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00-W_土曜日氏_53

Last-modified: 2008-12-24 (水) 21:24:39
 

 パトリック=コーラサワー29歳。
 今、彼は屈辱に身を震わせていた。
 彼の手にはバケツと、そしてモップが握られている。
 頭にはバンダナ、首にはタオル、そして足には長靴。
 そう、彼は―――

 

「何で俺様がトイレ掃除しなきゃいけねーんだよおお」

 

 掃除当番だった。
 トイレの。

 

          *          *          *

 

 何故彼がこんな境遇にあるのか。
 その発端は今から約一時間前にさかのぼる。

 

 プリベンターは今日も今日とてお仕事がなく、本部待機となっていた。
 その本部があるフロアは他にも安全保障局、情報調査室、統合警備部があり、言わば『武器を捨てた世界政府』を支える影の屋台骨が集まっているところ。
 それだけに設備も超一流、清掃から営繕に至るスタッフも選りすぐられた面子が揃っている。
 トイレ掃除も例外ではなく、清掃会社の派遣サービスでも腕っこきがやってくることになっているのだが……。
 何と今日に限ってスタッフがノロウイルスでバタバタと倒れ、派遣ナシという事態になってしまった。
 さぁそうなると、「誰がトイレを掃除するのか」という問題が急浮上。
 トイレがキレイかどうかは結構重要であり、労働意欲に直結すると言っても過言ではない。
 いやほんと、トイレの美化を図ることで業績を上げた会社が実在するんだから。

 

 で。
 自然とその役目は暇をかこっているプリベンターにお鉢が回ってくるわけで。
 いや、緊急事態に対応せにゃならん部署なので暇ってことはないのだが、まぁせかせかと働いているフロアの他の部局(特に情報調査室)などから見ると、「何じゃあいつら、遊んどんのとちゃうか」と思われることもしばしばだったり。
 そいで、プリベンターが今日一日トイレ掃除の当番になった次第で、さらにそいで、プリベンターの中でジャンケン勝負をしてその結果(誰だってしたくないのだトイレ掃除は)、負け抜けしてしまったコーラさんがその任にあたることになった、と。
 何も深い事情があるわけでなし、単純な話である。

 

          *          *          *

 

「こんなの幼年学校以来だぜ、チキショー」

 

 ぶつくさ言いながら洗剤(この時代のものなので安全、お子様が飲んでも問題ナシ)を撒き、ブラシでトイレの床をゴシゴシ擦るコーラサワー。
 次いで便器を丁寧に磨き、香り玉を取り換え、トイレットペーパーを補充する。
 この雑な男にして意外に丁寧な仕事ぶりだが、投げ出さないのはコーラサワーも言ったが幼年学校時代に培われた習慣なのかもしれない。
 傲岸不遜傍若無人な人柄でも、上下関係と規則の厳しい学校で刻まれた経験というものはなかなか消えないのだろう。
 とはいえ、デートの予定がこの後にあったら多分ほっぽり出していたに違いないが。

 

「ノロウイルスなあ……あいつも寝込んでんのかね」

 

 あいつ、というのは以前トイレで紙がなくて困っていたコーラサワーを助けてくれた少年、ロラン=セアックのこと。
 歳の割に落ちついてやたらと穏やかだった物腰が、コーラに強く印象を与えたようである。

 

「さてと、次々」

 

 好奇の視線を送ってくる他の部局の職員を睨みつけながら、コーラさんは次のトイレへ。
 旧AEUでトップを張っていた彼のこの姿、かつての同僚が見たらさてどう思うことやら。
 いや、結構掃除夫姿が似合っているけれどもね。

 

「ちっ、電球がキレてんじゃねーかバーロー」

 

 ライトを交換し、鏡を拭き、壁の汚れを取る。
 ぶつくさ文句言いながらもこの仕事っぷり、これを普段からやっていればガンダムパイロットからの文句も減るだろうし、ヒルデにフライパンを投げつけられる回数も少なくなるだろうに。

 

「しかし、誰も手伝いにこねーな。薄情な連中だぜまったく」

 

 愚痴るコーラさん。
 が、彼は知ろう由もない。
 彼が掃除を始めた直後に、プリベンターに出動がかかったのを。
 環境右派組織が絡んだ空港爆破情報が入り、本部のメンバーは待機のヒルデを残して全員出張ってしまったのだ。
 まったくそのことを知らされなかったコーラさん、実に哀れ。
 まぁ情報が不確かであり、無理にコーラサワーを伴う必要がなかったのも事実ではあるのだが……

 

「さて、これでフロアの男子トイレは全部終わりか」

 

 どっこらしょ、とバケツとモップを持ちあげて、コーラサワーが次に向かったのは。

 

「次は女子トイレか、あーやれやれ」

 

 何の疑問も持たず、対面にある女子トイレへとっとことこ。
 いや、別にコーラサワーがオンナスキーだからと言って、下心があるわけではない。
 ジャンケンで負けて(さすがに模擬戦程は勝敗に拘りがなかったようである、だだはこねたけど)トイレ掃除を任されてしまった以上、ムカツクけどやらにゃならんよなあというだけである。
 ここら辺結構天然さんなのだ、コーラサワーは。
 深く考えていないという見方も出来るけど。

 

「小便器がないだけ楽かね」

 

 呟きながらコーラサワーは女子トイレの入り口をくぐり、そして―――

 
 
 

 ―――ヒルデが入っているトイレのドアを開けてしまい、モップでボッコボコにされたコーラサワーが女子トイレから飛び出てくるのはこれから正確に五分後のことになる。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 小ネタコツコツコンバンハ。
 デモクトのキットが出るみたいで嬉しいですサヨウナラ。

 
 

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