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00-W_土曜日氏_128

Last-modified: 2009-12-28 (月) 23:01:07
 

 アロウズ・セキュリティ・サービス、通称ASSは警備保障会社である。
施設警備、交通警備、輸送警備、そして身辺警備を行い、警察とはまた違ったやり方で「平和」を守っている。
右肩上がりのアロウズにおいて、ASSの存在価値は大きく、警備業者中のランクも着実に上昇中であり、
近い将来、その業種のトップに立つであろうと噂をされている。

 

  事件が起きてから動きだすのが警察、
  事件が起きる前に動くのが警備業、
  そして事件を起こす気すらなくさせるのがASS

 

 という謳い文句を前面に押し出したそのやり方は時に非難を浴びる程強圧的だった。
しかし同時に、その解決手腕の高さに対する称賛の声もまた、大きいのだった。

 

「さて、直に動く時がやってきたというわけだ、ジニン隊長」
「は……」

 

 そのASSの本部、警務部長室にて、二人の男が会話をしていた。
一人はこの部屋の主で、ASSの警務部長、アーバ・リント。
そしてもう一人は、彼の部下、バラック・ジニン。
リントは銀の髪にひょろりとした身体で、一見して荒事に長けているとは思えない外見だが、
頭の中身は別で、謀略から情報戦まで、卑劣な手段も辞さない『策略家』である。
ジニンはと言えば、リントとはまったく逆で、鋼鉄が服を着ているかのように、隆々とした筋骨を誇っている。
各種の格闘技をマスターし、一人のファイターとしても、また部隊の長としても、現場レベルではASSに並ぶ者がいない。

 

「気の無い返事だが、やる気がないのか?」
「いえ、警務部長、そんなことは」
「ならばいい」

 

 ジニンは、今まで堅実に業績を上げてきた。
暴動紛い、銃撃戦紛いのトラブルも解決したこともある。
だが、これから彼が望む“任務”は、『トラブルを解決する』ものではない。
寧ろ逆で、彼自身がトラブルを起こす側になるのだ。

 

「まあ、君に躊躇いがあるとして、その理由はだいたい察しがつくが」
「……?」
「まだ信じられないのだろう? GNドライブとやらが」
「……」

 

 ジニンはリントに対して、僅かに頭を下げた。
つまりは、上司の言葉の正しさを認めたというわけだ。

 

「無理もないと言えばないが、これは事実であり真実なのだよ、ジニン隊長」
「疑っているわけではありませんが、しかし……」
「疑っていないのなら、働くことだ。兵隊はおかしな考えを持つものではない」

 

 リントは、早い口調で一気にジニンの口を封じた。
膂力に関してはジニンが圧倒的にリントに勝るが、しかし、このASSの中では、リントがジニンより圧倒的に権力を持っているのだ。

 

「君は私の命令に従えばいい、それだけだ」
「はっ」
「具体的な指示はさっき渡したファイルに全て載っている。速やかに行動しろ」

 

 ジニンはさらに一礼すると、リントの前から退去した。
ファイルに載っていない緊急事態に陥ったらどうするか、とは、彼は聞かない。
それを問うたら、リントは冷笑して言うだろうからだ。
「私が立てた計画に、割り込むべき緊急的事態などない」と。
自信過剰にも思えるが、確かにそれに見合うだけの成果を、リントが今まであげてきているのも事実ではある。
ジニンも、彼から直接指示を受けて、今まで失敗をしたことはない。
だが、だからこそ、不安の槍がジニンの心をちくちくと刺すのだ。
何しろ、今度は普通の任務ではないのだから……。

 

「……さて、どうなるか」

 

 廊下を歩きながら、ジニンは小さく呟いた。
与えられた任務を、おろそかにするつもりはない。
常に全力、が彼個人のモットーでもある。
リントは、兵隊はおかしな考えを持つな、と言った。
そう、結局のところ、バラック・ジニンは兵隊なのだ。
ASSの、いや、アロウズという巨大総合企業の。

 

「やるしかない、か」

 

 GNドライブ、人類におけるエネルギー革命と成りうる無限動力炉。
その存在を、信じる信じないの話では、もうないのだ。
彼はアロウズの歯車の一つとして、かけずりまわるしかない。
その結果が、どうなろうとも。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「もういくつ寝ると、何だと思う?」
「何だよ急に」
「いいから答えろ、みつあみおさげ。もういくつ寝ると、何だ?」
「……お正月だな」

 

 年の瀬も押し迫り、プリベンターはにわかに忙しくなった。
年末年始は政府関係の催しものも多くなるが、それに伴い、ボディーガードとしての仕事が大幅に増えたのだ。

 

「違うだろ、わかんねーのか?」
「他になにかあるのかよ」

 

 そんなわけで、メンバーはパトリック・コーラサワーとヒルデ・シュバイカーを除いて、ここ近日は大わらわだった。
今日もひとつ、式典の警護を終えて本部に帰還してきた次第だ。
なお、何故コーラサワーとヒルデが除かれてるのかと言うと、答は至って簡単である。
まず、ヒルデの場合はその役目が所謂後方支援担当であるから。
もっとも、別に彼女に戦闘力が無いわけではない。
何しろ彼女には必殺の武器、フライパンがある。
関雲長には青龍偃月刀、加藤清正には槍、そしてヒルデにはフライパンてなもんで、これを持たせりゃ天下無双、十分警護役も務まりはする。
だがしかし、フライパンを実際に持たせて警護をやらせるわけにもいかないっちゃいかないであろう。
 で、コーラサワーは何でハブ……もとい、除かれてるのかと言うと、
何かもう説明の必要があるのかわからんが、ぶっちゃけ、生身ではそんなに役に立たないから。
参加している女性をナンパしたり、オエライサンに失礼を働いたりする可能性が実に大であり、
しょーがなしと言うかやむにやまれずと言うか、まぁ置いといて当然的に残留組になっている。
いや、人手というものがあるから、彼にだって出てもらった方が楽になるのは確かではあるが、余程でないとやっぱり駆り出せない。
正味の話、実際テロにあって要人に被害が出ても、そのガード役が無傷でピンピンというのもマズイであろう、色々と。

 

「誕生日だよ、誕生日!」
「誰の」
「誰の、ってお前……」
「ああ、ジグムント一世のか」
「誰だよ!」
「ポーランド国王。16世紀の」
「しらね―よそんな奴!」
「じゃあウジェーヌ・ドマルセーか」
「それも誰だよ!」
「お前んとこの国の科学者だよ、19世紀の。ユウロピウムの発見者だ」
「しらねーってばよ!」
「それならロベルト・リベリーノか」
「だから誰だよ!」
「左足の魔術師と言われた、20世紀のブラジルのサッカー選手だ」
「だーっ! そんな連中どーだっていいんだよ!」
「どーだってよくないぞ、誰も彼もお前よりよっぽど業績を上げた人物ばっかだ」

 

 コーラサワーと会話をしているのはデュオ・マックスウェルだが、
彼はコーラサワーが何を言いたいか本当はちゃんとわかっている。
わかっているが、敢えてそれから話を逸らしているのだ。

 

「俺だ! スペシャルエース、パトリック・コーラサワーのだな!」
「命日か」
「誕生日だ!」

 

 仕事から帰ってきて、茶の一杯でも欲しいところに、コーラサワーのあからさまな質問攻め。
正直、デュオとしても、意地悪の一つや二つもしたくなるところである。
だがまあむしろ、デュオは優しい方であろう。
コーラサワーが問うた相手がヒイロ・ユイやトロワ・バートンなら完全無視を喰らっていただろうし、
張五飛なら延髄に蹴り、サリィ・ポォなら張り手一つでも貰っていたであろうから。
メンバーの中でちゃんと答えてくれるとしたら、多分カトル・ラバーバ・ウィナーしかいないに違いない。
グラハムさんとかアラスカ野さんとかは、まずもって会話そのものがちゃんと成立するかどうか。

 

「つーわけでよ、何かくれるよな?」
「何でだよ」
「めでたい日だぞ!」
「つうか、三十路の既婚者が半分以下の年齢の少年にプレゼントたかるなよ!」
「じゃあお年玉くれ」
「お前、もう一回同じ台詞繰り返してやろうか」

 

 この五分後、ヒルデが「前倒しでプレゼントあげるわ、
もういくつと言わず一週間程眠ってなさい」とフライパンをコーラサワーの後頭部に投げつけることになる。
だがまあとにかく。

 

「スペシャル・バースデーなんだよ! スペシャル!」
「ああそうかい。こっちは警護の仕事明けで疲れてんだ、お前一人で誕生日会の準備でもやってろ」
「おめでとう、の一言くらい言えないのか、みつあみおさげ!」
「ああはいはい、頭の中がオメデタクておめでとうさん!」

 

 新しい年は、近い。
大きな事件が待っている年が。

 
 

プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は、来年も続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
代理投下の方、まとめの人、そして住人の方々にお世話になった一年でした。
来年、映画公開まで無事続けられるよう頑張りますサヨウナラ。

 

良いお年を……。

 
 

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