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08MS-SEED_28_第03話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 21:13:43

 砂塵が渡る荒野を3体の巨人が走っていた。
 陽光が特徴的な頭部に当たって煌めく。ザフトの量産型MS、ジンだ。
 先行する一機はシンプルな機構の機関砲を、やや下がって後方を走る二機はそれぞれに大型のバズーカを手にしている。3機とも、本来ジンは持たないはずの盾を装備していた。
「ジュリ、マユラ! 遅れてるよ!」
 アサギ・コードウェルは僚機にそう声を掛けた。
 陣形はアサギ機を先頭に置きジュリ機・マユラ機で後方と側面をフォローするワントップ。
『わかってるって』
『前方から高熱源体接近! 数は10!』
「右に回避!」
 三機は右へステップを踏み方向転換を掛けるが。
『ダメ! ついてくる!』
「二人は盾を構えて回避行動!」
 指示を出したアサギは独り更に先行、高熱源体、すなわちミサイルに対し弾幕を張りつつ前進を選択した。1発、2発と叩き落されるミサイル。
(やれる!)
 そうアサギが判断した瞬間彼女らの機体は頭部や武装を吹き飛ばされた。
 最高速で移動していたためひとたまりも無い。もんどりうって転倒する。
「きゃああっ!」
 そこへ残りのミサイルが降り注ぎ、三機は木っ端微塵に爆砕した。
『コードウェル小隊の全機撃墜を確認。ミッション失敗。野戦パターンBを終了します。
馬場小隊は用意してください』

「……生きてるー?」
『死んでます』
『鞭打ちになりそう……』
「ジュリ、あんたちゃんとシートベルトした?」
 着弾や転倒によるショックさえ再現するシミュレータは一部に受けが悪かった。むろん軽減されてはいるのだが慰めになるものでもない。先程のように全力移動時に転倒すればシートベルトの痕が痣になるほどの衝撃を受けるのだ。テストパイロットたちでこの洗礼を浴びなかった者は1人として居ない。
『うちの開発陣ってどう考えても遊びすぎだよね。
単なるシミュレータにどれだけ手間かけてるんだか』
『このシミュレータ、コクピットのテストも兼ねてるって話だから……』
『コードウェル組、話は後にしてまず出ろ。後がつっかえてんだぞ!』
 シートにもたれてお喋りを開始した3人に係員が声を掛けた。はーい、と声だけは揃えて返事をし、完全密閉型のシミュレータから身体を引き剥がすようにして外へ出ると空軍の階級章を付けた3人組の男が既に待っている。お疲れ、仇は取ってやるぞ、などといったいつものやり取りの後シミュレータに入り彼らは訓練を開始した。
 訓練を行うパイロットは無論彼らだけではない。
 テストパイロットが口を揃えて『無駄に凝った』と言うシミュレーションの様子はリアルタイムで大スクリーンやコンピュータルームにて見守る開発陣の端末に映し出される。
 その前で、これも試製であるMS用パイロットスーツに身を包んだ20人ほどが真剣な表情で見ながら戦闘時の回避機動やシミュレーションパターンの攻略方法について時に静かに時に喧喧諤諤の議論を行うなどしていた。
 それぞれMSパイロットとなるべくオーブ国防軍の三軍から選出されたテストパイロットたちである。もっとも、アサギたち3人は元々モルゲンレーテにテストパイロットとして出向していた流れでの参加なので彼らとは経緯が異なるのだが。
 モルゲンレーテ本社地下汎用シミュレーションルームは今、異様な熱気に満ち溢れていた。

 アサギらにしてみればこの2ヶ月ほどでまるで世界が変わったように思えてならない。
 当初モルゲンレーテ本社内ではこの計画について黒い噂が流れていた。本社開発の中核スタッフの一角にセイラン家の嫡子が就く事が発表されたためだ。
 現五大氏族に次ぐ家柄とはいえ嫡子本人は未だ学生の身であり、一度はウズミ本人が提携の話を蹴ったMSの開発計画である。セイラン家を快く思わない者でなくともオーブ国民なら誰もが胡散臭く思うのは当然といえる。
 しかしながらその噂はスカンジナビアから帰国したユウナの『成果』によって覆った。
 ナチュラルによってMSが動かせるOS。
 パイロットの戦闘経験を学習し平均化して最適な動作を割り出しフィードバックして機能が進化していくという触れ込みこそ眉唾とされたが、現在ではそれも頷かざるを得なくなっている。事実として総訓練時間が30時間を越えた辺りから当初に比べ確かに動作が滑らかになったという意見がちらほらと出始めていた。
 何より関係者のほとんどが懐疑的な気持ちで迎えたデモンストレーションにおいて、OSをインストールして調整を施された鹵獲ジンがシロー・アマダというれっきとしたナチュラルの手により軽快に機動してみせた事が決め手であった。
 この時、つまりCE70年10月時点においてザフト以外でMSを運用している例は公式には無く、ナチュラルにMSを扱う事はできないという常識が覆った歴史的瞬間でもあったからオーブ軍関係者の驚きはいかばかりか想像に難くない。
 事態は連合首長国という政治体制ならではの速度で動いた。結果、ユウナを始めとするセイラン家は計画の重要なポストを誰はばかることなく占めることに成功する。
 機体の試作はこれまでどおりヘリオポリスで行われる事。
 並行してソフトウェアの開発とパイロットの育成をオーブ本国で行う事。
 そして3種の試作機完成後はデータを元に量産化が行われる事が確認され、MS開発計画は多少の問題や各派閥の思惑を孕みつつも着実に進んでいた。

 訓練を終えたアサギたちは休憩を取っていた。
「で、結局私たちを撃破したのはなんだったわけ?」
「長距離ミサイルによる飽和攻撃と遠距離からのリニアガン・タンクによる狙撃」
「うわー何それMSの意味無いじゃない」
「結局支援の無いMSって的ってことなのかなあ……じゃ、これどうしよ?」
「どこ?」
「リストの37ページ。今回の失敗原因」
「装備選択の失敗、かな。あと回避機動に再考の余地ありってあたり?」
 シミュレータによる訓練とそれに並行して行われる問題箇所の洗い出しが彼女らの仕事だ。分厚いチェックリストへの記入内容は即座に開発部のエリカ・シモンズ主任に回され、量子コンピュータによる検討に掛けられた後不明な点や不審な点があればテストパイロットたちも交えて会議が持たれる。
 彼女らが居るのはテストパイロットのための控え室兼休憩室だ。シミュレータを終えたテストパイロットたちの休憩や仮眠のために割り当てられた場所で機密保持のため社員と言えどもこことシミュレーションルームに出入りすることは原則禁じられていた。部屋の一角には壁で仕切りを作って簡易仮眠室が設けられている。
 チェックシートの内容と訓練記録がダイレクトに自分たちが乗る機体に反映されるとあって内容の記入について喧々諤々の議論が交わされ、時にはチーム内ですら意見の相違からつかみ合いになる事も珍しくない。
 その中では、彼女らは割合平穏にやっている方だと自負している。

「すまない! 馬場三尉は居るか?」
 控え室のドアが開き、オーブ陸軍の常装をラフに着こなした東洋系の男が放った声にアサギたちの近くでリストを手に同僚と話していた男が手を挙げた。
「ここです、アマダ教官」
「シモンズ主任が上申の内容について話が聞きたいと言っている。今大丈夫か?」
「はっ、問題ありません」
 軍人らしいきびきびとした応答の後、チェックリストを置いて控え室を出る馬場の後を見送ったシロー・アマダが自分のリストを手に席に着く間部屋の喧騒が幾分静かになったのは故の無い事ではない。
 オーブ国防陸軍シロー・アマダ三尉。ただしMS戦技・戦術教官としての任に就くにあたり待遇は一尉に準じている。同格である馬場が上官への礼を取るのはこのためだ。
 彼は、オーブ本国の人間にとって何から何まで謎の男であった。
 この場に居るのはオーブ国防軍の生え抜きである。多くはサハク派に属するがアサギや馬場らのようにアスハ派の軍人も少なくない。その誰もが、彼の事を知らなかった。
 公表されている経歴では世界樹戦役により故郷を失い難民となり、その後傭兵として各地を転戦した後スカンジナビアにて事故で重傷を負いユウナ・ロマ・セイランの庇護を受けて妻とともにオーブに亡命したとされている。
 不審に思った一部軍関係者が調べたところスカンジナビア支社近くの病院に長期入院とリハビリを受けた記録が残っており全くの虚偽ではないと判明してはいる。残念ながらそれ以上の調査は不可能と判断され打ち切られた。エイプリルフールクライシスによる世界の混乱がこれ以上の調査を拒んだのだ。
 とはいえ、謎が尽きるわけでもない。シロー・アマダは卓越したとは言い難いものの経験に裏打ちされた確かなMS操作技術と戦闘技術、そして未だ誰も構築しえないはずの対MS戦術を知り尽くしていた。その知識が陸戦に限定されるとはいえ、異質さがぬぐえるものではない。
 そして当人と実際に話してみれば気さくな人物でありまた細君を非常に大切にする愛妻家でもあり、教官としては熱心であり、二心がある物とは到底思えない。
 妙な陰の無いことがかえってその奇妙さを際立たせ、テストパイロットたちは時折奇妙な居心地の悪さを感じる毎日を過ごしていた。

 数日ぶりにセイランの本邸に帰宅したユウナはスカンジナビア支社から帰郷という名目で訪れた社員の報告に、少々落胆の色を隠せないでいた。
「要するにM系列技術の再現に関しては年単位の期間が必要ってことですか」
 Mとはミノフスキー物理学の隠語であり、また同時に核融合炉のことも指す。
「平たく言えばそうなります。粒子の検出の目途はついたという報告もありますが」
「なかなか上手くはいかないか……分かりました。ご苦労さまです。
これで向こうのメンバーに御土産でも買ってあげてください」
 財布から適当に紙幣を抜いて社員の手に押し込む。
「よろしいのですか?」
「車代ですよ車代。じゃ、またよろしく」
「分かりました。ありがたく戴きます」
 互いに気心の知れた相手だけにそこに遠慮は無い。
 上司と部下とはいえ、スカンジナビアではともに限られた人員の中で動いた仲でもある。
 以前のユウナであれば、ただの部下を玄関まで送り出して見せるような事はしなかったはずだ。支社長を始めとして優秀なブレーンに短期間ながら接した彼は意識して人を使うことを少しずつ学びつつあった。
 しかしいかに中身が成長しようと彼も人の子。
 若いとはいえ疲労が溜まっていれば注意力が散漫になっても仕方無い。部下を見送り、今度こそ寝ようと身を翻しかけたところで横合いから突き飛ばされ玄関先でつんのめる羽目になった。
「と、と……うわぁっ!?」
 堪えきれずに結局転ぶ。
 したたかに膝を打って顔をしかめた彼の視界に白いパンツスーツの足が飛び込んできた。
「な、何が……あ?」
「あ? じゃない!」
 理不尽に怒鳴りつけられる。その声で、ユウナは相手の正体にようやく気付いた。
 痛みをこらえて立ち上がるとなんとか笑いを取り繕う。
「や、やあ久しぶり、カガリ。相変わらず元気そうで何よりだよ」
 ほぼ半年ぶりに会う幼馴染にして婚約者であるはずのカガリ・ユラ・アスハは不機嫌な顔をまったく隠そうともせず、腕組みをしてユウナを睨んでいた。

「それにしても乱暴だね。久しぶりに会った幼馴染を突き飛ばすかいふつう?」
「少し勢い余っただけじゃないか、いつまでも文句を言うな!」
 ユウナが年下の幼馴染のいつもの理不尽さに苦笑する。そんな彼の笑みを見て笑われたと思ったか、カガリは殊更胸をそらしてユウナを睨んだ。
「私のように鍛えてないからそうなるんだ。なんだったらトレーニングに付き合うか?」
「遠慮しておくよ。コーディネイター相手に腕相撲して勝つ君に付き合ってたら僕なんか死んじゃうね、きっと」
「人を化け物か何かのように言うな!」
「いや事実だし」
 カガリと言葉のキャッチボールをしながら、ユウナは内心軽い郷愁にかられていた。
 思えばこのようなやり取りをしたのはいつ以来だったろうか。立場の違いと留学、そして秘密裡に決められた婚約。それらを心の理由にして遠ざかっていた時間がいつのまにかかなり長くなっていた事に気付き、ユウナは顔には出さずに再び苦笑した。
「それで、今日は何の御用ですかな姫様は」
 不毛な言い争いに終止符を打つために多少おどけて言う。カガリは先ほどまでの雰囲気を一変させてやけに深刻な表情をした。
「今日はユウナに聞きたいことがあって来た」
「何かな。お役に立てればいいけど」
「お前じゃないと分からないことだ」
 ユウナは何故か急に嫌な予感を覚えた。何か、非常に既視感を感じる展開であるにも関わらず思い出せない。彼が何とか思い出そうと記憶を探り終える前に、カガリは致命的な言葉を口にしていた。
「お父様が連合と手を組んでMSを開発してるっていうのは本当か知りたいんだ。
ユウナ、力を貸してくれ!」
 カガリの真剣きわまりない表情を見ながら、ようやくユウナは思い出していた。
 彼女が深刻か又は真剣な表情で頼みごとをして来る時、そういえば碌な目にあった試しがなかったっけ、と。

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