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00-W_土曜日氏_147

Last-modified: 2010-11-03 (水) 22:32:18
 

 サリィ・ポォはプリベンターの現場リーダーである。
 発足からこっち、世界中を飛び回り、火種の処理に奔走してきた。
 と言うか、プリベンターが出来る前、OZの動乱の時代から似たようなことをやってきている。
 女の身でここまで濃い活動を続けてきた者は、この世界にも数える程しかいないであろうことは、おそらく間違いない。
 まだ三十路も前で、二十代の大半をそんなことに費やしてきた彼女だが、それについての悔いは特には無い。
 やりたいことをやっている、やるべきことをやってきた、という自覚と誇りがしっかりと心の中にあるからだ。

 

「とは言え」

 

 彼女は眉間の辺りを右手の人差指でツンツンと小突きつつ、軽い溜め息をついた。

 

「どうしたものかしらね……」

 

 神ならぬ身、如何に優秀であれ、全てを背負える程には彼女は大きな存在ではない。
 提示された問題をどのように解決すればいいのか、どのように理解すればいいのか、そうそう判断つかないこともある。
 無論、彼女は独りではない。
 責任者であるレディ・アンをはじめ、プリベンターに集った人材は優秀である。
 肩を組むことで、圧し掛かるモノの重さをいくらでも軽減出来る。
 だが、しかし。

 

「新しい未知の合金と、そして……」

 

 右手を額から離すと、サリィは机の上の書類に手を伸ばした。
 つい先程、『客人』が彼女に手渡していったものだが、その中に記された文章は、聡明な彼女をして、俄かには信じ難いものだった。

 

「半永久機関……GNドライブ、か」

 

 ◆ ◆ ◆

 

 人類は遥かな昔から、何を作るにしても、その肉体を道具にしてきた。
 その過程で、「早く終わらせる為」「完成度を高める為」「より細かい工程を行う為」に『道具』を進化させた。
 時代ごとの「限界」に阻まれつつ、一歩一歩、人類は自らの生活圏を拡大させ、文明を伸ばしてきたのだが、
 その「限界」とは、すなわち「体力と精神が尽きた」、そして「道具を使ってもこれ以上出来なかった」の二つだった。
 この二つを合理的に解決(限界を超えたものは労働とは言わない)する方法こそ、どの時代においても、貴賎の差なく、全ての人が求め続けてきた「夢」に他ならなかった。
 そう、その夢への希求こそが、人類をここまで進歩させてきた糧だったのだ。

 

「新しいモノが次々生み出され、古いモノを駆逐し、時代を切り拓く」

 

 壁にかかった時計を、サリィは見た。
 ビリー・カタギリが作り上げた新型MS(ミカンスーツ)のテストから、皆が帰ってくるまで、あと少し。

 

「耐久性、持続性、精密性、そして安全性、どれが欠けても……」

 

 ついこの前までは、『時代の最先端技術』は、文句無しにMS(モビルスーツ)であった。
 中でも、《ガンダム》と名前が付けられた五機の機体は、破格の性能を持っていた。
 今は、そのガンダムは無い。
 役目を終えて、歴史の舞台から姿を消した。
 そして、「兵器」としてのMS(モビルスーツ)も、公的には、地球上には残っていない。
 メンバーがテストをしているMS(ミカンスーツ)が、おそらくは、現在の「技術のトップ」である……はずである。

 

「……次代に繋がる技術には成りえない」

 

 MS(ミカンスーツ)に搭載したミカンエンジンは、ミカンの皮を燃料として動く。
 これの改良次第では、柑橘類以外の作物でも代替出来る可能性がある。
 しかも、目立った公害に繋がらない。
 原子力に比べると安全性は格段に高く、太陽光エネルギー程に大仰な設備も必要としない。
 課題は量産と出力のみ、とくれば、これは最早人類史上最大レベルの「技術革命」以外の何物でもないだろう。
 農作物の食用外の用途拡大という意味でも、今後の人類社会における「世紀の大発明」に十分成り得る。
 MS(ミカンスーツ)で得たデータを有効に使えば、人類の生活はかなりの進歩を見せるに違いない。

 

「ミカンエンジン、まさに天才の成せる技……」

 

 製作者であるビリー・カタギリの才能を、サリィは疑問視していない。
 工業分野の頂点と言われたレイフ・エイフマン教授を師匠に持ち、科学化学その他諸々の学問を修め、
ほぼ独力でMS(ミカンスーツ)とミカンエンジンを開発した。
 それを天才と言わずして何と呼ぶか。
 まあ、何で在野なんだよどっかの企業か大学で働いて社会に貢献しろよ、というツッコミが髪の毛三本程にサリィの中にあるが。
 しかし、とある『客人』が語った半永久機関は、規模そのものがミカンエンジンとは異なった。
 簡単に言うなら、段違い、レベルが全く別次元という具合だ。
 何しろ、極端な話をすれば、燃料切れによるガス欠というものがない。
 そして得られるパワーがとにかく東大、じゃねえや強大。
 ミカンエンジンでさえ、現在の主流である太陽光エネルギーをぶっちぎるくらいに優秀なのに、それを更に上回ってしまうというのだから、W杯で勝利国を連続で当てるタコ以上に、簡単には信じられない。

 

「もうボチボチ、ですぅ」

 

 と、ヒョコッという感じで、サリィの前に一人の少女が現れた。
 ツインロールパンナちゃんこと、ミレイナ・ヴァスティだ。
 十代も半ばという若さの彼女だが、この歳でレディ・アンの秘書に抜擢され、前任のシーリン・バフティヤールに勝るとも劣らない働きを見せる、相当な才女である。

 

「そうね、ボチボチね」
「で、どうするんですぅ?」
「どうするも何も……現状では、動くしかないわね」
「信じたんですかあ? アレを」
「信じると言うより、信じざるを得ない、かしらね」

 

 『客人』が自分のところに来た理由というのを、サリィは把握している。
 すなわち、レディ・アンが事態の深刻性、重要性を見抜き、門を開いたということだ。
 そうでなければ、サリィに直接『客人』は来ない。
 至るまでに、追い返されているはずなのだ。

 

「ミレイナはどうなの?」
「信じて良いかわからない、ってところですぅ」
「まあ、普通はそうよね」

 

 ミレイナの素直さに、サリィはクスリと笑った。
 信じろという方が、確かにおかしいのだから。
 現物でも見れば、また違ってくるのだろうが……。

 

「でも、今は別のことが気にかかってるですぅ」
「別のこと?」
「皆さんが理解出来るですかねえ、と」
「……うーん」

 

 サリィとミレイナは、『客人』から説明を受けたが、それでもまだ完全に信じるには至ってはいない。
 果たして、外出テスト組が「オッケー納得!」となるだろうか。
 ガンダムパイロットはまだ良いとして(それでもおそらく信じはすまい、彼らなりの態度で疑問を示すはずである)、何よりの問題は、模擬戦二千回不敗のスペシャルと、ワンマン武士道アーミーの二人である。

 

「会わせるおつもりなんですかあ?」
「そりゃあ、会わせるわよ。出ないと話が前に進まないじゃない」
「えー、でも絶対こじれると思うですぅ」
「こじれるでしょうね」
「うー、不安ですぅ」

 

 GNドライブの情報を持ってきた『客人』は、まだ面識が薄い分大丈夫だろうと、サリィは踏んでいる。
 だが、別の『客人』はどうか。
 コーラサワーにとって天敵とも言える人物が何しろいるのだ。
 それに、マスコミ関係の人間もいる。

 

「荒れたら困るですぅ。お茶の湯呑み、買い替えたばかりだから、何かのはずみで割れちゃったりしたら勿体ないですぅ」
「最悪の場合、席を外してもらうしかないわね」
「それがいいかもですぅ。どーせスペシャルさんとブシドーさんには理解出来ないと思うですぅ」
「まあ……そうでしょうね」

 

 サリィはまたまた溜め息をついた。
 形的にはスペシャルことパトリック・コーラサワーも、ブシドーことグラハム・エーカーも、サリィの部下ということになっているので、命令というやり方で強引に話を纏めることは出来る(まあ完全には出来ないだろうが)。
 だが、事が事だけに、理解しないままに出動をさせる、というのも危険ではある。

 

「じゃあミレイナ、応接室の『客人』達に声をかけてきて。あと、お茶も淹れ換えておいて」
「はーいですぅ」

 

 踵を返したミレイナの背中に視線を送りつつ、サリィは思った。
 まあ、なるようにしかならないわね、と。
 そして、ミレイナがドアを開けた瞬間、騒がしい連中の騒がしい声が、サリィの耳に聞こえてきた。
 帰還を知らせる、声が。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 忙しェ――――――――――――ッということで次回までサヨウナラ。

 
 

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