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00-W_模倣の人氏_21

Last-modified: 2009-03-15 (日) 17:35:57
 

 その日、パトリック・コーラサワーはいたくご立腹だった。
 というのも、

 

「久々にカティさんと会う約束を取り付けたのに、ご破談になったそうですよ」
「それはそれは。けどよお、子供じゃねえんだからそこまで怒ることか?」
「カティさんのマネージャーという人から断りの連絡があったそうなんですが、これが酷く高圧的な人だったみたいで」
「ああ、なーるほど」

 

 ひそひそ声で語るカトルとデュオの視線の先で、コーラサワーは拳を振り上げて憤慨していた。

 
 

「畜生あの銀キノコめ、俺だけならともかく大佐のことまで悪く言いやがって!」

 
 

 どうやら、相手は彼にだけでなくカティに対してもたっぷりと嫌味を述べていたらしい。
 近頃更にメディアへの露出が増え多忙を極めていた彼女であるが、せっかく久々の休暇を取れたと思いきや急遽別の予定が入ってしまったという。
 それは仕方のないことではあったが、そのマネージャーはカティが久々の休暇を男と過ごすことにも難色を示したという。
 電話口で散々嫌味を聞かされたコーラサワーは憤懣やるかたない様子で机を叩き続けている。

 

「まあ、事務所的にはあまりいい顔できないってのもあるんじゃないか?」

 

 ジョシュアが宥めようとするが、コーラサワーの怒りは留まらない。

 

「それならそれで事実だけ説明すりゃいいじゃねえか。なんで人格を否定するような嫌味まで言われにゃならんのよ!? 覚えてろよあのキノコ野郎、今度会ったらてめえの髪の毛全部引っこ抜いて土星人にしてやっからなー!」

 

 散々喚き立てていた彼だったが、やがて疲れたのか、大きく息を吐いて背もたれに乱暴に身を投げ出した。
 すると、途端に異音が鳴り響く。

 

「あー、叫んだら腹減ったな」

 

 音の正体はコーラサワーの腹時計である。
 彼は腹をさすると、何故かジョシュアの方をじっと凝視した。

 

「な、何だよ?」

 

 ジョシュアがたじろぎつつ訊ねると、

 

「いやあ、キノコキノコ連呼してたらキノコ食いたくなってきて」
「俺を見てキノコ連想すんな馬鹿!」

 

 取っ組み合いの喧嘩を始めそうになったので、デュオとカトルが全身全霊の力を込めて二人を引き剥がした。

 

「落ち着いて二人とも! とにかく、軽く腹ごしらえでもしましょうよ」
「ならば俺たちに任せろ」

 

 入り口の方から高らかな声がする。そちらを振り向いて、彼らは軽く目を瞠った。

 

「ヒ、ヒイロにトロワ! どうしたんだよその格好?」

 

 デュオが素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。
 彼らはどういうことか、すっかり泥まみれであった。
 そして、彼らのバックパックには大量のキノコ。

 

「キノコを採ってきた。今から調理してやる」
「うわあ、凄いよ二人とも、よくこんなに取れたね!」
「確かに凄いけどよ……季節感無視してねえ?」
「それは気にしたら負けだぞ、デュオ」
「さいでっか」

 

 ヒイロとトロワが収穫して来た大量のキノコを吟味していた三人だったが、カトルとコーラサワーが顔を見合わせて首を捻る。

 

「あれ、あれがないですよ?」
「ホントだ。肝心のあれがないじゃねえか」
「「あれって何だ(よ)?」」

 

 問われて、二人は異口同音に言う。

 

トリュフがないんだけどなんで?」
「……おい、お前たち」
「どうしたんだいヒイロ?」

 

 ごつん、と鈍い音がした。

 

「殴っていいか?」
「殴ってから言うなよ!」

 

 頭頂部を押さえ、コーラサワーは涙目で抗議したのだった。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 一方、某収録スタジオの控え室では。

 

「やはり私が自分で連絡すべきだったと思うのだが」
「とんでもない! 妙な噂が立ったらどうします、貴女は我が事務所の筆頭なのですよ、立場を弁えていただきたい」

 

 カティ・マネキンの言葉に、銀髪をおかっぱにした酷薄そうな表情の男が露骨に顔を歪めた。
 アーバ・リント、それが彼の名である。
 つい最近カティのマネージャーに就任したばかりの男で、能力は高いが性格に問題があるらしく、事務所の所属タレントからの評判は決して良いとは言えなかった。
 君なら上手く付き合えるだろう、と前任から言われたのだが、要は面倒な男を体よく押し付けられたわけである。
 カティは疲れたように溜息をついた。
 現在彼女は、数日前に急遽ゲスト出演のオファーが入った音楽番組の本番待ちをしているところだった。
 当初予定されていた別の出演者の都合がつかなくなったため、彼女に依頼が入ったという。
 マネージャーのリントが二つ返事で了承してしまったせいで、カティのせっかくの休暇がお流れになってしまったのだ。

 

「まあいい。請けた仕事は全力で臨むまでだ。本日共演するのは確か、リヴァイヴ・リバイバルだったか」

 

 リヴァイヴ・リバイバル。
 目下人気急上昇中のアイドルグループ『Innovator』のメンバーであり、涼やかな佇まいと愛らしい笑顔が女性に絶大な指示を受けている。
 また歌唱力にも定評があり、迫力のある低音から女性顔負けのファルセットまで使いこなす幅広い音域が自慢の実力派であるという。

 

「メンバー中もっとも歌い手として評判の高いあの少年か。彼となら有意義な時間を過ごせそうだ」
「ええそうでしょうとも。仕事を獲得してきた私に感謝してほし……うひいぃぃっ!?
「……どうした?」

 
 

「あのキノコ野郎め、これでも食らいやがれ!」

 
 

 調理場でコーラサワーが高々と構えた包丁を勢いよく振り下ろした。
 ヒイロとトロワが収穫したキノコを調理すると聞いて、どういう風の吹き回しか、コーラサワーは手伝いを申し出た。
 意外なこともあるものだと仲間たちは驚いたものだが、理由を聞いて納得した。
 キノコをカティのマネージャーに見立て、憂さ晴らしをしようというのである。
 散々呪いの念を込めたキノコに、彼は迷うことなく刃を突き立てた。

 
 

 リントが青ざめた表情で蹲る。

 

「な、なんだ。急に怖気が、うひゃあ!」

 
 

「もう一丁!」

 

 再度包丁が振り下ろされる。

 
 

「ぎゃあああ!」
「お、おい!リント少佐!?」

 
 

「積年のうらみぃ!」
「積年て。まだそんなに時間経ってないだろ」
「細かいこと気にすんな。そりゃ、必殺微塵切り!」
「細かすぎても使い道がなくなる。せいぜい乱切りでやめておいてくれ」

 

 少し離れたところから、トロワがそう声をかけた。

 
 

「うきゃきゃきゃきゃ!」

 

 急に悶えてのた打ち回るリントの姿に、カティは咄嗟の判断がつきかねた。
 始めはどこか痛むのかと思ったのだが、よくよく観察していると、

 

「く、くすぐった……あひゃひゃ!」

 

 彼の口から発せられるのは悲鳴というよりは笑い声であった。

 

「さて、これは医者を呼ぶべきか否か」
「ちょ、何冷静に観察してるんです! 早く助けうひょひょひょひょ」
「どうかしましたか?」
「おや、リヴァイヴ少年。騒がしくしてすまない。念のためスタッフを呼んでくれるか」
「はぁ……」

 

 楽しそうに転げ回っている(ように見える)リントを一瞥し、リヴァイヴは困ったように眉を顰めた。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「あーすっきりしたぜ!」

 

 大量のキノコをぶつ切りにしまくって、ようやく満足したコーラサワーは笑顔で額の汗を拭い去る。
 なにやら遠くの方でジョシュアが悶えているのが見えたが、とりあえず気にしないことにしておいた。

 

「ちょっと、食べ物で遊ばないでよ。デュオ、貴方も見てないで注意したらどうなの」
「おっと、悪いなヒルデ。どうにも止め辛かったもんだからさ」

 

 盛大に切りすぎて一部が床にまで零れており、見かねたヒルデが苦言を呈す。
 ただコーラサワーの暴走を眺めていただけだったガンダムパイロットたちは、彼女の言葉にただ苦笑を浮かべるしか出来なかった。

 

「何というかあれだよね、コーラサワーさんて」
「ああ。ある意味敵に回したくないタイプだな」
「ポジティブすぎてポジティブにネガティブですよね。意外と厄介な性格だなぁ」

 

 腰に手を当てて晴れ晴れと笑うコーラサワーの後姿を、彼らは複雑な思いで見つめるのだった。

 
 

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