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00-W_模倣の人氏_01

Last-modified: 2008-10-15 (水) 20:12:46
 

「ところで、ものは相談なのだが」

 

 プリベンター本部の昼下がり、グラハム=エーカーが唐突に口を開いた。
 嫌な予感はしつつも、黙って先を促す他の面々。
 グラハムの主張は次の通りだった。

 

「そろそろ私にもコードネームをつけてもらいたい」
「いらん」

 

 即座に却下する五飛。曰く、

 

「コードネームが必要なほど貴様は活躍しとらんだろう」
「何を言う、これから絶対に必要になるに決まっている。それにあの彼にさえコードネームがあるというのに、私にないのは些か不公平だ」

 

 彼というのは言わずもがな、我らがヒーロー・パトリック=コーラサワーその人である。
 ちなみに当の本人は買い出し(パシリともいう)のため現在は不在である。
 一連のやりとりを端で聞いていたアラスカ野=ジョシュアが、遠慮がちに口を挟んだ。

 

「あ、じゃあ俺にもコードネームつけてほしゅぐぼぅあがががが」
「君は黙っていたまえ。今話をしているのは私だ」
「いへぇーっ! ははへ、ははひへふへーっ!」

 

 頬を抓られて悲鳴を上げるアラスカ野、だがいつもの光景なので誰も気にとめない。
 グラハムの期待に満ちた視線を受けて、残りの面子は顔を見合わせた。
 円陣を組み、額を寄せ合って小声で相談する。

 

「どうするよ?こうなったら梃子でも動きそうにないぜアイツ」
「まあ、考えてあげてもいいんじゃないですか? 頑なに拒む理由もないわけですし」
「時間の無駄だ」
「いや、さっさと決めてやった方が却って早いかもしれん」
「そうだな。決定するか否かはおいといて、候補だけでも挙げてやればひとまず満足するだろう」

 

 というわけで、グラハムのコードネーム候補を考えてやる方向で話はまとまったのだった。

 

          *          *          *

 

「でさあ、アンタとしてはどんなのをご希望よ?」
「うむ、そうだな……」

 

 顎に手を当ててしばし考え、何を思いついたか満面の笑みを浮かべて言う。
「やはり私のかつての愛機にちなんで、プリベンター・フラッグというのは」
「待て! フラッグを駆っていたのはあんただけじゃないだろうが。俺もフラッグファイターだったんだ、その名は俺にだって名乗る権利がある!」
「ちっ、余計なことを」
「“ちっ”て言った!? 今あんた小声で舌打ちしたな!?」

 

 小さく吐き捨てられた言葉を耳敏く聞きつけたアラスカ野が喚く。
 うんざりしながらも無視を決め込み、グラハムは次の案を口にした。

 

「では、あちらの世界での私の台詞から採るというのはどうだろう」
「あーなるほど、あっちの世界のアンタの台詞ってーと……」
「では、プリベンター・乙女座ですね」

 

 カトルがにこやかに言う。

 

「……いや、せめて漢字ではなくヴァルゴと言ってくれないか」
「そんな気障ったらしいのはなし! いっそプリベンター・センチメンタルでどうよ?」
「まてデュオ。呼ばれる側はいいとしても、呼ぶのは俺たちだ。そんな恥ずかしい名は口にしたくない」

 

 とはヒイロの弁。トロワも頷いて同意を示している。

 

「くっ……ならば、私は阿修羅をも凌駕する男だから、プリベンター・アs」
「ほう、プリベンター・三面六臂か」

 

 グラハムの言葉を遮り、五飛が割って入った。
 どうやらこれがデュオの笑いのツボに入ったらしく、床の上をゲラゲラとのたうちまわっている。

 

「ひーっ! ひひひひひ、さんめんろっぴて、もはや人間じゃねえぇ!」
「でもよく考えて五飛、デュオ。三面六臂という名だと、まるでグラハムさんが働き者のようにも聞こえてしまうと思うんです」

 

 さりげなくカトルの言うことは酷い。
 まあ実際、あちらの世界はともかく、こちらのグラハムは何かの役に立った試しはないのだが。

 

「それ以前に、凌駕すると言っている男が阿修羅そのものを名乗るのは矛盾しているだろう」
「ぐっ」

 

 トロワの的確なツッコミに唇を噛むグラハム。
 どうにか笑いを収めたデュオが涙を拭きながら立ち上がる。

 

「あー、今のも駄目か、俺としちゃすげえ気に入ってたんだけどな。そんじゃあ、ほかにいい台詞はあったっけか?」
「プリベンター・心奪われた男とかどうでしょう」
「プリベンター・我慢弱い男はどうだ」
「プリベンター・堪忍袋の緒が切れた」
「おいおいお前ら、それはちょっと長すぎるだろ。もうちょっと呼びやすくしようぜ」
「ふん、ではプリベンター・熟知している」

 

 五人のあまりに酷い発言の数々に、アラスカ野が今にも吹き出しそうな顔をしている。
 さすがにそろそろ自分がからかわれていることに気づいたグラハムは、思い切って訊いてみた。

 
 

「君たち、少しでも真剣に考える気はあるのか?」

 
 

 この問いに対して五人の返答は

 

「ない」
「ねえよ」
「ありません」
「ないな」
「あるわけないだろう」

 

 と、揃って全否定。
 いっそ清々しいほどきっぱりと言い切る少年たちに、グラハムは言葉を失った。
 自分としてはそれなりに弁が立つつもりでいただけに、一回りも年下の少年たちにいいようにあしらわれたのが悔しくてならなかった。
 憤怒の形相で、血の涙を流しながらハンカチを噛みしめる。その見た目はかなりキている。

 

「あ、あれー、ちょっとからかいすぎた、かな?」
「恐れるな。たとえ奴がぶち切れたところで黙らせる方法はいくらでもある」
「いや、だから、お前はもうちっと穏便に事を運ぶってこと覚えような五飛」

 

 そんな不穏な空気が部屋を満たし始めた、そのとき。

 
 

「ふいー、たっだいまー。重かったぜえ」

 
 

 空気をまるっきり無視した脳天気な声が響きわたった。
 そう、我らが英雄パトリック=コーラサワー氏のご帰還である。
 何故か衣服がぼろぼろになりながら、両腕には皆の昼飯と、大量のみかんを抱えている。

 

「どうしたんだよアンタ、その格好。あと山のようなみかんは何事よ」
「ああ、これか? いやー参ったぜ、道の途中で車に跳ねられてよ。文句の一つも言ってやろうかと思ったけど、乗ってたのがまだ青さは残るが将来有望そうな美少女だったから、まあ俺のひろーい心でもって許してやったわけだ」

 

 胸を張って威張るパトリック・コーラサワー28歳。
 どうやら車如きでは彼に傷をつけるのは不可能のようである。

 

「で、このみかんはカタギリ博士からのお裾分け。自家農園で大量に収穫できたとかいってリヤカーいっぱいに積めて渡されてな。ここにあるだけじゃなくて、実はまだ表に大量に残ってる」

 

 窓の外を示されたので覗いてみると、確かにリヤカーいっぱいのみかん、みかん、みかん。

 

「げえぇー。あの人は加減ってもんを知らねえのかよ」
「気が遠くなりそうな数ですね……」

 

 ここまでくるともはや苦笑しか浮かばなかった。

 

          *          *          *

 

「ところでさ、ナルハム野郎どうしたん? キモいぞアレ」

 

 半ば引き気味のコーラサワーの指す先には、未だ血涙を流すグラハム=エーカー27歳。

 

「あれか。奴がコードネームをつけて欲しいと言うから皆で考えていたんだが、難航していてな」

 

 五飛の説明は嘘ではないが真実も語ってはいない。
 言い方一つで彼らがグラハムを苛めていた事実がなかったことにされてしまうのだから、言葉というものは恐ろしい。
 コーラサワーはふーんと頷きながらグラハムと、ついでにアラスカ野を一瞥して、あっけらかんと言い放った。

 
 

「いっそ《プリベンター・アホ》《プリベンター・マヌケ》でいいんじゃねえの?」

 
 

 この言葉に五人はしばし顔を見合わせ、それから得心がいったというようにぽんと手を打った。

 

「これだ」
「決まりだな」
「そうだよ、深く考えすぎるから駄目だったんだな!」
「簡潔でわかりやすくて、しかもバカアホマヌケと統一感があって凄くいいと思います」
「バカの割に珍しく建設的なことを言う」
「おっ、そうか? いやー照れるな、誉めたって何も出ないぜ」

 

 照れたように笑うコーラサワー。
 どうやら貶されていることには気づいていない模様。
 さすがはバカである。

 

「よし、では早速サリィに上申してくる」
「ま、待ちたまえ五飛! よもや本気ではあるまいな!?」
「おおお俺も嫌だぞ、マヌケなんて!」

 

 踵を返す五飛を止めようと、慌てて呼び止めるグラハムとジョシュア。
 だが五飛は聞く耳など一切持たず、風のように軽やかに立ち去っていく。

 

「待て、待ってくれ! いやお待ち下さいませだ五飛!」
「やめてくれ頼むから! 後生だ五飛本気で待って頼むお願いだから!」

 

 必死の形相で五飛を追いかける二人。
 そんな彼らの背中を見送って、残された面々は肩を竦めた。

 

「追いつけっかなー、あいつら」
「賭けでもするか?」
「おっ、いいねえトロワ。お前らも乗れよ」

 
 

 果たして二人は五飛に追いつけたのか。
 賭けは誰が勝利したのか。
 それは神のミゾ汁──

 
 

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