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鬼ジュール_オムニバス-11

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:19:40

飲み物を二つ買ったレイはそのままミーティングルームに戻らず、教室に向かう。
教室の前の人気ホスト(ホステス)No.1が何故だかクラス外のヴィーノになっていて、シンはどうしたのだろうかと取り敢えず教室の中を覗く。

「あ――――!レイ!やっと戻って来たな!」

逸早く気付いたのはNo.ホストのヴィーノで、女の子と接客中だったのを席を離れ、レイに近づいてくる。
後ろではレイに気付いた女の子が「キャ―――♪」と、声を上げている。
ミーアと二人きりのミーティングルームにいたのでうっかり忘れていたのだが、此処はこういう雰囲気だったと思い出したレイはヴィーノにそっと尋ねる。
「シンは?」
「シンなら裏。直ぐ行ってどうにかしてやってくんね?シンってばもう手が付けらんなくて」
ヴィーノの言葉の後に「ごすっ」という鈍い音が奥からし、そちらに一度目を遣ってまたヴィーノに視線を戻すと、困った顔でレイを見ていた。

あれはシンがやってるのか・・・・。

察したレイはヴィーノに場を任せて裏に入る。
そこではお茶とお菓子を用意するメンバーが居て、やはりレイの登場に皆安堵の溜息を吐き、一斉にシンに目を移す。
それによってレイも直ぐにシンを見つける事が出来た。

壁に向かって椅子に腰掛け、深く項垂れ時々壁に向かって拳を打ち付けている。

分かり易い・・・・。

「シン」
テーブルに飲み物を置いてから声を掛けると、弾かれたようにシンは立ち上がり、レイを振り返る。
直ぐにレイの隣にミーアの姿が無い事に、空気まで切り裂きそうな鋭さでレイを睨み付ける。

「レイ、お前!ミーアはどうした!まさか逃げられたんじゃないだろうな!」

靴の踵を鳴らし椅子にぶつかっても気付かずただレイの襟首を両手で掴み持ち上げ、睨み付けるシンをレイは無表情に見つめ返す。

「彼女が逃げられると思うか?彼女ならM-Ⅱルームだ」

確かに足は速いが要領が悪い。
人混みを掻き分ける力も器用さも無いミーアをどうして逃がす事が出来るだろう。
レイの言葉にシンはミーアの鈍臭い所を思い出し、それもそうか・・・と、レイに掴み掛かっていた手を放した。

「今、どうしてる?・・・何か、言ってたか?」
「大声で泣いて叫んで、化粧崩れが凄い事になっていた」
「それ、そのままミーアに言ったのか?」
「鏡を見た方がいいとは言って、こっちに来た」

きっと今頃大騒ぎだと、その様子が容易に浮かぶシンは表情を和らげ、次に困ったように歪めた。

「・・・・で、何か、俺の事は?」

言いながらシンは俯き、再び拳を作る。
そんなシンの様子を見てレイは先程のミーアの言葉を思い出す。

あたし、シンが好きみたいなの。

しかしそれは忘れた事になっている。

「いや、特に何も。何か思い詰めたように叫んでいたが俺には意味が分からなかった」
「そっか。・・・俺、行って来る」
「待て、シン」
今すぐ飛び出そうとするシンにレイが声を掛けて止める。
シンにしてみれば今ミーティングルームに一人で居るなら自分に黙って帰るかもしれないという恐れがあるので、レイの声はただ苛立ちを呼ぶ。

何も言えずにまた会えなくなるなんて、そんなのは嫌だ!

苛立ちでレイを睨む。
その瞳を受けてもレイは表情を変えず、シンの右手に目を移す。
「怪我をしているだろう。手当てをしていけ」
「必要ない!」
「彼女にその手を見せ付けるのか?怪我の理由を何て言うつもりだ?彼女は化粧直しの最中だ。少しは時間がある」
レイの言葉にシンはそこで初めて自分の拳の状態を見る。
皮が盛大に捲れ、血が滲んで手の甲が少し血で汚れている。

痛みは感じないのだが。

それでも女の子に見せる物じゃない事は確かだ。
それがミーアなら泣いて叫んで怒るのを同時にするかもしれない。

「・・・・分かったよ」

シンは渋々教室に添え付けの救急箱を持って来て椅子に腰掛ける。
レイは救急箱を開けシンが自分で手当てをしようとするのを遮り、手伝う。
「レイ・・・」
「急ぎたいんだろう?」
「・・・・・ありがと」
手当ての最中、レイは一つ思い出した。
ミーアに口止めされていない、言葉を。

「・・・彼女は『ラクス様みたいだったら・・・』と、言っていた」
「へ?」
「『ラクス様みたいに可愛かったら・・・』それなら、聞いた」
「・・・・ミーアの、馬鹿。相変わらず、馬鹿」

シンが俯き、今度は左手で拳を作る。

ミーアはミーアで、そのままでいいのだと、今すぐ言ってやりたかった。

「少し、話し相手になってくれないかな?実は知り合いに呼ばれて来たのだが、さっきから連絡を入れても一向に繋がらなくてね。少し困っていたんだ」

それは気の毒だなぁ・・・この人混みだもん。と、ミーアは思うと自分の家ではないのだが「どうぞどうぞ」と、椅子を勧めてしまう。
しかし、直ぐに今の自分が化粧を落としたスッピンである事を思い出し、背中を向ける。

「スミマセン!あたし、いまちょっと・・・・け、化粧落としちゃってて・・人に見せられる状態じゃないんです!」

此処まで言わなくても良かったのかなぁ!?

言ってから自分の馬鹿正直さに「もうちょっと言葉選べなかったのかなぁ!?」と、半泣きになりながらパニックを起こす。
何せ毎日のようにニュースで見ている有名人が目の前に居て、自分に話し掛けているのだ。
背中を見せるのは十分失礼だと思うのだが、スッピンの顔を晒す事はもっと出来ない。
ミーアの慌て具合に目を見開いたギルバートは直ぐに目を細めて笑う。

「構わないよ。何なら化粧をしながら相手をしてくれてもいいんだ。私の方が勝手に入って来て話し相手を求めたのだからね」
「本当に、いいんですか?無礼を許してくれますか?」
「では、私も君に背を向けて話す事にしよう。これでおあいこだ」

本当にミーアに背中を向けて座り直したギルバートをちらりと見て、彼女もまた背を向けて座り、折角なのでおかしくない程度に手早く化粧をしてしまおうと思う。

「ここは活気があって、いつ来てもいい」
「あたしは初めてで・・・思い切り迷っちゃいました」
「・・・そうか。君は此処の学生ではないのだね?」
「はい、あたしの家はクインティリスにあるんです」
「クインティリスか。あそこも賑やかで好きだよ」

そこからクインティリスにも詳しいというギルバートに地元の話をして、ミーアはその間に化粧をおかしくない程度に終えると改めてギルバートの前に立つ。
顔を上げたギルバートに目線が高いのは失礼だわ、と、床に膝を着いて握手を求めて手を差し出す。

「失礼しました。改めましてこんにちは。あたし、ミーア・キャンベルって言います」

目線を合わせて無邪気に笑うミーアにギルバートは純粋に驚き、目を見開く。
ミーアは隠したようだが、目が赤く、少し目蓋が腫れている所を見ると泣いていたのが分かる。
それでもすっきりとした笑顔を見せるミーアに困ったような複雑な表情を浮かべたが、結局は笑顔でミーアの手を握り返す。

「こんにちは、お嬢さん。私はギルバート・デュランダルだ」

そして手を放そうとした時、ミーアの方がギルバートの手を放さなかった。
どうしたのだろうかと首を傾げる。

「ミーア?」
「あの。聞いてもいいですか?」

呼んでもミーアはうろうろと視線を彷徨わせて、やはり手は放さない。
申し訳なさとしかしそれ以上の好奇心が彼女の中に内在しているのかもしれない。
ギルバートはそのアンバランスさに微笑む。

「こんなにしっかり捕まえておかなくとも逃げるつもりはないよ」
「ご、ごめんなさい!」

ぱっと手を放したミーアにギルバートは隣に座るように促す。
ミーアは少し話し出し難いのか、戸惑いながらギルバートの隣に腰掛け、しかし直ぐには口を開かずもじもじと床を見つめていた。
待っていても話し出してくれなさそうな雰囲気に、こちらから聞くべきかと口を開く。

「一体どうしたんだね?」
「・・・・聞きたい事が、2つ、あるんです。でも、プライベートでこちらにいらしているのなら、聞くのは失礼ですよね?」
「何だ、そんな事か。それなら遠慮しなくても構わないよ。これだけ話してもう名乗り合った仲だ。君は私の友人だろう?」

それとも、こんなに年上では君の友人の年齢制限に引っ掛かってしまうだろうか?

おどけて言うギルバートにミーアは驚いて一瞬椅子から浮かせてしまう。
それからぱたぱたと慌てて両手を振って、首も左右に振る。
中々忙しい娘だな、と、ギルバートが笑顔を見せると、それをきっかけに真っ赤になって大人しく椅子に座り直す。

「い、いえ!光栄です!・・・いえ。えっと、嬉しい!・・・友人には素直に言う事にしているんですが、構いませんか?」
「何なら敬語も無くて構わない。こちらこそ嬉しいよ。君のように魅力的なお嬢さんに友人と認めて貰えるとは」

微笑みを乗せながら言うデュランダルに、ミーアも「流石にそこまでは言い過ぎですよ!」と、声を立てて笑う。
そして笑いが収まると、ミーアは深く息を吸っておずおずと口を開いた。

「一つはラクス様の事で・・・・。今どちらにいらっしゃるんでしょうか?あの戦争以来お姿が見えないのが心配で・・・。それと、もう一つが・・・」

そこでミーアは一旦口を閉じた。
次に言う言葉がどれだけギルバートにとって失礼な事かミーアにも分かっているから。
しかし、どうしても直接聞きたかった。
安心、したかった。

「・・・もう、戦争って起きないんですよね?MSのパイロットになったとしても、大怪我とか、そんな事、なくなりますよね?」

膝の上で指を強く組む。
ラクスの事はずっと心配で、シンの事は凄く心配で。
だからこの二つが今のミーアの気掛かりで、失礼だと思いながらも聞きたかった事。
直ぐにギルバートの返事が返ってこない事に恐怖があるのか、ギルバートが見つめる中、かたかたと組んだ指が震える。
その不安げなミーアの様子にふっと表情を綻ばせて微笑んだ。

「君はとても情愛の深い人なのだね。・・・それでは私の悩みも合わせて話そうか」

今、我等が歌姫は行方不明でね。

心底困ったようなギルバートの言葉にミーアは弾かれたように顔を上げ、彼を見上げる。
泣きそうな顔に追い討ちをかけるような事を言う事に一瞬躊躇したが、それでもギルバートは口を開いた。

「・・・その上、最近外交が思うように行かなくてね。悪い情報ばかりが日々私の元にやって来る。歌姫が行方不明な事もあり、様々な憶測が飛び交い地球に対して悪い感情を持ち始める者達も現れて、少々困っているのだよ」
「それって・・・・」

コーディネイターがラクス様を攫ったかもしれないって事!?
戦争が起きるかもしれないって事!?
そんな事になったら・・・・・・・・・シン!

ギルバートの声が遠くに聞こえ始めて、段々何を言っているのかミーアにはもうよく分からなくなって来ていた。
ただ、苦しくてならなかった。

<続>

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