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08MS-SEED_96_第01話1

Last-modified: 2013-12-23 (月) 18:00:55

 転移戦線 第一話[前]

『隊長、7時の方向を見てください』
「どうしたカレン…敵か!?」
『いえ違いますが…あれは嵐ですかね?』
『…ああ本当だ、前より酷そうですよ』
「そうだな、この距離からあんなに真っ黒に見えるなんて…。
 サンダース、気圧はどうなってる!?」

 ここは中央アジアの砂漠地帯、時は宇宙世紀0079、極東方面軍機械化混成大隊(通称コジマ大隊)第08MS小隊は熱砂の砂漠に身を潜めていた。
 砂漠の渓谷の底にあるジオン軍の物と思われる射爆場、そこに以前遭遇した事があるMAが出没するとの報告により上層部は今の内に破壊する事を決定し、以前遭遇して生き残った08小隊にこの任務が回ってきていた。
 部隊の編成はRX-79(G)、通称陸戦ガンダムが3機と指揮・索敵機能を強化したMSを支援するホバートラック(通称指揮車)が1台と、MS運用が未だ明確に確立されきっていないこの時期の地球連邦軍の中では標準的な編成であるが、通常はパイロット3名と指揮車2名の5名で編成される所に現在は4名しかいない。
 勤務態度は別として優秀なソナー手でもあるエレドア伍長は、少し前に心の洗濯に出た村がジオン軍の制圧されていた事から負傷し未だ野戦病院に入院中であった。
 砂漠に張り付いて数日、過酷な環境と相手がいつ来るかも判らない状態での待ち伏せと部隊に降りかかるストレスは非常に高く、部隊内はここしばらくギスギスとした雰囲気が漂っていた。
 新兵であるミケル=ニノリッチ伍長はその最たる物であるが、歴戦のエースパイロットであるテリー=サンダースJr.軍曹や紅一点にして女傑な先任下士官であるカレン=ジョシュア曹長にも苛立ちが滲み出ていた。
 そしてそれは、士官学校で自らのマインドコントロールを学んだ新米隊長のシロー=アマダ少尉すら当て嵌る程過酷な物だったのである。
 結果、恋人の手紙で冷静さを失ったミケルが暴走しシローに食って掛かると言う事が起きる。
 軍歴の長いサンダース軍曹がミケルを投げ飛ばしてクールダウンを即したおかげで暴力行為はまのがれたが、小隊の要でもある指揮車の運用を今のミケル一人には任せられないと、ミケルとサンダース軍曹のポジションは交代させられ今はミケルが陸戦ガンダムに、サンダース軍曹が指揮車に乗っていた。

『現在気圧960hPa…更にどんどん下がってます!』
「ってことは…あの砂嵐がこっちに来る事は間違いなさそうだな」
『……隊長、MSの方位計はどうなってます?』
「どうしたサンダース、方位計なんて……これはダメだな。
 カレン、ミケル、そっちはどうだ?」
『方位計なんて…ダメです隊長、機器エラーが出てます』
『こっちもです…砂嵐の影響じゃありませんかね?』
『隊長、磁気だけではなく各種通信…民間のラジオも聞こえません。
 GPSも動作してません、気象レーダーも真っ白です』
「ミノフスキー粒子のせいじゃないのか!?」
『ミノフ…キー粒子はほぼ観測されません…あ…いえ、電子機…全てに異常…ノ…ズが……』
「ちっ、この近距離で通信もダメとは…しかたないな」

 シローは直接叫ぼうとコクピットハッチを開け――外部のスピーカーを使うと言う手もあったがこういう事は顔を見て伝えた方がいいと考え――どうやら同様の事に思い当たったらしくハッチを開たカレンとミケルに身を乗り出して叫ぶ。

「カレン、ミケル!
 砂嵐の影響か指揮車の電子機器がおかしい!
 MSにも影響が出るかもしれない、MSを待機状態にして嵐が通り過ぎるのを待とう!」
「判りました、敵の仕業…ですか!?
 以前あのMAにカレン姉さんが電子機器をこっぴどくやられた事が…!」
「敵のMAなら姿が見えてる筈だろ!
 隊長、これは竜巻で砂鉄が巻き上げられ、巨大な電磁石状になってるからなんじゃないでしょうか!」
「それが一番説明が付くな!
 キキ!
 指揮車に入って全部のハッチをきつく閉めろとサンダースに伝えてくれ!
 お前も指揮車の中に入ってるんだ、砂嵐が来るぞ!!」
「あいよ~~シロ~」

 指揮車の日除けの砂色の布で出来た日陰で緊迫する08小隊の面々を他人事のように見ていたキキと呼ばれた少女は機敏に立ち上がると自前のバイクを無理やり指揮車の中に入れる。
 前回の砂嵐の時は外に出していたおかげで砂を被り、キャブにまで砂が入り込んで酷い目に合ったからだ。
 キキは軍属ではないただの民間人だ…ゲリラの頭目の娘ではあるが。
 以前シローに水浴びを覗かれ以来いろいろあってシローを気に入り、自称彼のサポートをしているのだ。
 今回も勝手に謎のMAの情報を集めて提供し、もう戻れという制止を振り切ってバイクで勝手にやってきてしまっていた。
 軍務としては民間人を待機中の部隊に混ぜるような事はグレーどころか限りなくブラックなのだが、差し入れと称して持ち込まれる食料品は味気ない軍用レーションに飽き飽きしていた面々には重宝されていたし、何度かゲリラと協力して戦闘行為を行っていた部隊では軍律に厳しいカレンですら見慣れた風景になっていて気にする者はいなかったのである。
 もっとも、キキが見せるシローへの好意のような物とそれを邪険に扱うシローの態度(好意に気がついていないとも言う)もまた部隊の雰囲気を邪険にする物なのであるが、当のキキはその程度でめげる様なメンタルとバイタリティの持ち主ではなく、またシローもそっちの方面には限りなく鈍いのであった。

「どうしたキキ、何故バイクを指揮車に入れてる?」
「全部のハッチを閉じて待機しろってシローから伝言!
 電子機器をお釈迦にするような凄い砂嵐が来るみたいだよ!」
「それでこの有様か…バイクを入れ終わったらそっちのハッチはロックしてくれ」

 指揮車が硬くハッチを閉じ陸戦ガンダムが自ら掘った蛸壺の中で更に身を潜めた直後、それはやってきた。
 まるでMSが坂から転げ落ちたようにシャッフルされる…あたかも終わらないザクマシンガンの直撃を受け続けるような、ただの衝撃だけではない命の危険すら感じる全身が引き裂かれるような衝撃でもあった……。

「……………」
 そんな衝撃を目をキツく閉じて歯を食いしばり脚を突っ張ってシートに身を沈めて耐えていたシローはどれだけの時間そのままで耐えていたか判らなかったが、機体を叩く音や振動が収まって30秒程してから全身の力を抜いた。
 なにやら虚脱感が酷いのは長時間そうして力を入れていたからであろうか?
 電子機器への影響を警戒してMSのメインパワーはまだ入れずに手動でハッチを少し空けてみると、嵐の前とは違ったひんやりと乾いた空気が流れ込んできた…周囲はいまだ暗い。

「夜?
 それともまだ嵐の中なのか…?」

 思い切ってハッチを大きく開けると、目の前には真っ暗な星空とどこまでも続く砂丘が広がっていた。
 そんな見慣れた…しかし違和感を覚える風景をしばし眺めてからはっと気がついたように周囲を見渡す。

「カレン!サンダース!ミケル!キキ!
 無事か!? 返事をしろ!!」
 思わずそう叫び周囲を見渡し…周囲に自分以外の2機の埋もれかけた陸戦ガンダムと1つの砂山を見つけると、MSのメイン電源を素早く入れて陸戦ガンダムを起動させつつ通信をONにし外部スピーカーで周囲に同じように呼びかた。
『…ザッ…無事です、隊長』
「ふぅ、こっちも大丈夫です!」
 すぐにミケルは無線で、カレンはシローと同じようにコクピットハッチを開けて返事が来る。
 サンダース軍曹とキキの指揮車は完全に砂に埋まってしまっていて、すっかり埋まってしまった蛸壺から苦労して陸戦ガンダムを抜け出させた後で掘り出すことが出来ていた。

「どうやら全員無事なようだな。
 各自、機体の方はどうだ?」
『こっちは問題ありません…砂漠対策してなかったらやばかったでしょうけど』
『指揮車の方もほぼ正常に動いてます。
 …ただ無線機器がアンテナがおかしいのか通信が…何かしらの電波は飛んでる様なんですが』
「そうか…カレンはどうだ?」
『……………』
「カレン?」
『あ、すみません隊長、MSに問題はありません…ですがおかしくありませんか?』
「なにがだ?」
『隊長、我々は渓谷の脇に陣取ってましたよね?』
「ああ、ジオンのMAが活動するらしきとの情報で、それを撃破する為にこうして……」
『どこにその渓谷があるんです?』

 改めてシローは周囲を見渡す…あの大型のMAが通過できる渓谷である、見えない筈が無い。
 さらに遠方に見えていた山も無い、MSの視界を使ってまで周囲を見渡すものの、見えるのは一面の砂丘だけである…最初に感じた違和感はこれだったのか!?

『まさか…今の砂嵐で埋まっちゃった?』
『馬鹿な事言うんじゃないよミケル、そこまで荒れちゃぁ私らだってもっと埋まってるだろ』
「サンダース、渓谷内のセンサーはどうなっている?」
『反応ありません、いえ、センサー自体の反応がありません!』
『どういうことだ一体…?』
『あたし達が砂嵐で飛ばされたんじゃない?』
「そんな感じはしなかったな…少なくとも飛ばされたのなら俺達の位置関係が嵐の前と同じって言うのはおかしい。
 しかし渓谷が動く筈無いから、俺達が場所を移動したのは間違いなさそうだ」
『…隊長、今何時ですか?』
「なんだミケル、それぐらい自分で……昼の2時過ぎだな」
『隊長までなに寝ぼけてるんです、どう見たって真夜中じゃないですか』
『自分の時計でもMSでも今14時ちょいなんです…。
 軍曹、指揮車は……』
『こっちも14時だ…』
『ずっと寝てた……にしては嵐の前からそんなに時間は経ってないね』
『…私のも14時です…ですが周囲は…』
「いったいどうなってるんだ?」

 途方にくれるものの指揮官としてシローは動かなければならなかった。
 カレン、ミケルには周囲を警戒させつつサンダース軍曹には本隊との通信を指示し、状況がはっきりするまでキキは指揮車から出るなと伝える。
 しかし本隊との通信が繋がる事は無く、民間と思われるようなノイズ交じりのラジオは聞こえなくも無い。
 GPSは電波が届かないので役には立たず、最初の配置した位置を基準としたオートマップシステムもエラーしか返さず現在位置はアンノウンのままで結局何一つ情報を得られる事は無かった。
 嵐の前後で一変してしまった周囲、目の前の景色とはまるで合っていない時計、現在位置も正確な時間も判らず立ち尽くすシローだが、だからと言って周囲の警戒を怠るような事は無かった。
 地平線近く、なにかが動いたのを見つけたのだ。

「カレン、ミケル、俺から見て10時方向の地平線近くで何か動いた!
 俺が先頭に立つ、指揮車から50m間隔でカレンは左、ミケルは右に60度で展開、背を低くしつつ戦闘に備えろ。
 サンダース、ソナーは使えるな!
 聴音を開始して何かあったらすぐに伝えろ」
『『『了解!』』』

 指揮車も含めるとシローを先頭にシローが何かを見た方向に向かってダイアモンド型に展開した08小隊…陸戦ガンダムは膝を着いて姿勢を低くし、指揮車はアームを伸ばして地中用の音紋索敵用ソナーを砂漠に打ち込んだ……が。
 いつもはエレドアがこの操作をしていた為、サンダースはその操作に余り習熟していない。
 今回も本来であれば地面の状態に応じてソナーを適切な深さに打ち込まなければならないのだが、砂嵐の影響でアームの可動部に損傷があったのか、ソナーは地中には打ち込まれなかった。
 水中のソナーと違って音が伝わり難く地中にいろいろな障害物がある地面のソナーは高度な技量を要求される…しかも今回はそのソナー自体がきちんと動作していない。
 だが逆に、その機器故障が今回は良い方に働いた。
「……隊長…聞こえます…これは…ヘリのローター音、MSの歩行音と複数の車両のような……」
『…相手はなんだ…敵か、味方か?』
「…音紋に照合する物なし、機数は…ヘリ3から4、MS8から10…こちらに接近してはいません」
 音を聞こうとするあまりサンダースは囁き声になる…それに答えるシローもまた、囁き声になっていた。
 MSパイロットと指揮車の機銃座に座るキキはヘッドセットをつけているので囁き声でも問題は無いが、それでも二人のやり取りを聞いて…状況がはっきりしない中でのアンノウンとの遭遇に緊張を隠せない。

『隊長、敵…なんですかね?』
「サンダース、距離は判るか?」
『……ここから3kmは離れていないという計測結果ですが…ソナーでそこまでは捕らえれない筈です』
『軍曹、操作を間違えてるんじゃないんですか?』
『お前じゃないんだから間違えるわけ無いだろ!?』
『カレン姉さん…そりゃ酷いですよぉ』
「3kmが正しいなら……今カメラを伸ばして見ているんだが砂丘の凹凸が多くて見えないな…。
 砂煙状の物が見えはするが目標が見えない…ヘリも低空を飛んでいてMSの背が低いか…足音がある事に間違いは無いんだな?」
『それはだけははっきりと…多数の足音に間違いありません。
 ひょっとすると…気温の関係で音が遠くに伝わる事がありますが、今回はそれかも知れません』
 空中の音の伝搬は、昼と夜で音の伝わり方が異なる。
 これは温度によって音速が連続的に変化する現象であり、特に冷えた夜間は上空に向かった音は屈折して下方に曲がり込み、地表で反射して再び上空に向かう。
 つまり屈折と反射に挟まれた音の導波路ができるので、非常に遠くまで届くのである…逆にこれが昼の砂漠では地表付近の空気が高温になり音は上空に向かって屈折し霧散する為、音が遠くに届き難い。
 砂漠の夜明け前である今は音の誘導路が形成されるギリギリの時間帯であり、もしこれが昼間であれば音が届く事は無かったであろう。
 しかもソナーは地中に打ち込まれていない…つまり音は地中を伝わるのではなく、しかも砂丘の凸凹を上手く避けつつ、空中の導波路を伝ってソナーが拾っているのだ。
「足音があるなら、敵の可能性が高いな」
『どうしてです隊長?』
『バカ、それぐらい判らないのかい?
 アンノウンは飛行中のヘリとMSと車両を含む…輸送部隊で最初からヘリを飛ばしておく事はないし、ヘリが既にNOE(低空飛行=Nap Of the Earth)しているならば混成の戦闘部隊である可能性が高く、それは交戦が近い事を示している。
 そして我が軍にはまだMS隊とヘリが混成で攻撃する運用は確立されてないから、それをやっているとなればジオンしかないだろ』
「さすがカレン、俺も同様の考えだ。
 だが万が一という事もある、並走しつつ距離を詰めるぞ…姿を隠しつつアンノウンを確認する。
 どこに向かっているか確かめたいし、敵だろうが味方だろうが現状を知る手がかりになるしな。
 よし、8小隊移動開始!」
『『『了解!』』』

「本艦、レーザー照射されています!
 …測的照準と確認!」
「第2種戦闘配備発令!」

『第2種戦闘配備発令…繰り返す、第2種戦闘配備発令!』
「敵…!?
 もう誰も死なせない…死なせる…もんか…!」

「守ってね…
 あいつらみんなやっつけて…
 アハ…アハハ…アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \!」

「敵はどこだ!?
 ストライク発進する!」
「まだ敵の位置も勢力も確認できてないんだ!
 発進命令も出ていない!」
「なに呑気な事言ってるんだ!
 いいから早くハッチ開けろよ!
 俺が行ってやっつけてやる!」
「艦長!」
「言いようは気に入らないけど出てもらう他は無いわね。
 艦の砲では小回りが利かないわ。
 ストライク、発進させて!」

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