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第34話〜パナマの攻防〜

Last-modified: 2013-04-22 (月) 20:15:29

「よいせっと……じゃあ、世話になったな」
「色々と、ありがとうございました」
カガリがオーブの代表になり、ニコルとディアッカをプラントに送る日が来た。
カガリの代表就任は、ウズミさんが認めると、すでに根回しを受け入れていたホムラ代表はあっさりと譲り渡してくれた。
その手際にウズミさんは苦笑していた。ただ、カガリの計画を大筋では認めたけど、やはり不安は隠し切れないでいるみたい。
まあ、カガリの計画って、早急に和平が実現することを目的にしてるけど、失敗したときのリスクは大きいから、それも納得。
実際、大西洋連邦の和平派とのパイプは強いけどプラントはこれからだし。
でも、だからこそ、今回のニコルとディアッカのプラント帰還と、それを送るユウナさんの力量に期待が高まっている。
「二度とこんな所に来るんじゃ無いぞ」
「いや、刑務所じゃ無いだろ」
「似たような場所だったろ」
「そうですね。キラ、フレイが帰ってきたら宜しく伝えてください」
「自分で言え。戦争が終ってからな」
「……そうですね。そうします。貴方も生きてください」
「俺は死なないよ」
「ホント、あの時、死んだって聞いてたのにちゃっかりオーブに助けられてるなんてよ」
キラ・ヤマトはイージスの自爆後はオーブに救助されたと表向きはなっている。
また、連合兵で、本人が退役を望んでいたから隠していた事に……この悪知恵、全部シンの考えだから。
「じゃあ、ユウナ、頼んだぞ」
「ああ、分かってる。こちらの目的、ちゃんと伝えるよ。ラクス・クラインにもね」
うん。頑張ってね。愛が芽生えても構わないから。シンも同じ思いだ。そう目が語ってる。

第34話~~パナマの攻防

「ザフトのMSの数、こちらと、ほぼ互角ってところかな?」
「ああ、向うは、連合のMSの存在は?」
「警戒はしてるだろうが、なあに、末端の兵士は自分や直接の上官が経験した事しか、信じないさ」
「信じても対策は出来んしな」
「だったら楽勝だな」
「ああ、これからは、こっちが攻める番だ」
パナマ基地にザフトが攻めてきた。もうじき戦端が切られる。
その不安を振り払う様に周囲のパイロットは威勢の良い会話をしているけど……
「アルスター中尉はどう思う?」
「ザフトのMS部隊ですか?」
「ああ、君は勝てると思うか?」
周囲の視線が集まる。多分キャリー少尉は私にも勝てると言って欲しいのだ。MSでの実戦経験が多い私が勝てると言えば士気が上がる。
少尉は私が自分の考えくらい読めると踏んで話を振ってきたんだろうし、実際に分かる。でも……
「無理ですね。まともにやったら負けますよ」
「中尉……」
困った顔の少尉と困惑する周囲のパイロット。
「だが、君が今まで戦ってきた相手は、ザフトでもトップクラスの精鋭だ。それを基準にしたら、いけないよ。
それに今の君は私と互角にやりあえるまでに成長した。そう悲観する事は無い」
私にでは無く、周囲に言い聞かせるように話す。でも、私は少尉の気遣いを裏切る。
「まあ、一番怖いイザーク・ジュールは、ラクス・クラインの護衛でプラントに上がったから今回は出兵してないだろうし、次に怖いジュール隊の2人もアークエンジェルで捕虜のままです」
そう。改めてジュール隊の恐ろしさが分かった。キャリー少尉の話しだとバルトフェルドさんの部隊がトップクラス。
そしてジャン・キャリー少尉は連合に所属し、劣悪な条件ながらも、並みのザフト兵では相手にならない凄腕。
だけど、私の見たところ、ジュール隊はそれ以上。ニコルとディアッカが少尉と互角で、デュエルのイザークはさらに上。
キラが、会う度に強くなってるって警戒していた部隊。だけど……
「でも、この第13独立機動部隊、結局はモビルスーツでの実戦経験が無く、訓練も不足してます。
 それでも、大西洋連邦から選り抜きの精鋭なんでしょうが、それでもザフトと同数で勝てるレベルではありません。2倍から3倍の戦力を揃えて、ようやく互角です」
そう。悲しいけど、それが事実。
「だが、我々の任務はマスドライバーの死守だ! 絶対に敗れるわけにはいかん!」
話を聞いていたパイロットが会話に割り込む。まあ狙い通り。
「死守って、死んだら守れませんよ?」
「死守というのは死ぬ気で守れという事だ!」
「それ、もったいないです」
「なに?」
「私達は、これから、初めてのMS戦をするんです。私やキャリー少尉だって、MS部隊同士の戦闘は初めて……無論、ザフトも」
「なにが言いたい?」
「だから、凄く貴重な経験をこれからします。そして、貴重な経験は多くの人に伝える必要があるんです。だから、死んだらいけません」
「し、しかしだな、ここのマスドライバーは……」
「最悪、取られたら奪い返せば良いんですよ。月だって少しは備蓄あるんでしょ?」
「まあ、それはそうだろうが…」
「だから、最大の目的は生き残る事、例え破れても明日に繋げる必要があるんです。死守して、結局はマスドライバーも取られました。
 でも、私達は死ぬまで頑張って守りましたじゃ、意味がありません。それより、例えマスドライバーを取られても、私達はMS戦を経験し、生き延びました。
 次はどうやれば良いか分かるから、今度こそ勝ちます。そう言った方が良いです」
周囲のパイロットが私の話しに聞き入ってくれてる。これで良し。
「ただ、勝ち目が無いわけじゃ無いです。実はザフトでさえMS戦は経験が少ない。その点、この部隊はMS戦を想定して訓練してきたし、私とキャリー少尉はMS戦の経験があります。
 だから、最初が肝心なんです。向こうが動揺してる間に、どれだけ落せるか、それにかかってます」
「下手に慣れられたら、コーディネイターの本領発揮か?」
「違いますよ。コーディネイターだからじゃ無く、MSに乗ってる時間です。忘れてませんか?
 私はナチュラルですよ」
「そして、私はコーディネイターだが、アルスター中尉が怖い。戦うたびに強くなるからな。
 それにコーディネイターを全滅させてやるとか言うし」
「それ、言い方に悪意あります! 失礼です!」
周囲に笑いが起こった。ギャグやってる場合じゃ無いんだけど、これで良いのかな?
「だったら、アルスター中尉は、どうすれば良いと思う?」
「まず、私とキャリー少尉で撹乱……」

「見事なものだったな。無駄死にをさせないか……人心を掌握するには実に効率的だ」
「それだけじゃ無いんですけどね」
先行して埋伏中の私に、同じく埋伏中のキャリー少尉が、接触回線で話しかけてきた。
「何だ? 君が立てた作戦に従わせるためじゃ無いのか?」
「ああでも、言わないと、本気で玉砕しかねない勢いだったし、あれ、本心ですよ」
増援を要請してはいるが、まだ来る気配が無い。今までは常に多数で対応していたんだし、正直不安に駆られている。
「まあ、実際に勝てるとも思えなかったが……」
「少尉って貧乏くじに慣れ過ぎですよ。平気で負け戦を受け入れてるし」
「……うむ。言われてみれば確かに」
「死ぬの嫌じゃ無いですか。だから、出来るだけ勝って、無理なら逃げる。それで良いんです」
「ふむ……」
「それに生き延びれば、初陣の兵よりマシな兵になれます。それも間違いないでしょ?」
「ああ、そうだな。その通りだ」
「しかも、この部隊、素質がある人間を集めた精鋭部隊なんだし、負け戦で簡単に散らすなんて、惜しいです。生き延びれば絶対に役に立ちます」
「まったく、君は指揮官にも向いてるぞ。このまま……来たな」
「ええ……」
ザフトのMSが上陸して、近付いてきた。ほとんどがジン、バクゥは2割ほど……ディンは? まだ居ない……後方に待機してタイミングを計ってるのか?
でも、悩んでる時間は無い。出てきたらやるだけ。
「行くぞ!」
「ハイ!」
私と少尉が、ザフトのMSの前に飛び出す。
「当たれ!」
まず、ビームライフルで先制攻撃。ザフトに動揺が見られる。ここは一気に……
「突撃します! 援護よろしく!」
「わかった!」
私とキャリー少尉、2人のMS戦に慣れたコンビでザフトをかき回す……イザークが出てこない事を祈りながら……今の私じゃ、アイツには勝てない。
「でも!」
シュベルトゲベールでジンを両断する。イザーククラスが居ないなら私にだって勝てる。
そのまま、ザフトのMSを混戦に巻き込みながら、突進していった。

キャリー少尉の援護が効いてるのだろう。私は傷付く事無く、ジンを多数撃破している……撃墜数は10を越えた後は数えてないけど……
「難しくなってきた……」
最初の動揺から立ち直ったみたい……こうなってくると、火達磨になるのを待つだけ。
「そろそろ……」
「限界だ。下がるぞ! 中尉」
「了解!」
強引な突撃を止め、後方に下がる。でも、当然ザフトが見逃してくれるはずも無く、こっちは、エールのスラスターを全開にし、回避しながらの撤退……
「ここまで来れば!」
苦労して、目的ポイントまで下がる。そして……
「全軍突撃! 横っ腹を突け!」
Nジャマーの影響なんて関係ない。大声で外部スピーカを使って合図。
それを合図に、連合のダガー部隊がザフト軍の側面から現れ攻撃を始めた。
「上手く言ったな」
「はい」
ザフトにとっても不慣れなMS戦、最初は突出した強さを誇る2機のMSに苦戦し、囲んで倒そうとしたら、逃げられる。
そして、ようやく追いついたら横から同数のMS部隊の攻撃を受ける。
流石に対応は間に合わないはず。
それに、対応が出来る頃には、こっちが数で優位になってるって寸法。
「さすがに君の声は効くな」
「そ、そうですかね?」
そして、外部スピーカーを使ったのは、少尉のアイディア。何でも私が合図した方が、味方の士気が上がるし、ザフトは相手が女だって気付いて動揺するって狙い。
「では、あと少し頑張るか」
「はい。行けるだけいきましょう」
再びシュベルトゲベールを握り締め、混戦の中へ躍り出る。今は有利……このままなら。

「ザフトが撤退するぞ!」
たしかに撤退はしてるけど……
「仕切りなおしかな?」
「やっぱり、そう思います?」
「ああ、すぐにでも、また来るな」
今回の撤退は、混乱を収めるための一時的なものだろう。まあ、簡単にはいかないか……
「こちらの援軍は?」
管制室に聞いてみる。正直、今の戦力ではこれ以上は無理。
「もうすぐ出撃するとの事です」
「それ、前と同じ返事なんだけど?」
「で、ですが……」
「いいわ。嫌味な言い方でご免なさい。でも、援軍の催促は続けて」
「了解です」
さて……まあ、取り敢えずは生き延びたし、味方の被害も、そう多くは無い。
「でも、次は負けかな?」
「そうだな。撤退戦を考えたが良いだろう」
「そうですね。まあ、私と少尉は殿ですかね?」
「嫌なら他に任せても君なら通るだろう」
「嫌な立場ですよね。私」
「私とは対極的な立場だな。どっちが良いかは分からんが」
「本当に……」
分不相応としか思えない自分の立場……慣れる日が来るんだろうか?

ラクス様とテーブルを挟んで紅茶を飲む。テーブルの上には豪華な薔薇の花束が花瓶に飾られている。
いくらしたんだろ? この花束……なんだかセレブになった気分。
でも、今回はそんな気分を味わうために来訪したのでは無い。
「ザフトの第一波が押し返されたようです。連合のMS、予想以上の戦力ですわ」
今日はラクス様に話しがあった。そしたら、向うも頼みがあるって……聞きたくない。
オーブが戦火に巻き込まれない以上、私の計画は頓挫したも同然。もう、こうなったらなりふり構ってなんていられない。オーブに行こう。
でも、今の私が簡単に軍を辞めるのは難しい。何か良い手は無いかラクス様に聞こうと思って、来たんだけど……
「そこで、ゲイツの投入が決定しました。実践テストには手頃な相手だとか……やはりグングニールは使ってくれないみたいですわ」
なぜか、パナマにグングニールを落とす事に執着しているけど、このままじゃ話が進まない。
「その…それより頼みごとって何ですか? もし、なければ私の話を…」
「まずは、これを見てください」
私の話は聞く耳持たずですか…………ん? この写真って、イザークさんにディアッカさん。
残りの1人は……たしかアマルフィだっけ?
「この写真の人たちが、どうかしたんですか?」
「ええ、ルナマリアにお見合いをと思って♪」
なあんだ。お見合いか……………え?
「ちょっ! なに言ってんですか!? 私には心に決めた人が!」
「冗談ですわ♪ ところで心に決めた人とはどのような方ですの?」
「秘密です。それより、からかわないで下さい!」
「ごめんなさい♪ そう怒らないで下さい。可愛い顔が台無しですわ♪」
「もう! それで何なんです? この人たち?」
「実は貴女に部隊を編成して欲しいのです」
部隊?………嫌な予感が……私は軍を辞めたいのに…………そうね、話を聞いて、断る理由を探そう。
「その……部隊って?」
「核動力搭載型のMS部隊です」
「え? だって、核動力の搭載は、議会の承認を得たパイロットでないと」
そう。Nジャマー・キャンセラーが連合に渡る可能性を考慮し、量産は危険と判断した後は、核動力搭載のMSの製作は中止され、議会の承認なしでは新型は作れないはず……
「ZGMF-X11A のパイロットにアスランが選ばれました。そして当初の予定通りX13Aにはクルーゼ隊長。 最悪、その両名を敵に回す可能性があります」
「謀反でも起こす気ですか?」
OK。それなら断ることが出来る。
「違いますわ。暴走を抑えるためです。可能性としては充分あるのです」
「暴走って……何でです?」
「わたくしの目的は和平です。そして、正式な手順でクライン派が政権を取り、最終的に和平に漕ぎ 着けるシナリオは完成してはいますが、そうなった場合はザラ派が製作中のジェネシスを占拠し、クーデターを起こす可能性があります。そうなった時には、ザフト内部の揉め事として連合の力を借りずに片を付けたいのですわ」
「ああ……」
うん。そう言えば、この人こそ、戦争の継続が不満だからってクーデター紛いの事をしてるんだし、パトリック・ザラだって、その可能性は充分にある。
「それに、今後の戦闘の行方を考えると、どうしても戦力が不足します。その時のための準備も兼ねてます」
「たしか、パナマ攻略後は負け続ける計算なんですよね?」
「ええ。そうなるでしょう」
「でも、今から準備って、核動力機なんて議会の承認が……残りはX12Aだけですよね?」
「X12Aのパイロットが決まらない理由は、機体の特殊性です。ジャスティスと似ていますが、あらゆる状況に対応できるパックの換装。理想的ではありますが、パイロットの負担が大きすぎます」
うん。私も最初にインパルスに乗ったときは戸惑った。ザクの時はガナーばかり装備していたし。
まあ、これは私に限った事じゃ無く、大抵のパイロットは自分の得意な装備で固定してしまう。
「そこで、貴女がテストを行ったゲイツの火器運用試験型、あれの応用です。貴女が提案したジャスティスの装備。あれをテストする名目でゲイツの改良型を製作します。これはバッテリーですが、核動力を乗せかえられるように、最初から仕組んでおきます」
「じゃあ、この3人に合った装備に最初から固定するんですね?」
まあ、実際にその方が、換装型よりバランスの取れた良い機体に仕上がるだろう。
「ええ、この3人なら実力に不足はありません」
「まあ、たしかに…………って、あれ? でもディアッカさんてMIAじゃ?」
「いいえ。ディアッカ・エルスマンとニコル・アマルフィの両名は連合を脱走し、オーブに亡命したアークエンジェルに捕虜となってました。そして、今回、代表に就任したカガリ・ユラ・アスハの好意でザフトに返還が決まり、今頃こちらに向かってますわ」
「好意ね……」
「向うも色々とあるでしょう。まあ、それは来てからのお楽しみですわ。ですが、オーブの狙いが和平だという事は間違いありません。そして、この両名も和平派に転向してくれてるはずです」
「ああ、そうか、考えてみればザラ派への抑えとして考えているのに、本人がザラ派だったら、敵の戦力を上げるだけですよね」
「はい。その通りですわ♪ ですから、確実にこちらの味方で無いと困ります」
なるほどね……あれ?
「でも、イザーク・ジュールって、あのエザリア・ジュールの子供ですよね?」
この時点ではエザリア・ジュールはザラ派のNo.2、息子のイザークさんはバリバリのザラ派のはず。
「ええ、その通りですわ。先程は確実に味方で無いと困ると言いましたが、かと言ってあからさまにクライン派で構成するわけにも行きません」
「じゃあ、危険が…」
「いいえ。イザークさんは、わたくしの味方をしてくれますわ」
「自信満々ですね?」
「はい。この薔薇の花束、あの方に頂きましたの♪」
「え?……この、ゴージャスなやつ?」
「ええ♪ 先日のアスランを陥れた放送、わたくしが泣いてるのを見て、心配してくれましたの♪
 それで昨日、訪ねて来られました。何でも、居ても立ってもいられなくなったそうですわ♪」
お、お~い……イザークさん…………聞かなきゃ良かった。
「アスランの態度に義憤を抱いておりましたわ。それから辛いときは自分を頼ってくれと、紳士的な方ですわね♪」
何でだろう? その光景が目に浮かぶ。か弱い女の演技をするラクス様と、それにすっかり騙されてるイザークさん。
「あ、あの……部隊って、この3人以外も居て良いんですよね? もちろん核動力MSじゃ無くても構いませんから」
何を聞いてるんだ私は……辞めたいのに、人に構ってる余裕なんて無いのに……
「そうですわね。4人では少ないですし、貴女の希望に添えるよう、出来るだけ手配しますわ」
でも、このままだと、アスランを追っかけてた私以上に悲惨な事になりそうで……
「……ありがとうございます」
うん。シホさんも誘ってあげよう。

続く

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