Top > 00-W_模倣の人氏_14
HTML convert time to 0.015 sec.


00-W_模倣の人氏_14

Last-modified: 2009-06-03 (水) 20:28:50
 

 グラハム=エーカーは、かつて無いほどの高揚感と充足感を覚えていた。
 これまでの自分がまるで地を這う鈍重な芋虫であったかと思えるほど、身も心も軽く感じる。
 見慣れたはずの夜景がやけに美しく感じられ、取り巻く空気はなんという清澄感だろう。
 グラハムは歓喜に打ち震えた。

 

「私は今日新たに生まれ変わる。脱皮……いや、羽化するのだ。私はこの瞬間、蝶へと変化するのだ!」

 

          *          *          *

 

 あるビルの屋上で動きを止めたグラハムを、地上にいるプリベンターたちが見上げていた。

 

「止まりましたね……満足したのでしょうか?」
「いや、違うな。蹲って何をしているのか……」

 

 カトルの疑問をトロワが否定する。
 よくよく目を凝らすと、グラハムはしゃがみ込んだ状態で痙攣していた。

 

「今がひっ捕まえるチャンスなんじゃねえか?」
「待てデュオ、様子がおかしい。迂闊に近寄ると危ない」

 

 ヒイロが足を踏み出そうとするデュオを静止した。
 確かに、グラハムの震え方は徐々に大きくなってきている。
 と思った、次の瞬間。

 

「クロス・アウッ! メタモルフォーオオオゼ!」'

 

 急に立ち上がったかと思いきや、着ていたボディスーツを一瞬のうちに脱ぎ捨てた。
 そこにいるのは、顔に女性用パンティーを被り、身にはブリーフのみを纏った、ほぼ全裸の男であった。

 

 00-w_003.jpg

 

 刹那、地上から見上げていた誰もが頭の中真っ白になった。
 一拍置いて、絶叫が響き渡る。

 

「こんの変態がァァァァァァァァァァ!」
「そのとおり。私は今、完 全 変 態を遂げた!」

 

 地上の者たちからの批難を浴びても、彼は一切動じないどころかパンツ一丁姿で腕を組み威風堂々と宣言する。

 

「変態の意味違うだろアホタレが!」
「ちっ、だから件の連中をさっさと呼べと言ったのだ、このマヌケが」
「もう呼んだっての、もうちょっと待てよ!」

 

          *          *          *

 

 と、いうわけで。

 

「来ましたぜ」
「状況の説明を頼む」

 

 サングラスがトレードマークのハワード=メイスンと、ドレッドヘアが特徴的なダリル=ダッジが到着したのであった。

 

「ふん、仕方がない。この俺が簡潔にわかりやすく話してやるから感謝しろよ」

 

 救援を求めた立場でありながらジョシュアはやけに不遜な態度で、ハワードたちのこめかみに血管が浮き上がったりもしたが、それでも手短な説明で意思の疎通が図れるのはやはりかつては同じ釜の飯を食った仲だからだろうか。

 

「あー、またですか」
「やれやれ、しょうがない人ですなあ。じゃあちゃっちゃと片付けますかね」

 

 ダリルとハワードは肩を竦めた。
 動じた様子のない彼らを不審に思い、カトルが問いかける。

 

「あの、随分と慣れたご様子ですが、もしかして過去にもグラハムさんがこういう風になったことがあるんでしょうか」
「いやあ、流石に下着被って覚醒なんてのは初めてだがね、あの人は基本的に暴走体質だから」
「うっわぁ」

 

 救えない。
 つい乾いた笑いが浮かんでしまうのだった。

 

「俺たちにも何か手伝えることはあるだろうか」
「ああ、ならばプラモデルを仕入れてきてくれないか。できればただのMSよりガンダムタイプがいいだろう、できる限り大量に」

 

 トロワの申し出に、ダリルが頷いて指示を出した。
 作戦を簡潔に述べると、餌で誘き寄せたところを捕獲するというもの。
 とはいっても容易にはいかないだろう。
 何せ、スーツを脱ぎ捨て覚醒したグラハムは、先ほどまでとは比べ物にならないほど動きが素早くなっているのだ。
 また行動が変則的で、先回りするのも難しい。
 が、ハワードは不適な笑みを浮かべてこう言った。

 

「その点は大丈夫ですぜ。更なる助っ人を呼んでますからな」
「助っ人?」
「僕だよ」
「のわあああっ!?」

 

 耳元に息を吹きかけられたジョシュアが驚いて飛び跳ねた。
 振り返るとそこには、白衣に身を包んだポニーテールの青年。ビリー=カタギリであった。

 

「やあ。何やらグラハムが面白いことになってるそうじゃないか。僕も協力させておくれよ」
「助かります。けど、いったいどうやって?」
「グラハムの行動パターンを読みたいんだろう? なら、これを使うといい」

 

 と言ってポケットから取り出したのは、拳大のみかん一つ。
 彼がみかんを宙に放り投げると、回転しながらなんと顔や手足がにょきっと生えてきたのだった。
 そしてみかんが叫ぶ。

 

『みかんは投げるものではなーい!』

 

 怒りの声で抗議するそれは、以前彼がパトリック=コーラサワーから採取した細胞と自身が栽培したみかんとを掛け合わせたハイブリッドみかん生物、その名も『みかんコーラ』である。

 

「おおバディ、久しぶり!」
『こちらこそご無沙汰しておりますバディ。ご機嫌麗しゅうございます』

 

 いつの間に相棒になったのか、コーラサワーとみかんコーラが親しげに挨拶を交わした。
 コーラサワーを除いたプリベンターのメンバーはみかんコーラと面識がないため、喋る果物の登場に唖然とするばかりである。
 そんな彼らを差し置いて、コーラサワーがビリーに問う。

 

「こいつただのみかんだけど、一体何が出来るんだ?」
「実はちょっと改良してね。以前は君とみかんの細胞を掛け合わせただけだったけど、今度のはサイボーグ化してあるからね。高速な情報処理も可能になったんだよ」
「へええ、凄えな!」

 

 コーラサワーは素直に驚くが、実際のところは凄いなどというレベルではない。
 動物細胞+植物細胞+精密機械。
 どう考えても現代の科学技術を遥かに凌駕する存在だった。

 

「ついでにZoning and Emotional Range Omitted Systemも搭載してみたんだ。これならグラハムの行動も予測できるだろう」
「Z.E.R.O. ……ゼロシステムだと!?」

 

 ヒイロが盛大に目を見開いた。
 しかしビリーは穏やかに微笑んだまま、あっけらかんと言い放つ。

 

「なあに、心配することはないよ。手を加えて暴走しないようにしてあるから」

 

 多くのパイロットを散々狂わせてきたシステムをあっさり改良してのけたという。
 ヒイロは深く溜息をついて、

 

「なんという化け物だ」

 

 と驚嘆の呟きを漏らした。
 他人から人外扱いされがちのヒイロをもってしてそう言わしめるのだから、ビリーがいかに常人離れしているかがよくわかろう。

 

          *          *          *

 

 外部カメラから取り入れた視覚情報を元に、みかんコーラがゼロシステムを用いてグラハムの行動パターンを解析していく。
 ムササビのように飛び回るグラハムの軌道を読み、次に辿りそうなルートを先回りしてガンプラを設置。
 上手い事餌に食いついたら、更にガンプラを囮にした上で目的の場所へ追い込み、捕獲。
 これが作戦内容である。

 

「この餌にちゃんと食い付くのかねえ。スルーされる可能性だってあるんじゃ」

 

 とデュオが懸念を口にするが、次の瞬間、

 

『かかったぞ。目標は現在ルートBを前進中、いつでも動けるよう準備を頼む』

 

 囮を設置していたヒイロから通信が入り、デュオは思わずつんのめった。

 

「おいおい、こんな罠なんざ今日日小学生でも引っかからないぜ」
「その程度にかかるからこそアホなんだろう。つべこべ言わずに行くぞ」
「へいへい。わかってますよ」

 

 五飛に引き摺られるように、少年たちが到達予定ポイントへと足を向けた。
 さて、先んじて到達ポイントで待機していたハワードとダリルは、具体的な迎撃方法をその場で打ち合わせていた。

 

「よし、これで行こう」
「だがやはり気が引ける。隊長にこんな手を……」
「いい加減腹を括れダリル。これは止むを得んのだ。……そら、おいでなすったぜ!」

 

 ハワードが指し示した方向、自分たちから見て前方に、華麗に舞う青年の姿が見えた。
 しなやかな筋肉をバネに、ひらひらと蝶が花から花へ飛び移るかのようにビルの間を行き来する。
 やがて変態グラハムは、ハワードたちの眼前に置かれたガンプラへと目をつけた。

 

「抱きしめたいなぁ、ガンダム!」

 

 案の定、グラハムはそれに目を光らせ飛び掛ろうとした。

 

「ほ、本当にやるのか」
「モチのロン。いいなダリル、素早く終わらせるぞ」

 

 言うなり、地上へと落ちてくるグラハムの下へハワードが素早く潜り込む。
 元上官目掛け、彼は渾身のアッパーを繰り出した。
 勢いよく宙へと吹き飛ばされるグラハムの身体。
 それにハワードとグラハムが取り付き、それぞれ脚を一本ずつ抱え込む。
 脚を二人に抱え込まれたグラハムは、パンツ一丁で大開脚というあられもない格好になった。
 高く舞い上がった三人は、頂点まで昇り詰めたところで今度は重力に従って地上へと落下し、

 

「「Wパワーバスター!」」
「……くぁw背drftgyふじこlp;@:!!」

 

 大の男二人からのキ○肉バスター。
 この破壊力は凄まじく、12Gにも耐え抜くさしものグラハムですら耐え切れるものではなかった。
 言葉に言い表せない痛みが彼の股関節を襲い、意味をなさない悲鳴を上げてのたうち回る。
 次第に動きが緩慢になっていき、やがて動かなくなった。

 

「よし、今だ!」

 

 ジョシュアがロープを握り締めグラハムの下へ駆けつけようとしたが、

 

『ジョシュア殿の危険がチョーヤバです』
「! 待ってください!ジョシュアさん!」

 

 ゼロシステムで危険を予測したみかんコーラの言葉を聞いて、慌ててカトルが呼びとめる。
 しかしわずかに遅かった。

 

「……え?」

 

 ジョシュアの目の前で、グラハムがゆらりと立ち上がる。
 慄いて足を止めたジョシュアを見据え、彼は一足飛びに距離を詰めてきた。

 

「ガンダムぅぅ……そのガンダムは誰にも渡さんんん」
「ぬぁああああああああああッ!」

 

 恐怖に震えるジョシュアにグラハムの手が届く寸前。
 一迅の風が二人の間を遮った。
 そして一閃。

 

「ピッギャァアアァァアアアアァァァアアアァアアアアアアアァァアァアアアッ!」

 

 地面に投げ出されたのはグラハムの方であった。
 今度は動かない。
 どうやら完全に意識を失ったようである。

 

「ふん、手を煩わせるな」

 

 五飛が正拳突きの構えを解き、服の埃を払った。
 彼の拳はグラハムの股間を的確に捉えていたのだった。

 

          *          *          *

 

 こうしてグラハム捕獲大作戦は無事に幕を閉じ、世間にもプリベンターにも平穏な時間が戻ったように思えた。
 あの事件の後、一時はビリーがグラハムの身柄を預かり、ハワードやダリルと共に性格矯正プログラムを施したそうだが、数日後にはプリベンター本部へと帰還した。
 ビリー曰く、今回の騒動は仮面として被った下着がいけなかったのだという。

 

「グラハムの仮面を着けたいという願望と、女性用下着によって呼び起こされた性的興奮の相乗効果が悪い方向へ働いてしまったんだね。けどもう大丈夫、下着でなければそれほど問題にはならないようだから、実家にあった適当な仮面を彼に渡しておいたよ」

 

 という経緯を経て、事務室で茶を啜るグラハムが現在装着しているのは、ひょっとこのお面である。
 どうやら顔に被れれば何でも良かったらしく、彼はこれで結構ご満悦の様子だ。

 

「うむ、これもいいものだな。だがせっかくだから色々なデザインを楽しみたい。よし、明日は般若の面にしよう」
「はあ、左様で」

 

 ジョシュアが疲れたように溜息をついた。
 ふと、隣に座っている男に声をかける。

 

「まさかアンタはパンツ被って興奮したりしないよな?」
「パンツ被って何の意味があるんだよ。そんなことを喜ぶのはガキくらいのもんだろ」

 

 コーラサワーはそう言って鼻で笑う。
 少し意外だったが、良識ある答えが返ってきたのでほっとした。
 が、ここで終わらないのがコーラサワーである。
 彼の言葉には続きがあった。

 
 

「女の下着は被るんじゃなくて、脱がせるためにあるんだよ」

 
 

「うん。俺、今すっごくお前を殴り飛ばしたい気分」
「殴っていいわよ」

 

 ヒルデがフライパンを差し出し、ジョシュアはそれを遠慮なく受け取って、全身の力を込めて振り抜いた。

 
 

 ところで。

 

「サリィ、いい加減出て来い。いつまで閉じこもるつもりだ?」

 

 五飛が隊長室の扉を何度も拳で叩く。
 他の少年たちも、心配そうな目を扉に向けていた。
 あの騒動で緊張の糸が切れてしまったサリィは、すっかり引き篭もりとなってしまったのだった。
 隊員の誰とも顔を合わせようとせず、ずっと隊長室に立て篭もっている。
 彼女はそこで何をしているかといえば、端末に齧り付いて何かを一心不乱に打ち込み続けている。
 それはどうやらメールのようだった。
 送信先は、火星にいるルクレツィア=ノイン。

 
 ご無沙汰してるわねノイン、元気にしているかしら?
 貴方たちが火星に行ってからどれくらい経ったかしらね。
 テラフォーミング事業の進捗状況はいかが?
 そちらの人たちとも上手くやっていけているの?
 貴方たちのことだから、心配するまでもないんでしょうけど。
 さて、私たちプリベンターは人員も増え、随分と賑やかになりました。
 多くの仲間たちに囲まれて、私は毎日――
 
 
                                       ――毎日が地獄です。
 

 文面を読み進めていくうちに、ノインとゼクスの頬がどんどん引き攣ってきた。
 プリベンターでの日々の苦労、暴走ばかりする新隊員たちへの恨みつらみの数々、めったに現場に顔を出さないレディへの愚痴などなど――
 とにかく負の感情をありありと感じさせる内容が長きに渡ってつらつらと書き連ねられていたのだった。
 ようは八つ当たりメールである。

 

「……近いうちに一度地球に戻ろうかと考えたが」

 

 ゼクスがぽつりと零す。

 

「しばらくはやめておこう。その方が身の為だ」
「そのようですね……」

 

 苦笑いを浮かべて、ノインは彼の意見に賛同したのだった。

 
 

 <変態仮面グラハムちゃん・了>

 

 

【あとがき】
 『ケー○イ捜査官7』に激ハマり中です皆様ご機嫌麗しゅう。
 次は早めにとか大嘘ぶっこいてすみません。
 冒頭のグラハムはテラパピヨン。
 ゼロシステムのくだりは名無しさんとネタ被ってしまい恐縮です。
 さて、コーラさんのすんごぉいパーソナルデータが公表されましたね。いやもう何と言うべきか。

 

 3代目スレ271氏
 Q.「コーラは本当にこんな人間なのか」と疑問に思ったことはなかったのだろうか
 A. 大  有  り  で  す  。

 

 もうちょっとこう、ほら、少しは計算してる部分もあるんじゃないかなーと思わないでもなかったですから、だから迂闊にネタに絡められなかったのに。
 まさか本気でここまで単純とは思っていなかったのであり、本当はもうちょっとくらいは真面目なコーラさんを期待していたというのは本当ですか?
 ……ぬっ、いつの間にやら拙者が質問者! それでは。

 
 

 【前】 【戻る】 【次】