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00-W_土曜日氏_11

Last-modified: 2008-09-11 (木) 22:39:19
 

 平和維持機関プリベンター、別名火消しのプリベンターの本部は、世界政府議事堂の中にある。

 

「さて、今日皆に集まってもらったのはほかでもない」
「皆も何も、いつだって一緒じゃねーか」

 

 そして今日、そこに五人のガンダムパイロットが集まっていた。
 誰が誰だか今更説明の必要もないと思うので省くが、とりあえず会話の口火を切ったのが張五飛で、それに突っ込んだのがデュオ・マックスウェルであるということだけは明記しておこう。

 

「プリベンターが新生してからそろそろ一か月経つが、ここまでかなり順調に来ているな」
「俺たちをだまくらかして呼び寄せたのも“順調”なのかよ」
「先日のセイロン島におけるゲリラの武装解除だが、現地自治政府から感謝状が届いたぞ」
「ゲリラの武装解除、ってとっくの昔に解散したゲリラのMSを廃棄しただけだろうが。ってか最初の突っ込みは無視かよ!」

 

 同じ組織に所属する以上、顔を合わせる機会は以前にも増して多くなったわけだが、会話の量は圧倒的に五飛とデュオで占められている。
 もともとヒイロとトロワは積極的に口を開くほうではないし、カトルも現在進行中の会話に横やり入れるほど図々しい性格ではない。
 結果、我が道走る五飛と従来通り突っ込み役のデュオがひたすら喋る結果になるのだ。

 

「まあ、今日話し合いたいのはそんなことじゃあない」
「ならゲリラがどうとか言うなよ」
「そろそろ、各自にコードネームをつけてもいい頃なのではないかと思ってな」

 

 プリベンターはいわば隠密同心的な組織なので、それぞれの本名を公式の場所で出すことはできない。
 そんなわけでコードネームがあるわけだが、例えばリーダーのレディ・アンは《プリベンター・ゴールド》、サリィ・ポォは《プリベンター・ウォーター》、ルクレツィア・ノインは《プリベンター・ファイヤー》、ゼクス・マーキスことミリアルド・ピースクラフトは《プリベンター・ウインド》、といったかんじである。
 ぶっちゃけた話、なくても全然困らないわけだが、あるとそれはそれで裏の組織っぽくなってナイスと言えばナイスかもしれない。

 

「あんまりややこしいのはよくないですよね」
「簡単なほうが覚えやすくていいだろう」
「火、風、水……そんなかんじで十分だ。どうせ、呼び方以上のものではない」

 

 カトル、ヒイロ、トロワはとりあえず五飛の意見に反対する意思はない様子。
 というか、反対しても無駄だ、と悟っているのであろう。

 

「そうだな……ガンダムのイメージ的に行くと、俺が龍、ヒイロが羽、デュオが死神か」
「プリベンター・ドラゴンにプリベンター・ウイング、プリベンター・デス……ひねりも何もないが、逆にそれがいいかもしれんな」
「あれ、僕とトロワは?」
「カトルは砂、トロワは……ピエロだな」
「プリベンター・サンドってコンビニの新作サンドイッチかよ。しかしピエロはないだろピエロは」
「俺は別にそれでいい」
「拗ねるな、トロワ」
「じゃあプリベンター・スネークでどうだ。なんとなく工作員のイメージにもぴったりだろう」
「五飛お前、それはヘビーアームズのヘビーから蛇を連想しただけだろ」
「よくわかったな」
「わかるわい!」

 

 何だかんだと結構楽しそうな五人なのだった。

 

      *      *      *

 

「……さて、だいたいこんなものか」
「話始めてから一時間も経ったぞ。そんなに時間を取るような議題だったか、これ?」
「いい時間潰しになっただろう」
「時間潰しだったのかよ!」

 

 トロワのコードーネームで揉めて40分近く時間を費やすことになったが、どうにかそれぞれの呼称が決まった。
 ヒイロが《ウイング》、デュオが《デス》、五飛が《ドラゴン》、カトルが《サンド》、トロワが《ウェポン(武器)》という具合だ。

 

「まあ、時間潰しは冗談だが、使うにしろ使わないにしろ、プリベンターとしての呼びかたは必要なのだ」
「俺、使わないほうにうまい棒100本賭ける」
「なら今ここで使ってその賭けをフイにしてやろうか? デュオ」
「ごめんなさい五飛さん文句言ってすいません」

 

 完全にかけあい漫才と化している五飛とデュオの会話。
 熟練コンビも真っ青のタイミングで言葉を応酬する様子は、ある意味金が取れるたぐいのものかもしれない。

 

「まあそれはそれとして、俺たちはこれでいいが、まだあと一人コードネームを決めるやつが残っている」
「誰だ?」
「ヒルデだろう」
「……パトリック・コーラサワーだ」

 

 自称スペシャルで模擬戦二千回無敗超エース、パトリック・コーラサワー28歳独身は、今現在病院の中で療養中。
 ガンダニュウム合金で補強された壁に全力でぶつかった結果だが、それで一本の骨折もなく切り傷と打撲だけですんだのだから、かなり恐ろしい男である。
 今の時点で、怪我は全て問題なく治っているのものの、何ぶんあっちの本家で再登場していないため、当面出番なしということで病室にムリヤリ押し込められているのだ。
 本人もさすがにショックなのか、心がちょっと壊れかけてたりなんかしてとてもかわいそうな状況なのである。

 

「あいつにふさわしいコードネームなぁ」
「プリベンター・ムッシュグリゴリ・ムッシュグリゴリ・五所川原・ド・為五郎でいい」
「プリベンター・パチョッレクサワーコーラというのはどうだ」
「……みんな、もう少しまじめに考えてあげようよ」

 

 カトルだけがここにいないコーラサワーに同情をしめす。
 このメンバーの中で面と向かってコーラサワーと触れ合ってないのがカトルだけであり、コーラサワーの本性を知らないがゆえの優しさと言えるだろうか。
 何しろ今のところ最初で最後の面合わせが例の血まみれ昏倒であるからして。

 

「普通に考えたら、プリベンター・スペシャルか?」
「だがそれだと俺たちがやつと認めたみたいでシャクにさわる」
「……ふむ、あとキーワードになりそうなのは“模擬戦で二千回で超エース”だが」
「エースはこれもなんかむかつくから外して、模擬戦で二千回か」
「模擬戦はシミュレーション、二千回はツー・サウザンド・タイム?」
「どっちも何か中途半端だな」

 

 本人不在で進められるコーラサワーのコードネーム決めだが、どことなく欠席裁判の空気が漂ってきた。

 

「しかし、本当に模擬戦二千回無敗なんですか?」
「レディ・アンのレポートによると一応確からしいな」
「動かない的を撃って模擬戦、とかいうんじゃないだろうな。縁日の射的だぞそれじゃ」
「元軍人なのだから、少なくともそういうことはないだろう」
「よっぽど相手がヘボかったのかもな」

 

 好き放題言いまくるガンダムパイロットたち。
 コーラサワーの人徳がしのばれる涙もののシーンといえよう。

 

「ちょっと待て、本格的な模擬戦だとすると、二千回とは相当な回数だぞ」
「OZの育成プログラムによると、トップレベルのシミュレーションは丸一日かかるという話だな」
「仮に、仮にだぞ、二千回がフカシじゃなく、奴が所属してたAEUの軍隊も結構まともだとするとだ」

 

 ここでデュオが不意に真面目な顔になって語りだした。

 

「うーん、コーラサワーさんはかなりのスゴ腕ということになるよね、デュオ?」
「いやカトル、そうじゃない」
「はい?」
「模擬戦を一日一回とすると、二千回こなすのに二千日かかる」
「単純計算ではそうなりますね」
「まさか一年365日ずっと模擬戦してるわけにもいくまいから、多くて一年で200日模擬戦したとしよう」
「……」
「奴は確か28歳、養成学校のパイロットコースだと普通18歳で任官だ」
「……」
「と、するとだ。2000÷200=10で、奴はこの十年ずっと模擬戦をやってきたことになるぞ」
「……た、単純計算では、そうなりますね……」

 

 デュオの仮定はかなり強引なものだったが、それでも皆の口をつぐませるには十分すぎる破壊力だった。
 五飛さえも、眉根を寄せて真剣に考え始める。

 

「この十年間、戦争や紛争にAEUの軍隊が直接介入したケースはない」
「つまり、奴は本当にひたすら模擬戦だけを繰り返してきた可能性がある、とそう言いたいのかお前は」
「そういうことだ、ヒイロ」
「……これは、すごいな」
「完全にあれだな」
「ああ、あれだ」
「バカ……ですね」

 

 コーラサワーはバカ。

 

 一言であらわしてしまうと、なるほどさもありなんとうなづけるが、色々と深読みしてみるとこれはかなり恐ろしい。
 通常業務以外は尋常じゃないペースでひたすら模擬戦を繰り返し続ける男。
 もうこれは本物のバカとしかいいようがない。

 

「決まりだな」
「ああ、奴のコードネームは」
「……プリベンター・バカ」
「言いやすいし覚えやすいな」
「僕も特に不満はありません」

 

 こうしてパトリック・コーラサワー本人が不在のまま、彼のコードネームが決定した。

 

 《プリベンター・バカ》

 

 それが、これからの彼の平和維持活動上の呼称となる。
 使うか使わないかは、別として。

 

      *      *      *

 

「へへっ、スペシャルで模擬戦で二千回だぜ、へへへ」

 

 五人の話し合いが一応の決着を見た丁度その頃、病院のパトリック・コーラサワーが何をしていたかというと。

 

「123、124、125……チキショ、風に吹かれて消えちまった。もう一度やりなおすか……」

 

 空に浮かんだヒツジ雲の数をひたすら数えていた。
 西の空から東の空まで、視界にうつるすべてのそれを。

 

「あのビルの上のやつから……1、2、3、4……」

 

 勝手にコードネームを決められているとも知らず、ただただ雲の数を数えるコーラサワー28歳独身。
 プリベンター・バカの本格的な復帰は、秋空に落ちていく夕陽のようにまだまだ遠い――

 

 

【あとがき】
 放送日なのでコンバンワ。
 次回も登場しなさそうですなぁ、ということでサヨウナラ。

 
 

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