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鉄《クロガネ》SEED_1-2

Last-modified: 2008-02-28 (木) 01:33:50

広い演習所の片隅で、二人の男が竹刀を構えて対峙している。
背の低い方の少年は、ジリジリと間合いを詰めつつ相手の隙を窺う……
対する男は未だ一歩も動かずに、竹刀を構えたままじっと青年を見据えている。
と、

 

「はぁっ!!」

 

掛け声と共に男の間合いに踏み込むと、少年は一気に男の頭上に竹刀を振り下ろした 。
が、男はそれよりも早く青年に対し面を叩き込み、少年はその場に倒れこむ。
その間一秒にも満たない、まさに神業である。

 

「浅い…… もっと打ち込んで来い」

 

少年を見下ろす男、ゼンガーは静かに、だが力強くそう言った。

 
 

宇宙に回る砂時計の群れ、コーディネーターの国家『プラント』
そのうちの一つ、軍事工業コロニーのアーモリーワンでは、新型戦艦・ミネルバのお披露目が明日に迫っていた……

 

「それで、例の三機の状態は?」
「まだシステム上のトラブルが解決していないようです、なにしろあの三機は実戦を想定したタイプの可変機ですから……」
「デリケートなのはこちらも承知しているわ、
 いざとなったら突っ立たせるだけでも良いから今日の午後までには搬入を完了させるように伝えておきなさい。」

 

そのミネルバの艦長であるタリア・グラディスは予想以上の作業の滞りに頭を悩ませていた。
MSだけではない、人材の不足、予想外のトラブル、そして例のオーブの代表の突然の訪問と、問題は山積みだ。

 

「とにかく、三機については以上。で、残る『インパルス』だけど……」
「ハードウェアは概ね準備完了しています。
 後は『シルエット』の調整だけですので、デモンストレーションに問題はないかと思います」
「後はあの偏屈集団のGOサインを待つだけね……」
「はぁ、教導隊には既にスケジュールを送信しておきました。おそらく大丈夫かと……」

 

副官のアーサーは彼女の不機嫌な表情に対し尻すぼみな答え方をする。

 

「まぁ良いわ、一応ヨウランに拾わせましょう。今頃は彼、動けなくなっているでしょうから」

 

艦の外部を映すモニターに向けタリアは皮肉交じりにそう呟いた……

 

同プラント、演習エリア

上半身裸のまま、シンは演習場で大の字になったまま、ぼーっと空を見上げている。
雲の上にはうっすらと、テント状にすぼんだ天井が見える……

 

「運動後には、適度な糖分とクエン酸が必要だ」

 

ウェーブのかかった金髪の男が、こちらに近づいてきた。
片手には琥珀色の液体の詰まったタッパーを持っている……

 

「教官……」
「レモンの蜂蜜漬けだ。食べるといい」

 

上半身だけ起き上がると、タッパーを空け蜂蜜に染まったレモンを口にする。
程よい酸っぱさと、運動後特有の強い甘みが口いっぱいに広がる。少し疲れが引いた気がした。

 

「……ありがとうございます」
「その顔をみると作った甲斐があったというものだ」

 

息を吹き返したようなシンの顔にレーツェルも苦笑しながら例を返す。
実際、ゼンガーの地獄の訓練をここまで耐え切っているのは、ひとえにこの訓練後の至福の一時を味わうためと言っても過言では無い。
これが無ければ、シンはとっくの昔にこのコロニーから逃亡していただろう…… 逃げ切れるかはともかく。

 

「ゼンガーとの稽古も、今日で一段落か。明日の式典が終われば……」
「はい、慣熟訓練が終了したら、月軌道でのパトロールです」
「そうだったな」

 

灰色のコンクリートに直に胡坐をかくシンはレーツェルを見上げる。
こうしてみると彼の大きさが良くわかる、ゼンガーとほぼ同等の身長だ。

 

「こうして短期間だがゼンガーに師事したわけだが。シン、君はゼンガーをどういった人間だと感じたかね?」
「そうですね…… 初めのうちは『何考えてんだコイツ?』って思っていましたけど、要は不器用なんですね、あの人。」
「彼だけではない。我らもまた戦う事でしか自分を見出せない人間だ。
 だからこそ、こうやって君達に戦う意味や、生き残る術を教える事が出来る」

 

苦笑するシンに対し、レーツェルも釣られて笑みを漏らす

 

「それにしても、いきなり竹刀を持ち出してきて、『打ち込んで来い!!』は無かったですよ……」
「フッ、わが友の強引さは今に始まったことではないさ…… 彼のかつての部下など、入隊直後に実戦演習をさせられた程だ。」
「ムチャクチャすね…… お?」

 

冷や汗をかきつつ、シンはこちら歩いてくる人影を見つけた。どうやら同僚のメカニックのヨウラン・ケントだ。

 

「どうやら艦長が催促しているようだな…… 行くといい。」
「明日の進宙式には出席しますよね?」
「もちろんだ」
「じゃあ、今日はありがとうございました!!」

 

シンはレーツェルに一礼すると、更衣室に駆け出していった。

 
 

同時刻……

 

「君たちと出会ってから、どれくらいかね?」

 

眼下に広がる町を見下ろす男、現プラント議長、ギルバート・デュランダルは降下を続けるエレベーターの向かい側の壁に背中を預けている男に尋ねる。

 

「一年と六ヶ月ほどです」

 

整った顔立ちだが、影のような雰囲気を持つその男は静かに答えた。
今エレベーター内は彼ら二人だけしか居ない。
普段なら異例のことである。しかし、デュランダルには、そうまでする理由と彼らに対する信頼があった。

 

「そんなになるのか…… あの日以来、君達には世話になりっぱなしだな」

 

デュランダルは苦笑すると手元の資料に目を向けた。

 

「さて、当面の問題の彼らのことだが……」
「『どちらの』、ですか?」
「もちろんオーブのことさ」

 

現在、彼等はお忍びで来訪したオーブ代表との会談に臨むことになっていた。
三年前の大戦時、国を焼かれたオーブは国外に脱出した人間が数多く存在した。
その中には優秀な科学者や技術者なども含まれている。
彼らのもたらす多大な技術を中立の根底に持つオーブは、なんとしても取り戻さなくてはならないものである。
事実、彼らの中には、オーブへの帰還を求めても受理されない人間も多い。
代表自ら単身乗り込んでくるあたりから、その必死さが窺えるだろう。

 

「返してもかまわないのだがね、何か見返りが欲しいものだが……」
「……中立同盟を結ぶつもりですか?」
「いや、あそこは未だ連合の目が厳しい、下手に触れば三年前の二の舞だ」

 

そう、一歩間違えれば、前大戦の再来にもなりかねないのだ。
そうなれば、連合とプラント、どちらに傾いてもオーブという地は戦火に包まれる。
食糧自給の一部を彼等に頼るプラントとしても、それはご勘弁願いたい。
オーブにとっても、プラントにとっても今のままの関係を続けたいわけだ。

 

「しかし、見返りもなしに彼らを引き渡すのは良好とはいえません」

 

そう答える男に対し、デュランダルは口元を歪め

 

「なぁギリアム、私からも何かお返しをするべきだと思うのだが?」
「まさか!?議長!!」

 

同時にエレベーターが開く
エレベーターから出てきたデュランダルは勝ち誇った顔のままオーブの代表の待つホールへと進んでく。
しばしあっけにとられたままの男は先を歩く議長に気がつくと、早足で彼に付いていった。

 

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