Top > 英雄の種と次世代への翼 ◆sZZy4smj4M氏_第00話
HTML convert time to 0.011 sec.


英雄の種と次世代への翼 ◆sZZy4smj4M氏_第00話

Last-modified: 2008-06-09 (月) 18:17:55

エピローグ「枯れた種と憂鬱な死神」

 
 

 CE7X―火星圏。その地球から遠く離れた星の戦局は混迷を極めていた。
 ラクス・クライン議長が率いるプラント統一軍が、火星を併合するための戦争を進めたのは2年前。
 しかし、突如現れたマーシャン政府の中から卓越されたMS戦闘スキルを持った仮面の軍人ゼクス・マーキスが火星の人員からサンクスキングダムナイツを結成。多くの志願兵を集めていた。
 数年前コロニー独立運動で凄まじい戦果を上げた五機のガンダムパイロット達も参加して一時は調停まで持ち込む事に成功する。

 

 しかし、プラントは卑怯にも調停中にその当時の政治代表だったら女王リリーナ・ドーリアンとゼクス・マーキスを謀殺。同席していたカガリ・ユラ・アスハと共に、平和を話し合うべき場でそこを血と人の焼ける匂いで終わった。
 それを機にプラント政府は一年の停戦と言う名の次の戦争の為の準備期間を設け、次こそは火星統一を…と、夢見
た所だった。

 

「もう少しで火星も統一出来るね、ラクス」
「そうですわね、キラ。これで……これでようやく長い戦いが終わるというもの。カガリさんの犠牲も無駄にしてはなりません」
「それはどうかな、ラクス・クライン!」
「な、君は!?」

 

 5人のガンダムパイロット達を倒し、敵の最終要塞へと乗り込むプラントの勇士達。
 勝利を目前としていた局面であり、ラクスや統一軍のエース、キラ・ヤマトは最後の出撃を控えていた。
 しかし、その緊張と期待に溢れていた時間を突然の割り込まれた通信により、空気ががらりと変わってしまう。
 彼女等が乗るアークエンジェル級旗艦メタトロン。そのメインモニター画面へと突如現れたのは銀色の仮面を着けた男だった。そう、その仮面こそ一年前、五機のガンダムパイロットと共に戦場を駆け抜けた男ゼクス・マーキスの仮面その物だった。
 更にラクスたちに衝撃が走る。要塞からあらわすその姿はかつて死闘を繰り広げたゼクスの愛機。それに瓜二つと言う程でもないが赤くエネルギーを噴出している翼に大きな剣の柄の様なバックパックを着けている点以外は中世の甲冑鎧をモチーフにした様なデザインだったトールギスに酷似していた。

 

「この独立国家マーシャンは、ゼクス・マーキスが居る内は勝手にさせん!」
「な、馬鹿な。ゼクスは確かに殺し……いや、死んだ筈!」
「ゼクス・マーキスは不滅さ! 火星の為に何度でも蘇る!」
「な、この声は……くっ、解らないのか! それは戦争を悪戯に長引かせるだけだ!」
「あんたらに占領されれば地獄だ。俺はこのプリペンド・ウィンドウのコードネームの名に賭け、地獄の業火を消し去ってくれる!」
「ラクス。あいつは俺がちゃんとけじめを……話をつける。出撃許可を!」
「解りました、アスラン。ゾディアック・ジャスティス・ガンダム発進させて下さい」

 

 勇ましく語るその声に何人かは聞き覚えがあった。
 それに真っ先に反応したプラントのエース、アスラン・ザラは自らの愛機であるMSを発進を願い、そのまま戦艦から送り出される。一部、マーシャンコロニーからの新技術を使った新型機はどこがゾディアックなのかはよく解らないが、最初のジャスティスガンダムの後継機はどこら辺がインフィニテッドだったのかよく解らないので割愛する。
 火星をバックに戦場の前でにらみ合う二機。二人がこうやって対峙するのはヤキン・ドゥーエ以来だった。
 ゼクス・マーキスと名乗った男をアスランも彼を知っており、彼もアスランを知っている。
 通信を開き、アスランはなんの遠慮も無く本人の名を告げた。 

 

「やめろ、シン! 名前を騙り、絵空事の正義を語り、何になるって言うんだ!
 戦争はヒーローごっこではないと、俺は教えた筈だ!」
「時に生きていく人の為には英雄が必要なんですよ、アスランさん!」
「戦って、傷ついて、また泣きたいのか!」
「それで掴める明日があるなら、何度だって戦って、傷ついて、泣いてみせます!
 どいて下さい。俺は倒さなきゃいけない相手がいるんです!」
「お前は何故、学習しない! 今度は誰に踊らされている? 目を覚ませ!!!」

 

 激昂するアスラン。既にそのMSの手にはサーベルが握られていた。
 対峙するゼクスを名乗るシンのトールギスもその手には奇妙な槍とも思える長い柄と発生させるビーム
 縦に伸ばしたピラミッドの様な四角錐を形成した白兵武器と思われるモノを展開していた。
 見た事も無い規格ではあったのか白兵特化兵装なのか、それともデスティニーガンダムの様なあらゆるレンジに対応したMSなのか瞬時には判断できなかったモノの、アスランは相手が懐に入らない様に牽制射撃を伺おうとしていたが――それは出来なかった。

 

「な、ビームが消えた!?」
「うぉぉぉっーーーー!」
「馬鹿な!? サーベルが押し負ける!? どんな出力を遣って!」
「コレはアルテミスの傘を応用したA.R.I..S(アルミューレ・リュミエール・インポッシブル・スピア)! そんな柔なビームはきかない!」
「な、こんな事が……俺が一撃で。くっ……強くなったなシン」
「その言葉、味方の内に聴きたかったです」
「ははっ、味方なら一生言わないだろうな……頑張れよ」
「アスランさん……はいっ!」

 

 まるで中世の騎士達の馬上決闘の如く、相手のトールギスは相手の胸倉へと槍を突き立てていった。
 無論、アスランはそれを射撃で迎撃しようとするが、先ほどまで槍の様に細長かったそのビームの塊はぼみから開く花の様に展開し、回転をして前面へと押し出る盾へとその姿を変貌させる。
 ビームが弾かれたことで射撃を諦め、サーベルで相手を露払おうとするが、再びピラミッド型へと戻った4面のビーの幕は槍へと姿を変えて相手のビームサーベルをへし曲げるかの様にして、相手のコックピットを貫いていた。
 元々強力なビーム砲ですら弾き返す防衛システムを攻撃に使ったのだからたかがMSのビームサーベル如き曲げるのは容易かった。
 シンは最後、僅かに交わした会話でもアスランという人をいまいち理解出来なかったがその言葉だけは素直に受け取ろうと思っていた。しかし、その刹那アスランの乗っていた……えーと、なんだっけ?
 取り合えず、ジャスティスの後継機は爆散する。

 
 

「誰だ!?」
「ふん、アスランを倒したのは褒めてあげるよ。シン……いや、ゼクス・マーキスさん」
「キラ・ヤマト! お前との一騎打ちでこの戦争に決着を着けてやる!」
「それを受ける根拠は? このまま全軍で君を潰しても良いんだよ?」
「俺が倒れたら全面降伏する様に他の皆には言っている。余計な血は流させない!」
「騎士道精神ってのは好きじゃないけど受けようか。
 で、くって掛かる理由は? 戦争で僕達に負けた事を根に持っているのかい?」
「違う! 俺は今、このマーシャンの人達の為に戦っているんだ!
 このデスティニ-・トールギスは、俺達マーシャンの運命と供にある!」
「そんな勝手な運命、僕は受け入れられないな! このデストロイ・フリーダム・ガンダムで自由にさせてあげるよ」
「……酷い名前ですね。完璧悪役ですよ」
「う、うるさいな! コンセプト元のMSを足した名前なんだから仕方ないだろ! アスランのよりマシだ!」

 

 アスランのよく解らないジャスティスの後継機の爆煙が晴れる。その目の前にはとても巨大な機体が聳え立っていた。
 通常のMSの3~4倍はあろうかと思える巨体にシンは息を呑んだ。
 それは確かに見慣れたある意味キラ・ヤマトの象徴ともいえる機体、フリーダムガンダムだった。
 しかし、そのサイズははるかに巨大化しており、本来付けられていたマルチロックの射撃武装は
 一門一門に陽電子砲が搭載されていた。こんな物をまともに相手をしていたら戦艦どころか
 一戦力が纏めて落とされてしまうほどの威圧感と戦力をを安易に想像させてくる。以前、対峙した
 デストロイガンダムだけでもやっかいだったのに、それがキラ・ヤマトが搭乗しているという事実に恐怖が背筋を通る。
 だが、その恐怖を振り払うかの様にシンは機体を相手へと突進させていく。

 

「行くぞ、最初からクライマックスだ! エネルギー最大出力、リミッター解除! ミラージュコロイド開放!」
「な、質量を持った残像だと!? ミラージュコロイドの残像機能は完成していたのか!?
 だが、ただの陽電子砲一門如きじゃこの機体の装甲は破れないよ!」
「ミラージュコロイドは最初からデスティニーに搭載されてましたよ!!!
 陽電子出力収束率120% 流石、ドクターJだ。試作段階だった陽電子砲のサーベル化がこんなに安定している!」

 

「ふぉふぉっ当然じゃい。さぁ、消し(↑)飛ばしちまいなぁ(↓)」

 

 なぜか途中、妙なイントネーションの入った老人の声が脳裏を過ぎった。
 そして、シンの機体は光の翼を広げながらもデスティニーから搭載されていたが、目立った描写をされていなかったミラージュ・コロイドからなる残像で相手のロックオンをかく乱したまま巨体の懐へと突っ込んでいく。
 それと同時、背中に背負っていた剣の柄の様なバックパックを取り外し自らのMSの手でそれを握り締める。直接エンジンと繋がれている電力と下手をしたら自らの全長と同じ位のサイズがあるその装備からはまるで宇宙を貫き、そのまま天元突破してしまいそうな巨大な雷の剣が目の前に出現した。

 

「な、陽電子砲でどこを……い、いやコレは違う!?」
「喰らえ、約束されし勝利の剣! 雷光衝撃(ライトニング・インパルス)っぉぉぉぉっ!!!」
「くっ、この位置ではラクスが……させるかぁっ、デストロイ・ハイマット・バーストぉぉっーーーー!」
「キラ負けないで! 私の想いが貴方を守ります!」
「ちょ、ラクス! その台詞は駄目だよ!? って、あああああーーーーっ!!」

 

 キラのえーと長いな、省略! 要するにでかいフリーダムは天高くそびえた剣に対して陽電子砲の一斉射撃をするが懐に入り過ぎた相手に対して射角が合わず、上手く狙い撃てないでいた。
 ラクス・クラインはヒロインとしてはあるまじき死亡フラグ発言により法則から逃れる事は無く、デスティニー・トールギスの放つ雷で作られた柱の様な一撃と共に
 その斬撃の露とMSと戦艦ごと消えた。二人の結末は死因:死亡フラグ発言による変化した運命を辿っていったとなる。

 

「――勝った! 見ているか、ステラ、レイ、艦長、ついでに議長! 俺は! 俺はぁ――勝ったよ!」

 

 そして、プラント統一軍は指揮官とエースを失ったことにより烏合の衆と化し
 火星改めて独立国家マーシャンを地球政府に認めさせる事に成功した。
 長かった戦いは終結し、火星圏と地球とプラントは平和になりましたとさ。

 

                                           めでたし、めでたし

 
 
 
 

――ってのはどうよ。名付けて『逆襲のシン・アスカ―運命の翼編』 いやー、これは楽しい!」

 

「 あ り え ん(笑) 無しだろ普通に考えて」

 

「えーーーー、どうしてよ?」

 

 コレより上に書かれたシンが数年後辺りでする武勇伝を勝手に捏造していたヨウラン・ケントに対して
 光の速さを超える突込みを返す。その言葉の主、ザフトの”元”エースパイロット、シン・アスカは
 ため息を吐きながら長々と聞かされた話により、疲労の色を滲ませつつも苦笑いと怒気を孕んだ口調で言葉を返す。
 ヨウランは前から時々発言が遠慮が無い事もあったのは解っていたが、流石に今回は長過ぎた様だ。

 

 此処は月軌道を演習している艦隊、俗にジュール隊と呼ばれるMS部隊の駐留する衛星基地。
 アーモリーワン襲撃からその後、雪崩れ込んだ戦争から一年後、この二人は当初ミネルバが就航する予定だった月軌道を巡航・駐留する部隊へと合流する事に相成った。連合とプラントとの関係も表立っての戦争は無くなり、彼等達軍属は平和なら平和なりの仕事として、演習に終始する毎日を過ごしていた。

 

「いや、訳が解んないよ。何だよそれ。つか、突っ込みどころがあり過ぎるぞ」
「えー、そうか?」
「なんで俺がマーシャンの英雄に成り代わってるのとか
 アスハの姫様とえーとマーシャンのリリーナ様だっけか? その辺りを勝手に謀殺するなとか
 デスティニー・トールギスとか何だよその恥ずかし機体とか、そのA.L.I.Sって兵装は何なのかとか
 後、ガンダム作った有名な博士がなんでにそんな芸人みたいなイントネーションなのかとか
 アスランさんの扱いが適当過ぎるとか……そもそも、アスランさんそんな嫌いだったのとか、あーー、全然足りない!」
「突っ込みは鋭いがちょっと今回は長いな。んで、誤解がある。まず、アスランさんはどーでも良いが」
「いや、それはそれでひどいな」
「A.L.I.Sに関しては連合のハイペリオンガンダムって機体が使ってるらしいぞ。ま、そんな名前はついてないが」
「それ本当かよ? 取り合えず、駄目!駄目! 全然駄目だ!」
「ちぇっ、面白いと思うんだけどな」

 

 まるで長寿ドラマ番組の様な長台詞の突込みを噛まずに言い終えた後、それを律儀に返す
 自分に絶望し、頭を抱えているシン。ヨウランの言葉をはいはいと適当に受け流す事が何故出来ないか自問する。
 ちなみに、ヨウランンの言うハイペリオンは連合の機体であり、連合とプラントの関係が良好になったからこその情報でもある。
 その位、この一年で色々な事が変わっていた。ラクス・クラインがプラントの統治を掻っ攫い議長へと就任。
 これが民主主義的な投票での就任なのか、軍事的恫喝なのか、詳細は彼らにとってアンタッチャブルなので気にしなかったがそれでも色々な影響が出ていた。ロゴス解体から地球各地は経済が混乱し、厭戦感情と各国政府への不満が爆発。プラントからも独立が認められた後、連合に対して軍縮提案が出されており、正に踏んだり蹴ったりな地球だったりオーブも戦争からの再建でアスハの姫様は走り回ったりと”此処”の外は目まぐるしく、人と時間が動いていた。

 

「つーかさ? あの歌姫様が議長になったとはいえ、シン!
 このままじゃ情けなさ過ぎるぞ。此処は男を上げる為に反逆のシン・アスカとしてだな」
「逆襲じゃなかったか? さっきの」
「気にするな。俺は気にしない」
「……懐かしいなレイの口癖。俺はそういうのはいいよ。世界は平和ってのは言い難いけどさ。
 少なくとも何かを倒す戦争から、戦争を起こさない為の戦いをしてる訳だし」
「完全に燃え尽きた症候群だな。いっそ、白髪になりやがれ!」
「此処ではそれ位が丁度良いさ。けど、この年で白髪はやだなぁ……って、痛いから止めろって!」

 

 ヨウランは立ち上がり、シンの肩を手でそれぞれ左右を持ちながらも叱咤激励したいのか疲労困憊している相手を揺さぶり、余計に気分を悪くさせたいのか、解らないまま言葉を続けるがシンはそれを右の耳で聞いて、左の耳で吐き出しているかの様に無関心な様子だった。
 途中今は亡きレイ・ザ・バレルの台詞を真似たりと彼なりに色々と気を遣っている様子ではあったのだが、至って効果は無く、むしろ逆にセンチメンタルな空気を作ってしまう。更に言葉を返して髪の毛を引っ張ろうとするが当人のリアクションは薄かった。
 シン・アスカの戦争時の気性の荒さはすっかりと見る影を失せていた。まるで牙を抜かれた獣の様に、惰性と共に繰り返す演習と食事と睡眠と言う名の日常を過ごした。
 それでも給料をを貯めて、オーブで花屋でも始めると決めたらしく、植物の育て方を学び始めたらしい。
 が、それは知り合いから見れば、この間まで部活動に精を出していた熱血少年が
 急に老人になって盆栽弄りをし始めたかの様に感じていた。
 職場が同じヨウランがそれを心底心配していたのは、シンにもある程度は理解出来ていた。

 

「爺にしか見えないぞほんと……あの後、世界を平和を守る為に一緒に頑張るって言ってたろ、この赤服エリート!」
「守ってるだろ。月の軌道を」
「シンーー! お前、完全に飼い殺されてるの自覚してるか?」
「うん……ま、こういうゆっくりした時間も良いんじゃないか?」
「お、シーン。居た居たぁー、ちょっと来てくれー」
「ん? 艦長が呼んでる……なんだろ? 通信じゃなくてわざわざ探すなんて。取り合えず行って来る」
「シン! まだ、話は終わってないから!」
「解ってるよ。また、後でなぁ」

 

 突如、二人の会話を割り込むかの様に、彼らの直属の上司であるアーサー・トラインは通信も使わずに散歩がてらなのだろうか。直接シン達が休んでいたロビーへと足を運んできた。
 それに応じた……まるで息子の嫁からお昼が出来た事を告げられて、リビングへと向かう老人の様な友の背中を何も出来ない自分を悔しさを感じたまま、ヨウラン・ケントはその背中を見送っていた。
 シンが見えなくなった後、壁を殴る音、その拳の痛みに絶叫する悲鳴などが彼の耳に届く事は無かった。

 
 

――宇宙のとある航路、ピースミリオン内ロビーにて

 

「……はぁ、やだやだ」
「どうした?」
「いや、今回の任務さぁ。トロワも大変だよなぁ」
「そうか? ミッションレベルはそんなに高くないが」
「やー、ヒイロは兎も角、お前と俺は大変だろ?」

 

 宇宙要塞と言われても遜色ない巨大な戦艦ピースミリオン。その巨大な半月上の機影を
 宇宙に漂わせている中、ガンダムデスサイズヘルカスタムのパイロット、デュオ・マックスウェルはロビーに置いてあるソファーに寝転がりながらもお凸に手を当てたまま左右へと何度も寝返りを繰り返してた。
 その様子に特に感知する事をもそもそもする発想の無かったガンダムヘビーアームズ改のパイロット、トロワ・バートンに声だけぶつけていく。
 トロワからすれば、デュオの言葉が非常に不可解だった。
 今、彼らはあるミッションを遂行中なのだが、彼らからして見ればそれは今までの激戦とは比べ物にならない位、難易度の低いミッションではある。解り易く言えば楽勝だ。ただ、問題はミッションの難しさではなく、デュオにとって精神的な負担が大きい事を意味している。おかげで今はこうやってソファーに齧り付いて、全身でグロッキーさを表現している。

 

「そんな事は無い。確かに、あまりやった事の無い任務だが項垂れるほどではない」
「そもそも、お前項垂れる事あるのかよ?」
「……該当する記憶は無かった」
「そうだな。それじゃ、そもそもお前に愚痴った俺が馬鹿だったよ」
「理解は出来ていないが、カウンセリングを受ける事を勧める」

 

 猫の様に背を丸めながらも拗ねたままソファーで寝転がるデュオにトロワは一言告げただけで、瞑想だが何を思っているかわからない状態へと戻る。
 あまりの生真面目なトロワの一言に大きくため息を吐いてる最中、デュオは鬱憤がたまり過ぎて、頭をかきむしりそうになる衝動を溜め込んでいた。だが、そんなことしたらほんとに精神科医のカウンセリングルームに連れて行かれそうな事が長年の付き合いから解っていたのでそれをじっと我慢する。
 そして、その片方はギスギス、もう一人は無の境地と言う全く異なった空気に一瞬、首を傾げたままロビーに入り、歩み寄ってきたルクレツィア・ノインは普段の冷静な顔つきから僅かに訝しげな雰囲気を滲ませながらも二人に話しかけてくる。

 

「デュオ、トロワ、どうした? というか任務中だろう?」
「あぁー。俺は即効で追っ払われたよ。流石に艦の中じゃ安全だろうし」
「俺も同じだ。レディーのプライベートと言う奴らしい」
「ま、まぁそれはそうだが、大丈夫か?」

 

 デュオはソファーに突っ伏したまま片手だけを上げて宙を掻き混ぜる様に返事を返す。
 トロワはその様子が理解出来ないのか肩を僅かに竦めながらもノインの方を見つめていた。
 その視線に応えたのか、デュオの昏倒っぷりが流石に目に余っているのか解らないが心配そうに言葉を向けると、待ってましたと言わんばかりに起き上がってノインにすがる様に顔を近づけさせる。げっそりというほどではないが、ノインからは中々体調の悪そうな顔色は見て取れた。また、その危機迫った表情と行動からは何事かと深刻そうな顔つきへと変わっていく。
 確かにここ数年は平和になっていた事とデュオがコロニー出身だったとはいえ慣れない任務と合わせて、艦での長旅というのは堪えているということだろうか?と言う懸念が彼女にはあった。

 

「大丈夫に見えないだろ?」
「ん? まぁ、そうだな。体調でも崩したのか?
 確かに地球圏に向けて出航して、一週間は経っているが」
「だろおぉぉっ。俺はもう限界だ。いやだいやだ。あんなの柄じゃないから嫌なんだよ!」
「って、体調は良いのか。じゃあ、何か意地悪でもされたのか?」
「いや、あいつ苦手なんだよぉ。俺りゃヒイロやカトルと違って、ああいうタイプには免疫無いし」
「情けない。プロなら任務に文句をいうな。しかも、その次元の我侭を」

 

 デュオのあまりにもあっけない理由と態度からどっと疲れが増したのかノインは腰に手を当てたまま、少し怒気を滲ませた声色で言葉を返している。
 あまりにも情けない理由と言うか、ヘタレ過ぎて心配して損を感じたと同時に危機も感じていた。
 確かに何か相性的な問題は憂慮をされてはいたのだが、本来そういう空気を和ませるカトルが居ない中、ムードメーカーのデュオが此処までダメージを負っているのは予想外だった。
 窘める言葉をぶつけながらも、内心は少し困っていた。
 そんな心配は露知らず、プロ意識を指摘されては反論出来ないのかうーーっと唸っているのを見て、トロワも表情には出さないが困惑している様子であった。

 

「じゃぁあーーさーあぁ、何で俺な訳? レディさんとかサリィさんとか色々いるじゃん」
「聞くか? 後悔しても知らんぞ」
「うーー、そういうのはやだねぇ。だが、いいか。 訳があるなら聞かせてくれ」
「”こそこそと逃げ隠れるのが得意な貴方なら一々気にしなくて済むから”だ、そうだ」
「確かにデュオは隠密任務が得意だし、気配は消すのは俺やヒイロより上かも知れん。適任か」

 

 眉尻を下げながらも事情を話すノインとそれに同意するトロワ。そして、そのリアクションを見てやはり言うべきでは無かったと後悔を重く感じていた。その言葉を聴いたデュオは一瞬固まった後、体のストレッチを始める。
 足の屈伸と腕の筋を伸ばした後、軽く体を温めて一通り終わった後、大きく深呼吸をした後にノインへと向き直る。
 トロワはデュオの急な奇行に若干の動揺を覚えたが、傍目からみればそれは認識出来ないレベルであった。びしっと手を垂直に縦に伸ばす行動にびくっとトロワは一瞬反応した後、まるで小学生が先生に何かを尋ねるかの様な口調と声でノインに一言尋ねた。
 流石に発言は発言だったので一瞬眉を顰めるリアクションを取るが事情を察し切れないほどノインはトロワほどクールではにあので困った様子のまま、突っ込みを返す。

 

「今から殴りに行っちゃ駄目かぁ?」
「女に手を上げるとは関心せんな。男として最低だ」
「そうだよなぁ。けど、あいつは女なんてもんじゃないだろ! 宇宙人だ! 宇宙人!」
「デュオ。お前がコロニー出身なのに人種差別者とは初耳だ。後、彼女はコロニー民ではないはずだったが」
「違うわ! そういう意味じゃねぇぇよ! あーー、胸糞わりぃっ!」
「「……これは重症だな」」

 

 トロワの冗談……ではなく、確実な天然発言に苛立ちを隠せないままデュオはいよいよ我慢できなくなったのか、本気で頭をかきむしり後頭部についている、お下げをぶんぶんと振り回している。
 範囲こそ狭いものの時折自分へと向かってくるお下げを片手で振り払いつつも、トロワとノインは顔を見合わせたまま肩を竦める。お互いの認識は全く違っていたがその重なった言葉から結論は一致していた。ノインはお凸に手を当てながらもどうするか考え込んでいる最中、デュオは獣の様に唸り声を上げたまま再びソファーへと突っ伏していく。
ぼふっと大きく体を預け丁度良い反発を体に伝えてくれるソファーにぐてぇっと倒れ込む。その様はまるで、死体の様に覆いかぶさったままピクリとも動かない。

 

「まぁ、我慢しろ。久しぶりにカトルや五飛にも逢えるだろうし、年単位で滞在する訳じゃない」
「そりゃ、そうだけどよぉ……畜生! 月と地球行ったら美味いもんたらふく食ってやる!」
「空腹で機嫌が悪かったのか? 夕食にはまだ時間があるが」
「違うわ! 今まで何を聞いてたんだ!」
「すまなかった」
「いーや、お前はわかってないだろ! 言葉だけで適当に返すな!」
「……といわれてもだな」
「こっちも別の意味で重症だな。先が思いやられるよ。全く」

 

 トロワがやはり事態が飲み込めないまま謝罪の言葉を述べたことがすぐにバレてしまい、起き上がったまま因縁をつけ始めるデュオ。デュオの洞察力はそこまで鋭かったのかと誤った再認識をしている中、ノインはその二人をやり取りを見たまま、どうなる事かと不安を感じる一方で何か少し楽しい気持ちが心の中に混じっていた。
 よくよく考えたら彼らも昔の基準で言えば、学生か大人に成り立てという年齢だろう。そういう”らしさ”が何時の間にか戻っている事に今まで付き添ってきた一人の人間として嬉しさを感じ取っていたのだろう。ノインは心の中でそう結論付けていた。

 

                                 舞台は第一幕「ツキミアイと炒飯一番」へ