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鬼ジュール_オムニバス-00

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:15:27

「きゃぁぁぁぁ!」

眠っていた所、突然隣で聞こえた叫び声にシンは飛び跳ねるようにシーツを蹴り上げ、起き上がった。
次の瞬間には隣のベッドに眠っている筈の少女に目を遣った。
「ミーア!?」
星明りが差し込む中、闇の中紫色に見える髪を振り乱しシンを振り返ると直ぐに顔を左右に振った。
「・・・見ないで・・・見ないでぇぇぇぇ!!」
立てた膝の間に顔を埋め、耳を両手で塞ぎ。
顔を必死に左右に振る姿にシンは慌ててミーアのベッドの上に上がる。
抱き締めようと手が肩に触れた瞬間ミーアは弾かれたようにシンの手を振り払い、その勢いでシンの肩を押した。
思いの外強かったその力に、シンはバランスを取るために伸び上がるように背を反らし、ベッドから落ちるのを阻止して再びミーアに手を伸ばした。
再びミーアの手がシンを拒絶するが、今度こそ力で押し切り、包み込むように抱き締める。
「どうしたんだよ!?」
「顔が・・・あたしの・・・・顔が・・・・!」

崩れて行くの・・・・!

「ラクス様が『嘘吐き』って言うの!『わたくしの顔を返して下さいませ』って!そうしたらあたしの顔が・・・!」
大きく震える体を押さえつけるように抱き締めながら情報を集めるシンは、またいつもの悪夢なんだと判断し、ミーアの両手を掴んで顔を上げさせそのまま掴んだ両手をベッドに押し付けるようにして押し倒した。
「見ないで・・・・見ないで!」
ミーアの両手首を左手だけで掴むと顔に掛かったピンクの髪を横に流す。
当然、その顔が崩れているという事は無い。
「何とも無いよ。大丈夫。ミーアの顔だ」
「違う!ラクス様の顔だもん!」
頬に当てたシンの手を感じながらも、見上げる事が出来ずに目は閉じたままだった。
シンが自分を気遣ってくれているかもしれないという可能性も感じているのかもしれない。
「・・・ミーアの顔だよ。あいつがどんな顔だったとしても、ミーアの笑顔は、あいつよりもずっといい」
「シン・・・」
安心させる為に額を重ね、シンはミーアの頬を撫で続けた。

「もし、あいつがミーアに『返せ』なんて言って来たら、俺があいつを殺してやるから」

ミーアがそんな事を望んでいるとは思えなかったが、シンにとってはミーアを不安にさせるラクス・クラインはただ邪魔としか感じられなかった。

2

「シン――――!」

突然呼ばれたかと思うと振り返る前に衝撃が来た。
声と、背に押し当たる胸の弾力からしてミーアだと直ぐに分かったシンは大きく溜息を吐く。
「おい、こら!抱きつくな!」
「嬉しいくせに♪」
「・・・~~嬉しくない!」
頬を染めながら体を揺すりミーアを振り落とすと、ミーアはまるで踊るような足取りの軽さでシンの目の前に移動する。
「明日デートしよう♪」
「はぁぁ?何だよ、突然。仕事どうするんだよ」
「明日は~~お休み♪熱が出るんだ、あたし」
「予告かよ!・・・・熱があるならデートなんてもっと無理だろ!」
「・・・・・意地悪。」
「それに俺だって仕事なの」
つんっと胸を反らして自分が『赤』を纏った軍人である事を強調する。
しかし、ミーアは気にせず胸の前で手を合わせて小首を傾げる。
「じゃあ、シンも明日は熱が出るって事で決定♪」
「はぁぁぁぁぁ!?」
「シンのバイクの後ろに乗るの楽しみにしてるんだ♪」
「馬鹿!怪我する訳にはいかないからって前に断ったのはお前の方だろ!」
以前断られた事が少なからずショックだったシンは口を尖らせて拗ねるように怒鳴るが、ミーアはくすくすと軽やかに笑うのみだ。
しかし、笑い声も長く続かずミーアはシンの手の中に紙を押し付ける。
「これが、本当のあたし。ラクス様とは全然似てない、この世でたった一つの、あたし」

これを見て、嫌いにならなかったら明日シンのバイクで迎えに来て。

「それじゃあ、今から収録なんだ♪」と、やはり軽やかにステップを踏みながらミーアは大きく手を振ってその場を去る。
まるで別れを覚悟しているような言葉に、痛みを胸に感じていたシンはミーアの姿が見えなくなってから手の中の紙を返した。
穏やかな空気を纏った、決して美人とは言えなかったが明るく、健康的な笑顔を浮かべた黒髪の少女の写真。

これが、ミーア。
本当の、ミーア。

「・・・・・馬鹿だなぁ」

何も変わってない。
今と全く変わってない。

シンは写真を軍服の内ポケットに乱暴に押し込んで全力で駆け出した。
ミーアが曲がった角の先で護衛と合流したのも構わずに。
「おい、待てよ!」
「・・・・シン!?」
ミーアが振り返るより先に背後から体当たりをするようにきつく抱き締める。
捕らえて、締め付けるようにきつく。
「時間も決めてないだろうが!明日十時!スカートなんて穿いてたら後ろ乗せてやら無いからな!」
「・・・・・・・うん!」
抱き締めてくれる腕に手を添えて。
ミーアはプラントの人工的な空を見上げながら頬に雫を滑らせた。

3

「アスラーン♪」
「ミ・・ラクス!?」
突進して来たミーアを避ける事が出来ず、しかも振り返ったばかりの所だったのでバランスを崩し、アスランはミーアの体を抱き止めた右手はしっかりと腰に回し左手はバランスを取る為に大きく回すが結局はその場に尻餅を着いた。
尾てい骨の近くを打った為思い切り顔を顰めたアスランはそれでもミーアの体を守る腕の力は弱めない。
「お久しぶり♪元気でしたか?アスラン」
「・・・・はぁ・・・・」
いつもなら此処で思い切り「ラクス」として甘えん坊モードになるところである。
しかし次の言葉を発する前に上から絶対零度の声が降って来た。
「・・・何やってるんスか?」
「・・・シ・・・!」
「あ、いや・・・・」
声のした方に視線をやると、目を眇めたシンがしっかりとミーアの体を抱き止めたままのアスランを見下ろしていた。
いや、ミーアにも一瞬視線を移したのだが、すぐに「興味を失くした」かのようにアスランに戻したのだ。
シンの背後にはレイとルナマリアの姿も見える。
レイはまるでミーアの監視者のようにじっとミーアを見つめ、ルナマリアはアスランに軽蔑の視線を向けていた。
「ラクス」はシンの事は知らない筈である。
議長と深く繋がっているレイの前で「ミーア」に戻る事は許されない。
その為、シンが自分を無視している事に胸を痛めながらそれを表に出さず、一度唇を噛んでからアスランにしがみついた。
「アスラン♪起こして♪」
「・・・・はい」
アスランが深く溜息を吐いてから立ち上がり、自分に手を伸ばしてくれている間も気になるのは見下ろしてくる真紅の瞳。
「お食事に行きましょう?議長がね、予約してくれてるの♪」
「あ・・・あぁ・・・いや、俺は・・・」
「いいんじゃないですかぁ?『婚約者』、なんでしょう?『ラクス様』は」
「おい、シン・・・」
まるで突っかかった言い方をするシンにアスランは直ぐに不快そうに眉を顰めたが、ミーアはアスランの赤い軍服の胸を掴んだまま擦り寄るように俯いていた。
シンの言葉はアスランに言っている訳じゃない。
ミーアに、言っているのだ。
それが分かるからシンの声から耳を塞ぐようにアスランに縋る。
「ルナ、俺達も行こう?」
シンが他の女の子の名前を呼んだ瞬間、ミーアは反射的にシンを見た。

シンが、ルナマリアの腕を取って。
ミーアを一瞥して、歩いて行く。

「・・・・!」
「ラクス様、アスラン。失礼致します」
ミーアがシンの背中に声を掛けようと思った瞬間、レイが二人に敬礼してシンとルナマリアの後を追う。

・ミーアに視線を残しながら。
その瞳の冷たさにミーアは結局言葉を発する事が出来ずに再びアスランの胸に額を押し付けた。
背中に聞こえる足音に集中してしまう。

その女の子、誰?
いつも一緒にいるの?
今直ぐ尋ねたい。
今直ぐ知りたい。
今すぐ教えてよ!!

・シン達の足音が聞こえなくなった瞬間・・・・・・・。
「ぅ・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「は!?突然どうした!?ミーア!?」

どうして今、アスランの傍にいるんだろう、あたし。

「シン」
そう、一言呼びたかったの。
でも、呼べなくてごめんね。
何で、今抱き締めてくれてるのが、シンじゃないのかなぁ・・・・。

子供のように泣きじゃくりながらおずおずと抱き締めてくれるアスランの腕に感謝と、謝罪を心の中で繰り返し・・。
自分に対する嫌悪を募らせた。

「・・・・!」
「?どうしたの?シン」
「・・・あ、いや・・・・今泣き声が聞こえなかったか?」
「・・・・・ううん。聞こえないわよ?第一、こんなホテルで誰が泣くって言うのよ」
「そうだけど・・・」
一度、シンは後ろを振り返った。
もう、角を二つも曲がったのだからその姿が見える筈はないのに。
ミーアの事情は分かってる。納得してるつもりだった。

それでも、あんな姿見たくなかった・・・・・!

「・・・・知るもんか・・・・・」
きっと今も聴こえるのはミーアの泣き声。
でも、他の男の腕に抱かれる姿を見て許せる程、人間出来てもいない。
胸に去来するのはミーアに対する嫌悪と、苛立ち。
そして、自分への腹立たしさ。

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