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08MS-SEED_30_第03話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:26:52

第三話 サンタ・アマダ編

瑠璃色を溶かした宇宙がアクアリウムに拡がる。
サンタはクラスの飼育係だ。アクアリウムに目をやるとメダカが楽しそうに泳いでいる。餌を入れると魚達は待ってましたとばかりに、口を大きく開けてパクパクと食べ始めた。
飼育係になったきっかけは、以前国語の授業で習った「スイミー」と云うお話だった。小さな魚が集まって知恵を絞って大きな魚に立ち向かうと云う内容にワクワクした事をサンタは覚えている。
――もしかして、僕は前世はお魚だったのかも知れない。
クスクス笑いながらサンタはアクアリウムを見つめている。週に一回は綺麗な水に交換し、アクアリウムをピカピカに洗う。
友達からは大変じゃないかと言われるけれど、サンタは笑って首を左右に振る。楽しいから全然へいちゃらだよ、と。
父ちゃんからは元気が無いと心配される事はあるけれど、そんな事は無い。外で遊ぶよりも、こうやって魚の世話をしたり、母ちゃんの包丁の音を聞きながら本を読む事が好きなだけだ。
そして、スイミング。
サンタは小学校に入ったばかりの頃に父ちゃんや母ちゃんに頼み込んで始めた。
打ち明けた時に父ちゃんは、家は母ちゃんが大蔵省だからと言って取り合っはくれなかったが、サンタが積極的にやりたい事を見つけた事を喜んでくれた。
クロールや平泳ぎはお手の物。背泳ぎはまあまあだけれど、バタフライは難しい。
サンタは水の中にいると、何か優しいものに包まれている様に感じる。ある種の懐かしさとでも云うのだろうか、だからサンタは前世がお魚だったのではないかと思うのだ。
サンタはナチュラルなのでコーディネーターの子達のように早くは泳げない。だからこそ、気持ちだけは負けたくないと思うのだ。
チャイムの音が聴こえた。サンタはアクアリウムを人差し指でとんとんと優しく叩き、自分の席へと戻った。
今日の国語の授業は「ごんぎつね」だった。先生の読むのを聞いている内にサンタは泣いてしまった。ごんが可哀想で可哀想で仕方なくて、声を堪えたけれどポロポロと涙を溢してしまった。
先生は見かねてサンタの頭を優しく頭を撫でてくれたけれど、休み時間に友達にからかわれてしまった。
「お前、男の癖に泣いているんじゃねえよ。それともナチュラルだからか?」
コーディネーターのテツヤ君は背がクラスで一番高くてがっちりとしている。テツヤ君はいつもちびで痩せっぽちのサンタをからかって来る。
サンタのクラスではコーディネーターもナチュラルも皆仲が良いのだけれど、テツヤ君はクラスで一番腕っ節が強いからか、ナチュラルを嘲る事がある。
我慢だ、我慢。サンタはうつ向きながらも下唇をきつく噛み締めた。恥ずかしくて、悔しくて、ギュッと握った握り拳をペンギンのようにわなわなと震わせる。
「お前の親父は足無しだもんな。子供は泣き虫弱虫意気地無しのもやしっ子にきまってら。足無しの子は意気地無し、足無しの子は意気地無し~。」
調子っ外れの節で聞こえた言葉に、サンタの顔は真っ赤に染まった。――父ちゃんは。父ちゃんは。
「うわあああああっ!」
サンタの叫びに教室中がびっくりして視線を向ける。
サンタがテツヤ君にかないっこ無いのは解っている。けれど、父ちゃんを馬鹿にするのは許せない。
父ちゃんはスイミングの級が上がった時ににっこりと笑って誉めてくれる。サンタは読者感想文で賞状を貰った時は偉いぞって誉めてくれた。
大好きな父ちゃんを馬鹿にするのは絶対に許せない。
――せめてげんこつ一発でも。
サンタは握り締めた拳を高々と振り上げた。

ヨツバ編

ヨツバは銀色のクレヨンが大好きだ。きらきらと光っていてとても綺麗。ふわふわ雲さんを描いているといつの間にか画用紙からはみだしてしまった。
失敗失敗。ヒロエ先生にお願いして雑巾を貸して貰うと、ヨツバははみだした部分をゴシゴシ擦って綺麗に拭いた。
ヨツバはお絵書きの時間が大好きだ。砂遊びも、お昼御飯も、ヒロエ先生も大好きだ。勿論父ちゃんも母ちゃんも、兄ちゃんも姉ちゃんも大大大好きだ。
今度は長い道を描いてみた。これは父ちゃん道路。野原を越えて海に繋がる道を通る度に、父ちゃんは誇らしげに言う。この道は父ちゃんが作ったんだぞって。
ヨツバは父ちゃん道路が大好きだ。窓を開けてドライブしていると気持良い。ちょっぴり潮の香りがして、何となくわくわくしてくる。
お次に画用紙に書くのは花だ。チューリップはヨツバの帽子に描いてみよう。うーん、コスモスの方が似合うかな。
父ちゃんと母ちゃんははタンポポを枕にお昼寝している。カズ姉やジロー兄、サン兄は仲良く手を繋いでいて――ほら出来た。
エッヘンと胸を張ってヒロエ先生に絵を見せに行くと、優しく頭を撫でてくれた。
「ねえ、ヒロエ先生。ヨツバね、大きくなったら絵描き屋さんになるんだよ!そして父ちゃんのお嫁さん!」
元気良く叫ぶと皆が楽しそうに笑った。ヨツバも一緒に大きく口を開けて笑い始めた。

延長保育の時間。
ヨツバはマモル君と一緒にぬいぐるみごっこをしている。マモル君は超合金のロボットで、ヨツバは可愛らしい動物のぬいぐるみを手にしている。
「ギュイーン、ギュイーン。俺は悪のサイコガンガルだー。喰らえ、リフレクタービットォっ!」
「まっけないぞ。うぇんでにゃん、頑張れー。」
サイコガンガルと云うのは男の子に人気のテレビまんがの敵のロボットだ。サンタ兄ちゃんも大好きで、宿題そっちのけで夢中になっている。そう言えば父ちゃんと母ちゃんはガンガルを見て生まれたてのひよこ見たいに目をパチクリとしていたっけ。
マモル君はヒーローのガンガルよりも黒くて大きいサイコガンガルが大好きみたいで、大人になったらサイコガンガルになるんだそうだ。
うぇんでにゃんは絵本に出てくる犬のお巡りさん。にゃんて付くから猫だと思いそうだけれど、れっきとした犬なのだ。
ヨツバは毎晩母ちゃんの歌ううぇんでにゃんの歌を聞きながら布団に入る。
遊んでいる内にポッポーと鳩の鳴き声が六回聞こえた。園長先生自慢の鳩時計だ。
さあ、辺りは暗くなって来た。時間は六時、父ちゃんの迎えに来る時間だ。
マモル君との勝負は今日は引き分け。明日はどうしよう仮面のお人形さんで頑張ろう。
マモル君とヒロエ先生とヨツバの三人で玄関に行くと父ちゃんが傘を持って待っていた。
――さあ、家へ帰ろう!
ヨツバは笑顔でヒロエ先生とマモル君に手を振った。

カズミ編

――パパの天気予報って当たるのよね。
カズミは溜め息混じりに呟きながら窓越しに校庭を見つめる。
カズミが課外活動にJRCを選んだのはシローの影響だった。
シローは片足が無く普段は義足なのだが、幼い頃はカズミはそれが怖かった。
例えば一緒にお風呂に入る時、例えば寝る時。義足を外したその先に何も無くなってしまうのを見る度に、心臓の鼓動がドクンと脈打つ音が全身に響き渡る。
カズミが立ち尽くしていると、シローは申し訳無さそうに眉をハの字にして笑い、カズミの頭を撫でる。
――怖かったか?ゴメンな。
その度にカズミは胸が締め付けられるように悲しくなった。
子供の頃の話だからなんて思わない。謝りたいと思ってもきっかけがなかなか掴めないまま時間だけが過ぎて行った。
口に出せないなら態度で、と云う訳でカズミはボランティアに興味を持ったのだ。
学校にはJRCが無かったので、カズミの代が第一期となる。手探りで始めたものの、校外での募金活動、児童施設や介護施設の訪問に加え、手話や点字を覚えたりで忙しい毎日を送っている。
今日は活動の休みの日だが、児童施設で行われるチャリティーに参加する為にせっせとマスコット創りに精を出している。
「ちょっと、カズちゃん、何手を休めているのよ」
「何って別に…集中し過ぎて目が疲れちゃって、ね」
声を掛けて来たのは親友のミホだ。カズミがJRCを作ると打ち明けた時に、ミホは楽しそうだからと協力してくれた。ミホはピアノを習っていて、去年のクリスマスでカズミが主催した児童施設でのクリスマス会では鍵盤ハーモニカでクリスマスの歌を引いてくれた。
ロウソクの灯りをともした部屋ので子供達とジングルベルを歌った思い出はカズミの宝物だ。
「またまた照れちゃって…って今日は雨だから王子様は部活は休みみたいねえ。残念ね、カズちゃん」
「ちょっと、声が大きいわよ。恥ずかしいじゃない!」
小声で答えつつ肘でミホをつつく。ミホはにやりと笑って片付けを始める。
「今日はここまでにしましょ。雨じゃシン君の雄志は見えないもんね」
ミホはカズミの気持ちを知っている。見ていれば一目瞭然だと言われたが、カズミはこの気持ちは胸に秘めておこうと決めているのだ。
「カズも今帰りなのか?」
傘を差そうとした時に、カズミはシンに声を掛けられた。
「うん、そうよ。シン君もなんだ」
「雨で部活が無くなってさ。雨が弱くなったら帰ろうと思ってたんだけど、全然勢いが弱まらないだろ?あーあ、今朝はあんなに晴れてたのにな」
シンは眉間に皺を寄せ口を尖らせる。
「私、傘を持ってるよ?入ってく?」
「いいのか?ラッキー!これで濡れなくて済んだ。」
ほっと笑顔を浮かべるシンを見て、カズミは釣られて微笑んだ。
「パパが傘を持っていけって言ったのよ。パパの天気予報は当たるから」
そう言いながらカズミは鞄から赤い折りたたみ傘を取り出し広げた。
「シロー伯父さんの天気予報は当たるもんなー。」
「雨しか解らないけどね。後は台風も判るかな?」
二人は楽しそうに談笑しながら歩き始めた。
――告白なんて恥ずかしくて出来やしない。でも、この位良いよね。
カズミはちゃんと覚えている。夏祭りの出来事を。
お気に入りの浴衣を来て皆で縁日を見たりしていた時に、カズミの下駄の鼻緒が切れてしまったのだ。
楽しい気分は一気に台無しで、悲しくなって泣きべそになったカズミを、シンがベンチまでおぶってくれた。
シンの背中は大きくて、手足も長くて。只のお隣さんだったシンが何故か特別に見えて。
今もシンはカズミが濡れないように自分の肩を傘からはみださせている。
――校舎の窓からシン君の部活の様子を見るのが好きだけど、雨が降る日も貴方が好き。 カズミは気付かれない様にこっそりとシンの横顔を見上げた。

ジロー編

腕白なジローが一番好きな授業は音楽だ。譜面は読めないけれど、子供の頃から歌を歌うのが大好きだったからだ。
けれど、今は微妙だ。声変わりで思うように声が出せないのだ。以前なら伸びやかなソプラノも、柔らかく響くメゾソプラノも出せたというのに。
今では出す声はザラザラとかすれていて自分の声じゃないみたいだとジローは思う。音程もあちこちフラフラしてしまい、正確な音程で歌えない。
それでもジローは頑張って声を出そうとしたが、曲の終りには喉が痛んで声が出なくなってしまった。
ピアノの伴奏が終わった。クラス対抗の合唱コンクールが近付いているのに足を引っ張ってしまうのがジローは悔しかった。
「大丈夫か?」
隣にいたユウスケが声を掛けてきた。ジローは声が出せなかったので頷いてみせた。
「俺ァ声変わりの時はそんなにはならなかったけれど、お前のは酷いな。」
ユウスケは低く野太い声で言った。ユウスケはジローと同じ部活に所属していて、ジローにとってはかけがえのない親友だ。
ジローは小さい頃から声が高く友達にからかわれたりしていた。その度に喧嘩になって、先生や母ちゃんに怒らればかりだった。
そんな時に、ユウスケはジローに加勢してくれて、嬉しかったのをジローは今でも覚えている。
――俺の声が今変わろうとしている。今までの声は大好きで、でもうっとうしい事もあって。それが愛着と言うものなのだろうか?
再び流れるピアノを聴きながらジローは視線を譜面に落とした。

『克己』
ジローの大好きな言葉だ。小学生の時に朝の10分間読書で読んだ時に読んだ本に書かれていた言葉で、ジローの胸に深く刻まれている。
遥か昔に書かれた本で、父ちゃんも母ちゃんも知らなかったその本に、ジローは心を引き込まれたのだ。
読書は嫌いで漢字ばかりの本は枕代わりにしているジローが熱心に本を読んでいる姿を見て、父ちゃんが目を丸くしていたのを覚えている。
その本の登場人物が柔道なるスポーツをしていたのを見て、ジローは柔道部に入る事を決意した。
柔道着に着替え帯を締めるとジローの心はピッと引き締まった。
始めた当初は硬くてゴワゴワしている柔道着が肌に擦れて真っ赤になった。先輩達は馴れるまでの我慢だと言っていたし、憧れの登場人物みたいになりたい一心で頑張った。
この間父ちゃんと風呂に入った時に、ジローも大きくなって来たなと言われた。二人で力こぶを見せあって大声で笑いあった。
スポーツをするのにナチュラルとコーディネーターの間には大きな壁がある。けれどもジローは努力した。
柔よく剛を制すと云う言葉は信じていない。本の登場人物もそうだったからだ。
今日は他校との練習試合だ。ジローは先鋒を任された。
合図と共に相手が向かって来る。ジローは組手争いを相手に挑まず襟を取らせた。相手はジローの蒔いた餌に喰らい付く。
――今だ!ジローは相手が技を掛けようとした瞬間に体勢を入れ替えた。左手で相手の帯を掴んで引き落とし、右手で相手の襟を掴んだまま、ジロー自身が倒れながら器用に裏膝を使って相手の足を跳ね上げた。
瞬間にジローは勝ちを確認した。コーディネーターとの差を埋めるため、ジローは立ち技で勝負を付けようとは思っていない。直ぐ様袈裟固めに移行した。
審判の合図と共にジローは技を解いた。
立ち上がった時に、ナチュラルの癖にと相手の悔しそうな呟きが聞こえた。
――柔道を舐めるな。最後に笑うのは頭を使った奴なんだ。
ジローは相手の言葉を意に介さず、自分のコメカミを人差し指でトントンと叩いた。

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