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00-W_土曜日氏_30

Last-modified: 2008-10-02 (木) 18:39:54
 

 パトリック=コーラサワーはプリベンター本部の応接室で、ソファーに座ってお茶を飲んでいた。
 湯気が顎にあたり、ほんわかと膨らんで上へと昇っていく。
 これが紅茶ならそれなりに絵になったかもしれないが、残念なことに昆布茶である。
 ご丁寧に湯呑に『コーラサワー用』と書いてあるのがなんともかんとも。

 

「で、だ」

 

 コーラサワーは口を開いた。
 そして、ダンッとテーブルに湯呑を叩きつけるように置くと、応接室のドアに向かって唾を飛ばして不機嫌そうにどなりつける。

 

「お前らなんだ! コソコソと物陰から珍獣でも見るように覗きやがって!」

 

 そう、ドアの陰、一列に縦に連なって、ガンダムパイロットが汚物でも見るような眼で彼を見ているのだった。

 

「いやいや、バカだと思っていたがまさかまさか」
「女たらしでもあったとはな」
「ヒルデとサリィは奥に引っ込んでしまったぞ」
「イタリア人男性はナンパする、ドイツ人男性はハゲる、フランス人男性は浮気するとはよく言うが」
「五飛、それは何気に差別発言だと思うけど」

 

 彼らがこのように距離をとり、ジト目でコーラサワーを睨んでいるのにはもちろん理由がある。
 勤務中に基地の側で金髪美女とオープンカーでちゅっちゅしまくり、さらに遅刻にキレた女上司にぶん殴られて、それが美人だと知った途端に態度を改めアピール開始……とまあ、『コーラサワーはバカな上に女癖が悪い』という事実を知ったからだ。

 

「なんだあ!? 色恋のイの字も知らねえガキに言われたかねえよ、バーロー!」
「アホ、お前のは節操無さすぎだ」

 

 確かに恋をすることは悪いことではない。
 女性にだらしないのもまあ、悪癖ではあるが個人の範囲内である。
 しかし、若きガンダムパイロットたちから見れば、コーラサワーのそれは度がすぎるというものだった。

 

「コーラサワー、お前に《フの3K》の称号を与えてやる」
「な、なんだ?フの3Kって」

 

 ヒイロの謎発言に、コーラサワーは理解できず一瞬たじろいだ。

 

「まず『不潔』だ。女癖が悪すぎる」
「不潔?」
「次に『不屈』。いい意味じゃないぞ、反省しない癖に立ち直りだけは早いということだ」
「不屈ゥ!?」
「そして『不吉』。新OPでも映ったのはMSだけで、しかもやられそうになっている。多分来週も出オチだろう」
「ふ、不吉!?」
「これでフケツフクツフキツの《フの3K》だ」
「ば、ば、バカにしてんじゃねえー!」

 

 コーラサワーはテーブルをひっくり返した。
 湯呑が宙を舞い、床へと落ちる。
 幸い下は絨毯だったので割れはしなかったが、テーブルの方は若干傷がいってしまったようである。

 

「そうか、それでか! ダブルおでこ女が俺の姿見た途端逃げ出しやがったのは!」

 

 ダブルおでこ女、とはサリィとヒルデのことであるが、なかなか言い得て妙。
 コーラサワー、どうにも口が悪い時があるが、これは育ちのせいなのかどうなのか。
 女を口説く時は甘い言葉を吐くだろうから、さて、プレイボーイというものはやはり信用できない。

 

「お前、正月に帰った時に寒中水泳しただろう、セーヌ川で」
「な、なんで知ってんだよ」
「何で知ってるかはともかくとして、やったのは寒中水泳だけか?」
「はあ?」
「女のベッドでも泳がなかったか、って言ってるんだよ」
「デュオ、もっと慎み深くお願いします」

 

 デュオのつっこみの表現をたしなめるカトルだったが、同じ疑いは彼も持っている。
 白昼堂々と女とイチャつく男が帰郷したのだ、どれだけそっちで遊んできたやら。

 

「フン、いいだろう、お子ちゃまのお前らに教えてやろう」

 

 コーラサワーは胸をそらすと、腰に手を当てた。
 同じ行為を熊さんことセルゲイ=スミルノフがやったらさぞかし威厳が醸し出されるのだろうが、コーラサワーでは悪戯っ子の居直りにしか見えない。

 

「まず、ブリジットに会いに行った。久し振りだから喜んでたぜ」
「……まず?」
「おうよ、次にエリザベス、そしてマリリン、オードリー、イングリッド、グレース、ソフィー、カトリーヌ、ジェニファー、パメラ……」

 

 コーラサワーの口からは次々に女の名前が出てくる。
 片手の指を越し、両手の指を越し、さらにまだまだ止まらない。

 

「メアリー、ロザンナ、メリッサ、スーザン、ナタリー、メアリー、おっとこのメアリーはさっきのとは別人な」
「お前、バカだろ」
「バカ言うな!」
「バカだよ! そんだけホイホイつきあいやがって! だいたいどれが本命なんだよ!」
「本命ィ!? そんなもん決まってるだろ、全員だよ!」
「絶対刺されますね、この人」

 

 カトルは溜め息つくとを首を振った。
 カトルならずとも、誰だってあきれるというものだろう。
 ここまで堂々と多くの女に手を出しておいて、それを悪びれもしないのだから。
 なるほど、口説かれて落ちる女にも問題はあるだろうし、コーラサワーに男としての魅力があるのも多分確かなのだろう。
 だが、それにしてもこれは女たらしというよりビョーキである。

 

「わかった、もうやめろ」
「アレサ、ベルナデット、ペレンガリア、コンスタンス……」
「もういいって言ってるだろ!」
「エリス、フランチェスカ、モーリン……あん? これでまだ半分だぞ」
「半分なのかよ!」
「やっぱりフの3Kだな」

 

 あきれるを通りこして頭が痛くなってくるガンダムパイロットたちであった。

 

          *          *          *

 

「お前、絶対いい死に方しないな」
「フン、何度か言われたことがあるが、それはモテない男のヒガミってもんだ」
「うわあ、最悪ですねこの人」

 

 元通りになったテーブルを囲み、ガンダムパイロットとコーラサワーは昆布茶休憩を再開した。
 まあ、いつまでもドアの陰で突っ立っているわけにもいかないので。

 

「これでもよ、こっちに来てから自重してんだぜ?」
「自重するのもいいけど自嘲もして反省しろ、生き方を」

 

 女癖がとことん悪い、という事実が発覚したコーラサワーだが、ここでガンダムパイロットたちの頭の中にはひとつ、疑問が生まれてきている。
 プリベンターにも三人、女性がいる。
 プリベンターを統括するレディ=アン、現場のリーダーであるサリィ=ポォ、そしてヒルデ=シュバイカー。
 どれも若く、かつ容姿の整った面々である。
 だが、今のところコーラサワーは彼女らに手を出そうとはしていない。
 それはどうしてなのだろうか?

 

「おいバカ」
「だからバカ言うな!」
「お前、レディ=アンとかサリィとかヒルデとかのこと、どう思ってるんだ」

 

 こういう時の切り込み隊長は、世間慣れしているデュオかそれとも容赦のない五飛と決まっている。
 今回は、デュオがその役目を負った。

 

「あー、あいつらは趣味じゃない」
「趣味じゃない?」

 

 あいつら、という言葉にデュオは眉根を寄せていぶかしがった。
 ヒルデはガンダムパイロットと同じ歳なので、若すぎるという理由で対象から外れるのは何となくわかる。
 だがレディ=アンとサリィはともに二十歳かそこらであり、プロポーションも問題ないはずではないか。

 

「俺が好きなのは、あふれる色香を持ったオンナだけだ」

 

 コーラサワーは立ち上がると、再び胸を張って堂々を言い放った。
 童顔もあって、やっぱり悪ガキの居直りにしかどーしても見えない。

 

「いいか、もう一度言ってやる、俺が好きなのはアブない色気ムンムンの美女! 隠そうとしても滲み出てしまう艶やかさと儚さ!」

 

 ガタン、とコーラサワーはテーブルに片足をかける。
「あいつらに色気がない、とは言わねえ。だが、その絶対量が不足している! 残念ながら俺のレーダーにはひっかから――」

 

 ない、とコーラサワーは言った。
 いや、言おうとした。
 だが言えなかった、最後まで。

 

「ト……トンカチにフライパン!?」

 

 そう、ドアの向こうから飛んできたトンカチとフライパンがコーラサワーに命中したのだ。
 トンカチはどてっ腹を、フライパンは顔面を。
 それぞれマトモに直撃している。

 

「サリィとヒルデ、聞いていたのか」

 

 ドスドスドス、と怒りの足音がドアの向こうからガンダムパイロットの耳に届いてくる。
 女はこういう時、地獄耳である。
 悪口のたぐいは絶対に聞き逃さない。

 

「おい、生きているか?」

 

 トロワがコーラサワーに声をかける。
 あわれコーラサワー、腹にトンカチ、顔にフライパンをめり込ませ、腰に手をあてたままの恰好で固まっている。

 

「なんかシュールな石像みたいですね」
「このまま世界政府議事堂の玄関に飾ってやったらどうだ」
「それ、すぐに撤去されるって」

 

 いくらバカで女たらしであるとはいえ、この状態のコーラサワーを放っておくわけにはいかない。
 やれやれ、と頭をかきつつ、デュオはトンカチとフライパンを取ってあげようと手を伸ばした。
 その刹那。

 

「どわぁぁぁぁあ!?」

 

 ガッシャン、と窓ガラスが割れ、飛来した物体がコーラサワーの後頭部を直撃した。
 前方に思いっきり吹っ飛ぶコーラサワー、そして跳び退るガンダムパイロットたち。

 

「なな、何です!?」
「また飛んできたぞ、何かが外から」
「……で、命中したな、あいつの後ろ頭に」

 

 五人はおそるおそる、衝撃のままに前に向かって飛ばされたコーラサワーを見た。
 哀れコーラサワー、絨毯の上にうつ伏せに大の字状態。

 

「ど、土嚢!?」

 

 コーラサワーの後ろ頭にぶつかったもの。
 それは、工事現場などでよく見られる土嚢、中に土を入れて重石代わりにするアレだった。

 

「な、何でこんなものが」
「あー……そう言えば五飛」
「何だ、デュオ」
「レディ=アンは今日、どこに行ってるっけ」
「新しく建てられた資源リサイクルセンターの開所式だ。政府高官に交じって参加しているはずだ」
「そのリサイクルセンター、どこにある?」
「ここから5km先の、あっちだ」

 

 五飛が指さした方を、四人は見た。
 それは、割れた窓ガラスの向こう側。

 

「……地獄耳だな、レディ=アンは」
「そういう問題でもないと思うけど」
「しかし、よく届いたものだ」
「地獄力か」
「違う違う」

 

 コーラサワーは動かない。
 ピクリとも動かない。
 ビルから落ちようともコンクリートにぶつかろうとも、すぐに復帰した彼にして、女の怒りを乗せたトンカチ、フライパン、土嚢の三点セットはきつかったようである。

 

「だけどまた入院ですか、この人」
「ああ、ちょっと今回はダメージを負ってるようだな……。デュオ、あの病院に連絡をいれてくれ」
「あいよ」

 

 デュオは携帯電話を取り出した。
 そして思った。
 そう言えばコーラサワーつきの看護婦がいたはずだが、彼女もどこか小間使いっぽくて、色気ムンムンといったタイプではなかったなあ、と。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く――

 

 

【あとがき】
 とうとう出ました上司も出ましたコンバンハ。
 だけどAEUのおいしいところはアリーに持ってかれそうで怖いですサヨウナラ。

 
 

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