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00-W_土曜日氏_52

Last-modified: 2008-12-24 (水) 21:08:24
 

 パトリック=コーラサワーは不機嫌だった。
 いつも陽気……というわけではないが、ポジティブに物事を推し進める彼にして、ムッツリと押し黙っているのは珍しい。
 時々苛立ったように貧乏ゆすりまでして、何となくだが只事ではないという雰囲気を醸し出している。

 

「……おい、何かあったのか?」

 

 コーラサワーがプリベンター本部に出勤してから三時間ちょっと、ガンダムパイロットもサリィもヒルデも、敢えてイライラコーラさんに話しかけなかったのだが、ここでとうとうデュオ=マックスウェルがポソリと質問を投げかけた。
 やはりこういう時、と言うかどんな時でもコーラサワーにイの一番で会話の糸口を作るのは彼しかいない。
 この世界に『コーラサワーと会話しよう検定』というのがあったら、おそらくデュオは全世界でもトップクラスになるであろう。
 ま、そんなもんで評価されてもデュオは髪の毛の先程も喜ばないだろうが。ついでに言っとけばそんな検定、必要とする人間が地球上に何人いることやら、果たして。

 

「おう? ん、まぁな」

 

 ここで目をギョロリとひんむいて「うるせぇ、俺に話し掛けんな!」と凄まないところがコーラらしいっちゃコーラらしいか。
 不機嫌でも周りに当たり散らさないのは、このマイペース男において数少ない美点であるかもしれない。
 大体にしてポジティブ過ぎる天然人間は、普段の行動で周囲に迷惑をかけることが多々あっても、やつ当たりというものを案外しないもんだったりする。
 やつ当たりは自分以外のモノに対してムシャクシャをぶつけるわけだが、自分本位で全て完結させちゃうゴーイングマイロードヒューマンは、そういった「ムカツキを理由なく他所に寄せる」行為が出来ない人種なのだ。
 ま、逆に「何で怒ってるのかわからない(つまり、本人にとっては正当な理由が存在する)」ことがあるから、他人にとっちゃやつ当たりよりタチが悪い場合ってのも往々にしてあるが。

 

「よし、まぁ聞けよ」
「えらく展開が早いな」
「何のこった?」
「ああ、気にしなくていい、いい」

 

 そして、ペラペラと「自分の都合で」事情というのを語りだすのもこれまたゴーイング(以下、GMHと略す)の特性。
 よく刑事モノのドラマで犯人が喋りすぎで自滅する時があるが、結構な割合でそういう犯人は「社会的地位があって才能があって他人を見下している」性格だったりする。
 これもまたGMH。
 コーラサワーは言えばその手の犯人とは少し異なるものの、自分の物差しが絶対的価値基準になっているところは同じっちゃ同じであろう。

 

「みつあみおさげ、お前、インスタントのヤキソバって知ってるか」
「そりゃ、もちろん」

 

 『U.○.O』とか、『ペヤ○グソースやきそば大盛り』とか、『一○ちゃん夜店の焼きそば』とかエトセトラエトセトラ、デュオの脳内に商品名とパッケージがくるくる浮かび上がってくる。
 お湯を注ぐだけで作れるこの手のインスタント食品は発明から相当な年月が経っているが、未だに全世界で食べられている。
 大手の食料品会社もブランドを守り続けているくらいだから、相当に需要があるのだろう。
 デュオも今でこそ食べる機会も減ったが、ヒルデとジャンク屋を開く前の一人暮らしの頃はちょくちょくこういった食品を口にしていた。
 何しろ楽だし、栄養面も添加物も今じゃ相当改良されているからお得っちゃお得ではあるのだ。

 

「それでよ、ヤキソバは湯きりが必要だろ」
「ん? あ、ああ」

 

 バソキヤとかバンバンとかどこ行っちゃったんだろうな、とか下らないこと思いつつ、デュオはコーラとの会話を進める。
 ヒイロも五飛もまったく絡んでこないのは、会話の内容に呆れているのかタイミングを逃し続けているのか、さてさて、おそらく前者ではあろうJK。

 

「それでよ、昨日の晩は外食しなかったからよ、久し振りに作ったんだよカップヤキソバ」
「はぁはぁ」
「カヤクを入れて湯を注いで二分待って湯をきって、フタを開けてだな」
「ふんふん」
「そしたらお前どうよ、カヤクの袋がもう一つありやがった! 麺と容器の間に落ち込んで挟まってたんだよ!」
「へ?」

 

 デュオ、口ポカン。
 一方のコーラさんは判定に不服があるプロ野球外国人監督のように顔を真っ赤にして舌をフル回転。

 

「許せねえだろ!? 台無しだろ!? 一気にテンション下がったぜ!」
「……いや、取り出して入れなおしたらいいだけだろ」
「バッカ言え! 湯を入れる前に放り込むのが正しい食べ方だろ!」
「だったらちゃんと説明読めよ! フタに書いてあっただろ!」
「そんなもんいちいち読んでられるか! 何のためのインスタント食品なんだよ!」
「威張れることか!」
「チキショウ、せっかくの『キャビアと南仏特選野菜のソースヤキソバ』『南仏特選野菜のヤキソバ』になっちまったんだ」
「アホや、お前ホンマモンのアホや」

 

 思わず関西弁になってしまうデュオ。
 こういったところに突っ込み属性の高さが垣間見える。
 これを褒めれらても、やっぱり本人は喜ばないだろうが。

 

「しかし、今はそんなカップヤキソバが発売されてんのか。贅沢なんだな……って、ん、ちょっと待て」
「何だよ」

 

 ここでコーラサワーと会話しよう検定全国一位(推定)のデュオは、ピピピとアンテナに引っかかるものを感じた。
 今コーラサワーは何と言ったか?
 キャビアと南仏特選野菜のソースヤキソバ、これが商品名で、コーラサワーはキャビアのカヤク(やっぱりフリーズドライなのだろう)を入れ損ねて、そして南仏特選野菜のヤキソバに……。

 

「なぁ、まさかとは思うが」
「んあ?」
「お前、ソースも入れ忘れたんじゃないだろうな」
「……」
「ん?」

 

 コーラサワー、しばしの沈黙。
 そして。

 

「……フッ、怒りに我を忘れて思わず、な」
「何い?」
「ソースの存在を忘れて、勢いのままにかっ食らった」
「ドアホや、お前ホンマモンのドアホや!」

 

 全部自分が悪いんじゃねえか、それでイライラしていたなんてどんだけ……。
 ここにハリセンのひとつも置いてないのが、非常に悔しいデュオなのだった。

 

          *          *          *

 

 デュオとコーラからドアを一枚を隔てた簡易キッチン。
 外に食べに行ったり注文を頼んだりしない時は、ここで軽い昼食などを作ることがある。
 今日はヒルデがその当番だったのだが、さて。

 

「……ソースなし、ね」

 

 扉の向こうから聞こえてくるコーラサワーとデュオの会話を耳に挟みつつ、ヒルデは思った。
 今日の昼食のヤキソバ(インスタントではなく、ちゃんとフライパンで作っている)、コーラサワーにだけソース無しの素焼きで出してやろう、と。

 

「案外おいしい……ってことはさすがにないわよね、うん」

 

 ちょっぴりではあるが、ヒルデもまたGMHなのかもしれない。
 うん、ちょっぴり。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 模倣氏の作劇テクをはじめ不定期氏や水曜日氏の話づくりにひたすら頭が下がる毎日ですコンバンハ。
 キャラが大きく活躍するSSはお任せして、当面裏道的日常小ネタで小さなことからこつこつとを座右の銘に西○きよしサヨウナラ。

 
 

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