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00-W_土曜日氏_94

Last-modified: 2009-04-08 (水) 20:35:01
 

♪シュワッシュワッシュワッシュワッ コーラーサワー
 シュワッシュワッシュワッシュワッ コーラーサワー
 空の彼方からやってくる
 風の中から現れる
 雲の上から声がする
 イヤフーの声が
 熱く熱く 愛を語る あれはコーラサワー
 行くぞ行くぞ 倒せ倒せ アクのガンダマン
 不死身と愛と 強運のエースが
 大佐を守るため コーラスペシャル
 たすけに来たぞ(イヤッフー!)
 たすけに来たぞ(只今参上!)
 鮮やか 軽やか コーラサワー♪
 (元ネタ:オタ○ケマンの歌

 

「ああ、無事でしたのねカトル様!」
「ええまあ、おかげさまで……」

 

 プリベンターは帰還した。
 マリナ・イスマイール他、関係者が集っているアザディスタンの空港へと。
 かつて太陽エネルギー紛争時、ここは軍事拠点としてOZに占拠されていたのだが、今は普通に国際空港として運用されている。
 ぶっちゃけた話、アザディスタンにおいてここより大きな施設は無い。
 強いて肩を並べるものを挙げれば、現在は自治議会議事堂として使われている元王宮くらいであろうか。

 

「それに他の方々もお怪我なく……私、とても心配しておりました」

 

 最初にプリベンターを出迎えたのが、瞳ウルウル状態のマリナ・イスマイール現アザディスタン特殊自治区代表。
 この元お姫様、ちょっと、いや結構ショタコン気味であり、とにかくガンダムパイロットにベタベタしたがるわけだが、さすがに衆目あるこの場ではいきなり抱きつきに行ったりはしなかった。
 かなり自重しない彼女にしては相当自制心を働かせたものと思われる。
 アリー・アル・サーシェスにやられてしまったガンダムパイロットたちにとっては、何ちゅうか不幸中の幸いと言っていいかもしれない。
 まあマリナが自重しなかった方がおもしろいことになっていたであろうが。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「相変わらず運だけは強いようだな、スペシャルバカ」
「……相変わらず嫌味だけで生きてんな、銀髪娘」

 

 戻ってきたパトリック・コーラサワーを第一に迎えたのは、人類革新重工社員であるソーマ・ピーリスだった。
 世紀の天才ビリー・カタギリが開発したミカンエンジンに興味を持っている人類革新重工は、企画開発部(別名『超部』)の部長であるセルゲイ・スミルノフの指示の下、彼女がアザディスタンに派遣されているのだった。

 

「お疲れ様であります」

 

 そしてソーマの横で軽く頭を下げるのは、そのセルゲイの実子で同時に開発部のメンバーでもあるアンドレイ・スミルノフ。
 いささか口調が堅苦しい、軍隊っぽいのは、かつて彼がOZに所属していたからであろうか。
 家庭内不和、というか父親に反抗して家を飛び出し、OZへ己の身を投じた彼であったが、幸いにしてOZが壊滅するより前にその内実を知り、脱して結局は父親の職場にやってきたのだ。
 現在でも父にはいささかの隔意があるようだが、それで家庭が崩壊してしまう程、スミルノフ一家は脆くはない。
 包容力ある母のホリィと、養子としてやってきたソーマの存在がかなり効いているというわけだった。

 

「よー、労ってくれるのはお前くらいなもんだぜ、ドレイ
「……その呼び方はやめていただけませんか、コーラサワー氏」

 

 うんざりした表情になるアンドレイ。
 コーラサワーと彼が顔を合わせてからそれ程日数が経っていないが、最初からずっとコーラサワーはアンドレイのことを「ドレイ」と略して読んでいる。
 アンドレイにしてみればあんまりな呼び方であり、そりゃうんざりもしようてなもんである。

 

「アンドレイ、このバカに丁寧に応じる必要はない」
「は、はあ」

 

 アンドレイはソーマに頭が上がらない。
 年齢はアンドレイの方が上なのだが、何より性格的なものがある。

 

「うるせー! 今度の殊勲者に対してどいつもこいつも失礼極まりねー対応しやがって!」
「殊勲者? 誰が?」
「俺だ!」
「おもしろくもない冗談だな」
「ぬぐぐぐ、本当に腹立つ女だな、今すぐお前の姉ちゃんに代われ! まだあっちの方が話せる!」
「ふん、私が表に出ているということは、つまりはマリーにその気はないということだ」
「ぐがああああああ」

 

 仲良きことはナンチャラゲ。
 犬猿の間柄である割に、会話量は多いコーラサワーとソーマなのだった。

 

「……」

 

 何だかんだで元気なコーラサワーに対して、プリベンターの誇るもう一人のバカ、グラハム・エーカーは沈んでいた。
 何せアリー・アル・サーシェスのハッサク攻撃に前に苦渋を舐めてしまったのだ、
 武士道を己の中心に据えている彼としては、かなりの屈辱ではあった。

 

「……」

 

 プリベンターのMS(ミカンスーツ)ネーブルバレンシアがアリーのソンナコト・アルケーに劣っていたとは言え、そんなことはグラハムには関係ない。
 敗北は拭えない事実である。

 

「……」

 

 グラハム・エーカーは落ち込んでいた。

 

「……ぬうううううううううううううううう、リベンジッ!」

 

 が、復活した。
 いきなり。

 

「敗北は勝利への糧也! 敵を知り己を知れば百戦アルカトラズ!」

 

 バカはいい。
 実にいい。
 引き摺ることがない。

 

「穴は埋めればよし! 壁は越えればよし! 一度の敗北は二度の勝利で濯がせてもらおうっ!」

 

 言ってることは全く正しい。
 正しいが、この考え方で軽々しくギャンブルに行ってはいけない
 一度の敗北が二度三度の敗北に繋がるから。

 

「カタギリイイイイイイ! 盟友よっぉおぉぉぉぉ!」

 

 吼える、グラハム・エーカー吼える。
 側から見ると危ないニーチャンそのものである、しかし。

 

「我! グラハム・エーカーはッ、新たな剣を! 所望するううううううう!」

 

 東の空に向かって怒鳴るグラハム。
 当たり前だが、ビリー・カタギリに届くわけがない。
 お願いするならちゃんと通信して直に言えばいいのだが、それをしないのがグラハムクオリティ。
 宮本武蔵でもふるう刀がナマクラなら強敵はそうそう倒せない。
 名刀を腰に差してこその剣豪、弘法はどうか知らないがサムライは刀を選ぶのだ。
 グラハム・ブシドー・エーカー、まさにモノノフの境地也。

 

「二刀流で! フラッグベースで! ヨロイカブトでー!」

 

 いや、やっぱり直接言えよカタギリに。
 な?

 

「ふぅ、これからどうしたものかしらね」

 

 サリィ・ポォは溜め息をついた。
 彼女はプリベンターの現場を仕切る立場、悩み事は多い。

 

「代替のMSの準備、それから……」

 

 今のプリベンターに、戦力と呼べるものはコーラサワーとジョシュアのネーブルバレンシアしかない。
 他のは全てアリーに潰されてしまった。
 プリベンターの立場が立場であるから、簡単に補充が可能という話でもない。
 とは言え、ソンナコト・アルケーの脅威を目の当たりにした以上、少なくてもあれに対抗出切るだけの強さのMS(ミカンスーツ)を用意しないと、今後またアリー・アル・サーシェスとやりあうことになっても、今日の敗北をなぞるだけだろう。

 

「……カタギリ博士にお願いするしかないみたいね」

 

 完全平和主義、恒久平和を実現させるための戦う集団。
 その一見矛盾した組織がプリベンターである。
 サリィにしても世界から完全に争いが無くなるとは考えていない、人間がニンゲンである以上、戦いも武器も決してなくならないと思っている。
 が、完全平和主義の理想は十分に尊いものであるともわかっている。
 100を達成出来ずとも、70、80までいけば大成功、
 妥協と蔑まれたとしても、プリベンターとしては現実と理想の溝を埋めていかねばならない。

 

「新しいMS、か」

 

 ミレイナ・ヴァスティを通じてレディ・アンに今回の顛末のおおまかな報告はしてある。
 おそらく、レディ・アンもMS(ミカンスーツ)の増強には同意、と言うよりハナからそう考えるはず。
 問題は、短期間で如何にして数と質を揃えるかにある。
 ビリー・カタギリの個人のラボでは限界がある。
 彼自身ミカンエンジンの改良に取り組んでいる最中でもあり、MS(ミカンスーツ)の設計・開発を並行して行うのは至難。
 ならばミカンエンジンに関心を持っている人類革新重工に頼めばいいかと言えば、それもまた難しい。
 何しろ軍隊ではないのだ、プリベンターは。
 細々とした援助ならともかく、テクノロジーの塊であるMS(ミカンスーツ)の建造ををまるまる企業に依頼するなど、隠密同心的な組織としては出来ようはずもない。
 いっそプリベンターで独自の工廠を持てば簡単に解決する問題なのだが、それならそれでプリベンターそのものの在り方に疑問を持たれてしまうだろう。
 OZとどこが違うのだ、と。

 

「……ふぅう」

 

 果たして何度、戦いが終わってから溜め息を彼女はついたであろうか。
 やるべきことがあまりに多すぎ、その内容も簡単なものではない。
 アリー・アル・サーシェスは逃げた。
 そして、彼はネーブルバレンシアに勝るMS(ミカンスーツ)を駆っていた。
 彼がそれを独力で作り上げたのか?
 それとも別に援助をした存在があるのか?
 また、ミカンエンジンをどうやって手に入れたのか?
 そして、今後どういった行動をアリーが取るのか?
 問題は山積みである。

 

「じっくりと片付けていくしかないわね……」

 

 サリィはヒルデに淹れてもらったコーヒーに口をつけた。
 それは、すっかり温くなっていた。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 アリー・アル・サーシェスはむっつりと不機嫌そうに押し黙っていた。
 ついさっきまで、これからの展開に満足を覚えてケタケタ笑っていたというのに。
 無論、こうなってしまったのにはわけがある。

 

「ボスゥ、大丈夫ですか?」
「んあー、まだ痛え」

 

 リボンズ・アルマークとの通信を終えた後、彼はここから離れるためにモニターの前から身を翻した。
 その時、足元に落ちていたビールの空き缶を踏んでしまい、すってんころりんと転倒、したたかに後頭部を床に打ちつけたのだ。

 

「でけーコブが出来ちまった、くそ」

 

 その空き缶が他の誰かが捨てたものなら、そいつに当たれば気もおさまったであろう。
 が、その缶は通信の前にアリーが飲んで捨てたものであり、怒ろうにも怒れない次第なのだった。
 正味の話、因果応報、身から出たナントカ。

 

「とりあえずこれからどうします?」
「そうだな……」

 

 アリーの周りでは、すでに撤収準備を終えた部下たちが彼の指示を待っている。
 一言アリーが命令を下せば、すぐにでも動ける構えだ。

 

「当面は休養に当てる。アルケーも整備が必要だしな」

 

 それにスポンサーがついている限り、迂闊に暴れるわけにもいかない。
 傭兵とはすなわち雇われ労働者、盗賊のように好き勝手にしていいわけでもない。
 この辺りは、アリーにもアリーなりの苦労があるのだ。

 

「連絡はいずれするから、各自それぞれ自由にしてろ。パリでもニューヨークでもアキバでもブクロでも、どこでも行ってこい」

 

 リボンズ・アルマークから受け取った手当ての金は、既に皆に渡してある。
 余程の贅沢をしなければ、半年は遊べるであろう。

 

「ボスはどうするんですかい?」
「ん? 俺か?」

 

 そうだな、とアリーは顎髭を撫でた。
 本心を言えば、すぐにでもプリベンターをぶっ倒しに行きたいところだが、先述の理由からそれは出来ない。

 

「そうだな……撮り溜めた『冬ドナ』を最初からも一度見て……それから美味いラーメン屋巡りでもすっか」

 

 アリーはニヤリと笑った。
 コブの痛みをこらえつつ。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 アザディスタン事件編終了コンバンハ。
 次からまた非日常的な日常の風景編でサヨウナラ。

 
 

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