはずだ。」
いつもクールなクワトロだが彼も彼なりに
カミーユを気にかけていた。
確かにカミーユの軽率な行動が引き起こした
悲しい結果とは言うものの、このような
作戦を立案するティターンズという組織に問題があると
俯き続けるカミーユに言い聞かせている。

 

その時、「失礼します。」と
扉の向こうから透き通る女性の声がして応接室の扉が開くと、
ハヤイー軍曹に連れられてエマが部屋に入って来た。
二人は部屋に入ると扉の前にハヤイーが直立して
彼女が逃げないように出入り口を塞いで立ち止まり、
エマはそれをチラと軽く目を配らせた。

 

「エマ中尉。サイズは大丈夫だったみたいね。」
「ありがとう。
現地徴用兵が希望だけれど今は保護観察の身だから。」
エメラルドグリーンのエゥーゴ用の軍服に着替えた
エマにレコアが少し緊張から解れたような表情で言うと、
エマは少し大きめなバストが強調されている服に
若干の違和感を感じつつもリラックスした様子で
レコアの言葉に受け答えていた。

 

エマの処遇を巡ってブレックスはよくよく悩んだが、
やはり先ずは数日間の保護観察が妥当と判断したのだった。
これから激化して行くであろうティターンズとの戦いの中で
悪行の限りを尽くしているティターンズに耐えられなくなる
ティターンズ兵は今後増えて行く事を鑑(かんが)みても、
エゥーゴという組織をまとめ上げる将たる者として、
この判断は道理至極と言えるものであった。

 

「今はいい。また中尉が移動するときは呼ぶ。」クワトロが、
扉の前に直立しているハヤイーに部屋から出るよう施すと
「はっ。」と、言って応接室の扉を開いて部屋を後にした。

 

クワトロはエマと話をする為にここへ呼んだが、
当のエマ本人もクワトロと話がしたいと考えていた。
エマは部屋を出て行くハヤイーを見てから、
視線をクワトロの方へ向き直すと、
クワトロが彼女の目をじっと見ていた。
サングラスに隠れている彼の目はどこを見ているのか。
一見すると分からないが、
エマはすぐに自分を見ていると察知して口を開く。

 

「大尉は、まだ私がスパイだとお思いですか?」
クワトロの顔色をうかがうような素ぶりで彼女は問うと、
「君のご両親が地球にお住まいならば、
人質に取られているようなものだからな。
君がティターンズに戻る可能性はゼロではない。」
と、ぴしゃりと言い放つ。

 

エマは内心クワトロが働きかけて、
すぐに保護観察を取り消してくれるのではないかと
期待をしていたものの、クワトロの口からは
期待をするような言葉は出てこなかった。
クワトロはエマを戦闘にまで参加させた事から、
彼女のエゥーゴへの参加を、すぐにでも
認めてやっても良いのでは?と考えたものの、
不用意に全てを認めるわけにもいかないな…と思い、
ブレックスの決定に口を挟む事はなかった。

 

実際ブレックスはエゥーゴの誰よりもクワトロを信頼しており、
彼に意見を求め、彼の進言を受け入れたりと、
彼の存在なくしてはエゥーゴは成り立たない。
とまで考えていたのは事実だった。

 

軍という絶対的組織に属していた彼女も
期待半分といったところではあったが、
毅然とした口調で返答してきたクワトロの言葉を聞くと、
「それが現実的な見方ですね。」
と返して納得している様子だった。

 

「そうだ。今も母親の命を盾に敵が追ってきて、
その敵と戦ってきた少年がここにいる。」
カミーユに視線を送って先の出来事にたとえながら、
エマ中尉の両親も同じ手口で巻き込まれる事もある…
と、言うような口振りでエマに伝えていた。

 

「両親は志の高い人達です。
私のやることを理解して許してくれると思います。」
軍人一家にありがちな固定観念に捉われた育て方をせずに、
旧態依然の連邦政府、連邦軍に危機感を抱いていた両親は
エマに柔軟な思考を持つよう徹底的に教育していた。

 

旧世紀から続く名家の出である軍人は数多くいる。
しかしながら紆余曲折を得て突入した、
U.C.(ユニバーサルセンチュリー)への改暦以来、
永らく続いた統一政府は凋落の一途を辿り、
それが今の地球至上主義者などという、
レイシストを生む結果ともなった。
しかし彼女の両親のような教えを貫き通す家系は
今の軍閥(ぐんばつ)の時代において非常に稀であり、
代々続く家を守る為に志を捨てる家も少なくないが、
彼女をエゥーゴ参加へと駆り立てたのは、
むしろこの時代において必然だったのかもしれない。

 

「…いいですね…素敵だ……」

 

二人の会話を横で聞いていたカミーユが
俯いたままの状態で言葉を発すると、
途端に部屋の空気が重くなり
「エマ中尉のように、真実親をやっている大人を親に持てて。」
と、先程まで押し黙っていたカミーユが言葉を続けていた。

 

「グリーンノアにいる父は、
母が死んだって聞けばきっと喜びますよ…。」
どこを見るでもなく視線を泳がせ、
笑いながら言うカミーユの脳裏に浮かんだのは、
肉欲に溺れた父の顔だったーーー。

 

「カミーユ…そんな事…」
エマが苦しいフォローをしようと何かを言おうとすると、
カミーユが声を荒げ両の拳を握ってテーブルを叩き、
声を荒げながらエマの言葉に被せる。
「いけませんか!?こんなこと言って!
でもね、僕は両親に親をやって欲しかったんですよ!
そう言っちゃいけないんですか子供が!!
父は前から愛人を作っていたんです!!
仕事が上手くいかなくなっても余計に酒と愛人に溺れて…
母は父が愛人を作っていたって仕事で満足しちゃって…!
そんな父を見向きもしなかったんです!
軍の仕事ってそんなに大切なんですか!?
エゥーゴだ…ティターンズだって…
もうそんなことじゃないんです!
子供が無視されちゃ堪んないんですよ。」
軍の技術者であった両親は仕事に没頭し、
常に家をあけて充分な愛情を受ける事ができなかった。
果てには夫婦関係の悪化に板挟みになったカミーユの
長年の蓄積された辛く、孤独な思いが一気に噴出した。
何か大きな事を成し遂げて、
いつかは親を自分へ振り向かせてやろうと思っていたが、
そんな相手がいなくなった事で、
哀しみと孤独感に襲われていたのだった。

 

カミーユの主張を一言一句聞いていたエマや
レコアは彼の苦悩を肌で感じ、部屋の中が
一瞬静まり返るもクワトロが静かに口を開けた。
「良くわかる話だが…」
「死んだ親のことは言うなというのですか!?」
「そうだ。
そして、次の世代の子供達のための
世作りをしなくてはならない。」

 

傷付くカミーユに気遣う様子もなく淡々と答える。
傷付いて泣いている場合ではないという事を
クワトロは敢えてカミーユに伝えたかった。
どんな事があろうと前を向いて生きるしか無いのだと、
本当の彼という存在が持つ数奇で壮絶な過去が、
クワトロ・バジーナという仮初めの男に言わせていた。

 

「僕にそんな責任があるわけないでしょう?」
「いや…あるな。」
「大尉は僕の何なんです…?
目の前で二度も親を殺された僕に…
何かを言える権利を持つ人なんていやしませんよ!」
感受性の強いカミーユは落ち着きを失っており、
クワトロの真意を窺い知る事が出来なかった。
彼の言葉を理解出来ず余計に混乱する頭が
全てを拒絶しているかのようだった。

 

「…シャア・アズナブルという人のことを知ってるかな?」
一瞬間を置いて、クワトロの口から言い放たれた言葉に
エマとレコアがぴくりと反応していた。
カミーユも同様に彼の言葉に反応を示した。

 

「…?尊敬してますよ。
あの人は両親の苦労を一身に背負って、
ザビ家を倒そうとした人ですから。
でも組織に一人で対抗しようとして敗れた馬鹿な人です。」
「正確な評論だな。
が、その言葉からすると
その人の言うことなら聞けそうだな。」
カミーユらしい独特の口振りで、
落ち着いてカミーユの言葉にクワトロは
耳を貸して答えるとクワトロの口角が僅かに上がる。

 

「クワトロ大尉…。」
自分はシャア・アズナブルであるという事を
暗に示唆しているような口振りにレコアは驚いていた。
エマもそれは同じだったようで、
言い表すのが難しい『何か』をエマは彼に感じていたからだ。
しかし、カミーユはそれを気にする様子も無かった。
というよりも、悲劇のヒーローとなった自分に
少し酔いしれているのかもしれないと思う程に、
何を言っても反発していた。
そんなカミーユを気にも止めずに、
まるで自分に言い聞かせるようにクワトロは続ける。
「その人はカミーユ君の立場とよく似ている。
彼は個人的な感情を吐き出すことが事態を突破する上で
一番重要なことではないのかと感じたのだ。」

 

「聞けませんね、僕にとってはもうエゥーゴも
ティターンズも関係ないって言ったでしょう!?」
カミーユはそう言い放つと、勢い良く立ち上がり
目に涙を浮かべて部屋を飛び出し、
扉が開くと表で待っていたハヤイーが驚いて、
走り去って行くカミーユの背中を見ていた。

 

「…あんなことを持ち出して彼を
説得するなんて上手じゃありませんね。」
「そうだな…俗人はついつい
そういう事を言いたくなってしまう嫌な癖があるのさ。」
レコアの言葉にクワトロ自身、
柄にもなくカミーユに入れ込んでおり、
少々感情的になっている事に気付いたが、
ニュータイプの革新を夢見るクワトロにとって
カミーユ・ビダンという少年はそれほどまでに
期待を寄せるほどに価値のある存在だったのだ。

 

 
 

先の戦闘において初めての空間戦闘というものを体感して
キラは《ストライク》の調整をようやく終わらせた。
ヘリオポリスでの戦闘と違い、
完全なる無重力とではまるで感覚が違っていて
複雑化していたOSをさらに変えて、
空間戦闘向きの数値へと調整していたのだった。
これをすんなりとやれるキラを見ていたマードックは、
ただ呆気に取られていた様子だった。
その調整がちょうど終わった頃に、
ブリッジから出撃後に必要な報告書を提出するように施された。
キラはそんな物が必要なのかと思い、少々面倒だったが
報告書のまとめ方をムウに教えてもらって
書き終えた書類を手にブリッジへ向かっていた。

 

無重力ブロックであるブリッジへ繋がるエレベーター近くの
連絡通路をリフトグリップを握って進み、
後ろから聞き慣れた声がして振り返ると
そこにはトールらカトーゼミの面々がいた。

 

「あ…!トール、みんな。」
「馬鹿野郎!急に飛び出して戦いに行くなんてよぉ!」
会うなりいきなりトールがキラに叫んで床を軽く蹴り、
体を直進させて近付いてキラの肩口を手で押さえると、
慣性で前に進もうとする自分の体を止める。

 

「ご、ごめん…」
キラの気弱な性格なのか反射的に平謝りをするも、
トール達が着ている服装に目が行くと
「…どうしたの?その格好?」
と聞いた。

 

トール達が着ているのは、
紛れもない連邦軍の制服だった。
キラの着ている少年兵用の水色の軍服に、
ミリアリアはピンク色の軍服を身に纏っていた。
面々の中にフレイの姿だけが無かったが、
とにかく何故こんな格好をしているのかが気になった。

 

「僕達も艦の仕事を手伝おうかと思ってな。」
キラの問いにサイがいの一番に答え、
「ブリッジに入るなら軍服着ろってさ。」
カズイが少し緊張しながらも、
自分の着ている軍服をさすりながら答えた。
キラは二人の言葉に慌てた様子で、
「で、でも危ないよ…!」と言うと、
「それはこっちの台詞よキラ!私達びっくりしたんだから。」
そう言ってミリアリアが可愛くむくれた表情を見せて
腰に手を当てながら片方の手で、
キラに指差すジェスチャーを見せると、
キラはくぐもった声で「ご、ごめん…ミリアリア。」
と言って、まるで染み付いた口癖のように謝っていた。

 

どうやらサイ達は戦闘の後にしばらくしてから
ブリッジに押し入ってラミアスに艦橋要因として
手伝わせて欲しいと懇願していたのだった。
報告書をまとめてブリッジにいたロベルトからは
すぐに反対されたようだが、
アナハイム高専に次ぐ名門校であるモルゲンレーテ高専の
各分野における機械工学を専攻していた彼らは、
確かに艦橋要因として役に立つ知識も持っていた。
それを必死に売り込んだサイ達の押しに根負けしたのか
ラミアスがブレックスの指示を仰いだところ、
予てから《アークエンジェル》の人員不足を懸念していた為、
彼らを志願兵とする処置をとった。
しかもブレックスは、もし《アークエンジェル》艦内に、
協力したいという者が今後出てきたら、
その判断は艦長であるラミアスに一任するとまで言った。
一見すると無責任とも言えるように感じるが、
ブレックスも彼らの人となりを僅かでも知っての判断だった。

 

地上でエゥーゴと連携を密に取っている
反地球連邦組織の一つに『カラバ』という組織がある。
そこでは民間人も戦いに参加しているという事実もある。
今回はその事例に沿って…といったスタンスであり、
ティターンズから鞍替えしたエマ・シーン中尉とは
状況は違うという考えがあったようだ。
但し民間人が除隊を希望した場合はそれを拒む事なく
即座に受理し、然るべき場所と然るべき時において
退艦させる事を必須事項として許可を出した。
《アーガマ》のブリッジでブレックスとラミアスの
一連のやり取りを聞いていたブライトは、
一年戦争時の自分と今のラミアス。
そして《アークエンジェル》の白亜の船体を、
《ホワイトベース》と重ね合わせて、
どこか懐かしさを感じ、共に戦った盟友を思い出していた。

 

「でも…なんで…?」
キラは言葉足らずに一言でみんなに問いかける。
「実はさ、俺達フラガ大尉に直接聞いたんだよ…。」
「…あのカプセルにいた人って人質で
カミーユさんのお母さんだったんだろ…?」
と、トールとサイは途端に曇った表情で、キラに質問を返した。

 

「うん…僕もさっきロベルト中尉から聞いたよ…。」
キラも思い出したくないような、
あの残酷な光景がフラッシュバックしていた。
《アークエンジェル》に身をよせる民間人の数人は
トイレに駆け足で向かって嘔吐する程であり
暫くはあの光景は目に焼き付いて離れずに、
魘(うな)される日を送るのは間違いなかった。
サイ達は戦闘を終え帰艦したムウに、
その事を聞いたようでムウは答えないようにしていたが、
隠すような事でもないかと思い、ありまま、
あの時起きた事を彼らに話をしていたようだ。

 

「私もみんなも…ティターンズのあんなやり方に
黙ってられないって思っちゃってさ…。」
「そういう事だよキラ。
飛び出して行ったお前と同じようなもんだって。」
ミリアリアとトールがいつになく真剣な眼差しでキラに言った。
その二人の真剣な言葉に呼応するかのように
「だからやれる事をやろうってみんなで決めたんだ。」
「キラにだけ怖い思いはさせられないからね…。」
サイとカズイも自分を奮い立たせるかのように
キラに自分達の思いを伝えた。

 

するとブリッジに繋がるエレベーターを降りてきた
チャンドラ?世がサイ達を見つけるなり
「こら!お前達こんな所で油売ってたのか!?
着替えが終わったんなら早くブリッジに来い!」
と、肩を強張らせるような歩き方で近付き声を張り上げた。

 

「あ、もう行かないと。」
「キラもブリッジに行くんでしょ?」
サイがチャンドラの言葉に従うように体を直進させ、
ミリアリアがキラに聞いて
「うん。」と一言だけ頷いて返すと、
チャンドラのいる方へ皆で歩き出し、
小さなエレベーターに乗り込んでブリッジへと向かった。

 

急造ではあるものの、
ブリッジはようやく必要最低限の頭数を確保する事が出来た。
交代要員がいない事は仕方が無いという事ではあったが。
ミリアリアはモビルスーツ管制オペレーターで、
サイは索敵担当オペレーターとなった。
航行管理をする為のメインブリッジでは
カズイがレフトオペレーター担当となり、
トールは副操舵士を担当する事になった。

 

階級についてはカミーユと同じく、
志願兵扱いである為にまだ与えられていないが
モビルスーツパイロットであるキラは准尉。
サイ達ブリッジ担当は二等兵からの階級が予定されていた。

 

彼らは意気揚々とやる気に満ちていたものの、
これから先に待ちうける様々な困難と戦争という現実を
まだ知る由もないのだった。

 

 
 

「カミーユ…!!カミーユったら!」
「出て行ってくれ…一人にして欲しいんだ。」
カミーユは薄暗い自室のベッドの布団に被さって
体を揺するファの呼び掛けに応じず、
振り向こうともしていなかった。

 

「カミーユを放って一人になんて出来ない!」
応じないカミーユに尚も食い下がっていると
目の前でカミーユ勢いよく体を起こす。

 

「ホントにいいってば!!
親を無くした僕の気持ちなんか分かるわけないだろ!?
だから出て行ってくれよ!」
体を起こしてカミーユはファに対して声を荒げて
突き放す言葉を浴びせ、再び布団に潜ってそっぽを向いた。

 

暫くの沈黙が続いたが、ファはつまり気味の声で、
唐突にカミーユに語りかける。
「ねぇカミーユ。私ね…ブレックス准将から聞いたの…
捕まったお母さんとお父さんがどうなったか聞いたのよ…?」

 

目を閉じてそっぽを向いていたカミーユは、
ピクリと反応して目を開けると体を起こして、
体ごとファの方へと向けると、ファは大粒の涙を流していた。

 

「……殺されたの…カミーユを庇って…」
ファの口から出た言葉は衝撃的な事実だった。
カミーユの心臓の鼓動は早くなり、
体の芯が熱を帯びて行くのを感じていた。

 

「ティターンズからどんなに追及されても…
どんな些細な事でも何も答えなかったって…。
お母さんとお父さん…カミーユの事が大好きだったから…
だから何も言わなかったのよ…!!」
ファは溢れ出る涙を拭わずに声を張り上げていた。
ブライトはブレックスに嘆願して、
グリプスに潜む諜報部を使って、ファの両親の安否を探らせていたのだが、
その結果はあまりにも残酷だった。
ティターンズはユイリィ夫妻を幇助犯だとして、
反逆罪と見なされ裁判にかけられる事なく、
民間人であるにも関わらず銃殺刑に処されたのだった。

 

仕事にのめり込む母や女に狂っていた父の代わりに、
ユイリィ夫妻は愛娘の幼馴染である
カミーユの面倒をよく見てくれていた。
彼女の言葉を聞いたカミーユは何かの冗談だと思い、
「…う、嘘だろう?…」
と、言って動揺を隠せないでいた。
しかしファは、「嘘じゃない…!」
と叫んで動揺するカミーユの言葉に被せる。

 

自分がティターンズのジェリド中尉に殴りかかり
騒ぎに乗じて《ガンダムMk-?》に乗り込んだ挙句、
エゥーゴに参加した自分を彼女は憎んでいるんじゃないか?
そう感じたカミーユは
「僕が…憎くないのかい?
僕がガンダムに乗ったりしなかったら…」
と言って、泣き崩れるファへ恐る恐る問うた。
「……憎くなんてないわ…私は誰も憎まない…!
でもカミーユがそんなんじゃ私は
どうしたらいいのか分からないのよ!!
カミーユの馬鹿!」
ファは感情のままにそう言い放つと、
部屋から飛び出して行った。

 

カミーユは彼女を追いかけるでもなく、
悲劇のヒーロー然としていた己の情けなさに嘆いた…。

 

 
 

~アメリカ・シアトル~

 

旧アメリカ合衆国で唯一
旧世紀時代の戦争被害に合わずに当時の文化の面影を残す
このシアトルの市街地の裏路地には、
ひっそと佇むバーがあった。
昼間とあって準備中となっているものの、
スーツを着た男が迷いなく店の扉を開き、
カウンターにいるマスターと目が合う。
マスターは厨房の奥へと進むように首をくいと動かして
合図をすると、男は黙って頷いて歩き出して厨房に入ると
厨房の奥には突き当たりに頑丈そうな鉄扉がある。
その扉は見れば誰もが大型冷蔵庫か何かの扉だと答えるはずだ。
しかし男はその扉を開けると眼前に広がるのは
まさに部屋と呼ぶべきそれがあった。
薄暗い部屋には真ん中にテーブルとソファ。
壁には無数のモニターがあり、
このバーの周囲500メートル以内の
監視カメラの映像が映し出されていた。
そして男は一人ソファに座っていた若い男に声をかけた。

 

「ようジェス、待たせたな。」
「あ、カイさん。
いやぁ、忙しいのに呼んじまってすいません。」
怪しい空気のバーに怪しい部屋。
そんな場に似つかわしくない
気さくな挨拶を交わしたのはカイ・シデンと、
若手の戦場カメラマン、ジェス・リブルだった。

 

「全くだ。で、大スクープってのは何だ?
俺を呼び出したからには飛び切りのネタなんだろ?」
カイ・シデンはジェス・リブルからの連絡を受けて、
ジャブロー行きの日程をずらして彼との接触を図った。
ジェス電話やメールでは話せない内容だと言って
何か大きなネタを掴んだと察知したカイは
ジェスへこの店で待ち合わせるように指示を出していたのだ。
カイは早速、ジェスに呼び出した理由に値する
特上のネタなのかどうか皮肉っぽい口調で聞いた。

 

「ネタとかスクープとか…そんな生易しいモンじゃないですよ。」
そう一言返した陽気で明るい性格らしい
ジェス・リブルの顔が途端に険しくなり
「…何?勿体ぶらずに早く見せろ。」
と、カイはどこか殺気立った空気を肌で感じて
同様に表情が鋭くなりジェスへ要求する。

 

「…これです。」
ジェスが胸のポケットから取り出したのは
コピー用のデータディスクだった。
それをテーブルに置いてあるパソコンの
ディスクドライブにセットしてディスクを読み込ませ、
数秒の後にパソコンモニターに映った映像を目にして
思わず身を乗り出して絶句した。
というよりも異常なほどの怒りを感じていた。
その怒りを感じた対象はティターンズに他ならない。
映像には『30バンチ事件』に関する重要な証拠だった。
カイのような反ティターンズ派のジャーナリスト達には
『30バンチ事件』の概要は知っていたものの、
映像として残っている物を見るのは当然初めてだった。
ティターンズが秘匿していたと思われるこの映像は
ティターンズの最高機密である事は明らかだった。

 

「…これはどこで手に入れた?」
映像を最後まで見るまでもなく、
カイがジェスに聞くと、
「……俺の知り合いの戦場カメラマンの
知り合いが持っていたようです。
持ち主は紛争地帯で死んだらしいんですが…」
と、ジェスは映像を見ながら問いに答え、さらに続ける
「実はこれはコピーなんです。
元の記録媒体は遺品と一緒に息子に渡したらしいです。
息子は成人したばかりの連邦兵だと聞いてます。」

 

それを聞いたカイは、
腕を組んで何か考え込み「まずいな…」と言うと、
「…何がです?」
ジェスが怪訝な表情で聞いた。

 

「俺は予定通りに南米へ向かうが、
お前はそいつの居場所を慎重に探ってくれ。」
「身辺を?どういう事です?」
カイはいきなりジェスへ指示をしだすと、
ジェスは何が何だか分からないというような顔で
カイの考えが何かのかを問うた。

 

「記録媒体を持ってるその息子はこれを見たかもしれん。
要するに狙われてる可能性があるって事だ。」
「狙われる…?…ティターンズにですか?」
ジェスの顔が一気に緊張に包まれる。
カイは「そうだ。」と言って頷くと、
「そいつは今、世間に公表しちゃまずいモンだ。
お前も下手に見せびらかしたりメディアに流すなよ?
確実に命を狙われるからな。」
と、ジェスに警告を促すようにまくし立てる。
何故、公表してはいけないのか?
と頭の中でジェスは考えたが、
確かにティターンズは連邦軍を掌握しており、
メディアすらも味方に付けている状態だと、
この情報も表では戯言だとして所詮アングラ物扱いされ、
その裏ではカイの言うようにティターンズが
間違いなく秘密を知った者を消しにかかる事は
想像に難しくなかった。

 

「嫌な予感が当たらなきゃ良いがな…
店から出た時点で周りに神経を張り巡らせておけ。」
「…分かりました。」
カイの緊張感の伝わる空気に、
ジェスは軽く生唾を飲んで返事を返しつつ、
やはり一年戦争の英雄であるカイ・シデンの
言い知れぬ凄みというものを感じていた。

 

カイはジャブローへと向かう為、
ジェスと行動を共にする事は難しかった。
その代わりに腕利きの用心棒を用意してくれるらしく
3日後にこの場所と時間で合流してから動くように指示をした。
ジェスはくれぐれも慎重に動くように念を押すように言われた。
こちらの動きが察知されれば、
ティターンズに引っ張られる危険があると言って
ジェスに警告して店を後にしたのだったーーー。

 
 
 

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