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00-W_土曜日氏_115

Last-modified: 2009-09-14 (月) 21:05:58
 

 幸運、不運という言葉は所詮後付けの言い訳である、と語った古人がいた。
 つまり、全ては結果でしか判断出来ないのだから、評価するなら答のみで判断するべきで、人智の及ばぬであろう奇跡的な目に見えざる力を考慮する必要はない、ということだそうな。
 信じるという行為をすることによって、不安を取り除き、見事な結果を導き出す実例は多々あるが、それもまた先の古人の言を借りれば、信じる信じないに関わらず、もとからそうなる要素が揃っていただけだ、ということになるのであろう。

 

 これとは逆に、人生の大半は運が絡む、と見た古人もいる。
 自分にいかに才能があろうとも、それだけでは人の世を乗り切ってはいけない。
 その才能を生かせるような時流・土台は自らの力だけでは生み出せないのだから、という考え方である。
 例えば、戦略戦術を理解・実践する才能が備わっていた人間がいたとしても、彼の生涯が平穏で、戦争と関わりが無ければ、その才は埋もれたままで、生かす術は無い。
 画期的な大発明をしても、それを必要とする人が多くいなければ、何も益とはならない。

 

 結局のところ、運なるものは形としては目に見えないので、答など無いのだ。
 前者と後者、どちらの古人にしても、彼らの考えであり、絶対的な証明ではない。
 ジンクスに科学的な根拠はないが、それを信じて成功している人はいる。
 神を信じてなくても、お守りを買う人はいる。
 決定論だろうが確率論だろうが、運というものをどう捉えるかは、所詮はそれぞれの考え次第なのだ。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「あーっ、畜生! そのリーチを外すかぁ!?」

 

 経済特区東京のとある繁華街、さらにその中のとあるアミューズメントパークで、一人の男が遊びに興じていた。
 伸びた髪と髭、服の上からでもわかる鍛えられた肉体、そしてどこか肉食獣を想い起こさせる表情、歳の頃は三十の半ばから、四十過ぎであろうと思われるが、その身体から発せられる精気は、決してくたびれた中年のそれではない。

 

「信頼率83.2%だろうが……ハロ群予告からのピキーンリーチで発展付きだぞ、外す方がおかしいじゃねーか」

 

 彼がやっているのは、所謂パチンコというシロモノ。
 かつてはこの国で大いに流行ったギャンブルのひとつだが、時代と技術と文化が進んだ今となっては、最早文字通りの『遊戯機』になり、闇ギャンブルを除いては、換金や生活景品獲得の手段にはなっていない。
 つまりは、単なるゲーム機のひとつ、という扱いになっている。
 これに対して、競馬やカジノはまだギャンブルとして残っている。
 世界的に広がっていたものか、それともそうでなかったものかの差である、と言ってしまえばそれまでのことではある。

 

「もうハマって1000回転だぞ、そろそろ当たってくれねーと、メダルが無くなっちまう」

 

 ギャンブルではなくゲームなので、金を直接投入することはない。
 メダル(コイン)を買って、それで遊ぶようになっている。

 

「なかなか当たらんようですなあ、ボス」
「うっせーよ、お前はまだいいだろ、一回連チャンしてるから」

 

 さて、このパチンコに興じている男が誰なのか、最早言わずともわかるであろう。
 天下のいらんことしいゲイリー・ビアッジ、またの名をアリー・アル・サーシェス。
 傭兵として名前を馳せて、今ではアイドルグループ『イノベイター』の手足となっている男である。

 

「しかし、遠隔でもやってんじゃねーのか、この店は」
「まさかぁ」
「だってさっきのリーチで外すなんて、正直ありえねーぞ」

 

 イノベイターのリーダー、リボンズ・アルマークの招集を受け、リゾートを切り上げた彼であったが、結局、具体的な指示はまだリボンズからは出ていない。
 その間の行動は特に縛りを受けていないため、こうして部下ともども、アミューズメントパークで遊んでたりする。
 ここ数日はずっと開店から閉店まで入り浸りなのだが、もちろん、それには理由がある。

 

「メダル一万枚で交換出来る『冬ドナセット』、どうしても手に入れてぇ」

 

 この男、傭兵としては凄腕なのに、その一方で趣味がちょっとミョウチキリンだったりする。
 大人気ドラマの『冬のドナタ』のファンで、再放送は必ず見るし、関連グッズも集めている。
 内容としては旧時代的なベッタベタ恋愛ドラマなのだが、さて、それが野獣のような一面を持つこの男の心のどこにクリーンヒットしたものやら。

 

「それならいっそ、メダルを買いまくれば」
「ばぁか、それじゃあ意味ねえだろうが! こうやってゲームで手に入れたメダルでってのが、大切なんだよ」
「はあ……」

 

 このアミューズメントパークには、メダルゲームがたくさんある。
 スロット、ビンゴ、その他諸々、それらに彼の部下が多く散って、上司のために奮闘している次第である。

 

「今日はイマイチだぜ、しかし」
「運が無いんですかねえ」

 

 運が無い、という部下の言葉に、アリーは再度ばぁか、と応えた。

 

「幸運だの不運だのって言葉で簡単に片づけられちゃあたまんねえな」
「そうっすかねえ」
「そりゃそうだろ、お前は今まで生き抜いてこられたのが、運によるもんだけって思うか?」
「まさか、俺だって努力はしてますよぅ」
「じゃあ逆に、その努力によって身に付けた技量だけで生き延びてきた、ってのはどうだ?」

 

 部下はパチンコ台から手を離すと、腕を組み、しばしの間考えた。

 

「うーん……それも違うって気がしますねー」
「だろ、そういうこった」
「どういうことっすか」
「だからよ、運って言葉で簡単にまとめちゃあ、何でもかんでもつまらんってことさ」

 

 アリーは傭兵である。
 死が隣り合わせの戦場で、己の戦闘技術で道を切り拓いてきた。
 自尊心も高い彼は、「俺が強いからだ」と常に言って憚らないが、それでも、全てが自分の力だけでやってこれたとも思ってはいない。
 戦歴は百戦、されど戦績は百勝ならず。
 自身の力でもぎ取った勝ちもあれば、及ばずしての負けもある。
 楽して果実を手に入れたこともあれば、泥に塗れて無報酬だったこともある。
 常に勝利を目指してはいるが、勝ちっ放しは決して出来はしない。
 自分の実力が足りていても、それでも栄光に届かないなんてことはザラである。

 

「いいか? 俺は強い」
「わかってます」
「だからさ、運の善し悪しってのが実際あるにしても、それをこねくった言い方はしたくねえのさ」
「はー……」
「ツイてねえ、とか、ラッキー、とか、それくらいはもちろん言うけどな」

 

 部下は頷いた。
 完全に理解したわけではないが、アリーの言いたいことが、何となくわかったからだ。
 失敗したら運がなかった、成功したら運が良かった、そう簡単に言ってしまえる程、人生ってのは簡単ではないのだ、と。

 

「上手くいかなかったら腹が立つが、だからと言って運だけのせいにするのは」
「ああ、つまり自分を間接的にバカにしていることになる、と?」
「ん、そーいうことさ……ほい、お前の台、でっかいのが来たぞ!」
「え、えっ!? あ、あっ! 赤枠! 背景変化! パターン崩れ!?」
「九割鉄板だ、激熱だぞオイ!」

 

 九割なら鉄板じゃないだろう、とは野暮なツッコミである。

 

「おほっ、キター!」
「確変ですよ確変! 72%継続ですよ!」
「おっしゃ、ガンガン出せ! 俺も続くぞ!」
「ボスも来ますよ、きっと! 流れが来てます!」
「もちろんだ、コラ!」

 

 アリーは口の端をくわっとあげて笑うと、缶コーヒーをあおった。
 彼の打つパチンコ台が爆発するか、それとも沈黙したままなのか。
 それは、誰にもわからない。
 ただ、一流の快楽主義者である彼は、「負け」を考えて行動しない。
 ゲームだけではない、戦いにおいても、彼は自分のやりたいことを常に考えている。
 雇われればその主の為にもちろん働くが、彼が生きるのは彼の為だけである。  
 そこには、運という言葉が挟まる余地はない。
 出た結果はともかく、己に素直に生きる彼が、幸運・不運という言葉によって左右されることは、決してないであろう。
 他者がどう判断するかは、別にして。

 
 
 
 
 

  『この世に運などない。全ては試練、刑罰、保証ないしは先見である』   ~ヴォルテール

 
 

  『人間の一生を支配するのは運であって、知恵ではない』   ~キケロ

 
 
 
 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーはまだまだまだまだ引っ張ります―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 熱が出たのですわインフルエンザかと思ったらただの夏風邪だった模様サヨウナラ。
 誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。

 
 

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