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虚空、果てなく 〜SEED OF DOOM〜_AT-2

Last-modified: 2008-03-01 (土) 21:41:16

         CLIMAX AVANT-TITLE Ⅱ

 
 

「本当にこっちに来て良かったのか、シン」
「ああ」

 

レイ・ザ・バレルの言葉に、シン・アスカは即答した。
今頃、地球圏ではこの世界の行く末を争う戦いが行われているはずだ。
連合ロゴス派から鹵獲した「レクエイム」
新たに建造された「ネオ・ジェネシス」
そしてSDFから提供された「波導ガン」など。

 

「地球人類の敵」へと向けられる多数の超惑星圏兵器を統括する要塞「メサイア」を護衛するザフト軍と対峙しているのは、
それらの兵器を地球征服のための物と断定し事情説明を一切受けつけずに武力に訴えた者達。
シンが様々な思いを抱く故郷オーブの軍、地球連合軍ロゴス派の残党、
そして何度も戦ってきたラクス・クライン一味とその与党たる造反ザフト艦隊。
その中には彼の両親の仇といってもいいキラ・ヤマトや、彼を裏切ったアスラン・ザラもいた。
しかし、シンはこちらで戦うことを選んだ。
赤き星、火星が地球で見る太陽よりも巨大に見える宙域に展開した艦隊。
ザフト・地球連合軍そして「SDF」の合同艦隊だ。
その一艦ミネルバの一員として、外宇宙よりの脅威から地球を守る任務の方を選んだ。

 

「憎しみのままに戦うな」

 

シンに戦士の魂を教えてくれた、今はこの世界にいない「聖戦士」の言葉が胸に響く。
彼らを相手にすれば、自分は憎しみのままに剣を振るうだろう。
だから地球圏の帰趨は自分よりも強いだろう勇者達に任せた。
シンに有形無形の影響を与えてくれた、SDFの中核部隊αナンバーズ。
その三分の二はSDF艦隊としてここにいるが。
地球圏には残りの三分の一が二隻の艦と共にいるのだ
それよりも大事なことは、地球圏に這い寄る災いをなんとしても食い止めること。
そうしなければ、自分と妹のように両親を失う子供たちは千や万では効かない。

 

「お前こそいいのか、議長を守る方が……」
「いいんだ、今のギルには、俺、いや俺やラウ以外にも心の裡を明かせる人間がいるからな…」

 

信じられるのは俺かラウだけ、それがあの人の不幸だったな、とレイは思う。
人類の行く末を案じながら、それを相談する相手は事もあろうにその人類が滅ぶことを願っていたラウ・ル・クルーゼと、
そのような激しい憎しみこそないがラウ同様に短い命しか約束されず、自然厭世的な人格しか持てなかった自分しかいない。
いつしかその理想は視野狭窄なものとなっていた。
しかし無理もない。
世界の現状は、ギルバート・デュランダルに自分の考えは正しいと確信させることばかりで満ち溢れていたのだから。
ところが、その暗雲に光が差した。
ギルバートを絶望させ、自分のような存在を生み出した世界は、唯一のものではなかったのだ。
もちろんその世界にも自分と似たような存在もあれば。
シンとその妹のような悲劇もあり。
またシンの「新しい妹」や、悪友たちのように悪意に歪んだ教育によって育てられた存在もあった。
それでもその世界の人間は、一歩一歩前進し続け、ついには地球人類が一丸となり、
他の星系の人間とすら紆余曲折の末に手を携え、大いなる危機から宇宙すべての生命の危機を救ったのだ。
それを知った時にギルバートは悟った。
「運命」を変えることは可能なのだと。
滅びの道を回避する手段は一つではないと。
同時に、ギルバートの理想のための捨石になることで自分がこの世に生まれた意義を作ろうとしていたレイの心も変わった。
たとえ限られた命でも精一杯命の炎を燃やしてやると。  

 

「レイ、間違っても、自分が犠牲になるなんて考えるなよ」

 

レイの寿命のことを知っているシンとしては気がかりなことだった。
しかし、それは杞憂だった。

 

「……わかってる、いざとなったらお前を盾にしてでも生き残るさ、そう、死ぬまでは生きてやる」
「見えてきたわよ」

 

二人と機体を並べるルナマリア・ホークの呟きが回線に伝わる。

 

それは火星の向こうから現れた。
その形状は、古の映像でしか見た巨大海棲哺乳類を思わせた。
そう思ったのはルナマリア一人ではない。
何しろ「彼ら」の痕跡エヴィデンス01を始めて発見した人類は「羽根鯨」と命名したのだから。
その名のごとく、一見したところで彼らと鯨とを隔てる最も大きな差異は、その巨大な羽根上の器官。
だが微細に見るとそれ以上の本質的な差異を示している部分もあった。

 

その目だ。

 

「羽根鯨」の「化石」エヴィデンス01を発見した人間が、実際の彼らを見たらどう思っただろう。
羽根鯨には目があった。
しかしその目には、憎悪や怨念といった負の感情しか感じられない。
モニターに拡大されたその目を見て身震いすることを止められないルナマリア。
ルナマリアを含む「コーディネイター」の誕生に少なからぬ関係を持つ「羽根鯨」がこのような恐怖の怪物であったなどと、知りたくはなかった。

 

しかし、知った今は逃げることは出来ない。 
彼らは木製人形や片足の船長を飲み込んだ伝説の鯨のごとく、地球人類を飲み込もうとしているのだから。
数万の「羽根鯨」の大群の後方には、明らかに人工の産物である宇宙艦艇が続いていた。
形状に統一性のない艦艇や機動兵器群。
しかしその統率は不自然なほどに取れている。
それこそが羽根鯨を上回る、本当の脅威。

 

「元の世界」で幾多の星々の人々と和平を実現し、そのうちの幾つかの異星の客をこの世界にすら帯同しているSDFですら、一切の妥協なく倒すことを決意せざるを得なかった人類の、いや、生命の敵。

 

「ルナ……」

 

シンが今度はルナに通信を送る。

 

「今度ばっかりはさ、お前を守ってやるなんて言えない、そう、言えないから、だから、なんとか生き残ってくれよ」

 

あまりに切実な言葉に、ルナの胸の奥は熱くなる。
シンの隠された素性を知った時は、騙されたと思ったこともあった。
でも今のシンは本当にミネルバの一員であり。
そしてルナの…。
しかし今は気を強く持たなくてはいけないと、深呼吸したルナは一気にまくし立てる。

 

「あんたね、お姉さんに何生意気なこと言ってるのよ、
 今までだって別にあんたに守ってもらわなくてもちゃんと生き残ってきたでしょ」
「ああ、砲撃は外しまくってたがな」
「レイうるさいっ」

 

ルナもレイの秘密は知っているが、同情したり、腫れ物に触る様な態度は慎んでいる。
最後の最後まで、アカデミー時代の、そしてミネルバの仲間としてレイを扱う。
それが彼のあまりにもやるせない秘密を知った時のルナの決意だ。

 

「だからシン、あんたこそ無茶しないでよ」
「うん」

 

諭すような言葉に頷くシン。
その声音はあまりにも素直だった。
かつてのところかまわず爆発する癇癪玉のような、
とてもではないが「秘密任務を帯びてザフトに潜入していたエージェント」だったとは思えなかったシンを思い出して、
先ほど身震いしてたことなど忘れたかのようにくすくすと笑い出すルナ。

 

(まあ、あんなにトラブルばかりおこすやつが工作員だなんて誰も思わないから、その意味ではあいつを送り込んできた連中は利口だったのかな?)
シンがこれから先どんどん変わっていき、どんないい男になるのか。
それを見届けるまでは死ねないと思うことで、ルナはリラックスしながらもコンセントレーションを高めることに成功した。

 

「あの子達、オープン回線で何青春会話してるんだか、分隊回線使えばいいのに」

 

シン達の会話は、横に布陣する臨時にミネルバに編入されていたαナンバーズの特殊任務隊には丸聞えだった。

 

「あらあら、まるで若い子に嫉妬するオバさんよアイビス」
 勝気な瞳とスリムな体躯の若い女性の言葉に、眼鏡をかけた一見温和そうな女性が答える。

 

「誰がオバさんよっ、あたしがオバさんならツグミはなんなのさ、若作りだけどあたしよりもずっと年上でしょ、確かもう…」
「アイビス、その先は言わない方がいいわ、弾丸は機外から来るとは限らないわよ」
「ちょっ、ツグミ、怖いよあんた」
「この戦いが終わった後にアイビスが帰ってこなかったらイルイが悲しむでしょうね~」
「ごめんなさい、もういいません…」
「まあいいじゃないか、あれで戦意が高まるなら」

 

長髪長身の女性が二人に言い放つが。

 

「……本当に丸くなったねスレイ」
「やっぱりほら、女は恋人が出来ると変わるのよ」

 

彼女の過去を知る二人は、その大人びた発言をいぶかしむ。

 

「待て、誰のことだ?」
「誰って、どっちを言えばいいの?」
「どっちって何だ?」
「それはもちろんあたしのことよね、スレイちゃーん」
「うわっ」

 

非常識なまでに豊満な胸の女性が背中に抱きついていた。

 

「セ、セレーナッ、お前なんでここにいる?」
「ん? もうすぐ決戦開始だから、その前スレイちゃんと最後のお別れを思って、アレグリアスはエルマに操縦してもらってる」
「バカっ、敵はもう肉眼で見えてるんだぞ、早く戻れっ」
「うーん、つれないなぁ、恋人と最後の別れくらいしようよ」
「女同士で何が恋人だっ!」
「するとやっぱりわたしよりエルマのほうが好きなんだ」
「違ーうっ」
「スレイさん、僕のこと嫌いなんですか?」

 

電子音声での通信が入る。

 

「そうですよね、僕なんてどうせロボットだし」
「エ、エルマ、お前のことが嫌いだなんて言ってないぞ、お前は本当にいい子だ」
「女二人とロボットの三角関係、こんな珍しいものを身近に見れるなんて一生に一度あるかないかの体験ね、
 きっとフィリオも温かい目でスレイを見守ってるわ」
「こんな時にお兄様のこと言うなツグミーッ!」
「スレイさんたち、また痴話喧嘩か」
「オープン回線で何をやってるんだか」
「でもあの人達らしくて楽しいわ」

 

シン、レイ、ルナの方にも、その会話は筒抜けだった。
シン達のような一部を除けば、味方であるザフトや連合良識派の兵士にとっても謎の存在で。
無敵の戦闘集団αナンバーズ。
しかし彼らはみなごく普通の人々だった。

 

「そう、特別な力なんてなくても、守りたいものは守れるんだ…」

 

シンが決意を新たにした瞬間。
彼らの目前に、何の前触れもなく巨大な物体が出現した。
周囲の部隊は色めき立つが、SDFから提供されていた情報にある機体と照合して、すぐに意識を目前に迫った敵勢力へと戻す。

 

「どうやら遅かったようですね…」
「シュウさんっ!」
「元の世界に戻る方法がわかったと伝えに来たんですが、これではそんなことをしている余裕はなさそうです」

 

シン達の前に現れたのは蒼き重力の魔神。

 

「乗りかかった船です、私も一肌脱ぎますか」

 

その中に乗るは希代の天才にして悪辣な陰謀家。

 

「やれやれ、私もすっかりとお人よしになったものです」

 

しかしシンにとっては一度ならず二度まで大事な人間を救ってもらった二重の恩人だった。

 

「どうせそれに新兵器でもつけてて、試し撃ちしたいんでしょシュウさんは」

 

だからといって彼を善人と思い込むほどさすがのシンも単純ではなかったが。

 

「おやシン、あなたはこちらに回ったんですか、意外ですね」

 

まるで今シンの存在に気がついたかのように白々しい言葉を吐くシュウ。

 

「色々ありましたからね、あなたと出会ってから」

 

彼の韜晦癖に振り回された経験が、シンの生来の直情径行を少しは矯正していた。
それでも世間一般のレベルで言えば充分直情的だが、オーブ首長を前にして面罵ではなく痛烈な皮肉を披露した事等は、
知らず知らずのうちにシュウに影響されていた証拠だった。

 

「今の俺には、こっちが戦うべき場所ですよ」
「そうですか、まあそれはあなたの自由ですからね、
 そうそう、多分この戦いが終わればあなたともお別れですから、約束していたものをお見せしますよ」
「えっ、まさか?」
「それまでは死なないように気をつけなさいシン」
「わかってますよ」

 

その時。

 

「敵集団、交戦距離に入りましたっ」
「全機、戦闘態勢っ!」

 

ミネルバ所属全機に、オペレーターのアビー・ウインザーと艦長タリア・グラディスの通信が入った。

 

シン・アスカの「ビヨンド・ディスティニー」
レイ・ザ・バレルの「リプライザル・レジェンド」
そしてルナマリア・ホークの「ヴァイタル・インパルス」

 

三機の「ミノフスキー/イヨネスコ式核融合炉」搭載MSはミネルバ部隊の先陣を切って飛び出した。

 
 

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