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00-W_土曜日氏_132

Last-modified: 2010-02-01 (月) 23:08:01
 

 ミレイナ・ヴァスティ。
 プリベンターのリーダーであるレディ・アンの秘書を務める少女。
 歳はまだ14、世間一般から見れば尻が青いどころか、社会人としてすら認められない年齢である。
 が、ところがどっこいしょ。
 彼女、相当の才媛だったりする。
 各種技能を持ち、前任のシーリン・バフティヤールの後を継いで、まったくの不足無く大役をこなしている。

 

「ふふーん、今日もよく働いたですぅ」

 

 レディ・アンは世界中を飛び回っている激務であるからして、当然その秘書もかなり忙しい。
 だが、山のように積み上げられている実務も、彼女の力でかなり軽減されている。
 人は見かけによらない、その典型と言ってもいいかもしれない。

 

「さーて、帰ったら『とある六法全書の誤字探し』の続きを読むですぅ」

 

 しかし、歳相応の趣味ももちろん持っている。
 それは、ラノベ、マンガ、アニメ等が大好きというところ。
 つまりは、重度のオタクなのである。
 現代の輝けるオタクの一番星、それが彼女、ミレイナ・ヴァスティなのだ。

 

「と、その前に本部に寄ってお茶でも飲んで行くですぅ」

 

 ですです語尾がどーにかなんないかとも思うわけだが、ま、これも彼女の個性なのであろう。
 なお、彼女の両親、イアンとリンダはマイスター運送の重役である。
 ミレイナがどうしてシーリンの後釜になったかは、まあ簡単な話、レディ・アンとヴァスティ夫妻が知り合いだったから。
 レディ・アンの人脈は、大海のように広い。
 ついでに言っとくと、前任のシーリンもそうだし、マイスター運送の現トップスメラギ・李・ノリエガ、コーラサワーの嫁のカティ・マネキン、グラハムの親友で在野の天才ビリー・カタギリ、彼の師匠のレイフ・エイフマン、この辺りも彼女の知人であるからして、その気になれば大同団結を組んで世界を制覇することもあながち不可能ではあるまい。
 多分、おそらく。

 

「おーおー、相変わらず騒々しいところですぅ」

 

 ミレイナはプリベンター本部のドアを開けて、中へと入った。

 

「はーいどーも、ミレイナちゃんですぅ」

 

 彼女が口にした通り、今日も本部は騒がしかった。
 主に、一人の男を中心にして。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 プリベンター本部が静かな日は少ない。
 パトリック・コーラサワーが休みな日を除けば、大抵うるさい。
 彼がハネムーンに行っている間は、実に穏やかな日々であった(そうでもないかもしれんが、武士面さんとかいるので)。

 

「今日も賑やかですぅ。で、いったい何の話なんですかあ?」
「あらミレイナ、いらっしゃい」
「はーい、ヒルデさん、こんにちはーですぅ」

 

 ミレイナはヒルデ・シュバイカーと仲が良い。
 同性であり、年齢も近いことから、自然と関係が育まれていった。
 まあ自然っつってもある意味ミレイナの趣味の押し売りだったわけだが、まあそれは置いておくべきであろう。
 ちなみに、ヒルデは幸いにもオタク光線に感化されなかった。
 その辺りは一歩退きつつも良好な関係を築いていくのが、オトナの付き合い方というものであろう。
 まあヒルデはミレイナと一歳程しか違わない少女ではあるが。

 

「見ての通りよ」
「はあ、またまたスペシャルさんですねえ」
「またまたまたアイツよ」

 

 ミレイナはコーラサワーのことを『スペシャルさん』と呼ぶ。
 なかなか色々な意味が含まれていて、実に良い呼称である。
 グラハム・エーカーについては素面状態時は普通に『エーカーさん』、お面状態時は『ブシドーさん』と呼び分けているのだが、その辺りはミレイナ、結構天然で皮肉家の素質があるのかもしれない。

 

「で、どーいったことからまたこんなに揉めまくりやがってるんですぅ?」
「ま、聞いてみたら? やり取りを」
「はいはーい」

 

 ヒルデの言葉に、ミレイナは頷くと、ひょいと喧噪の中心地である休憩室を覗いた。
 中では、何時もの如く何時ものように、コーラサワーとデュオ・マックスウェル、そしてガンダムパイロットたちが激論を交わしているのだった。
 漫才という名の激論を。

 

「簡単な話だぜ、ズバッとやってバシッと撃ってドギャッと片付ける! これで解決だ」
「擬音ばっかり使うな、説明能力が皆無かお前は」
「デュオ、つっこむだけ無駄だ」

 

 コーラサワー達が何を話しているのかというと、くいっと纏めて簡単に言ってしまえば、『籠城したテロリストを如何にとっ捕まえるか』ということになる。

 

「仮にもAEU時代に一つの部隊の指揮を取ってた人間がこれでいいのかねえ」
「今更な話ですね、結構」

 

 休憩室にいるのは、コーラサワーとデュオ、そしてカトル・ラバーバ・ウィナー、ヒイロ・ユイといった面々。
 張五飛とトロワ・バートンはサリィ・ポォの御供で只今出張中、
 グラハム・ブシドー・エーカーさんは毎度の如くビリー・カタギリの研究所で我慢弱い性を全開にしていて不在である。
 哀れなアラスカ野・サーモンことジョシュア・エドワーズも無理矢理にグラハムに同行させられており、
 うん、何と言うか、グラハムさんちゃんと仕事しろ、と。

 

「何だか楽しそうな話ですぅ、私も混ぜてもらって構いませんかあ?」
「ああミレイナか、別に楽しくも何ともないぜ?」
「余計な刺激さえしなければ、いいですよ」
「……しそうだがな」

 

 不意のミレイナの参戦に、ちょっとばかり眉を顰めるデュオたち三人。
 今までコーラサワーにこの娘が絡んで、落ち着いた結末を迎えたことがあまり、いやほとんど無いのだ。

 

「でまあ、かくかくのしかじかというわけだ」
「ふーん、そーなんですかあ。うーん、ミレイナはちょっと専門外ですぅ」

 

 ミレイナの本領はデスクワーク(とオタクワーク)にあり、切った張ったはまるっきりの対象の外。
 一応護身術的にジュードーのイロハはマスターしているが、大の男が一人ならともかく、集団でかかってきたらもうアウト、といった程度だ。
 まあ彼女の体格からすれば、それでも十分過ぎるっちゃ十分なのだが。

 

「立て篭もりなんざあ、脅せば一発だ。ドカンと撃ち込んでだな」
「人質がいたらどーすんだよ、巻き添えだぞ」
「捕まる方が悪い」
「仮にもプリベンターの一員として言うべき台詞じゃねーぞ、それ」

 

 とまあ、ミレイナが来るまでコーラサワーをはじめとする面々は、こーいったやり取りを繰り返していたわけである。
 コーラサワーの作戦はぶっちゃけて言うと、大味の極端。
 緻密さの欠片も無く、やはりどこまでも現場で駒として使われてナンボな人材だと謂わざるを得ないわけで、今更ながら、デュオ達は彼と同僚であることの不幸を噛み締めまくっている次第。

 

「流石はパーソナルジェットで天空に突撃をしただけのことはあるな」
「褒めるなよ」
「褒めてねーよ」

 

 これで軍人時代から今まで、大きな怪我を戦場で負ったことがないというのだから、余程強運の女神様に好かれているか、不真面目な死神に取り憑かれているかのどっちかとしか言い様が無い。
 プリベンターに来てからの怪我も、無茶故の自爆かそれともヒルデ、五飛辺りのツッコミの結果が多く、敵の攻撃の因るものは皆無と言っていい。

 

「そうは言うけどお前ら、ちゃんと色々解決してきてるだろ? この天才・コーラサワーの手腕で」
「偶然が偶然を呼んでいるだけだけどな」
「ま、まあ、偶然を呼びこむのも力かもしれませんけどね」
「それを最初からアテにして戦いたくない。少なくとも俺は」

 

 密漁事件、アザディスタン事件を終息に導いたのは間違いなくコーラサワーである。
 それは、デュオやヒイロも認めるてはいる。
 だがやはりそれは、説得力の無い説得で犯人を無理矢理に自首に追い込むようなもんで、個人プレーが生み出した運命のラッキーな一滴に過ぎないのだ。
 ある意味、奇跡の範疇と言えるだろう。

 

「だいたいよ、相手が引き籠ってるならよ、表に引きずり出しゃいいんだろ?」
「それが一番難しいんだよ」
「簡単じゃねーか、空調を操作して室内にコショウをぶちまけるとか」
「はあ?」
「ガラスを引っかく音をスピーカーに流すとか」
「はああ?」
「美味い食いモンを表に並べておびき寄せるとか」
「わあ、スペシャルさんの作戦、まるで子供向けのアニメみたいですぅ」
「ああ、大人の殻を被った子供の脳味噌から出た発想だからな」
「あ、でも子供に失礼かもしれないですぅ、今時のちっちゃい子、結構賢い子が多いですぅ」
「そーいや以前、幼稚園児に馬鹿にされてたことがあったな……」

 

 ミレイナとデュオ、言いたい放題。
 二人の年齢をプラス二十程すればコーラサワーの歳なのだが、普通ここまで言われまくる三十代半ばもおるまい。

 

「おおそうだ、籠っている建物を建機でぶっ壊して追い出す、ってのは」
「コーラサワーさん、もう犯人も人質の命も完全に無視してますよ」
「それは違うぜ坊っちゃん、犯人に人権は無い! 人質もヤバいと思ったら逃げ出す努力をしろってんだ、待っている方が悪い!」
「流石にそれ、冗談ですよね?」
「いや、本気だろこれは」

 

 コーラサワー流のやり方をコーラサワー流で説明される。
 これでは理解しろという方がもうどだい無理な話である。

 

「スペシャルさん、前から結構思ってましたけど、頭の中が鮒寿司シュールストレミングとクリスマスプティングとブート・ジョロキアがミックスですぅ」
「どーいう意味だよ、オデコ娘三号」
「深く考えないで良いですぅ、半分勢いで出た言葉ですぅ」
「ふうん、そーなのか」
「……これで納得しちゃう辺り、スペシャルさんは根は良い人なんですかねえ」
「極悪人じゃないのは確かだな」
「個性的、ですよね」
「ああ、世界に誰一人とて並ぶ者がないくらいのな」

 

 デュオ達は肩をすくめた。
 そして、溜め息をついた。
 コーラサワーのスペシャル過ぎるプランに対して出来るのは、それだけしかなかった。
 いや、それだけじゃ本当は駄目なのではあるが。

 

「まあ、味方は全員無事、人質も無事、犯人逮捕ならどーいう過程だってオッケーですぅ」
「ミレイナ……それだとアイツと同じってことになるぞ」
「いや、無論個人プレーや偶然に頼らない過程、ってことですぅ。詳しい内容はサリィさんにお任せ、ということで」
「サリィの小ジワと白髪が増えるってことか、結局」

 

 デュオはもう一度、溜め息をついた。
 そして内心で決めた。
 サリィは外出中だが、この論争(?)は報告しないでおこう。
 現場でならもうしょうがないが、本部での出来事でサリィに余計な心労をかけてはいけない。
 そう、小ジワと白髪の増加を促進させるような……と。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 
 

 

【あとがき】
 前スレ最後容量ギリギリにしてしまってすいませんでしたコンバンハ。
 誤字脱字がありましたらごめんなさいサヨウナラ。

 
 

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