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08MS-SEED_190_第01話「震える街」

Last-modified: 2013-12-22 (日) 21:25:54

  震える街(scene-1)

 忘却できない慟哭の記憶

「ただいま。ん?相席にしたのか?」
 シローが席に戻ってくると、見知らぬ人物と相席しているのに気付く。
「ええ、こちらが我が儘を言わせて貰って……。短い間だけど失礼するわ」
 女性から軽く会釈をされ、シローは座りながら会釈を返す。その時、彼女と眼が合う。
 ──何処かで見た記憶がある。
 違和感を感じつつ女性の隣の男性に視線を移すと、窓に顔を向けてまどろみの世界の住人となっている。
 再び女性に視線を移す。女性は怪訝な表情でシローを見つめ、アイナは心配そうにシローを見守る。

 幻聴、そして幻覚が襲い来る。
 流星となり、大地を穿つ災厄となった故郷。
 毒ガスにより目の前で血を吐き倒れて行った家族。抱き上げて感じた家族の冷たくなっていく温もり。
 見渡す限りの死の宴。おびただしい数の死者の中ただ一人生きているという、永遠の孤独。
 恐怖に心臓を掴まれ、どす黒い何かが酸の様に精神を蝕んでくる感覚。
 そして、圧倒的な一つ目の巨人の蹂躪。
 極限の戦いの中で知った戦場の狂気。
 一つ目の手に弄ばれ、悲痛な叫びをあげる仲間。
 仲間を安らかに眠らせる為に引いた、とても重い引金。
 欠片さえ残さずに消えていった戦友。
 英雄なんていない戦場。英雄なんていらない戦場。
 その中で出会った死の女神。
 悪夢の全てがリアルに脳裏に走る。
「──イシュタム?」
 シローはかすれた、うわずった声で呟く。
 アイナはその言葉の真を量りかね、不思議そうに首を傾げシローを見る。
 女性は驚愕の表情を見せ、周囲の空気を変える様な鋭い視線でシローを見据えながら、問掛ける。
「──オマエ、何者?」
 三人は動く事も出来ず、粘着するような空気の中、ただ時がゆっくりと流れる。
 重苦しい静寂を打ち破ったのはまどろみから醒めた男性の寝惚けた声だ。彼は場の緊迫した雰囲気にキョロキョロと辺りを見回しながらキョトンとした表情を浮かべている。
 シローは男性の声を聞き、姿を見て、心臓の鼓動が早まる。
 悪夢の戦場で出会った人。
 負の感情の支配からから救ってくれた恩人。
 負傷と、強力な薬の為に明日を断たれても、歩みを止めなかった戦士。
 全てが忘れ得ぬ記憶。
 動きの止まったシローに、男性はハッキリとした声をかける。
「お前は……シローか?シロー・アマダなのか?」

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