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08MS-SEED_96_第03話5

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:51:47

「いいかFNG共、これより訓練を開始する!」
「「「サー・イエス・サー!」」」
「隊長とアーガイル二等兵は知っての通り独房だが…お前らは通常通り訓練を続けるぞ!
 隊長がいないからって手を抜くような奴はケツの穴から手を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやるぞ!」
「「「サー・イエス・サー!!」」」
 次の日、6:00…2人を欠いた新兵訓練はいつも通りに始まった。
 あの後キラはあの場所で長い間絶望の中にいて…気が付いた時には無人の自室で眠っていた。
 泣き腫らした赤く充血した目はどんよりと曇っており、それまでの訓練から反射的に大声で返事をするに過ぎない。
「…ヤマト少尉、一歩前へ」
「サー・イエス・サー!」
「最近体の調子はどうだ?」
「サー・平気であります・サー!」
「そうか…お前は最近他の連中に比べ突出してきたとは思わんか?」
「……サー、そうかもしれません…サー」
「なんだその気の抜けた口調は? クビ切り落としてクソ流し込むぞ!
 お前は最近他の連中よりも優秀じゃないのか?」
「…………」
「どうした、タマ落としたか? それとも本当にタマ切り取ってグズの家系を絶ってろうか?
 イエスかノーか!!」
「サー・イエス・サー!」
「お前は他人より優れているな?」
「ぅっ……サ、サー! イエス! サー!」
「お前は他人より優秀だな?」
「サー! イエス!サー!」
「では聞こう、お前は何者だ?」
「…え!?
 ……サー、自分はキラ=ヤマトです、サー!」
「ハァ、聞えんなぁ?
 お前は何者だヤマト少尉?」
「サー、自分はキラ=ヤマトです、サー!」
「違う! 言いたくなければ俺が教えてやる!!
 ヤマト少尉、お前はコーディネイターだ、言ってみろ!」
「サー、自分は……自分は……」
 キラの脳裏に昨日の出来事が…昨日の自己嫌悪が蘇って来る……化け物で気持ち悪いコーディネイター故に自分に起こった出来事を……自分が味わった絶望と屈辱と葛藤と後悔を……!
「ぅ…うわぁぁぁぁぁっ!!!」
 次の瞬間、キラは拳を握り締めてサンダース軍曹に殴りかかっていた。
 それは意識したのではなく、脳内に渦巻く絶望と後悔がキラを混乱させ無意識にその引き金を引いたサンダース軍曹を攻撃したのである。
 その速度は訓練によりシローに殴りかかった時よりも早く、数日ではあるが格闘訓練を受けた成果を遺憾なく発揮し、無駄に振りかぶる事無く避け難い最小限の動きで鋭くパンチを放った……が。
 まるで予想していたように――実際予想していた――サンダース軍曹はその拳をギリギリで避わすと腕を取り、そのまま腕を掴んだままキラを放り投げた。
「……え?」
 これも無意識に受身を取りつつ、それでも背中に響く衝撃と鈍痛にキラは我を取り戻した。
「ヤマト少尉、格闘訓練にはまだ早いぞ。
 立て、そして言って見ろ、自分がコーディネイターだと!」
 ゆっくりと立ち上がり口を開こうとするも言い淀み、まるで大きく深呼吸するように何度も息を吸って吐くキラ。
 トールとカズイはまたキラが爆発しないかと…そしてもしそうなったら今度こそ止めようと思っていた。
 それぐらい今のキラは青い顔をして口をパクパクさせて冷や汗を流している。
 ……キラがコーディネイターという事でいろいろ酷い目にあってきた事は想像に難くない、それを自分から言わせようなんてサンダース軍曹の仕打ちは酷すぎる。
 が、それと同時に今のキラの暴走にサンダース軍曹は投げ飛ばしはしても殴ったりのペナルティを何も科さないのは何故なのか判らなかった。
「………サ、サー! 自分はコーディネイターであります! サー!」
「聞えん! もう一度!」
「サー! 自分はコーディネイターであります! サー!」
「声が小さい!」
「サー! 自分はコーディネイターです!! サー!」
「まだまだ!」
「サー!! 自分はコーディネイターです!!! サー!!」
「もっと大声で!」
「サー!!! 自分はコーディネイターです!!! サー!!!」
 早朝の格納庫に、自分はコーディネイターですと叫ぶキラと繰り返しを促するサンダース軍曹の怒号が繰り返し響き渡る。
 サンダース軍曹が繰り返し促する度にキラの声は大きく、まるで1回叫ぶ事に開き直って行くようだ。
「お前は何者だヤマト少尉!」
「サー!!! コーディネイターです!!! サー!!!」
「お前は優秀か!?」
「サー!!! 遺伝子を弄ったコーディネイターはナチュラルより優秀です!!! サー!!!」
「お前は普通の人より優れているのか!?」
「サー!!! 気持ち悪い化け物であるコーディネイターはナチュラルより優れるよう作り出されました!!! サー!!!」
「お前は何者だヤマト少尉!」
「サー!!! コーディネイターです!!! サー!!!」
「お前はコーディネイターだな、ヤマト少尉!」
「サー!!! イエス!!! サー!!!」
「よぅしいい返事だ、ようやく自分が何者か自覚したようだな…そんなお前にプレゼントだ、こいつを着ろ」
 サンダース軍曹が側から取り出した物は、キラ達は訓練では装備していなかったが歩兵用の防弾・防片用の軍用防弾チョッキであるボディアーマーであった。
「コーディネイターのお前が普通の人間と同じ装備ではお前の訓練にならん、そいつを着て訓練しろ!」
「サー・イエス・サー!」
「よしさっさと着ろ、すぐに準備運動を開始だ!」
「「「サー・イエス・サー!!」」」
 普通ボディアーマーは3~5kg程度の重さであるが、キラに与えられた特製のそのボディアーマーは鉄板や砂を追加して10kgになっている。
「うっ……」
 ただでさえ10kg近い装備を身につけている上に更にもう10kgの装備である…さすがにキラもよろめく。
 しかしまるでそれが自分に課せられた十字架のように、キラは文句を言わずに準備運動を始めた。

「俺は知らんが話によれば~♪」
『俺は知らんが話によればっ!』
「エ●●モーのプ□シーは冷凍マン○♪」
『エ●●モーのプ□シーは冷凍マン○っ!』
「うん、GOOD♪」
『うん、GOOD!』
「感じ、GOOD♪」
『感じ、GOOD!』
「具合、GOOD♪」
『具合、GOOD!』
「全て、GOOD♪」
『全て、GOOD!』
「味、GOOD♪」
『味、GOOD!』
「すげえ、GOOD♪」
『すげえ、GOOD!』
「お前に、GOOD♪」
『お前に、GOOD!』
「俺に、GOOD♪」
『俺に、GOOD!』
 砂漠を駆けるエロ小唄の集団、キラは大声でそれを歌いながら走った。
 重りの増加で砂地にめり込む足が他の2人よりも深く、そこから持ち上げるのも踏み出すのにもキツイ。
 たかが10kg増えただけでも噴出す汗は倍に増え、持ち上げる足がもたつき何度もツンのめる。
 それでもキラは大声で歌って走った――そうする事で何も考えられないように――。

「…………」
「…ようアフメド、おぬしも久々にやってみるけ?」
「うわっ! 脅かすなよトレボー爺さん!」
 夜の帳が下りつつある薄暗い練兵場、アフメドはその木製の遊具の一つを見上げつつたたずんでいた。
「ひぇっひぇっひぇっ、お前さんが何を考えとるか当ててみようか?」
「…止めろよな、そういう事」
「連合のあのパイロットはこのワシ自慢の遊び場を一周五分掛からずに周るぞい?
 あ奴に負けてないと思うんならば試してみりゃええ」
「うるさいな、ほっとけよ!」
「ひぃ~っひぇっひぇっ…じゃ~ぁの~ぉ、わしゃ寝るからかってにせい。
 ……いつ見ても若者の葛藤と焦りは面白い……ひゃっひゃっひゃ……」
「妖怪めっ!」
 楽しげに立ち去るトレボー爺さんが見えなくなるまで見送って、アフメドはスタート地点に立って時計を確認した。

「よし、今日の訓練は終了。 総員解散!」
「「「サー・サンキュー・サー!」」」
 最後の砂漠ランニング後の整備体操を終えてサンダース軍曹の訓練終了の声が響き渡り、トールとカズイは全身に広がる疲労と空腹と汗と砂の嫌な感触にまみれて足を引きずるように更衣室へ戻ろうと歩を進める。
 …ふとキラが付いてこない事に気が付き足を止めるが、サンダース軍曹と話しているようだったので2人顔を見合わせてそっとしておこうとう頷き合って足を進めた。
「……サー、サンダース軍曹……」
「ヤマト少尉、訓練が終わればサーはいりませんよ…自分は少尉より下の階級です」
 これがつい先程まで汚い言葉で罵りケツを蹴り飛ばしていた鬼軍曹の態度だろうかとキラは疑問に思う。
 その疑問が顔に出たのか、サンダース軍曹は聞かれる前に――聞かれなかったかもしれないが――答えた。
「自分は命令で少尉達を訓練しています…そして新兵訓練とはこういう物なのです」
「あの口調とか…シゴキもなんですか?」
「はい、フラガ少佐も言っていました…この世界の軍隊でも大して変わらないと」
「そうなんですか……」
 それっきり下を向いてしまうキラ…何か話そうとしているが踏ん切りがつかない…そんな感じだ。
 なんとなく思い当たったサンダース軍曹はキラが話し出すのを待たずに先に話し出す。
「ヤマト少尉……自分は隊長と違って不器用ですから…今の少尉に何も助言する事はできません。
 …ですが自主訓練であれば自分に止める権限はありません、何も考えたくない時は身体を動かすのが一番です」
 はっと顔を上げるキラ。
「じゃぁ…行って来ます」
「お待ちください少尉、訓練は終了しているのでボディアーマーは取った方がいいのではないでしょうか?」
「いえ……いいんです、これで」
「では荷物の中にレーションが入っていますから食事だけはきちんと取って、それと敵襲があるかも知れませんので自主訓練は砂漠へは行かずに練兵場内だけにしてください。
 ……………ああそうだ!」
 一礼して十数歩歩き出したキラの背中にサンダース軍曹は声をかけ、キラは振り向いた。
「少尉、自分はもしかしたら練兵場に忘れ物をしたかも知れません。
 今はやる事があるので行けませんが、三時間ぐらい経ったら取りに行きます」
「え……それって…………?
 ……。
 …………!
 サー、ありがとうございます、サー!」
「サーは要りませんよ、少尉!」
 装備を担ぎ直して艦内に戻るサンダース軍曹が見えなくなるまで、キラはその場で敬礼を続けていた。

「あ~、受刑者が戻ってきたよ!」
「お勤めご苦労様です」
「これで前科持ちですね、隊長」
「この艦の牢屋はどうでした? 僕がジオンに捕まった時は普通の地下倉庫だったから…」
「からかうなよ、みんな」
 24時間経って開放されたシローが食堂へやってくると8小隊の面々は立ち上がって笑顔と軽口と敬礼で出迎えた。
「懲罰を受けた者の刑期を他人とで人数割りしたなんて始めて聞きましたよ!」
「三日もアーガイル二等兵を新兵訓練から外すとこっちの計画が狂うからな。
 ともかく、心配掛けてすまなかった」
 キキは謝るシローの腕を捕まえて座らせると、シローの食事を取りにカウンターへと向かう。
「で、何事も無かったか?」
「MSの消耗品やパーツの補給が数日中に来るらしいんですが…どうやって来るか良く判りません」
「スカグラの完熟訓練も順調です、もう自由に飛ばせるようになりました。
 こっちの飛行機は姿勢制御や空力制御装置が秀逸です…失速する事がほとんど無かったですよ」
「新兵訓練も順調です、ただヤマト少尉に……」
「何かあったか?」
「はい。 昨晩姿が見えなくなったというので探したんですが…自分が船体下部の通路で倒れている所を発見し、特に外傷は無かったので部屋まで運んで、アルスター二等兵を追い出して寝かせました。
 それに今日の訓練で予定通り重石を着させましたが…多少情緒不安定な部分はありましたが服従していました、自分がコーディネイターと叫ばせるのも最終的には従いましたし…。
 なにかこう鬼気迫るというか、何かかを吹っ切りたいというか……今も自主訓練していますよ」
「あのフレイって子が『男は何考えてるか分からない』って漏らしてたよ…あの二人、絶対何かあったね!」
 シローに食事の乗ったトレイを渡しながら隣に座るキキも、フレイにも微妙な変化や戸惑いがあると伝える。
「今日はいつもと違う使う乳液を使ってた、きっと置いてた場所…キラの部屋に入れなかったんだろうな」
「ふぅん……そうか……アーガイル二等兵の様子も考えると……。
 うん、予想以上に上手く行きそうだな!」
「隊長、本当に大丈夫なんですか?
 自分の医学生としての経験から言わせて貰いますが、心身共に追い詰めるような訓練はいい影響は出ないと思います」
「でも隊長ぉ、コーディネイターって事を隠していた人間に自分から『自分はコーディネイターです!』って叫ばせるのはヤバくありませんか?」
「いや大丈夫、全てはうまく行っている。
 それにな、この手のPTSDやASDに関しては俺は専門家みたいなものだ…なにせ俺には実績があるからな。
 トラウマを克服するのに最初に必要な事は心を鍛える事じゃない、自分を見つめ直して自分を知る…自分の状態をしっかり把握する事だ。
 何かから逃げてたり目を逸らしている内は…一見立ち直れたように見えても真に克服した事にはならない」
「へぇ…最近の士官学校じゃそんな事まで教えるんですか…」
「確かに部下にそういう者が出た時の対処ってのは必要かも知れませんね」
「まぁそんな所だ、皆もこれまで通り進めてくれ。
 カレン、それでMSのパーツの方の詳細は……」
 一日外界と切り離されていたシローは知りたい情報を順に聞き出して行く…小隊各人が何をしていたかの把握も小隊長として、異世界に飛ばされて生還を目指すチームとしては必要な事だからだ。
 そして心の中でそっと付け加える。
『……まぁ克服させたのは…俺自身だけどな……』

「はぁっ…はぁっ…はぁっ!」
 アフメドは木製の遊具に寄りかかって荒い息を吐いていた。
 確かにロクな準備運動もせずいきなり全開でやった、それにしても普段から鍛えている俺は連合の甘ちゃん達とは違う筈だ…。
 口を大きく開けて空気を取り込む、汗が顎から滴る、痛む心臓を動機を抑えるようにグッと押さえる…。
 ……確かに一周5分で周る事はできる…何も持っていない今の状態であれば……!
 それに奴は一度しかしない訳ではな…俺の訓練の時だって十週はした…ここを重い装備を背負って一週5分で十週以上――!
「連合のパイロットは…バケモノかっ!」
 よろよろと休むべく練兵場の隅にある井戸まで歩き、水をくみ上げて浴びるように飲んでから大の字になってばったりと倒れこむ。
「一週5分…こんなペースを…続けられる訳が無い…あの爺さん…俺に嘘を吐きやがったんだ…!」
 息切れする荒い息で悪態を付いて寝転んでいると、ふと誰かが近寄ってきたのに気が付いた。
 カガリでもやって来たのかと期待し、同時にこのみっともない姿を見られたく無いと思って疲れている肉体を無視して岩陰に滑り込んだ。
「あれは……連合のパイロット!?」
 確かにそれはキラであった…キラはレーションをその辺で食し練兵場にやって来たのだ。
 そこで軽く身体を動かしてからアフメドがすぐ前に走り抜けた練兵場の周回を始める……確かに自分と同じぐらいのスピードだ……自分はあのような装備は付けてなかったが。
 そう確認するとアフメドはまるで憎悪するように激しくキラを睨んだが……無心になろうと、何も考えないでいたいとひたすら障害を超えるキラはアフメドの視線には気が付かずに周回を続けていた。

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