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第3話_「偽りの平和」

Last-modified: 2014-03-31 (月) 10:48:34
 
 
 

サイド7(グリーンオアシス)
オーブ首長国コロニー・ヘリオポリス

 

「予定の時間まであとどれくらいだ?」
「2時間後です。」
「先に食事を済ませばちょうど良い時間ですね。」

 

ヘリオポリスの市街地にあるエレカの乗車場に並ぶブレックスとヘンケン、
クワトロがこのコロニーに駐留する連邦の部隊と
コンタクトを取るための時間を確認していた。

 

その後ろでは三人の女子学生が楽しそうに話していた。
クワトロはブレックスの護衛として付き添っていた為、
周囲に気を配っていると女子学生達の知り合いらしい男子学生二人と
女子学生一人がやって来た。
そのうちの男子学生と目が合った気がしたが、
エレカが到着した為すぐにそちらへ向き直し、
エレカに乗り込んで市街地の中心区へと向かう。

 

「フレイったら、サイ・アーガイルに手紙貰ったのよー。」
「えっ!」

 

フレイと呼ばれる少女と一緒にいた少女がそう言うと一人の少年が驚く。
彼は近くの工業カレッジに通う学生キラ・ヤマト。
一見、気の弱そうな少年だが、
長めの前髪に隠れ気味のその顔は整っており、
かなりの美形というのが伺い知れる。
彼女達はキラと同じ工業カレッジの学生達で同級生だった。
キラはこの中の話題の的であるフレイ・アルスターにほのかな想いを寄せていたが、
奥手な彼は中々彼女にアプローチ出来ずにいた。
それどころか、親友のサイ・アーガイルに先を越されたというのだ。

 

「そうなのフレイ?」
「あんた達っ!もういい加減にっ…」

 

キラと一緒にいたトール・ケーニヒの恋人、
ミリアリア・ハウがフレイにそう聞くと、
フレイは良いネタにされていた事に腹を立てたのか
大きな声で何かを言おうとしたところ、
後ろにいた黒髪のショートカットの一人の女性が咳払いをした。

 

「んっんーん…」

 

その場にいた全員が静まり返り、気まずそうにあっと声を出す。

 

「乗らないのなら先によろしい?」
「…あっ!すいませんどうぞ!」

 

女性がそういうと、
トール・ケーニヒが慌てて彼女と連れと思われる二人の男性に道を譲り、
いつの間にか到着していたエレカに乗り込み発車していった。

 

「…っもう!知らないから!行くわよ!」
「ああん、待ってよ~。」

 

見ず知らずの人間に恥かしい所を見られたと思ったフレイはそそくさと
次に到着したエレカに乗り友人二人もそれを追うように
フレイの乗ったエレカに乗り、キラ達はその場を去る彼女達を見送った。

 

「手紙だってさ、サイが。」
「えっ…」

 

周りに自分達だけになると、
トールが肘でキラを突つきながらそう言うと、
キラは顔を赤くして動揺する。

 

「意外だなぁ、フレイ・アルスターとは。
けど強敵だよ~これは。キラ・ヤマト君~」
「えっへっへ~」
「ぼ…僕は別にっ!」

 

キラへ追い打ちをかけるようにトールが言うと
トールにひっつくミリアリアも
悪戯心が働いたのか茶化すように笑った。

 
 

「なんとも平和なことだ、まったく…」
「あぁ、さっきの学生の事ですか。」
「あのぐらいの歳でもう前線に出る者もいるというのに…」
「そうですね。特にあのアムロ・レイに憧れて
軍に入る少年は多いですからね。」

 

工業区を目指して走る一台のエレカ。
そのエレカの後部座席に座る連邦軍第8機動艦隊のナタル・バジルール中尉。
先ほどのキラやフレイ達の会話を聞いていた女性達だった。
彼らの事を思い出してナタルは呟くと、
一緒にいた助手席に座るアーノルド・ノイマン中尉が
彼女の言葉にそう応えていた。

 
 
 

サイド7・ヘリオポリス周辺宙域

 

ヘリオポリス周辺宙域に浮かぶ二隻の艦艇
その内の一隻、ザフト軍・ナスカ級高速戦闘艦《ヴェサリウス》

 

《ヴェサリウス》は隕石に錨を打ち付け
息を潜めるように停泊していた。
そのブリッジの艦長席に座る
フレドリック・アデスは硬い表情をしていた。
この部隊を指揮する隊長のラウ・ル・クルーゼは
静かに立ち上がりアデスへ言葉をかける。

 

「そう難しい顔をするな、アデス。」
「はっ、いえしかし…
評議会からの返答を待ってからでも遅くはないので…」

 

そう言いかけたアデスの言葉に、
遅いな…と言うとクルーゼが続ける。

 

「私の勘がそう告げている…ここで見過ごさばその代価、
いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ。
連邦軍の新型機動兵器、あそこから運び出される前に奪取する。」

 

彼らザフトの目的は、ヘリオポリスで開発された
『GAT-X計画』のモビルスーツの奪取にあった。
オーブには戦争から逃れようと亡命したコーディネイターなどが住んでいるが、
諜報部のスパイも紛れている。
このスパイによる情報が本当だった場合、
新型モビルスーツの鹵獲作戦を決行するのだが、
相手がオーブという事もあり評議会からの承認を待つ事になっていた。

 
 
 

マルセイユIII世級輸送艦・《フロッグ》がヘリオポリスの港へ、
ガイドビーコンに従い入港する
モビルスーツを運ぶ能力の無い旧式の元連邦軍の輸送艦の為、
今は民間に払い下げられている輸送艦だが、
ここに乗艦しているのは『GAT-X計画』に参加する
ハルバートン艦隊所属士官達だった。

 

「これでこの船の最後の任務も無事終了だ。
貴様も護衛の任、御苦労だったな。フラガ大尉。」

 

輸送艦の艦長が隣に立つブロンドの髪をした
長身の男に労いの言葉をかける。
男の名前はムゥ・ラ・フラガ大尉。
連邦軍でも指折りのエースパイロットで
『エンデュミオンの鷹』と呼ばれるなどその実力は折り紙付きらしい。
『GAT-X計画』のパイロット移送の護衛任務の為に乗艦していた。
連邦宇宙軍第7艦隊所属のパイロットで、
『GAT-X計画』のパイロット候補達が模擬戦の相手にもしていた男だった。

 

「いえ、航路何もなく幸いでありました。周辺の様子は?」
「ん、問題ない。」
「しかし…中立国でありますか。聞いて呆れますが。」
「はっはっは。だがそのおかげで計画もここまでこれたのだ。
オーブとて地球の一国ということさ。」

 

ムゥと艦長が談話していると、
ブリッジに5人の男達が入ってきた。
彼らが『GAT-X計画』のパイロット達で、
艦長とムゥに挨拶へ来ていた。

 

「では艦長、フラガ大尉。」
「ん。頑張りたまえ。」
「新型を壊すなよ?」

 

艦長とムゥが一言言うと、
彼らは敬礼をしてからブリッジを離れて艦を降りていった。

 

「…上陸は本当に彼らだけでよろしいので?」

 

パイロット達が出て行ったのを確認すると、
ムゥは艦長にそう聞くが楽観的な艦長からは予想通りな返答が返ってくる。

 

「奴らもトップガン達だ。問題なかろう。
貴様等がちょろちょろしてるほうがかえって目立つぞ。」
「……」

 

ムゥは黙って彼の言葉に従ったが、
彼の心配する事はパイロットに選ばれた者達の腕だった。
ムゥの彼らとの模擬戦のスコアは
10戦無敗でムゥの実力が高すぎると言われればそれまでだったが、
抜擢されたわりには歯ごたえのない彼らに、この先に待ちうけるザフトとの戦いや、
ジオン残党との戦いをくぐり抜けるだけのものを持っていると
彼は感じておらず、心配ないと言い切れる艦長その根拠が理解できなかった。
ムゥは模擬戦の相手などこの計画に参加している一人と自覚していたが、
彼らがエゥーゴへ参加するという事は当然知らないし、
あくまでも模擬戦の相手と護衛任務のみと考えていた。

 

彼はこの任務が追われば、
キャリフォルニアベースへの配属が決まっており、
久々の地球へ行く事を楽しみにしている。

 
 

市街地の中心区で食事を1時間ほどで終えた
クワトロやブレックス達は、エレカに再び乗り込み
クワトロがハンドルを握りペダルを踏み込みエレカを走らせる。
市街地の繁華街だけあって、
かなりの人で賑わっている。
他所では滅多に見られない、
街ゆく人の穏やかな表情や笑顔は平和そのものだった。

 

「平和の国…か」
「…ですがあまりにも外の世界に隔絶され過ぎています。
このような場所はむしろ危険です。」
「確かにな…危機意識も薄てしまいそうだ。」

 

乗り込んだエレカから街の様子を見ていたブレックスが呟くと、
クワトロは外界とのズレに違和感を感じずにはいられなかった。
それを聞いていたヘンケンもクワトロと同じような感覚を持っていた。

 

「しかし、本来はこうでなければならんのだ。
何も心配する事なく、皆が穏やかに過ごせる世界でなければ……」

 

ブレックスがそう言うと、
遠くを見ながら平和の国と呼ばれるその景色を静かに見ていた。

 
 

ヘリオポリスの工場内にある一室。
その扉が開くと、カトーゼミのキラやトール、ミリアリアがやって来る。
ヘリオポリスの工場区は連邦軍とオーブの監視下に置かれていたが、
『GAT-X計画』のプログラム解析に携わっていたカトー教授のアシスタントとして入る事が出来た。
もちろん彼らにそんな事は知らされておらず、
機密が漏れない範囲での仕事を任されており、
バイト代も貰えるので手伝っていたという事らしい。

 

「うーっす。」
「あ、キラやっと来たか。」
「う…ん?…!…」
「…誰?」

 

扉が開くと、机に座りコンピューターをいじっている
眼鏡をかけたいかにも秀才のお坊ちゃんといった少年が
キラ達に声をかける。
彼がフレイ・アルスターに手紙を渡したという
サイ・アーガイルでみんなのまとめ役のような少年だった。
キラたちが入った部屋には帽子を深々と被りコートを着た少女がいる。
それに気づいたトールが、カズイ・バスカークに聞いてみる。

 

「あ、教授のお客さん。ここで待ってろって言われたんだって。」
「ふーん。」

 

カズイがそう応えると、
トールはあまり興味なさそうな返事をしていた。

 

「で、教授は?」
「これ預かってる。追加とかって。」

 

キラは辺りを見回して教授がいない事に気づきサイに聞くと、
カトー教授からの仕事がまた増えたのかといった表情になる。

 

「これってなんなんだ?
どうせモルゲンレーテの仕事の方なんだろうけど。」
「興味ないよ。フレーム設置モジュールの改良とか。
とにかくプログラムの解析さ。」

 

サイはキラに手渡そうとしたテキストに目をやると、
キラにこれが何なのか聞いてみるが、
キラは興味がなさそうにそのテキストを受け取る。
この後、キラはトールの悪戯で
フレイ・アルスターへの手紙の件などで騒いでいたが
当然、工場の職員が部屋に入ってきて
彼らはキツイお叱りをうけたのだった。

 
 

ヘリオポリスの港第5ゲートに一つのシャトルが入港していた。

 

旅客用スペースシャトル《テンプテーション》
ジャブローからサイド7のグリーンノア2へ
ティターンズ兵を移送していたが、
エゥーゴの襲撃によりグリーンノア2の
基地化が明るみに出た事により、民間人が反発した。
《テンプテーション》の船長を務めているブライト・ノア大佐は、
反発する民間人に危険が及ぶと感じて彼らをシャトルに乗せ、ヘリオポリスに難民として避難させる為に来ていた。

 

シャトルを出迎えていたのは、ヘリオポリスの市長だった。
《テンプテーション》を降りたブライトと固く握手を交わす。

 

「難しい状況での受け入れを感謝いたします。」
「構いません。本国からも緊急事態との事でしたから。」

 

ブライトが市長に感謝の言葉を彼に言うと、市長は穏やかな表情でそれに応じる。
その時、シャトルから続々と降りて来る避難民の中から一人の少女が涙を浮かべながらブライトのもとへ駆け寄る。

 

「ブライトキャプテン!」
「ああ、ファさん。」

 

少女はカミーユの幼馴染のファ・ユイリィ。
エゥーゴと共に姿を消したカミーユに
ティターンズが彼女の両親を拘束し、
彼女にも危険が及びそうになっていた所をブライトに助けられ
このシャトルに乗っていた。

 

「ファ・ユイリィさん。すまない、ご両親は見つからなかった…」
「……良いんです…両親も私が生きてるってだけでも知っていてくれれば…」
「お嬢さん、ここはもう安全だ…ご安心なさい。」

 

ファは大粒の涙を流しながら健気に言うと、いたたまれなくなった市長は優しく声をかけ、
市長のそばに立っていた女性にファを介抱させた。

 
 
 

隕石に紛れて身を隠していたクルーゼ隊の《ヴェサリウス》ではクルーゼが静かに口を開く。

 

「時間だな…」
「抜錨(ばつびょう)!《ヴェサリウス》発進!」

 

そう言うと、アデスがクルーゼの顔を見てコクリと頷き、発進の指示を出す。

 
 

迫り来る脅威にこの日、偽りの平和の刻が崩れようとしていた…

 
 
 

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