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08MS-SEED_28_第07話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 21:17:59

(くっ……何故侵入が気付かれたんだ!?)
 ヘリオポリスコロニーへの侵入をまんまと果たし、機体強奪を目的とする2個の班と施設破壊と陽動を目的とする1班に分かれて行動を開始したザフトの軍人たちだったがアスラン・ザラ率いる強奪第2班は格納庫近辺まで来た所で思わぬ抵抗に遭っていた。
「どうするアスラン! これじゃ近づけないぜ!」
 敵はどうやって侵入を察知したのか、バリケードを作り上げて万全の態勢で待ち構えていたのだ。バリケードといっても金属板を張り銃眼まで備えたちょっとしたトーチカのようなもので、少しでも向こうを覗こうものなら容赦無く銃撃が降り注ぐ。
 いかなコーディネイターといえども銃弾を受けて生きてはいられない。現に不用意に角を曲がろうとした仲間が銃撃を受け1人死亡していた。
「くっ!」
 ラスティ・マッケンジーの急かすような声を受けたアスランだが何も思いつく事ができず、うめく事しかできない自分に歯噛みする他無い。
 元々が隠密行動を前提とする部隊である。重火器は数えるほどしかなく、それらは潜入に使用した小型艇の防衛へ振り分けられ、強奪班である彼らの手にあるのは爆薬と小火器、手榴弾くらいのものだ。またアスランらが隠れる角からは低重力下でコーディネイターとはいえスナップのみで届く距離ではなかった。
 また彼らにとっては不運な事に相手は明らかに手慣れていた。彼らは無論知らない事だが、この場を守っていたのはマリュー・ラミアス大尉であった。彼女の銃の腕前は平均的な連合軍人の水準をはるかに上回るのだ。
 援護の元決死の覚悟で手榴弾を手に姿を晒した仲間は彼女の正確な狙撃を受けて既に戦死していた。
「くそ、ナチュラルめ! よくも仲間を!」
 吐き捨ててバリケードの様子を窺っていたアスランだが、銃眼から何かが発射されるのを見て顔色を変えた。コーディネイターの中でも優れているアスランの動体視力は、それが何であるか正確に捉えていたのだ。
「逃げろ――!」
 ニコルとラスティ、2人を突き倒すようにして抱えて飛んだその背後で手榴弾が炸裂したのはほんの1秒後の事だった。

「何ィ!? それでアスランたちはどうなった!」
 強奪班第1班の班長であるイザーク・ジュールは通信に対し反射的に叫び返した。
『アスランは重傷、ニコルラスティ両名も軽傷! 他に戦死2、重傷1!
第2班は完全に失敗した! 繰り返す、第2班は失敗だ!』
『おいおい、マジかよ。ナチュラル相手に何やってんだあいつら?』
 あまりの内容に愕然としていたイザークはディアッカ・エルスマンが呆れたように口を挟んで来たその言葉で我に返った。
「ふん、知るものか!」
『ま、これで手柄は俺とお前の2人で独り占め、ってことだな』
 飄々と告げるディアッカの言葉を頷いて確認するイザーク。彼らはMSの強奪に成功したのだ。
 イザークらの班は相手がトーチカもどきで防備を固めているとみるや小型艇に取って返し、小型艇の防衛のために持ち込まれていた機銃を持ってこさせて強引に突破した。
 機材と金属板を組み合わせて整備員たちが急造したそれはそれなりに堅牢であったものの、さすがに重火器による銃撃に耐えられるほどの強度は持ち得ず防衛に付いていた整備員諸共粉砕されイザークらの侵入を許す事になった。
 そして短いが激烈な戦闘の中イザークとディアッカが隙を突いてMS2機の奪取に成功したのだ。もっとも、彼らの班もまた彼ら以外の人員を戦傷という形で失うこととなった。戦死者が居ないのが不幸中の幸いではある。
「どうやらこいつの名はブリッツというらしいな。行くぞディアッカ!」
 機体のOSに違和感を感じつつ起動を終えたイザークは同僚へ声を掛けた。
『オゥケイ、わかってるって! おっと』
 ディアッカは機体を起動させながら、格納庫に横たわる残る1体のMSのコクピットへ入り込もうとする整備員を見逃してはいなかった。立ち上がるついでに蝿でも振り払うかのようにして払い除ける。
 巨人のようなMSの腕に殴打されてはたまらない。コクピットハッチを開ける事に夢中で周囲の注意を怠った不運な整備員は為すすべなく吹き飛ばされ壁に血の花を咲かせる事となった。
『グゥレイト! ついでにこうしてやるぜ!』
 ディアッカの機体――X303イージスはその頭部を横たわる機体へと向けた。意図を理解したのか、整備員たちが必死に逃げ始める。その様子をおかしげに笑いながらディアッカは引鉄を引いた。

 このように、襲撃を受けた側であるヘリオポリスだが襲撃自体は察知していたものの全ての準備が滞りなく行われたわけではなかった。
 バルケンバーク大佐に上申を無視された形となったマリュー・ラミアスは保安担当という有って無いような権限と副長という立場とを最大限に活用して整備員に銃器を携行させるとともに、侵入経路の洗い出しを行うなど出来る限りの対策を取り、またシローもコロニーの警備隊へ話を通そうとした。
 同じ軍内の事でもありマリューはそれほど問題は無く進んだが、シローの方はそう上手く話が運ばなかった。
 コロニー警備の責任者である一尉がサハク派の軍人であり空尉であった事がヘリオポリスの住民にとって最大の不幸であったと、誰が予想する事ができるだろうか。
 生粋のオーブ軍人である彼から見ればシローもセイランに取り入って軍人にしてもらった新参に過ぎない。主家と仰ぐサハクの下に付くセイラン派、それも一等陸尉である。
 そんな相手の申し出によって軽挙妄動し、後日問題になっては敵わない。
 主に身の保身からそう考えた男は何かあった時はシローが責任を取るという言質を取って以降は半ば放置した。
 図らずもオーブという国の問題点が露呈される形となったのである。この国は軍内の階級に対してどの派閥に属しているかがダイレクトに影響する。オーブが島国である以上海空軍の権能が高く相対的に陸軍のそれは低くなる。勢い海空の上級幹部はサハク派が大きく占めることになり、アスハ派の軍人は陸軍か海空軍の下部に留まる。
 アスハ派軍人であるレドニル・キサカが陸軍所属なのもこういった事情によるものだ。
 そして、肝心のシローは一等陸尉、陸軍であった。これはウナトがサハク派の上級軍人たちによる反発を考慮しての一策だったのだがここに来て完全に裏目に出る形となった。この後連合の輸送艦が寄港するなどしてシローの報告など忘却の彼方に追いやっていた頃、秘匿ドックの様子がおかしい事に気付いた派遣技術者たちの報告から秘匿ドックの人員のコロニー脱出が明らかになり、改めてシローと技術者側の連名で警戒の呼びかけを行おうとしたがその頃にはザフトの戦闘艦の接近でコロニー側が混乱しており、これに外殻ドックの爆発と連合側最上位であるバルケンバーク大佐の死亡が拍車を掛け、結果としてマリューとシローの奮闘にも関わらずコロニー側の迎撃態勢を整えるための貴重な時間は致命的に失われてしまったのだった。
 爆発を契機としてザフト艦からMSが出撃するに至り、事態は加速度的に混迷の度合いを増し始めていた。

「やってくれたな、畜生!」
 コンソールを猛烈な勢いで叩きながらディアッカは吐き捨てるように呟いた。
『まだか、ディアッカ!?』
「言われなくても今やってる!」
 回線から響くイザークの声を煩わしく思って叫び返す。と、小さな爆発音が響いて機体が僅かに揺れた。
 現在、イザークとディアッカはコロニー内へと出るMS用の通路を進んでいる。
 いや、正確に言えば『進んでいる』のはイザーク駆るブリッツだけで、ディアッカのイージスはブリッツに背負われて……いや、引きずられていた。傍から見ただけでイージスの下半身が駆動していないことが分かる。
 いかに連合とオーブの技術の粋を凝らした最新鋭機といえどもPS装甲を装備したイージスは重い。そのため、2機は鈍重な移動を強いられていた。強奪任務であるため、MSを捨てていく事もできない。
 先ほどからイザークをいらつかせているのは、時折現れては歩兵用の携行型ロケットランチャーで彼らを攻撃してくる兵士たちであった。
 本来であれば、例えPS装甲に通電されていないとはいえMSの装甲相手に歩兵の装備では相手にならない。しかしそれは相手も承知しているのか、先ほどから整備用ハッチ等から神出鬼没に現れる兵士たちは執拗に頭部を狙って攻撃して来ていた。頭部にはセンサーの他に対空兵装であるイーゲルシュテルンがあり、また装甲そのものも他の部位に比べれば薄い。メインセンサーそのものに直撃を食らえばそれが例え歩兵用の装備であっても破壊、ないしは故障する恐れがある。
 今のところはコーディネイターならではの反応のよさで防ぐ事に成功しているがこの状況はイザークとディアッカの精神をやすりで削るかのようにすり減らすには充分すぎた。
『くそっこのキョシヌケがあーっ!』
 ヒートアップするイザークだったが、今はどうしようもない。彼らの機体は現在、事実上兵装が使えないのだ。
 時間はわずかに遡る。
 イージスのイーゲルシュテルンで長大な砲を持つMSを破壊しようとしたディアッカであったが、直後射線が次第に逸れていく事で異変に気付いた。イージスの視界が傾いているのだ。機体バランスを取ろうとした彼はようやく下半身が操作を受け付けない事に気付いた。
「何ィ!?」
 狼狽の叫びを上げるまま、彼の乗るイージスは膝立ちの姿勢から横転することとなった。
 当初同僚の失態に呆れた声を上げたイザークであったが、改めて機体を調べて最初血の気が引き、次に怒りで赤くなった。
 自分たちがトラップに引っかかった事を理解したのである。
 イザーク自身が機体を立ち上げる際に感じた違和感。それはこれだったのである。
 これは最悪の事態を見越したシローと技術者によって仕掛けられた罠であった。一定の手順を取らずにFCSを起動して射撃すると、オートバランサーの機能の大半がダウンするようになっていたのだ。
 幸いにも両腕の自由は利いたため、先述したような情けない格好での移動となり現在に至る。
『どうやら上手く行ったようですね』
「貴方の協力のおかげですよ、アスカ主任」
 シローはトラップに協力してくれた技術者へそう声を掛け労った。
 わずかな時間で仕掛ける事に成功したのは、彼を初めとするコーディネイターの協力があったればこそだった。彼らは中立のコロニーを攻撃するという暴挙を犯したザフトへ一矢報いたのである。
『しかし彼らもコーディネイターです。
ザフトの軍人となれば、プログラミングは修めていて不思議ではありません。そう長くは持ちませんよ』
「――分かっています」
 シローは息を吸い、吐いた。目を瞑る。また戦場に帰って来た。還って来て、しまった。
 だが、護らなければならない。今度こそ。様々な思いを込め、彼は目を開いた。
「出ます。アスカさんはシェルターへ!」
『分かりました。貴方にハウメアのご加護があらんことを! アマダ一尉が出るぞ! 退避ーっ!』

「ちぃっ!」
 舌打ちをもらしつつミゲル・アイマンは自機にロールを打たせた。並みの人間であれば意識が吹き飛びかねないGもコーディネイターである彼ならば耐えられる。
 しかし彼よりわずかに遅れて反応した僚機は間に合わなかった。
『う、うわぁああっ!』
 回線を一瞬悲鳴と雑音が占領し、僅かな時間を置いてセンサーが光爆を感知する。ジンのコンピュータはパイロットの視神経を守るため一瞬だけモニターの光度を下げて処理した。
「マシューが……クソッ!」
 怒りが精神を満たしそうになる裏で冷静な部分が2人目と呟く。流れるように銃口をこちらへと滑らせる敵の射線から最大加速で逃げるミゲル。
 と、敵機が彼を追うのを止め、鮮やかに身を翻した。推進器の噴射は最小。主に機体の重心移動によりその場でのターンを行う。無重力機動のお手本のような動きに、ミゲルは今更ながら舌を巻きながら通信に叫んだ。
「突っ込むなオロール! その距離からも反応するぞ!」
 同時に自機に急制動をかける。傍から見れば突き飛ばされるように軌道を変えたミゲルのジンの傍を火線が掠めすぎていった。メビウスゼロのガンバレルによるオールレンジ攻撃である。
「ちぃいっ、厄介な!」
 IFFを確認する。今のでやられた味方が居ない事に一瞬安堵するミゲルだがモニターにヘリオポリスが映り本来の目的を思い出して歯噛みした。
(新米どもを迎えに行ってやらなきゃならんというのに……!!)
 くろぐろとした怒りが心に降り積もるのを感じながら一方で冷静に周囲の状況を確認。
 残る味方は自分を含めて6。敵も6機。それぞれ2機ずつ味方を失っている計算になる。
 額面上は、だ。
 こちらのジン2機に対し、相手が失ったのはメビウスとミストラルがそれぞれ1機ずつだけだという事実に彼も含めたザフト側パイロットの頭は沸騰寸前であった。
(それもこれも、奴のせいか!)
 奴。即ち、ヘリオポリスから出撃してきた青色のジンの事だ。
 青いジンがその高機動性でもってこちらをかき回し、陣形を乱す。連携が取れなくなった所をメビウスのレールガンやミストラルのミサイルによる集中砲火で更なる分断を強要し、メビウスゼロのガンバレルでとどめを刺す。そういう戦い方を、相手は既に構築してしまっていた。
 初手を誤ったのはミゲルたちである。
 敵側の鹵獲ジンの加速性能を自軍の物と同程度に考え、自分も含めた8機のジンにより半包囲を敷いて殲滅しようと散開したところ急加速して接近して来た敵機への対処が遅れた。散開して包囲というのは完成してこそ効果を現すものであり、突出した敵MSとそれを援護する敵MA、そして接近され孤立した味方機、という状況だけを切り取れば各個撃破の隙を与えたにすぎなくなるのだ。
 それに気付きミゲルらがフォローに向かおうとした時には時既に遅く敵の青いジンの射撃で追い立てられパニックに陥ったリウ機は敵ジンとミストラルの十字砲火の前にその身を晒し被弾したところを青いジンに撃破されることになった。
 相手を見誤っていた事に気付いたミゲルたちではあるが、彼らの不幸はそれでは終わらなかった。連合の輸送艦から出撃したメビウスの編隊がその速力を活かし、連携を取ろうとした彼らを急襲したのである。
 既に味方を撃墜された彼らである。さすがにそれは辛くもかわしたものの、その後徹底した一撃離脱戦法を取るメビウスやガンバレルを駆使するメビウスゼロ、通常のジンでは有り得ない高機動性を誇る青いジン、要所要所へ砲火を集中させるミストラル編隊に散々に引っ掻き回され、現在に至るまで主導権を取り戻せずにいる。
 もし今乗っているのが愛機ならば。ミゲルの頭をそれがちらりと掠めた。むざむざ、味方を失うことはなかったかもしれない。
 高機動性を生かした一撃離脱戦術。それこそ彼が『黄昏の魔弾』と呼ばれる理由。
 その彼のお株を取るような、いや味方との連携を考えればその上を行く。作戦前の話が確かならばそれがナチュラルのパイロットだという。思考を断ち切って、ミゲルは叫んだ。
「こちらミゲル! 青いのは俺が抑える、お前らは新米どもを迎えに行け!」
 返事を待たずに、彼は戦場を駆け抜ける青のジンへ突撃した。
「認めてやるぜ、お前が腕利きだってよ……行くぜ、青いの!」

 敵の中で際立った動きを見せていた機体がこちらへ向かってきたのを見て取り、アイナは戦いが新たなステップを迎えたことを知った。あれは明らかにあちらのエース級の腕の持ち主でありそれが向かってきたということは確実に自分を抑えに来た、ということだ。
 今状況は拮抗しているように見えるが、それはアイナが戦場を撹乱しているからである。彼女らが宇宙に上がるにあたりエリカ・シモンズが用意してくれた機体はそれを可能にする機動力を持っていた。
 エリカがアイナの話に着想を得て改造したジンは脚部を着艦用兼AMBAC用の支持肢と割り切って機構を簡略化しスラスターを増設したり増槽を付けるなどして戦闘継続時間や機動力の強化を図った機体である。完全に宇宙用の機体であり、1G環境下における運用は最初から考慮されていない。この機体の運用データが後に完成し配備されるであろう宇宙用の量産機に活かされることになっていたが、皮肉にも戦闘を避けてテストを行っていたヘリオポリスで実戦を経験する事になったのだ。
 この機体の定期テスト直前に敵が来たのは不幸中の幸いといえるだろう。不穏な事態を察知して以降は常に実弾と推進剤が備えられていたが、パイロットの迅速な出撃に代えられるものではない。
 もう一つ幸いだったのは爆破以前に警備担当の空尉が『シローが責任を取る』と言質を取っていたことである。件の責任者はそれを思い出し、防衛の指揮権をシローに委譲したのだ。これにより、シローは最早遅きに失しつつあったとはいえ、コロニー側の戦力を指揮できる立場に立つ事が出来た。
 そのシローは今、コロニー内で強奪された2機のG兵器の再奪取に向かったはずである。
 なろうことなら、今すぐにシローの元へ行きたい。その思いを押し殺し、アイナは敵……ミゲルのジンを見据えた。
 今自分が拘束されては天秤が引っ繰り返ってしまう。それだけは避けなければならない。通信を開く。
「フラガ大尉、皆さん!」
 回避パターンを読んで射撃。回避される。
『聞こえてるぜお嬢さん!』
 シローの要請で一時的に指揮下に入ったムウ・ラ・フラガを初めとするMAパイロットたちの、苦境を感じさせない声にわずかに勇気付けられる。
「ミストラル隊はこれまでどおりパターン4。フラガ大尉、あのジンを抑えて下さい。
その間に私が他のMSを撃破します。……出来ますか?」
『OK、美人に言われちゃやるしかないでしょ! 行くぞ野郎ども!』
 応、と答える声が続く。
 加速性能と機動力ではジンはアイナの機体に敵わない。アイナは、フラガにミゲルを抑えさせその間に敵を減らす作戦に出た。彼女はこのミゲルの機体こそが敵の要である事を看破していたのだ。
「アイナ・サハリン・アマダ! 行きます!」
 ミゲルの突撃軌道を避けるようにアイナの機体は加速を開始した。

「状況は悪いな? アデス」
「控えめな表現ですな」
 笑みすら含んだラウ・ル・クルーゼの問いに、ヴェサリウス艦長 フレデリック・アデスは短く答えた。
 さしもの彼も声にわずかな不快が滲むのを抑える事に失敗しているが、元よりクルーゼはそれを気にしてくれるような人間ではない。
 ザフトの作戦はごく単純なものであった。
 第一段階として戦闘艦の近付く反対側から小型艇をデブリに偽装して接近、潜入。
 戦闘艦は交信範囲ぎりぎりで待機して注意を引き付ける。
 陽動がコロニーを爆破する事で第二段階に移行、これに応じてジンを出撃させ防衛戦力を撃破しコロニーを一気に制圧。
 脱出して来た潜入班を回収後ドックを壊滅させ、離脱する。
 かなり大雑把といえば大雑把な作戦ではあるが、クルーゼ隊の誰もがそれほどの障害は無いと考えていた。別に故の無い事ではない。クルーゼ隊が現在所有する戦力を考えれば当然の事といえる。
 クルーゼ隊が現在所有するMSは合計10機。内訳はクルーゼの愛機シグー、ジンが8機、これに偵察型ジン。これは連合軍主力MAメビウス30機も優越する戦力であり、例え情報どおりヘリオポリスに鹵獲ジンが2機あったところで問題にはならないはずだった。
(MS強奪目的であるのに搭載数と強奪予定の機体数が合わないのはこれが情報をいち早く得たクルーゼの独断で立案された作戦のためである)
 クルーゼ自身は全体の指揮を取るために艦に留まったとはいえ『黄昏の魔弾』ことミゲル・アイマンがMS隊を率いて出撃しており、また潜入班には白兵戦の訓練で優秀な成績を修めた赤服を中核として白兵戦闘の経験を持つ一般兵を当てた。
 気紛れともいえるほど急遽立てられた作戦としては万全の態勢といえたが、しかし蓋を開けてみれば、第一段階の陽動班による爆破までは上手く推移したものの強奪に向かった12人のうち赤服を含む10人が死傷、辛うじて強奪に成功したイザークディアッカの両名はトラップに引っ掛かり迅速な脱出は不可能。
 そしてコロニー側の防衛戦力との戦闘は当初の予想を大きく外れ、苦戦を強いられている。
「まさか、アイマンが手玉に取られるとは」
 実直な軍人を絵に描いたようなアデスですら動揺を隠せない。それほど、目前で展開される戦闘は彼らの常識に逆行していた。数の上では同等だが問題にならないはずの相手なのだ。
 アデスの言葉に答えるかのように、クルーゼは席を離れた。その意味が分からないアデスではない。
「シグーで出る。艦は任せたぞ、アデス」
「はっ!」
 アイナが感じたように、戦いは新しい局面を迎えようとしていた。

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