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00-W_土曜日氏_122

Last-modified: 2009-10-28 (水) 21:10:55
 

 ヒルデ・シュバイカーの武器はフライパンである。
 彼女が投げたフライパンは百発百中、ヒット時のダメージは軽くイオ○ズンを上回るとさえ言われている。
 主な被害者はパトリック・コーラサワー、他にはパトリック・コーラサワー、さらにパトリック・コーラサワー、ついでにパトリック・コーラサワー、とどのつまりパトリック・コーラサワー。
 彼女がデュオ・マックスウェルと一緒にプリベンターに加わって以後、果たして何度コーラサワーがフライパンアタックを喰らったか、正式な統計が無いので不明だが、相当の数を後頭部、側頭部、前頭部に当てられている。
 そのうち記憶を失うんじゃないか、いや命すら危ないんじゃないかとさえ思えるのだが、そこはそれ、何たって不死身のコーラサワー、未だにピンピン状態で、その時々で気絶はしたりするものの、生命上ヤバい状況に陥ったことはない。

 

「何すんだよオデコ娘二号! いてーじゃねーか!」
「デュオそいつ押さえて、そうしないと殺せない
「落ち着けヒルデ、本音がダダ漏れだ、ってかさすがに過激すぎだ」
「どけデュオ、俺が代わりに押さえてやる」
「五飛、何をするつもりなんですか!?」
「決まっているカトル、フライパンと俺の拳でサンドイッチだ」
「ちょ、ちょっと!」
「うーん、ヒルデはともかく、五飛にはやらせてやってもいいかもしれないな」
「デュオ、またそんなことを……」

 

 で、今日も今日とてプリベンターは賑やかである。
 原因はヒルデのオヤツのケーキをコーラサワーが食べてしまったから。

 

 ねえ、お前ら本当に世界の平和を守る組織なのかと。
 小一時間どころか終日問い詰めたい、牛丼食いつつ問い詰めたい。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「あいててて……」
「合計六発か。しかし、それでタンコブすら出来てないお前は一体何者なんだ」
「冗談じゃねーぞオデコ娘二号め、頭蓋骨が割れたらどうすんだ」
「割れたらきっと中身のスッカスカ具合がわかるだろうな」

 

 騒動は、コーラサワーが代わりのケーキを買ってくることで落ち着いた。
 喧嘩が始まってから十数分、その間プリベンター本部は上へ下への大騒ぎだったわけだが、まあホント、世間が平和ならプリベンターも平和、脳味噌だって平和なんだと思わざるを得ない。

 

「ケーキくらいいーじゃねーか、腹が減ってたんだよ」
「だからって人様の物を勝手に食べていいってことにはならないだろ」
「別にケーキに名前が書いてあったわけじゃない」
「……子供か、お前は」

 

 デュオは溜め息をついた。
 確かにケーキひとつでプッツンきちゃうヒルデも大人げないが、その前に他人の物を許可も取らずに平気で食べちゃうコーラサワーはもっと大人げない。

 

「何でもあのケーキ、街で有名な店のもんで、並ばなきゃ買えないんだってさ」
「ケーキなんてどこの店のもんでも一緒だろ、いちいち並ぶ根性がわからん」
「それだけおいしいってことなんだろう」
「まあ、確かになかなか美味かったが」

 

 コーラサワーは大食いでもグルメでもないが、勤務中は結構色々と軽く何かをつまんでいる。
 軽くどころか、蟹だの寿司だのとたいしたもんをつまみまくっている気もするが、まぁ今は忘れておこう。
 で、それでいて中年太りの欠片も見せない体型なのは、これは体質と言いきってしまっていいかもしれない。
 世の女性、メタボ予備軍の男性からすれば、何とも羨ましい資質の持ち主ではある。

 

「で? 俺はどうすりゃいいんだ? その店に行って、並んで買えっていうのか」
「そうなるだろうな」
「別にいいじゃねーか、そこらのコンビニのケーキでも」
「ふむ、お前がそれでいいならそうしたらいいんじゃないか。ただ、追加でヒルデのフライパンをさらに何発か喰らうだろうが」
「……わーったよ、ちゃんと買いに行けばいいんだろ、行けば」

 

 存外に素直なコーラサワー。
 さすがに、イオナ○ン超級のフライパンを、これ以上喰らう気はないらしい。
 いかに不死身とは言え、やっぱりダメージを受けちゃうのは、気分がいいもんではないのだろう。

 

「じゃあ、行ってくる」
「ああ、逝ってこい」
「おかしな発音すんな、みつあみおさげ」

 

 デュオ、ちょこっと嫌味。
 ささやかながらもこうやってチマチマと皮肉なり嫌味なりをぶつけていくのが、デュオの対コーラサワー・ストレス解消法である。
 肝心の相手がまったく堪えないので、虚しいっちゃ虚しい限りではあるのだが。

 

「ああ、ならお茶っ葉もついでにお願い出来ないかしら」
「すいません、茶菓も無いので、御煎餅か何かもお願いしていいですか」
「じゃあ俺は肉まんがいいな。久しぶりに食べたくなったぜ」
「おい、俺には鮭のオニギリを頼む」
「ならば私は『週刊サムライズスゥオード』を所望する。今号はマサムネ特集で、是非とも読んでおかねば」
「私はボッタクリマンチョコがいいですぅ、確か今月から新しいシールに変わってるはずですぅ」
「一発殴らせろ」
「……ちょっと待て、何で俺がそこまでしなけりゃなんねーんだよ! それに最後! 何かおかしいぞコラ!」

 

 さあ、上から順番に誰の発言でしょうか。
 口調と内容でバッレバレではありますが。
 なお、残りのメンバー……ってヒイロ・ユイとトロワ・バートンですが、彼らが注文を何もしなかったのは、別に欲しいものが今はなかったから。

 

「清算は後でちゃんとしろよ!」
「ああ、駄賃も欲しいならくれてやるよ」
「俺はガキンチョかよ」
「振る舞い見てるとガキンチョだよ」

 

 で、ブツブツ言いつつコーラサワー、本部の外へ。
 そして―――この後、注文組は後悔することになる。
 ねえ、コーラサワーがまともに買い物なんかするわけないのよ、まったく。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「ただいまーっと」
「……遅かったな」
「当たり前だろ、並ばなきゃ買えないって言ったのはどこのどいつだ」

 

 コーラサワー、二時間かかってようやく本部に帰還。
 太陽は傾いて、西の空は薄らと赤くなっちゃっている。

 

「まさか一時間も並ぶとは思わなかったぞ」
「一時間で済んで良かったんじゃないか? 休日だと二時間待ちもあるらしいぞ」
「何でケーキ如きでそこまで苦労する意味がわかんねえよ。はいよ、そのケーキ」

 

 ポン、とコーラサワーは机の上にケーキの箱を置いた。
 ヒルデが中身を確認し、よし、といった感じに頷く。
 彼女の背中にはフライパンが二つ程隠されているが、これはコーラサワーがトンチキなケーキを買ってきたら、思いっきり喰らわす予定だったのだろう。

 

「で? 忘れてないよな」
「忘れるわけねーだろ、鳥じゃねーんだから」

 

 コーラサワーは大きなビニール袋を、さらに机に置いた。
 さあ、問題はここからである。

 

「えーとお茶だな、はいよ、ギムネマ茶に韃靼そば茶、タヒボ茶、アガリクス茶、サラシア茶にドクダミ茶」
「……何で普通の緑茶を買ってこないのよ」
「健康にいいだろ? あ、坊っちゃんの煎餅な、暴走激辛煎餅と覚醒激甘煎餅、納豆煎餅、餃子煎餅、ラーメン煎餅」
「……どうやって入手したのか、何だか知りたいような知りたくないような」
「普通の買ってもつまんないしな。みつあみおさげは肉まんだよな、ほい、イカスミ海鮮まん、プリンまん、ミルクキャラメルまん、ティラミスまん」
「……俺は普通の肉まんで良かったんだがね」
「遠慮するなって。えーとアラスカ野だな、ほらよ、梅干しとおかかと高菜のオニギリ」
「……俺は鮭ってちゃんと言ったような」
「無かったんだよ、それで我慢しろ。ナルハム野郎は本だな、『週刊日本刀』をちゃんと買ってきてやったぜ」
「……これは先月号だ。私は今月号が欲しかったのだが」
「そうなのか? だってお前、何月号かちゃんと言わなかったし。最後はオデコ娘三号だな、ほらよ、『ボッタブリマンチョコ』」
「……パチもんじゃないかですぅ、これじゃロッチですぅ、ロッチ!」
「ん? コンビニのは売り切れだったから、駄菓子屋のガシャポンで買ったがまずかったのか?」

 

 何ともかんともコーラサワー、ケーキはちゃんと買ってきたものの、後は御覧の通りの有様である。
 確かにそれぞれ、基本的なラインは間違ってはいない。
 だが、決定的に何かが違う、何かが。
 いやまあ、注文通りに買ってきてない時点で何かもクソもないっちゃないんだが。
 さすがは予想を裏切るコーラサワー、面目躍如……なのか、これは。

 

「さあ、清算しろ。レシート渡すから」
「誰が払うか! こんなひねくれた買い方しやがって!」
「文句言うな! 考えて買ってきてやったのに、何て言い草だ!」
「スペシャルさんは考えなくていいんですぅ! あーもう、紙に書いて店のお姉さんに渡してくれれば良かったんですぅ!」
「何だよ、それだとマジでガキの買い物だろうが!」
「笑止! これは子供以下なり! いや、比べることすら子供に対して失礼千万無礼千万!」
「普通に喋れ、ナルハム野郎!」
「鮭のオニギリ、食いたかったなあ」
「ならよ、窓から放り出してやるから空を飛んで買いに行けよ、アラスカ野!」
「貴方達、いい加減にしなさあい!」
「ぼ、僕はちゃんと清算しますよ。一応、御煎餅には代わりないんですし」

 

 あーもう、また喧嘩。
 下らないことでここまで揉めることが出来るプリベンター、つまりは仲の良い証明なのかもしれない。
 いや、それは褒めすぎか?

 

「よし、皆どいていろ」

 

 じゃあ、最後はこの人にシメて……もとい、閉めてもらいましょう。

 

「五飛、何をするつもりなんですか!?」
「決まっているカトル、こいつが出ていく前に言っただろう」
「えっ?」
「一発殴らせろ、とな!」
「ちょちょ、ちょっと!」
「構わんカトル、思いっきりやらせてやれ」
「デュオまでそんなことをー!」

 

 落ち込んだりはしないけど、プリベンターは元気です。
 昨日も今日も、きっと明日も。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 ねえ、リアルに数年先とかはやめてよ映画サヨウナラ。

 
 

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