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鬼ジュール_オムニバス-05

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:14:54

「うわぁぁぁぁん!」

23時。
玄関のドアが開いたかと思うとミーアの半泣きの声が聞こえた。
ドタドタと足音が続き、シンの部屋の扉をノックする。

「シン~~!!」
「何?!」

シンが慌ててドアを開けるとミーアがシンの顔を見て瞳を潤ませると体当たりしてきた。
(後で本人に言わせるとどうやら抱きついたらしい)
「うわぁぁぁ!」
ミーアの突進を受け止め切れずにシンはその場で倒れ、続いてミーアの体が圧し掛かって来た。

「うげっ・・・」
「怖かったぁぁぁぁぁ!!」
「え!?」

ミーアの叫びにシンは体を起こす。
ミーアの腕を掴んで体を起こさせると、衣服が汚れてないか確認する。

「何があった!?」
「何にも無い!!」
「は!?」
「でも足音がずっと付いてきてたの!振り返っても誰も居なくて!」

互いに興奮状態にあるのか、意味も無く怒鳴りあう。
二人の住むアパートは表通りを横道に入って5分程度歩いた所にある。
夜は薄暗く人通りが少ない。
昼間は道沿いの店が開いているので問題は無いのだが。

「あたし目当てじゃないんだろうけど、でも怖くて!」

まだ心細さが残るのか、シンの体に擦り寄り、シンはミーアの背を擦る。
本当なら夜のバイトを辞めるように言えればいいのだろうが、彼女が歌える場所が夜にしかないのでそれも言えない。

それにしても・・・

「・・・あのさ。実はこういう事初めてじゃないだろ?」
「・・・・う、うん」

足音が聞こえた位で過敏に反応し過ぎじゃないかと、一度じゃないからこそ此処まで怯えるのではないかとシンが確認すると案の定だ。

「いつから?」
「半年位前から・・・」
「警察は?」
「行かないよぉ。足音だけだもん」
「今まで何回あったんだよ?」
「・・・・10回はあったと思う」

立て続けに尋ねるシンにミーアはおずおずと答える。
たった5分暗い中歩くのにそれだけの頻度。
「よくそれで自分が目当てじゃないとか言うよ」と、シンは呆れる。
きっと手を出されなきゃ自分目当てじゃないと思っているのだろう。
幾ら顔に自信が無かろうと声はラクス・クラインと同じで、スタイルは15歳とは言え、十分女性的で申し分無い。
暗い中で「喘がせる」には何の問題も無いという事に気付いていないのだろう。
いつラクス・クラインを襲ったつもりになる変質者が出てこないとも限らない。

・こんな事言えば益々怯えるだろうから決して言えないが。

「・・・・分かった。明日から仕事終わったら迎えに行くから」
「だ、駄目だよ!シンは勉強があるもん!」

相変わらずなミーアの言葉にシンは「馬鹿馬鹿馬鹿」と、心の中で馬鹿を3回繰り返した。
どうしてシンの勉強時間と、ミーアの体を天秤に掛けてシンの勉強時間の方を重くする事が出来るのだろう。
お人好しを通り越して完全に馬鹿だ。

「往復したって一時間も掛からないだろ!いいよ。気晴らしに散歩するには丁度いい距離だろ」
「でもシンは未成年だし。・・・それに歓楽街だし・・・」
「俺だって来年で成人するし。1歳の違いなんて誰も分かんないだろ!で、俺は男であんたは女なんだからな!」
「でもでもシンはただ同居してくれてるだけだし・・・・」

ミーアの感覚は「お迎えは彼氏がするもの」らしい。
自分は人に簡単に、無条件で、手を差し伸べるのに、自分に差し伸べられる手には何か理由が必要なようだ。
「面倒だな・・」と、シンは思いながらそれでもミーアが納得する理由を探す。

「じゃあ・・・、時々帰り道のコンビニでアイス買ってよ。毎回じゃなくていいから。それで雇われる事にする」

胸を逸らして少し偉そうに言うと、ミーアは目を見開いてからきゃらきゃらと笑った。

「ボディガードだ!」
「はいはい」
「ありがとう!」
「んあ?うわぁぁぁ!」

再び飛び掛ってきたミーア(やはり後で聞くと抱き付いたらしい)をまたも受け止め切れずに二人で床に倒れる。
それが何か楽しかったのか、ミーアは笑い続ける。
シンとしては頭を打ったので痛い。

「あ、たまに午前帰りになるからそういう時は先に寝てていいからね」
「馬ぁ鹿。そういう時の方が危ないだろ!いいから、とにかく終わったら連絡入れる!最悪家に着くまで電話し続けるだけでもいいだろ!」
「そっか。うん、ありがとう!」

夜の歓楽街で(歌だけとはいえ)働いていてこの危機感の無さはいいのか!?
これまでよく本当に何も無かったよ。

と、シンはこっそり溜息を吐いた。
つくづくミーアという少女は無防備なようである。

ミーアとシンで生活をするに当たり、ミーアの方が家賃負担の比重が多い。
食費や光熱費は綺麗に折半(ミーアが7割負担しても良いというのをシンが譲らなかった)
その代わり、料理は主にシン(ミーアの作る食事は不味いから)

+二人の一日+

朝はシンが先に起き朝食を作り、ミーアを叩き起こす。
掃除、洗濯は分担。その後は自由行動。
昼間仕事に行く前に一時間掛けてお風呂に入るのが好きなミーア。
鼻歌は居間まで届き、それを聴きながらシンは昼食を作る。
二人で食事をして、二人で片付けて。
たまに二人で食料の買出しに出てそのままミーアは仕事に出る。(ミーアは仕事先で夕食)
シンはその間一人で夕食と風呂を済ませて勉強時間に入る。
ミーアから電話が入ると暗記事項を繰り返しながら支度をして迎えに行く。
歓楽街で商売女に声を掛けられるのを無視して(一度返事をしたら振り払うのが大変だった)ミーアが歌うバーかショーパブの裏口に向かう。
マスターや、同業者の女に何故か気に入られ楽屋に入るとお菓子や食事が貰える。
たまに服も着替えたのに呼び出され、歌う事になればマスターに呼ばれて表のカウンターでミーアが歌うのを見せてくれる。
終わると帰り道、何故かシンも一緒に居るというのにホストに声を掛けられ、律儀に返事して捕まるミーアを引き剥がして帰る。(この頃から眼光が強くなったと言われる)
たまにコンビニに寄ってチョコレートアイスを買って貰い、帰宅。
ミーアは再び風呂に入り(体がタバコ臭くなっているのが嫌らしい)一時間経っても出てこない時は寝てる時だとシンが起こしに行く(浴室のドアを何度か蹴り、それでも起きなかったら目覚まし時計を利用)
着替えるミーアをドアの外で説教してからシンは就寝。
ミーアはたまにシンが用意した夕食の残りを摘み、(そして翌朝怒られる)それからラクス・クラインの音楽を聴きながら寝る支度をして、就寝。

シンが目を覚ましたら目の前にミーアが居た。
シンはすぐに机の上の時計を見て此処が自分の部屋だと判断する。

という事は侵入者がミーアだ。

「ミーア!」
「んー?おはよう、シン」
「おはようじゃない!ナニ人のベッドに入ってるんだよ!」
「…んー。お腹が空いて目が覚めて、何もないからシンに作って貰おーと思って…起こしに来たらシンが肩出して寝てるから寒そうだなぁと思って………一緒に寝たの」
「起こしてないだろ!寝てるし!」

ネグリジェのままだし!

シンの言葉も意に介さないミーアはシンの体に手を回す。
「シンお腹空いたー。一緒に寝よー」
「矛盾してるだろ!」
「じゃー寝よう?」
益々シンに擦り寄るミーアは何かが可笑しいのかクスクス笑う。
性質の悪い酔っ払いみたいだとシンは諦めて寝る事にすると、ミーアは無防備な笑顔で言った。

「シンの体って、男の子の体って気持ち良い…♪」
「……!!」

反射的に「ミーアの体だって気持ち良いよ」と思ってしまうとどうしても意識してしまって、シンは結局眠れなかった。

ミーアの体から甘い香りがして、気持ち良くて、温かいのが悪いんだぁぁぁぁぁぁ!

と、心の中で叫んだという。

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