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鬼ジュール_オムニバス-01

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:15:21

アスランとの食事を終えたミーアは「議長が望むラクス」としてアスランに「アスランの部屋に入れて♪」と迫ったが、直ぐに却下された。
逆に気遣わしげに「部屋まで送る」と、半ば強引にミーアに宛がわれた部屋に連れて行かれ、部屋に押し込まれた。
「おやすみなさいのキスは?」
「・・・あんまり無理をするな」

君はラクスじゃないんだから。

アスランの言葉が胸に刺さる。そんな事は自分が十分思い知ってる。
しかし、アスランの言葉は素っ気無いが「ミーア」と「ミーア」として扱っているからの言葉なので強く反論も出来ない。
「ラクス様に操を立ててるんだ」
「馬鹿な事を言ってないで、さっさと寝ろ。明日はもう出発なんだろ?おやすみ」
「・・・・はぁい。・・・おやすみなさい、アスラン」
部屋の扉が閉まると、室内は真っ暗だった。
明かりを点けようという気にはならない。

――― いいんじゃないですかぁ?『婚約者』、なんでしょう?『ラクス様』は ―――
――― ルナ、俺達も行こう?  ―――

頭の中で繰り返されるのは、軽蔑の瞳で自分を見るシンの冷たい声。

隣に居たのは可愛い女の子だった。
「ミーア」より全然。
同じ年位に見えて、何よりシンと同じ「赤」を着ていた。優秀なのだろう。
「ミーア」より全然。

「そりゃあ、シンも可愛い女の子の方がいいよね・・・・」

会わないうちに心変わりされちゃったかなぁ?
あたし、「偽者」だもんね・・・。

その場に崩れ落ち、俯くと涙が床に落ちた。
一粒落ちてしまうと、涙を流した事を無かった事にしようと床を拭っても拭っても、拭っても、涙が落ちた。

「やだ・・・・・。ダメ・・・・!落ちないで。泣かないで。あたし、幸せなんだもん。ラクス様になれて、歌が唄えて!」

皆に必要とされて・・・・・・・・・・!

だから、涙なんて落ちないで!!!!

涙を拭う。
拭う。
拭う。

しかし、大理石の床では涙の面積を広げる事は出来ても拭う事は出来ない。

「シン・・・シン・・・・・!」
とうとう涙を拭う事を諦め、ミーアは両手で顔を覆った。

どうすればいいのだろう?
どうすれば良かったのだろう?
どうすれば取り戻せるのだろう?

「ラクス」を望み、手に入れて。
なのに「ミーア」として大切にしてくれたシンを手放したくなくて。
なんて身勝手なのだろうかと思っても諦められなくて。

ミーアはのろのろと立ち上がると、フロントに通信を入れた。

シンは一人宛がわれた部屋のベッドで横になっていた。
眠ろうと思って赤い軍服は脱いでは居るが近くのソファの上に放っただけである。
明日皺になると分かっていても、どうにかしようという気にはなれなかった。
目を閉じると網膜に焼きついたアスランとミーアの姿を否応無しに見てしまうから目を閉じる事も出来ない。

「何がアスランだ・・。ミーアの馬鹿」

何も自分の前でいちゃつく事無いだろ・・・・。
あてつけかよ。
アスランもアスランだ。
人前であんなにしっかり抱き締める事も無いだろ。

心の中で呟きながら次第に情けなくなってくる。
ミーアに当たって、アスランに文句を言って。

・自分はミーアを傷付けるような事しか言えなくて。泣かせて。自分は悪くないんだと恨み言しか言えず、逃げたのだ。
「くそっ!」
ベッドを殴る。
しかし、スプリングが良く効いているベッドでは痛くも何とも無い。
今度こそ絶対に寝てやると、シンは網膜に焼き付いた絵を見ないようにきつく瞼を閉じる。

カンカンカンカンカン・・・・・!

その時、廊下で聞こえる足音に弾かれるように起き上がった。
甲高く、歩幅の狭い音はそれだけヒールが細いからだ。
「まさか!」そう思うより先にベッドから飛び出し、部屋の扉を開けた。
勘違いなら勘違いでそれでいい。
しかしこれがチャンスであるのなら、逃す訳には行かなかった。

「シン!」

視界に飛び込んで来たのは懸命に駆けて来るミーアの泣き笑いの笑顔で。
シンは直ぐに周囲に視線を走らせ、誰も見ていない事を確認するとミーアに手を差し伸べた。
ミーアの手が届くというその瞬間、「かくんっ」と、踵を踏み外したかのようにバランスを崩したミーアの手を一瞬取る事が出来ず、空気を掻く。
しかし、コーディネイターの中でもずば抜けた反射神経で踏み出しミーアの腕を今度こそ取ると、抱き寄せて部屋に引き込んだ。
「何やってるんだよ!?」「ごめんなさい!」
二人の声は同時で。
一瞬互いに何を言ったのか判断出来ずに見詰め合ったまま互いの言葉を思い出す。
時が止まったように見つめ合い、「何やってるんだよ・・・」「ごめんなさい」と、やはり同時にもう一度、呟いた。
「痛・・・」
「挫いたんだろ」
シンが受け止める事が出来無ければ膝から落ちるように倒れていた筈である。
抱き上げようとして、その腰をアスランがさっき抱いていたのだと思うと顔を顰めて腕を掴んだ。
ソファまで移動させようとして、ソファの上には軍服が放ったままだったと面倒になってベッドまで移動させる。
ミーアは片足で跳ねるように移動し、ベッドに腰掛けてから痛めた方のパンプスを脱いだ。
「明日腫れなきゃいいなぁ・・」
「・・・テーピングしてやる。ミ・・・。・・・お前下手だろ」
名前を呼ぼうとして、なんだか嫌になって言い直す。
アスランの影がちらついて煩い。
振り払うように部屋に設置されている緊急用の救急箱を見つけてベッドに腰掛ける。
掬うようにミーアの足を取り、ベッドの上に上げると救急箱からテーピングテープを取り出す。
「痛いって言えよ」
「うん」
足首を少しずつ動かし、痛めた場所を確認する。ミーアが「痛い」というよりも前に顔を顰めた場所で固定すると、テープを巻いていく。
「それで?・・・・アスランの所に行くんだろ?」
言いながらシンは自分の意地の悪さに辟易する。
そんな事を聞いてどうするというのか。

・どうしようもないのに。
「それは・・・後で」
ミーアも、自分で「言わなきゃいいのに」と、思いながら嘘が吐けない自分に泣きたくなる。
互いに自己嫌悪から掛ける言葉を失い、テープが巻かれて行くのをじっと見ている。
仕上げが終わり、テープを切るとシンは救急箱に戻して元の場所に片付けた。

「さっさと行けよ。アスランの所に」
「・・・・・・・・・さっきの、女の子・・・・。ううん。いいや。ごめんね、押し掛けて来て」
「ルナが、何か?」
互いに掛ける言葉を手探り状態で探し、意味不明に呟く事で必死に互いを引きとめようとする。
些細な事にまで気になったように聞き返すのは話題が重要なのではない。
この時間を少しでも増やそうという悪足掻きだ。
「・・・・可愛い女の子だね」
「別に・・・」
「あたしとは大違いで・・・・」
「なんだよ、それ」
「・・・・シンが選ぶのも無理ないなぁ・・・・」
言葉の最後に貼り付けたような笑い声を添える。
シンはミーアの言葉に一気に噴出した感情に従いベッドの上のミーアに近寄り、シンを見上げる瞳とぶつかった瞬間肩を押さえつけてその場に押し倒した。

「なんだよ、それ!」
「・・・・・ごめんなさい」
「そんなの聞いてないだろ!?何なんだよ!」
「だってあたしよりあの子の方が!」
「は!?ルナの方が何だよ!」
「赤が着れる位優秀で、可愛い女の子なんでしょう!?あたしなんかより全然お似合いじゃない!」

シンだって「赤」なんだもん!

ミーアの絶叫にぎりぎりとシンは唇を噛み締める。
折角会いに来てくれたのかと思っていたら、期待していたのは自分一人だけだったのかと。
久し振りに二人きりになれて、互いの想いの確認でも出来たらもう少し物分りが良くなれると思ったのに。

自分一人空回り。

何が悲しくて久し振りに会った、何があっても恋人なんだと思っていた少女からこんなにも残酷な言葉を聞かされなければならないのか。
「・・・・そんなにアスランがいいのかよ!アスランの方が俺より背が高くてFAITHで、『大戦の英雄様』で、俺より偉いもんなぁ!!」
「シン!?・・違・・・っ」
「何だよ!?違わないだろ!?俺にはルナが居るからって勝手に言って、自分の都合だけでアスランの所に行こうとしてるだけだろ!?」
「何で!?違うよ!だって!」
「お前の言う事はいつもそうだ!身勝手で、思い込みが激しくて、要領が得なくて!」
「シンが聞いてくれないんじゃない!」
「出てけよ!!」
ミーアを押さえつけていた手を放し、ベッドから降りるとミーアに完全に背を向ける。
シンが離れてミーアは気付いた。
シンがミーアの肩を押さえつけてくれた事が嬉しかったのだと。
少しでも触れ合えた事が嬉しかったのだと。
きっと言葉を選び間違えたのはミーアで。
シンがミーアの肩から手を離してしまったのが呼吸困難になりそうな程に辛い。
それでもシンに拒絶されては他に言い募る言葉も見つからない。
肘を着いて体を起こし、横に転がるようにして床に足を着くと片足で立って脱ぎ捨てていたパンプスを拾い上げた。
テーピングしていては履く事は出来ない。
仕方なくもう片方のパンプスも脱いで歩く。
シンがしっかりとテーピングをしてくれたおかげで歩くのには支障がなかった。
その優しさが嬉しくて悲しかった。
「・・・・元気でね。体壊さないようにね。・・・怪我は、もっとしないでね。無事で居てね」

それと・・・・・。

廊下に続く扉の前でドアノブに手を掛けながら、一度躊躇したが、これが最後かもしれないと思うといわずには居られなくて。

「大好き♪」
「・・・!」

シンが一番好きだと言ってくれていた笑顔で。
涙が止まらないけど、それはきっと嘘だと思い込んで。
シンの背中に微笑みかけると、ドアノブを回した。

「!・・・ぁ・・。ミーア!」

シンにも分かった。
ミーアがどんな顔で「それ」を言ったのか。
顔を変えても変わらなかった、恥ずかしそうな、困ったような。
しかし、ミーアの体全体から溢れる「幸せ」を教えてくれる、一番大好きな、笑顔。

これだけは逃してはならないのだとシンは意地も忘れて踵を返し、ミーアの背を追う。
不謹慎にもミーアが足を挫いていた事に感謝した。
彼女の体がドアから離れてしまう前に追い付く事が出来るから。
さっきは躊躇したミーアの腰に腕を回し、無理に引きずり込むように部屋に連れ戻し、ドアをロックした。

ミーアの体を抱き締めたままその場に崩れ落ちる。
床に敷かれた絨毯が足に刺さってむず痒い。

「・・・・・ごめん。会えて、嬉しかったんだ。本当に、久し振りだったから」
「あたしも、ごめんね」
「アスランに嫉妬した。でもそれ以上にアスランに甘えるミーアを見るのが嫌だった。分かってたけど。納得したつもりだったけど、それでも」
「・・・・うん。ごめんね」
「でも、それ以上に俺も好きだから。勘違いだけはしないで欲しい」
「嬉しい。あたし・・・シンに酷い事してるのに・・・・。それでも、ありがとう。ごめんね。本当にごめんね」

二人の間に零れる想いを一つ残らず掻き集めるように二人は共に涙を流しながら抱き締め合った。
結局何も解決していなくて、ただ、答えを見つけるのを先延ばしにしただけだというのに。

何の力も持たない二人は大切なたった一つの気持ちを確認するだけで、精一杯だった。

そしてシンは望む。
誰よりも、アスランよりも強い力を。
堂々と、ミーアを奪えるだけの力を。

<終>

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