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08MS-SEED_96_第01話2

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:13:38

 転移戦線 第一話[中]

 
 

『出てきました!
 あれがGAT-105、ストライクですね!?』
『そのようだな…バクゥ出ろ、反応を見るぞ。
 カメラ回せ、データ収集を開始するんだ!』
『了解、ダコスタ副長!』

 

「あれは…!」
「んんんんっ!」
「キラ!」
「TMF/A-802、ザフト軍MSバクゥと確認!」
「バクゥだと!?」
『宇宙(そら)じゃどうだったか知らないがなぁ…ここじゃぁこのバクゥが王者だ!!』

 

 そのMS、GAT-X105、ストライクは爆炎の中地上での初戦闘、しかも砂漠という環境で苦戦していた。
 元々開発した地球連合軍でさえOSが完成する前であり、それを月軌道上の月の反対側に位置するオーブ連合首長国のコロニー“ヘリオポリス”で極秘に開発中にザフトが5機の連合製MSを奪取すべく攻撃を仕掛け、巻き込まれた形で当時学生だったキラ=ヤマト少尉が乗り込み未完成のOSを自分自身で書き換えて今まで使ってきたのだ。
 キラの作ったMSの姿勢・バランス・歩行らの制御に砂漠での運用が考えられてる筈が無い…キラ自身砂漠に居る事すら出撃するまで知らなかったのだから当たり前と言えよう。

 

「うぐぅっ!」

 

 対してTMF/A-802、バクゥは砂漠や極寒等の局地の運用を前提に開発された専用のMSである。
 獣のような4つ脚とさらに劣悪な状態では各脚についているクローラーを使用する事で運動性を確保してあり、既に連合軍の障害となっていたユーラシア戦車部隊をエルアラメインで壊滅させた実績がある局地専用MSで4つ脚とクローラーを使い分ける運動性は非常に高く、バクゥを運用するザフトには既に砂漠での経験も実績も備わっており、キラはバクゥというサーベルタイガーの群れの中でただ狩られるのを待つ動けないマンモスのように翻弄されていた。

 

「く…っ!!」

 

 ただでさえ高速なバクゥに砂漠に脚を取られロクに照準を付けることも出来ず、数種類の兵装を交換することであらゆる戦場に単機で適応するように考えられたストライクの兵装の内で砲撃を強化したランチャーパックの超高速インパルス砲“アグニ”や他の兵装は無駄に夜の砂漠に閃光を撒き散らすだけである。
 バクゥだけではなく先程からの戦闘ヘリも加わり立体的な攻撃を仕掛けてくる敵に、キラは自分がMSに乗ってまで守りたいと思う友人達の乗る“強襲機動特装艦アークエンジェル(AA)”からおびき出されて切り離されている事にも気がつかず、次々と襲い来る実弾やミサイルに翻弄されていた。

 

「スレッジハマー(艦尾大型ミサイル発射管から射出される艦対艦ミサイル)撃て!」
「ストライクに当たります!」
「PS装甲がある!」
「しかし!」
「命令だ、あれではどうにもならん!」
「…了解、スレッジハマー撃ちます!」

 

『!!』
「うあぁぅっっ!」
『…味方ごと巻き込むとは…。
 それほどストライクの強度に自信があるのか、指揮官が無能なのか…』

 

 発射されストライク周辺に次々と着弾するスレッジハマー対艦ミサイルはバクゥのパイロット達が接近に早々に気がついて回避される。
 それでもストライクに取り付いていたバクゥを追い払う事には成功しているので、AAの戦闘指揮官であるナタル=バジルール中尉の目論見は成功したと言えよう。
 ストライクにも直撃はしなくとも至近距離に着弾していったのでこちらの目論見も当たってしまったのではあるが、それでもストライクはPS装甲により健在であった。
 PS装甲とは…エネルギーの消費と引き替えに物体との衝突を相殺する『Phase Shift(相転移)』と呼ばれる物理現象である…詳しくは軍機の為に解説できない(笑)が、『電力を消費して何度でも使えるリアクティブアーマーのような物』と考えてくれれば目安となるであろう。
 このPS装甲のおかげでストライクには実体弾や実剣での攻撃は効果が無いので、スレッジハマーの着弾時の爆発による榴弾のような破片にもストライク自体はさほどダメージは受けていない。
 だが、衝撃を防げるような物ではないのでコクピットの中のキラは激しく撹拌され、並みの人間であれば脳震とうで気絶するか衝撃で骨折する所だが、キラはコーディネイターであった。
 受精卵の状態で遺伝情報をいじり、遺伝子改造を受けていないナチュラルに対して生まれながらにして数々の病気に対しての耐性を持ち、強靭な肉体と反射神経と頭脳を持つ用に遺伝子を操作された人間…それがコーディネイターだ。
 故にこれだけの衝撃を受けても軍事的訓練をなんら受けていないキラでも意識を保ち戦う事ができた…もっともコーディネイターでなければストライクのOSを書き換えて動かす事はできなかっただろうし、大気圏突入時の熱で死ぬか重体で今戦う事はできなかっただろう。
 予断であるがナチュラルが使う事を前提として作られたストライクは大気圏突入をあらかじめ考慮されていた筈であるが、その突入時にコクピットがナチュラルでは耐えられないような高熱になるのって明らかに設計ミスなんじゃね?
 それとも機体が無事ならいいという仕様だったんだろうか…もしくはただ単に失敗したのか。
 いやそんな熱に耐える電子機器ってのも凄いが……。

 

「くそぉっ、砂に脚が取られるなら…!!」

 

 キラはストライクを砂漠を蹴ってブースターを噴射し推力に物を言わせてジャンプさせた。
 そしてストライクは推力と重力のバランスが吊り合い一時的ではあるが空中に停止する。
 ストライクの重量対推力比は今のランチャーパック装備状態で1を超えない…元々のストライクの推力が重量対推力比を超えていない上に、ランチャーパックの重量増加に対してランチャーパック自体に推力が無いからだ。
 ちなみに重量対推力比とは…詳しくは自分で調べてもらうとして、簡単に説明すると重量対推力比1を超えると揚力を生み出す羽根等が無くても推力だけで空を飛べると言う事になる。
 したがって空中に停止していられる時間は1秒もないが、キラの能力であればその短い時間にバクゥの位置を捉えて照準しトリガーを引くことは難しい事ではない。
 砂で脚を取られて機体を保持できずに予想外に射線が動いてしまう事で照準がズレるのであれば、機体が予想外に動かないように砂の無い場所…空中で照準して攻撃した方が予想外の事が起こらないので照準はズレ無い!
 キラはとっさにそこまで判断し、空中に停止できる僅かな時間に正面のモニタに表示された照準にバクゥを捕らえると“アグニ”を発射するべくトリガーを絞る。
 大気を切り裂いて“アグニ”の赤い閃光がバクゥに迫る!
 …が、移動一つをとっても常に小刻みな方向変換をしつつ常に移動を続けるバクゥには当たらず、砂漠の砂を大きく抉るだけに終わる。
 直線的な移動などは戦場では素人しかしないのであり、素人は戦場では決して長生きは出来ない。
 キラが思いついた方法は確かに照準をズラす事はなかったが、それだけでは経験豊富な兵士に当てる事は出来ない。
 そしてその素人しかしないような移動を今ストライクは自由落下という方法で取っており、着地して停止した瞬間に集中砲火を受けて再びコクピットは激しく撹拌されていた。

 

「く…っ!!」

 

 牽制もかねて地上で発射した“アグニ”の赤い光の奔流がバクゥの移動と着弾で起こった砂煙を貫いて伸びる…しかしその先にはヘリもバクゥも無い。

 

『悪くないMSだ…パイロットの腕もいい。
 しかし人型のMSではこの砂漠でバクゥには勝てまい!』

 

 双眼鏡でストライクの戦いを見るザフト地上部隊アフリカ方面軍のバルトフェルド隊の副官を務めるマーチン=ダコスタはバクゥと彼の指揮する部隊が連合のMSに勝てると確信しほくそ笑んだ。

 

『バクゥ全機、ストライクを押さえつけろ!
 これだけ撃って動き回ればエネルギーもじき尽きる!』

 

「ええぃっ!!」

 

 キラはそのまま再びストライクを上空にジャンプさせ、上空から“アグニ”をバクゥに向けて撃ち降ろす。
 上空から撃ち降ろされた“アグニ”の赤く光る破壊のエネルギーは、しかしバクゥに当たることなくバクゥが巻き上げた砂塵を円形に吹き飛ばし、そして砂面に突き刺さってエネルギーを霧散させる。
『何度も同じ事を!』
 バクゥのパイロットが吼え、着地して動きが止まる瞬間にストライクに体当たりをすべくストライクの着地予想地点に向かって砂面を蹴る。

 

「接地圧が逃げるなら合わせりゃいいんだろ!」

 

 その時キラはコンソールの下からキーボードを取り出し、OSの設定を直接書き換え始めた。

 

「…逃げる圧力を想定し、摩擦係数は砂の粒状性を-20に設定して…!」

 

 例え“ヘリオポリス”で学生だった時にそのOSに触れた事があり今までに自分メンテナンスをしてきたOSでっあたとしても、僅か数秒でそれを書き換えるなどコーディネイターである事を考えてもキラのこの行為は尋常ではない速さ、まさに神業である……マウスも使ってないし(笑)。
 だがしかし、その為にキラはストライクの操縦を放棄していた。

 

『戦場で立ち止まって生き残れると思ったかぁっ!!』

 

 高速で展開するこの砂漠の戦場ではその数秒は致命的である…ストライクはAAとも切り離されてしまったので援護も受けられずに味方は1機、それに対するザフトはバクゥが5機、戦闘ヘリが3機。
 他の援護の無いまま停止したストライクに迫るバクゥ!

 

「しまった、間に合わ……!」

 

 自分の失策に気が付いたキラはストライクがしっかりと砂漠を踏みしめているにも拘らず、既に“アグニ”も例え膝蹴りでもバクゥを迎撃出来ないタイミングにある事をコーディネイターならではの判断力ではっきりと理解してしまった…前後から迫るバクゥは恐怖その物だった。
 その瞬間、バクゥはストライクに飛びかかろうと地面を蹴ろうとした。

 

『なに!?』
『新手か!?』

 

 ストライクの前後から迫っていたバクゥに横っ面を叩くようなピンク色のビームの奔流が突き刺さる。
 それでも前方のバクゥはコーディネイター特有の反射神経でギリギリで身を屈めたおかげで掠った程度で済み、それを見た後方のバクゥが横っ飛びで機動を無理やり逸らしたおかげでそのままではコンマ数秒後に自分がいた位置を通過したビームを避わす事ができた…しかしそれは、ストライクへの突撃を阻まれたと同義である。

 

『そこのガンダムのパイロット、何をしている!』

 

 キラは、砂丘の上から自分を見下ろしているストライクと似たような形のMSが外部スピーカーで大声で怒鳴るのを聞いた。

 
 
 

 しばし時間は巻き戻る…。

 
 
 

「発光が見えた、どうだ?」
『砲音確認、始まりましたね。
 ですが…こちらのデータのいずれにも照会に合致する砲がありません』
『光ってますよ…でもアンノウンもアンノウンが目標にしている物も見えませんよ!』
『確認するには砂丘の上まで行かないとダメですね…戦場全てに姿を晒す事になりますが』
「状況を把握する為には仕方が無い。
 サンダースとミケルはここで待機、カレンは俺の左30mをキープし砂丘ギリギリまで前進、俺が向こうを覗くから後ろを頼む。
 戦闘は始まっている、周囲の警戒を怠るな」
『『『了解』』』

 

 戦いが始まる前、08小隊はアンノウンと並走しつつ距離を近づけて行く。
 砂丘等の地形で完全に平行に移動したとはいえないものの約1kmにまで接近した頃、アンノウンは停止した。
 おそらく補給しているのだろうと言う結論に達したが、それはアンノウンが戦闘行動を行う直前である可能性があるとも判断できた。

 

「どうします?
 偵察に行きます?」
「キキのバイクを借りて、自分が見てきましょうか?」
「……いや、ダメだ。
 アンノウンが敵か味方か判らないうちに発見されるリスクは犯せない」
「でも隊長、アンノウンが敵で味方を攻撃する前ならここはチャンスですよ…それに、みすみす味方が攻撃されるのを見てろって事ですか?」
「そうだ」
「隊長…!」
「いいかミケル、アンノウンが攻撃準備しているなら相手は近いんだぞ、アンノウンは味方で相手が敵だったらどうする?
 今下手に動いては我々が先にアンノウンの相手に見つかって攻撃される可能性もある。
 俺には8小隊の安全を守る義務がある、例え戦闘が始まっても最低限のリスクでアンノウンを確認する事を優先する」
「「了解」」
「カレン姉さん…軍曹…いいんですか、それで!?」
「隊長の言っていることは正しい。
 こと、怪奇な現象で何一つはっきりしない状態の我々にとってはな」
「そういうことだ。
 攻撃準備が本当かも判らない、慎重になるに越した事はない」

 

 そうしているうちに空中に閃光と、遠くでくぐもったような爆発音が聞こえてきた…間違いない、戦闘が始まったのだ。
 こうしてシローとカレンの陸戦ガンダムは砂丘を上がり、カメラを砂丘の上に伸ばして周囲を確認する事しばし、アンノウンがいたと思われる辺りに補給車らしい車両と長距離射撃を行うような車列が、そしてだいたい2km先の砂丘の隙間に白塗りの木馬のような何か――地上戦艦?――が交戦しているのを捉える事ができた。
 そしてその白い木馬から何かが飛び出してきた。
 シローがズームでそれを捕らえると…大型の砲を持った手足が白くて胴体は赤とか青を使っているっぽい、ツインアイでアンテナの付いたMSである事が確認できた。

 

「あれは…ガンダム!?
 それじゃぁアンノウンがジオンで、アンノウンの相手が味方だったのか」

 

 そしてそのMSにじゃれ付くように現れた物は…。

 

「あれは…犬!?
 みんな見えるか、ジオンの新型だぞ…!」
『四脚のMS、ですか…?』
『なんか可愛げあるね』
『数は五機……四つ脚だから倍の数に聞こえたのか…』
『隊長、砂漠だと四本足の方が有利なんですか?』
「詳しい事はわからないが、接地圧とかで四つ脚の方が有利なのかもしれないな」
『初めて見ますが…本当にジオンの兵器なんですか?』

 

 カレンの口調には、あのような冗談のような物をMSとは認めたくないとのニュアンスが含まれていた。

 

「ああ、間違いない…犬の顔を見てみろ、モノアイだ。
 どっちにしろガンダムを攻撃しているならそれはジオンだろ」
『それは間違いないと思いますが…』
「これで決まったな、アンノウンは敵で味方が攻撃されている。
 こうなったらやることは一つ、敵を撃退して味方と合流する。
 みんな聞け、これから作戦の段取りを説明する……」

 
 
 

『戦場で止まるな、死にたいか!』
「なんだ…誰だあんた!」
『味方だ、見て判らないのか!』
「IFF(=敵味方識別装置)は味方とは言ってない!」
『こっちにも事情がある!
 それより…来るぞ!』

 

「なに、二機目のMSだと!?」

 

 新たな援軍がストライクに加わり、敵は2機のMSとなっていた。

 

「情報には無い…AAにあるMSは1機だけの筈だが。
 こんな我々の制圧圏内にMS付きの地上部隊がいたのか!?」
『ダコスタ副長、どうします?』
「問題無い、人型MSが一機増えた所で砂漠でバクゥには勝てない。
 どこから来たのかは破壊なり鹵獲なりしてからじっくり調べる事にしよう…攻撃を続行しろ!」
『『『『『了解!』』』』』

 

 状況を把握するのにストライクと陸戦ガンダム(以後陸戦G)の両方から見えない砂丘に隠れる、あるいはジグザグな機動を取りつつ周囲を旋回するバクゥはダコスタの号令により再び攻撃の牙を向ける。
 シローの陸戦Gもまた、砂丘からストライクの側へ駆け下りて行く。

 
 

「別のMSですって!?」
「はい、先ほどストライクが戦闘を行っている方角の砂丘の上にいるのを確認しました、これです」
「これは…ストライクに似ていなくも無いな」
「艦長、GATにこんな機体ありましたか?」
「“ヘリオポリス”では五機しか作っていなかった筈だけど…」

 

 バジルール中尉の問いにAA艦長であるマリュー=ラミアス少佐は曖昧な返答しか出来なかった。
 マリューは技術士官でもあると同時にAAの副官と言う立場であり、G兵器開発計画に参加して開発にも携わっていた。
 だがGATの開発にはオーブの国営軍事企業であるモルゲンレーテとの技術協力――と言うのは名ばかりで彼らから得る技術はそう多くは無かった――を強いられたり、スポンサーであるアズラエル財閥のムルア=アズラエルからの口出しが多かったりと順調に推移していた訳ではなく、それどころかこれらの影響で作業は全般的に遅れ気味になり、OSに至ってはほとんど進んでいない状況だったのだ。
 それに、利潤や意図が複雑に入り組んで開発している筈のマリュー達当事者でも知らない事や予定外の事が数多くあり、連合軍のGATシリーズ開発に関しては“ヘリオポリス”で行いAAに搭載してテストを行う、程度の事しか聞かされておらず、本当に5機しか開発されてないのか自信が持てなかったのだ。
 当然、他のブロックにASTRAYシリーズが3~5機あった事も未だ知らない。

 

「何か無骨な感じね」
「IFFの反応はどうか?」
「友軍の反応はありませんが…画像で見るとGAT似ですね」
「奪われたGATがまだあって追ってきた、のかしら?」
「にしては宇宙では見ないGATでしたね」
「地上戦用とか」
「ヤマト少尉に確認させて!」
「判りました!」
「艦長、敵と見て間違いないと思います」
「その根拠は、バジルール中尉?」
「MSはナチュラルでは動かせないからです…GATのナチュラル用OSは完成してなかったのですよね。
 だとしたら他のGATと同じようにコーディネイターが動かしていると考えるべきです」
「敵の攻撃、止まりました!」
「ストライクは砂丘の向こうで交戦している模様!」
「いったい…何が起こっているって言うの……?」

 
 

『馬鹿め、丸見えだ!!』

 

 2機のバクゥと戦闘ヘリが障害物の無い場所を駆け下りてくる陸戦Gを攻撃する。
 しかし、キラのストライクとは違いシローの陸戦Gは速度を細かく変えつつジグザグに、あるいはブースターで小ジャンプを混じえつつ駆け下りて行く。
 それはむしろそれまでのバクゥの機動に似たものであり、硬いだけで砂漠での戦いにまるで慣れていない素人に毛が生えただけのような機動しかできなかったストライクに比べ、プロの兵士が乗っている事をザフトの兵士は感じていた。
 その一瞬の隙を突くように砂丘を駆け下りる陸戦Gの胸部から激しい銃弾の嵐が上空の戦闘ヘリを襲った。
 右手に持った武器を向けたらその軸線から避ければ良い、コーディネイターである自分がナチュラルの反応を上回るのは当然の事と思っていたが、まさかそんな場所に武器があるとは思っていなかった戦闘ヘリのパイロットにはそれはまさに奇襲であった。
 時間にしてコンマ数秒しか陸戦Gの胸部バルカン砲を浴びていないが戦闘ヘリにはそれで十分、空気取り入れ口から飛び込んだ弾がエンジンを破損させローターにも損傷を負いそのままあらぬ方向へ墜落していった。

 

『よくも!』

 

 駆け下りる陸戦Gにバクゥも攻撃するが、自分らと同じような機動を取る陸戦Gに有効打を与えられない。
 逆に精密に射撃しようと機体を停止させた瞬間を見計らっていたように陸戦Gが攻撃をしてくる。
 シローは揺れる機体に耐えつつ力でコントロールレバーを押さえつけ、ランダムな機動を心がけながら砂丘を駆け下りる。
 周囲を万遍なく把握し、無駄弾は撃たずに隙が出来そうな敵や脅威度が高い位置に来そうな敵の機動を牽制する時にのみ攻撃した。
 砂丘を下り終えた時、シローはもう1機の戦闘ヘリに何かしら損害を与えて戦線から離脱させていた。
 そしてストライクから30mの所に来ると外部スピーカーで再び叫ぶ。

 

『ガンダムのパイロット、一時引くぞ!』
「なんだって!?
 敵から逃げろって言うのか、あんたは!」
『母艦から切り離されている事も判らないのか!
 相互援護できる位置まで下がるんだ!』
「この囲みをどうやって突破できるって…」

 

 大仰に現れたストライクに似たMSはまるで敵がするような機動で砂丘を降りてきたものの、戦闘ヘリを2機撃墜もしくは退散させはしたがキラが苦戦しているバクゥを撃墜した訳ではない。
 ストライクも砂に脚を取られなくなってこれからだと言う時に、このMSのパイロットは偉そうに引けとキラに言うだ。
 この時砂丘の窪みの中心に2機のガンダムが降りていて、飢えた狼が得物を追い込んだように5機のバクゥがその周囲を高速で取り囲み、軌道を変え砂丘の陰に隠れつつ完全に包囲していた。

 

『…大丈夫だ、すぐに…』

 

 MSのパイロットがそう言った瞬間、離れてはいるがAAではない場所で爆発が起こった。
 それは小規模ながら大きな火柱を上げそして断続的にそれは続いていた…バクゥに動揺が走る。

 

「なっ、なにが?」
『始めたな、ミケル!』

 
 

 ――シローがストライクの支援に入る前――

 
 

「いいかミケル、お前はアンノウンの支援車両の部隊を襲え」
「えぇ?! 僕一人でですか?」
「そうだ、今あそこに居るのは支援車両と補給部隊だ、MSなら一機で蹂躙できる。
 武装はビームライフルよりマシンガンがいいだろう…コンテナも残っていて助かったな」
「自分がMSに乗った方がいいのではないのですか?」
「いや、サンダースは指揮車でやって欲しい事がある。
 戦場の全ての通信を傍受して味方との情報をやり取りできるようにしてくれ。
 スクランブルがかかっているだろうからそのままじゃこちらとやり取りは出来ないだろう、なんとか連絡を取って通信できるようにしておきたい」
「隊長、全機を集中して運用した方がいいんじゃないんですか?
 敵は未知の兵器です、味方のMSが一機居るとは言え私と隊長の二機を合わせて三機で五機の四つ脚を相手するには不確定要素が多過ぎると思いますが」
「いや、味方のMSの所に向かうのは俺一人だ。 カレン、君にはやって欲しい事がある」
「…何を考えているんですか、隊長?」
「この困難に全員で立ち向かい、誰一人欠ける事無く全員が生還する事さ」

 
 

「たぁぁぁぁっ!」

 

 ミケルの陸戦Gがザフトの後方部隊の支援車両と補給部隊を襲撃する。
 100mmマシンガンと胸部バルカンを撃ちまくり、目に付く車両を片っ端から破壊して行き、近い車両は蹴り倒して踏み潰す。
 歩兵の対MS兵器を警戒して移動しながらの攻撃なので、MSに比べて非装甲である車両を襲撃する時にはばら撒く系の武器の方が効率が良かった。
 それに弾数は弾装交換できないビームライフルよりもこちらの方が多い。
 電源車や物資を積んだトラックは胸部バルカンのなぎ払いを受けて破損し、横倒しになり、燃料や弾薬に引火しては破片を撒き散らして派手に爆炎を上げる。
 特に支援射撃用の長距離砲撃用と思われる車両は搭載した砲弾やミサイルが爆発しさらに大きな炎を上げ、残った砲弾に引火し敵に見舞う筈であったその威力を周囲に味方に撒き散らしていた。

 

『こちらバクゥ隊、ダコスタ副長、なにがあったんですか!?』
「敵MSの襲撃だ、更にもう一機MSがいる!」
『くそっ、今から二機援護に回します!』
「まて、それよ……」

 

 ダコスタの返答はミケルの陸戦Gの攻撃で乗っていたジープがダコスタごとひっくり返った為に最後まで発せらなかった。

 

「連合め! レセップス応答せよ、こちらダコスタ!
 敵はストライクのみにあらず、新型MSが2機いる、敵戦艦への砲撃を要請する!
 応答せよ、レセップス!!」

 

 ジープから投げ出されても奇跡的にかすり傷程度で済んだダコスタは、横倒しになったジープを盾にして通信機に怒鳴るが…帰ってくる返答は無い。
 あわてて通信機を確認すると……裏側に鋭い破片が刺さって小さくスパークしていた。

 

「くそっ!!」

 

 通信機を蹴りつけるが直る筈も無い。
 最初の攻撃から1分前後…それだけの短い時間でたった1機のMSが彼の後方部隊は壊滅的な被害を与え、そのMSは既に炎上続く戦場から立ち去っていた。

 
 

『何があったんだ!?』
「判らん、が、敵にMSの伏兵がいたことは確かだ!
 後方部隊ではどうにもならん…メイラム、俺と援護に行こう!」
『それで行こう、メイラム、エイク、二人共行ってくれ!
 なぁに、3vs2でもこの砂漠ではバクゥに敵う奴はいない!』
『判った、任せる!!』

 

 2機のバクゥがキラとシローの囲いから姿が消えた事を気がつかせない為か二人への攻撃が始まった。
 ちなみに先程の爆発に気を取られた時に最後の戦闘ヘリはキラがランチャーパックの右肩につけた120mm対艦バルカン砲で撃墜されていたので、攻撃を開始したのはバクゥ3機だ。
 周囲を回りながら背部に450mm2連装レールガンがあるバクゥはその武装を横向きにして中心部に位置するストライクと陸戦Gに向けて砲撃を開始しするが、禄に狙っていない上に2機のMSはステップでそれを避わした為に機体の周囲に砂柱を立てるに終わる。
 だがそれは目論み通りの展開であった。
 その砂柱が消えないかのうちに砂柱と砂塵を隠れ蓑に別なバクゥがシローの陸戦Gに飛び掛る。

 

「ぐぅっ!」

 

 シローもよく反応し左側面やや後方からだったその攻撃をシールドで受けるが、69.3tの体当たりの衝撃に機体全体を屈めつつ砂面を滑る事で力を受け流す。

 

「このぉっ!」

 

 キラがそのバクゥに向けて“アグニ”を追い討ちしその背部にあった400mm13連装ミサイルポッドを破壊するが、既に全弾を使い切っていた為にバクゥの軽量化に手を貸しただけに終わった。
 そしてシローは動きが止まった瞬間に他の2機からレールガンの攻撃が集中したが、シールドを半壊させつつ無理やりブースターを噴かして横にスライド移動することで致命的な被害は避けた。

 

『偉そうな事言って、何もできないじゃないか!』

 

 キラは周囲を回るバクゥに“アグニ”を発射するがギリギリのところで避わされる…しかし徐々にその射線が近づいてきている事を――今の攻撃は羽根をかすった――バクゥのパイロットとシローは感じていた。
『このパイロット…次は当てるな!』
 あのガンダムのパイロットはさっき見ていた時に比べて砂漠に脚を取られる様な事も無い、順応速度は並みではないとシローはまだ見ぬ生意気な口調のガンダムのパイロットに敬意を払っていた。
 実際にはキラがOSを書き換えて砂漠に対応できるようにしたのだが、それはそれでもっと驚く事になるだろう。
 そして今の攻撃で、敵の4つ脚MSの弱点もだいたい見当がついた…そこを突くのは多少面倒な事になるだろうが、あそこまでの速度と運動力を持つ敵を倒すにはこれしかないだろう。

 

「…なに、もう判ったさ」

 

 シローは緊張に乾いた唇をちらりと舐めると、コントロールレバーを握り直して身構えた。

 

「来るぞ!」

 
 
 

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