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00-W_模倣の人氏_10

Last-modified: 2008-12-07 (日) 22:51:30
 

~前回のあらすじ~
 コーラと大佐がなんかイチャコラしてました。
 以上。

 

 

 優雅な庭園に置かれたテーブルセットに、湯気を立てるティーポット。
 椅子に腰をかけて、二人の淑女が微笑んでいた。
 もはや紹介するまでもなく、リリーナ=ドーリアンとドロシー=カタロニアである。

 

「遠路はるばるご苦労様。貴方が噂のパトリック=コーラサワーですのね」

 

 ドロシーが視線を向けた先には、やけに緊張した面持ちの体格のいい青年と、箱詰めにされた赤毛の男がいる。
 ラッセは慣れない雰囲気に動揺していた。
 いかにも金持ちそうな、しかし決して下品ではない穏やかな雰囲気の邸宅に、これまた上品な身なりの良い令嬢たち。
 Tシャツ姿の自分がかなり場違いのように思えて居た堪れなくなる。
 何より彼の傍らには箱入り息子ならぬ箱詰め青年が、首だけを外に出して。
 傍から見ればもはや滑稽を通り越して不審者以外の何者でもなかった。
 ドーリアン邸まで来てみたはいいが、まさか本当に対面できるとラッセは思ってもみなかった。
 こんな怪しげな二人組、本来ならば門前払いを食らってもおかしくない。
 事実、そうなりかけたのだ。
 警備の人間に胡乱な目つきで見られ、通報までされそうになったのだが、それがこうして面通りが叶うことになったのは、

 

「面白そうな方たちですわね。是非連れていらっしゃいな」

 

 と、たまたま茶の席に招かれていたドロシーが気まぐれに放った鶴の一声による。
 ドロシーとリリーナからの許可が出たこともあり、監視の条件付で足を踏み入れることを許された二人は、
 黒服のいかつい連中に囲まれながら、こうして庭に通されることになった。

 

          *          *          *

 

 そして現在。ドロシーがコーラサワーを面白そうに眺めている。
 コーラサワーはコーラサワーで、ドロシーの全身を舐めるようにくまなく検分していた。
 身体つきはスレンダーだが出るべき部分は出ている、流線を描いた綺麗なボディライン。
 顔もなかなかに凛々しく美しい。惜しむらくは特徴的過ぎる眉毛だろうか。
 二股眉毛が存在を強調しすぎていて、他の部分の印象が全て吹き飛んでしまうのである。
 ともあれ、第一印象は及第点であった。
 が、第二印象はというと。

 

「そういえばパトリックさん。先日プリベンターの皆様に差し上げた贈り物は、気に入っていただけたかしら?」
「贈り物?」

 

 そんなものは貰った憶えがない。
 コーラサワーが過去の記憶を遡っていると、

 

「まあ、忘れるなんて酷いわ。いいわ、教えてあげる。とても素晴らしい的でしたでしょ?

 

 的、と聞いた瞬間、悪夢が蘇った。
 ヒイロにペイント弾で延々と急所を狙われまくった、あの悪夢が。

 
 

「ノォ―――――ゥッ! 俺の股間が、股間があああ!」

 
 

 実際に自分が撃たれたわけではないのに、何故だか股間に衝撃が走った。
 恥も外聞もなく叫んでしまい、傍で聞いていたラッセが露骨に狼狽えた。

 

「アンタ! 若い娘の前で変なこと叫ぶな!」

 

 未だ場の空気に慣れることの出来ないラッセは、とにかく問題を起こしたくない一心で、コーラサワーの口を手で塞ぐ。
 目線を二人の少女の方へ向ければ、リリーナは恥ずかしそうに頬を紅くし、ドロシーは愉快そうに大笑いしていた。

 

「本当に面白い方。期待していたとおりですわね」
「アンタか、アンタがサリィに余計な物作らせたんか。ううっ、俺、このお嬢さん苦手かも……」

 

 コーラサワーが呟く。
 第二印象は最悪なようだった。

 

          *          *          *

 

「そういえばお嬢さんたち、漫才コンビ組んだんだって?」

 

 テーブルを囲んで茶を嗜みながら、思い出したようにコーラサワーが問い掛けた。
 コーラサワーの茶は、段ボールに詰められ手が使えない彼のために、ストローが差された状態で提供されている。
 当然中身は熱湯なので、啜った途端に舌を火傷したことを記しておく。
 彼の問いに、リリーナは優雅に頷いた。

 

「ええ。ヒイロに笑って欲しくて」
「へぇー、そうなんだ」

 

 笑うどころかショックを受けて海より深く落ち込んでいたという事実は、敢えて口にしないのが男の度量である。

 

「今、ドロシーとネタ合わせの途中ですの。問題も多いけれど、頑張ってますのよ。ねえドロシー?」
「え、ええ、そうですわねリリーナ様」

 

 ドロシーの表情は何故か困惑気味だ。
 ラッセとコーラサワーが不思議に思っていると、ドロシーが顔を寄せて2人に小声で話し掛けてきた。

 

「わたくし、確かに笑いにはその場を潤滑にする効果があると思うと言いましたけれどね。だからっていきなり漫才に走られるとは思ってもみませんでしたのよ。その上、何故かわたくしまで参加させられることになって。正直に言うと、困ってますの」

 

 笑いとは『ユーモア』のことであったのに、リリーナは『ギャグ』の意味で捉えてしまったらしい。
 その上リリーナは一度決めたら一直線で、ドロシーも止めようがないという。
 ドロシーの困惑に気づかないリリーナは、いいことを思いついたと、嬉しそうに言葉を紡いだ。

 

「そうだわドロシー、この方たちに練習中のネタを見ていただきましょうよ。ええ、それがいいわ」

 

 提案の形をとってはいるが、リリーナの中では既に決定事項である。
 ドロシーに拒絶の権利はない。
 泣きそうな目でラッセとコーラサワーを見る彼女に、二人の男は心底同情した。
 第三印象は比較的プラス方向へ傾いたようである。

 

          *          *          *

 

「えー、ではお二方。これよりリドリロの漫才を始めさせていただきます。どうかよろしくお願い致します」

 

 白い衣装に着替え、鼻眼鏡と巨大ハリセンを装備したリリーナとドロシーが、男二人に挨拶をする。
 義理の拍手をする二人。
 リリーナは軽く咳払いをすると、キッと顔を上げてこう言った。

 

「空から機械が降ってくるとは、なんてキッカイな! ですわ」

 

 突如、これまで穏やかに流れていたBGMが止まった。
 場の空気が完全に凍りつく。

 

(え、これボケ? というか前振りは?)
(俺が知るか。とにかく、どう反応すればいいんだ?)

 

 対応を決めあぐねたコーラサワーとラッセは密かに視線を交わし合い、小声で相談する。
 そこへ、ようやく勇気を振り絞ったというようにドロシーが震える声でツッコミを入れた。

 

「じょ、状況がわかりませんわリリーナ様!」

 

 巨大ハリセンでリリーナの頭を叩く。が、空気は一層白けるばかり。

 

「ですから、空からUFOが振ってきたと」
「UFOなんてあるわけありませんわ、きっと宇宙船と見間違えたんですのよ」

 

 再度ハリセンを振り上げたところで、ラッセが止めに入った。
 ドロシーの肩に手を置き、優しい眼差しで労わりの声をかける。

 

「もういい、もういいんだ……アンタたちはよく頑張った」
「ラ、ラッセさん……うぅっ!」
「あ、兄貴ぃぃぃぃぃ!

 

 男前なラッセの姿に、ドロシーとコーラサワーが噎び泣く。
 一人取り残されたリリーナは、状況がよくわからないながら三人を見つめて「いい話ですわ」と感動の涙を流していた。

 

          *          *          *

 

 さて。
 気を取り直した彼らは、ようやく本題に入った。
 コーラサワーの処遇についてである。
 リリーナが恐縮したように、けれどきっぱりと言った。

 

「申し訳ありませんが、わたくしどもで貴方の身柄をお預かりするわけには参りません」
「だよなぁ、やっぱり」

 

 予想はついていたと、ラッセとコーラサワーが異口同音に答える。

 

「さて、次はどこへ送るかな」

 

 ラッセが思案していると、

 

「いい考えがありましてよ」

 

 とドロシーが横から提案する。
 彼女が手を打ち鳴らすと、離れた場所で控えていた黒服の一人が、大きなボードを抱えてやってきた。
 ボードにはほぼ同じ大きさの紙が貼られており、その紙に描かれているのは、紛うことなく世界地図。
 それから、別の黒服がドロシーに何かを手渡した。

 

「それは?」
「ダーツの矢ですわ。あの地図目掛けて投げてみてくださいな。刺さった国から適当に送り先を探してみましょう」
「……えーと、それは」
「日本列島ならぬ、《世界七大陸ダーツの旅》、ですわね」
「『水○どうでしょう』の次は『○ってコラえて』か……」

 

 複雑な心境でラッセはダーツを受け取った。

 

「兄貴、変なトコ当てんじゃねーぞ、絶対だぞ!」
「わかっている。俺だって辺境の地までアンタを運ぶのは嫌だ。できるだけ近いところを狙うぞ」

 

 喋りながら、脚を上げて大きく振りかぶり、ボード目掛けて力強く投擲する。
 カッ、と小気味いい音を立てて矢が深々と突き刺さった。
 ドロシーが地図帳と電話帳を両手に、矢が刺さった場所近辺から目ぼしい所を見繕う。

 

「ああ、ここがありましたわ。ホストクラブ『リ・ヴォンズ』、ここのオーナーとは懇意にしておりますのよ」

 

 と言って手渡された住所を確認して、男二人は安堵の溜息をついた。

 

「よかったぁ、ここならそんなに遠くないぜ」
「俺のコンテナで十分運べる距離だな。それじゃ、さっさと行くか」
「あん、お待ちになって。せめてお土産を受け取ってくださいまし。ねえリリーナ様?」
「ええドロシー。せっかくここまで足を運んでいただいたのですもの、手ぶらで帰っていただくには忍びないわ」

 

 邸を退出しようとする彼らを、二人の令嬢が呼び止めた。
 何事かと振り返るラッセに、再びダーツの矢を渡す。

 

「これが土産か?」
「そんなはずがありませんわ。あちらを見て」

 

 ドロシーが指差す先に、先ほどとは違うボードを用意する黒服たちの姿があった。
 こちらのボードには円形の回転盤が取り付けられている。
 更に回転盤をよく見ると、円グラフのように区切られた枠の中に、それぞれ景品と思しき名称が書き込まれていた。

 

「投げた矢が当たったところに書かれた景品をお土産として差し上げましてよ」
「今度は東京フレn」
「細かいことはお気になさらず! さあ、投げてくださいな」

 

 ドロシーが指示を出すと、回転盤が勢いよく回り始めた。すぐに盤面の文字が読み取れなくなる。
 ラッセが指定の位置に立つと、離れたところに立ち並ぶ幾人もの黒服たちが一斉に唱和し始めた。

 

「○・ジェ・ロ! パ・ジェ・○!」
「……さっきチラッと見た限りじゃパジ○ロなんてなかったぞ」
「パ・○ェ・ロ! パ・ジ○・ロ!」
「兄貴、イナクト狙ってくれイナクト!」
「○・ジェ・ロ! パ・ジェ・○!」
「イ・ナ・クト! イ・ナ・クト!」
「うるせええええええええええっ! 落ち着いて投げさせろ!」
「パ・○ェ・ロ! パ・ジ○・ロ!」
「イ・ナ・クト! イ・ナ・ふがッ!?」

 

 黒服全てを黙らせるのは骨が折れるので、せめて一人だけでも静かにさせようと、コーラサワーの口にガムテープを貼りつけた。

 

「○・ジェ・ロ! パ・ジェ・○!」

 

 相変わらず唱和を続ける黒服の声援を心の中でシャットアウトして、全体重を乗せた渾身の一擲を放つ。
 矢は見事回転盤に当たり、徐々に速度を落としていった。刺さった場所に該当する景品は……
 ずばり、AEU-09イナクト

 

「んぃーんっんぅー!(イィーヤッフゥー!)」

 

 歓喜の声を上げるコーラサワーに対し、ラッセは酷く嫌そうな顔を浮かべていた。

 

「ちょっと待て、こんなものどうやって運べと」
「ご安心なさいな。きちんと梱包しますわよ」
「いや、そういう問題ではなくてな……」

 

 何かツッコミを入れたかったが、何を言うべきかわからなくなって結局押し黙った。
 なんとなく、リドリロの漫才が上手く行かない理由がわかった気がする。
 二人ともボケだからまともに成立しないのだ。

 

「ドロシー、どうしてモビルスーツを貴女が?」
「ご安心くださいリリーナ様。あれはただのハリボテです」
「そう? ならいいですけど」

 

 ドロシーの言葉を鵜呑みにしたリリーナだったから、続いて小声で呟かれた言葉は彼女の耳には届かなかった。
 しかし、ラッセとコーラサワーの耳には確かに聞こえてしまったのだ。
 こんな台詞が。

 

(ええ、ハリボテですとも。イナクトの装備と性能を完全に再現した、鉄のハリボテ
「あ、アンタぁぁぁっ!?」
「あら、何かしら? 余計な事は口にしないほうが身のためですわよ」

 

 そう言って凄絶な笑みを浮かべるので、二人は二の句が継げなくなってしまったのだった。
 硬直するラッセに、リリーナがまたも矢を手渡す。

 

「さあ、次の矢をどうぞ」
「なに、まだあるのか」

 

 これで終わりと思い込んでいたラッセは意外な思いでリリーナを見た。
 すると彼女はにっこり笑って、

 

「まだまだあります。ドロシー、残りの矢を全て出してくださるかしら」
「かしこまりましたリリーナ様」

 

 といってドロシーが黒服に持ってこさせた残りの矢は、優に百本を超えていた。
 ダーツ地獄はまだまだ終わりそうになかった。

 
 

 一方その頃、プリベンターたちは。

 

「ヒルデ、大丈夫か。いけそうか?」
『大丈夫よ。私だって役に立ってみせるんだから』

 

 デュオがヒルデを心配するも、彼女は明るく答えて見せた。
 本日の任務は不発弾の撤去作業である。
 プリベンターたちはMS(ミカンスーツ)を駆使して、地中に埋められた不発弾を慎重に掘り起こしていた。
 コーラサワーが抜けた穴には、代打としてヒルデが入っている。
 操縦技術では確かにコーラサワーより見劣りするものの、任務をこなす上では支障のない範囲であった。
 グラハムやらジョシュアやら、面倒な輩も相変わらず元気に厄介ごとを起こしてくれるが、問題児が2/3に減っただけでも他の面子にかかる負担は酷く軽減されるものである。
 特に問題もなく、恐ろしいほど順調に仕事は片付いていった。

 

「……あのさ」
『余計なことは言うな。それは錯覚だ』

 

 何か言おうとしたデュオの言葉を五飛が遮る。
 何事もなく順調に進んでいる。
 それは歓迎すべきことのはずだ。
 問題も起こらず、起こさず、平穏無事に時を刻む。
 本来は常にそうあるべきなのだ。そう、だから。
 物足りないとか、寂しいとか感じるのは錯覚でなければならないはずだった。
 作業を続けながら、カトルがふと呟く。

 

「今頃どこで何をしているんでしょうね、コーラサワーさん」

 
 

 視点を戻す。

 

「ぬりゃあああ!」カッ
「どりゃあああ!」スコッ
「あんぎゃあああ!」ガコッ
「兄貴がんばれ兄貴、あと二十本!」

 

 今頃どこで何をしているかといえば、ダーツを投げまくるラッセの応援に励んでいた。
 ラッセに声援を送りながら、コーラサワーは思う。
 ドロシーの第四印象は、『かなりの変人でいて少々のドSである』と。
 こうして、コンテナの荷台には段ボール箱が山のように積みあがって行ったのだった。
 ちなみに全ての中身を把握しているものは誰一人としていなかった。

 
 

(終われない)

 

 

【あとがき】
 ただ芋。
 間違えた。ただいま皆様ご機嫌麗しゅう。
 次はリボンズさんのところ行って、そのあと1、2件回って終わらせます。
 本当は今回で全部回るはずだったんですけどね……(遠い目)。
 書いても書いても終わりゃしねえ。何故、何故なの、何故なんだぜー!?
 でもここまで来ちゃったから終わるまで頑張る。
 もうしばらくお付き合い願います。
 それでは。

 
 

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