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08MS-SEED_96_第4話6

Last-modified: 2013-10-25 (金) 02:33:41

「うわぁぁぁぁぁぁ……」
 叫びも肺が錐もみのGに押し潰されて途切れて行く中、ミケルは重いまぶたを開ける…片方しか開けられなかったが。
 こうなっては脱出もままならない……一瞬諦めが全身を支配する……だが。
『諦めたらそこで終わりだ!』
 シローの言葉が再び頭をよぎり、振り返る事も出来ないが今でもシローは何とかしようとしていると確信する。
 そう思うと自分が先に諦めてしまう事はできない…自分は生きて再びB・Bに逢うと決め、隊長は絶対にUCに帰してやると誓ったのだ。
「……くっ!」
 今だ離していない操縦桿を引き起こすが機首が上がる気配は無い、錐もみしているせいで揚力を得られてい
ないのか未だにコントロール不能が続いたままだ……砂漠がどんどん近づいてくる。
 スカイグラスパーの機体制御機能は素人がシミュレーターを数度経験しただけで操縦できてしまう程優秀で、
それは損害を受けた時の修復や修正機能も群を抜いて優秀だ。
 今頃は損傷箇所を考慮して各バランス等は自動的に補正され普段と同じく――多少は感覚に差があるだろうが――
操縦できるよう調整されているだろう。
 ともかく今は推力が足りない……元々空力よりもパワーで飛んでいるような重戦闘機、左側のエンジンが破
壊しメインエンジンも停止している今の状態ではミケルにできる事は無かった。

『くっ……ともかくバランスと推力を回復させなければ……っ!』
 Gで押さえつけられ全ての動作が重く制限される中、赤く点灯する表示と振り返った機体後方のキャノピー
越しに見える炎を見てシローはそう考えた。
 ディスプレイには左エンジンは破損、機体中央にあるメインエンジンは火災が発生して停止していると表示されている。
 片方吹き飛んでしまった電子戦パックを残った右側もパージ(投棄)する…これでAAとのリンケージは完全
に切れてしまうが、墜落するよりはマシだろう。
 これでいくらか左右バランスも取れただろう…本来であれば残った右ウェポンコンテナのミサイルも投棄し
たいが、錐もみ状態での発射は危険だしこの状況では発射のシークエンスも動くかどうか疑問だ。
『自動消火装置は……動いてないのか!? 手動で消火装置を……動けっ!』
 非常用の手動消火装置起動ボタンを押すも消火装置が動いた様子は無い……被弾時に一緒に壊れたか、回線
が断絶したままなのか……。
 それでもGで重たい腕を動かしてシローはボタンを押すしかなかった…他にできる事と言えば神にでも祈るしかないのだ。
『!!!』
 祈ってもいない異世界の神に祈りが届いたのか機体左側から炎が消え、ディスプレイに赤く『FIRE』と
表示され点滅していたエンジンのコンディションがただの停止状態に戻った。
「ミケル……エンジン再スタート!」
「っ! 了解!!」
 やはり隊長は生き残る努力を続けていた…と引きつった顔をほころばせながら、ミケルは鎮火し停止してい
るエンジンをスタートさせる。
 火は消えたものの再び動作できるかどうか…2度と動かないほど壊れていないかどうかは判らないのだが、
ミケルはイグニッションキー(点火ボタン)を祈るような気持ちで押し込む……が、反応は無い。
「隊長、動きません!!」
「もう一度確認しろ!」
 そう言われてミケルはディスプレイをもう一度確認――さっきは焦る余り状況を確認せずにイグニッション
キーを押した――すると、エンジンへの燃料供給栓が閉じている事に気が付く。
 スカイグラスパーが損傷・火災を感知して自動的に燃料の供給を遮断していたのだ。
 これはミケルのうっかり、燃料が来なければエンジンは動かない。
「すみません隊長、燃料供給栓がOFFになってました!」
「しっかしりろよ! エンジン再スタート!」
「了解……点火!!」
 燃料供給栓を開いて供給を再開させ状況をもう一度目で確認し、再びイグニッションキーを押し込むミケル……だが、必死の形相で見つめる先のエンジンは反応が無い……。
「隊長、動きません!!」
「……待てっ!」
 高度もそろそろ限界に近づく中でいよいよと涙目になって後部座席を仰ぐミケル。
 だが直後に感じた振動と金属音……この音は、エンジンが回転する音に違いない!
 そして2・3度咳き込むように黒煙を吐き出すと一層大きな爆音を立て、周囲の黒煙を吹き飛ばすように赤
い炎で大気中に咆哮を上げた。
「かかった! ミケル、上昇しろっ!」
「コントロールまだ効きません!!」
 旋回と反対方向に操縦桿を倒し回転を止めようとするものの、それどころか三舵のどの方向も効かない。
 恐らく激しい錐もみにより空気が翼表面に沿って流れる事ができずに揚力を得られないのだろうとミケルは
考えるが、ではどうやって回復させるかは錐もみを止めるしか思いつかず、それを止めるべくコントロールし
ようとするがそれが錐もみのせいで取れないのだ……考えは堂々巡りするだけで一向に思い付けない。
 錐もみ状態により血液の流れが偏って思考能力が低下している……そうでなくとも錐もみ状態からの復帰は
十分に経験を積んだパイロットでも無いと簡単に行くものではないのだ。
「ミケル、フロントノズル噴射!」
「!!!」
 シローの叫びはミケルの脳に電光石火な閃きが突き刺さったように衝撃を与え、即座に命令を実行する。
 すっかり忘れていたがスカイグラスパーはVTOL(垂直離陸機)であり、前方に噴射口を持っていて前後の
ノズルから噴出する事で垂直に離着陸を可能としているのだ。
 その前方のノズルから噴射、直後にがくんと速度が低下して前方に投げ出されるがシートベルトが2人を受け止める。
 それでもなお地面は近づくが…落下速度が抑えられたおかげかまだ重いものの操縦桿が効き始め、回転方向
と逆に回転するようにコントロールして錐もみ状態を脱出しつつ、地上すれすれで何とか水平飛行に戻す事に
成功したのだ。
「………ふぅ…」
「……やったな、ミケル!」
「もうダメかと思いましたよ隊長…フロントノズルの事なんてすっかり頭から消し飛んでました」
「俺もギリギリまで忘れていたよ!」
「速度が落ちたのと、地面が近づいたんでグランドエフェクト(地面効果)で揚力が大きくなったんですかね」
「いや、確かに地面効果っていう現象はあるがそれは地面効果翼船やエクラノプランに使われる物であって今
のは関係ないんじゃないか?」
「そうですか……まぁ助かったから良しとしましょう」
「そうだな。 まずはフラガ少佐に連絡を取らないと…それなりに足止めしたが……まぁレジスタンス達が撤
退する時間は稼ぐことが出来ただろう。
 ミケル、機体の状態はどうだ?」
「はい、エンジンの出力は70%程度までしか出ません…左翼端のエンジンは壊れたままですし、メインエン
ジンもタービンが損傷しているのか……。
 武装は両翼の大口径機関砲が弾切れ…というか損傷時に誘爆しないよう自動的に投棄されました。
 機首の機関銃と右ウェポンコンテナの榴散弾頭ミサイルが残ってますが機関銃は1秒分も残っていません、
後は回転砲塔式ビーム砲ですね…こちらも発電機が不調でチャージ時間が倍近くになってます」
「継戦能力はあと1回戦ってとこか……。
 とにかく合流だ、しばらくこのまま戦場を離脱してから高度を取るぞ」
「了解!」

「ディアッカ、なにしてる、こっちを援護しろ!」
『…ゥチ! そ…なも…で!』
 ノイズの多い無線機から聞こえてくる声はこちらの声に対しての回答ではない。ディアッカも今この瞬間強敵と戦っているようだ。
「くそ…っ、連合にこんなに手練が…っ!!」
 自分に傷を付けたストライク、クルーゼ隊長をてこずらせた“エンデュミオンの鷹”、この2機以外にコー
ディネイターを…しかも赤服である自分とディアッカを苦労させる奴がいるとは……!
 宇宙(そら)では2機しか居なかったのだ、おそらく地上で合流したのだろう。
 だがそんな事を考えている場合ではないとすぐに気持ちを切り替える…今殺るべきは目の前のストライク!
 軽くバックステップをスラスターで行いつつ<シヴァ>をストライクに向けて放つ…サイドに大きく跳ばれて
避わされるが牽制で放ったのだ、当たるとは考えていない。
 実体弾のレールガンがPS装甲のストライクに効果があるとは思わない、だが実体弾でも命中すると確実に
バッテリーを消費する……同じPS装甲を持つMSに乗っているイザークには効果が無いと判っていてもバッ
テリーを消費しない為に回避行動を取る――その方がバッテリーの消費は少ない――事は判っていた。
「そこっ!」
 サイドにステップして着地寸前のストライクに向かって今度はスラスターを全開にして前方にダッシュしな
がらビームライフルを放つ……前ダッシュビームライフルと言う訳だ。
 中距離以上離れるとどうしても狙いがズレるが、この距離であればMSのサイズ以上にはズレないので命中させる事ができる。
「くぅっ!」
 キラはサイドステップの着地寸前に放たれたデュエルのビームライフルを察知して更に避わそうとしたが、
着地寸前の機体は推力より重力が上回り敏捷に動ける状態ではない……デュエルの攻撃のタイミングの絶妙さ
に内心舌を巻きつつ、キラはシールドを前方にかざしてGに奥歯を噛んで耐えながら無理矢理上昇した。
 ビームライフルと言えどキャパシタに電力を溜めるチャージ時間が数秒あって連続射撃は行えない…ストライクに比べ
デュエルには<シヴァ>とビームライフルの2種類(イーゲルシュテルンを除く)の射撃兵器があるので使える戦法だ。
 デュエルのビームライフルはシールドに命中したが、上昇した事で命中場所を動かしてコーティングが蒸発
して貫通される事は無く済んだ。
 だが緊急回避的な瞬間的上昇の直後すぐに機体は降下する……キラはがビームライフルを撃ったままの勢い
で更に突っ込んで来るを見てやはりこのパイロットが並の敵ではない事を再認識した。
「うおおおぉぉぉっ!」
 シールドを失った左手でビームサーベルを抜き放ち、降下してくるストライクに切りかかるデュエル。
「!?」
 イザークはしかし真っ直ぐ突撃していた所を無理矢理機体を捻って右側に推力を集め、力技で左側に方向を変えた。
 後ろに吹かしていた物を無理矢理右側にしたために方向を変えられたが、結果として無様に砂上を滑る事に
なる…だが上空からつるべ落としに<アグニ>を撃ってきたスカイグラスパーの攻撃を避わすには仕方がない。
「くそっ…チャンスだった物をっ!!」
 すかさず起き上がる動作と同じく左斜め前に推力で機体を全開で滑らせる…厳しいGと共にデュエルが回避
を取った隙に着地したストライクが攻撃してくると読んだからだったが、イザークのこの読みは当たりストラ
イクの放ったビームライフルは砂をガラス化させただけに終わった。
「さすがに…やるっ!」
「キラ、このままじゃ拉致があかん……俺に考えがある」
「少佐、何か作戦でも? 」
「ああ……お前今からスラスターでのジャンプや左右ステップ禁止な」
「えぇっ!? それじゃぁ回避行動が…」
「泣き事言いなさんな! スラスターは前後なら使っていい、なるべく早く仕掛けてやるから……」
 スカイグラスパーが飛び去り、再び戦場はストライクvsデュエルの一騎打ちとなる……スカイグラスパー
は固定翼機であり一箇所には止まれない為――スカイグラスパーはVTOLなので静止した状態も可能だがそ
れは的以外の何者でも無い――空中を失速しないように移動しつつヒット&アウェイを取るしかないのだ。
「邪魔者が入らない内に…決める!」
 イザークがビームライフルと<シヴァ>を交互に撃つ事で途切れの無い弾幕をストライクに仕掛けると、攻撃
に気後れしたのかストライクはバックステップを繰り返しながら牽制にしかならない攻撃を放つだけだ。
「そんな事で俺の攻撃を避わせるとーーーっ!!」
 歩行や走行…ともかく砂漠に脚を付けるとバランスを崩しかねない状況でイザークはスラスターによる低空
飛行を多用するようにしていた。
 推進剤の消耗は激しいが歩く度に倒れるそうになって移動も攻撃もどちらも疎かになるよりはマシ、どうし
ても脚を付かなければならない時は全神経をバランス取りに集中すればいいのだ。
 その瞬間は決定的な弱点になるものの全てをバランス調整と次へのステップに注げば次の行動に早く移れる
し、何より奴を倒すのにそう時間を掛ける気はさらさら無い!
 一端砂を撒き散らして着地し、盾を構えてビームライフルを突き出して射撃しつつ右周りに歩行するストラ
イクの右斜め前方にスラスターを噴射して跳ぶ。
 直線的な軌道では落とされに行くような物、各部のノズルと姿勢を動かしてスラスターの角度を変える事で
跳躍中にも軌道を変えつつストライクに射撃する事を忘れない。
 ストライクは何か異常が起こったのかそれまでのようなスラスター回避を行わず、脚で歩く事で回避運動を
取っていた…既に何回か攻撃が当たってるがビームライフルはシールドで、<シヴァ>は機体本体で受けている
のでほとんど被害は与えていないだろう。
 だがそんな攻撃がストライクに損害を与えスラスターでの回避行動を封じれたのだ、無駄ではない……
イザークはそう考えつつ突撃のタイミングを計る。
 何度目かの接地の後イザークは攻撃パターンを変えた…ビームライフルと<シヴァ>を同時に撃ったのだ。
 例えコーディネイターであろうが同時に飛翔する攻撃をそれぞれ見切って受ける事は不可能、シールドで受
ければ実弾である<シヴァ>がシールドを破壊し、本体で受ければビームライフルがPS装甲を貫く。
「うわわっ!」
 キラは咄嗟に脚を止めてストライクを屈ませ、シールドの先端を突き出してシールドを斜めに構えた。
 そうする事でシールドに当たったビームライフルの断面を大きくしてコーティングの消耗を抑え、
また<シヴァ>の実弾攻撃に対しても避弾傾始を取る事でシールドの装甲を厚くし弾き易くなる。
 こうしてデュエルの攻撃を凌いだのだが……それはイザークも予測の上。
「脚が止まったぞ、ストライクっ!!」
 その瞬間を待っていたように、イザークはフルスロットルで脚が止まったストライクに突貫した…もちろん
左手
のビームサーベルは既にその刀身を延ばしており、それはストライクを斬れる事に打ち震えるように揺らめいていた。
「しまった、接近されるっ!」
 しゃがんだ上にシールドで攻撃を受け流した為体勢はかなり悪い……スラスターを使って跳べば避わせない
訳では無いだろうがそれはムゥにより禁止されている。
「く…っ!」
 覚悟を決めてインファイトをする為にビームライフルを腰のラッチに戻してビームサーベルを抜こうか……
と思った時、通信機がムゥの大声を届けた。
「キラ、上だ! 跳べ!!」
「!!!」
 スラスター解禁の叫び声でキラは脚をバネのように大地を蹴る事で初速を付け、全ての推力を下へ向けて噴
射し体をキシませるGと共に上空へと飛び上がった。
「くそっ、スラスターは生きていたのか……なにっ!?」
「もらった!!」
 コンマ数秒前までストライクがしゃがんでいた空間を左手のビームサーベルが薙ぎ払ったがもうストライク
はそこに居らず空を斬っただけ。
 そしてイザークが驚愕したのはストライクの後ろからスカイグラスパーが迫ってきていて<アグニ>を放ったからだ。
 ストライクを盾にしてスカイグラスパーは密かに接近していたのだ……イザークは迫り来る<アグニ>の光を
見つつ、ストライクはスラスター故障したかのように見せかけて自分を罠にハメた事を思い知らされた。
 ムゥは操縦テクニックや射撃の精密さや判断力や胆力や度胸…そして“カン”のどれもが一流の押しも押さ
れもしないエースパイロットであるが更に決定的に他のパイロットと違い非常に高い能力を持っている……そ
れが『空間認識能力』である。
 宇宙(そら)での彼の乗機がメビウス・0である事が示すようにこの能力は、自分と有線式ガンバレルと目標
や味方そして壁やデブリ等の障害物…空間にあるもの全てを認識した上で目標の移動先を見極めて有線式ガン
バレルで攻撃するのだ。
 この『空間認識能力』そしてそれら全てを脳内で処理して思うがままに操る能力がなければメビウス・0で
エースには成れない所か有線式ガンバレルを思うように操る事さえ出来はしない。
 『空間把握能力』が高いとは、敵や味方の位置をプロットしそれらが動いたとしても立体的にそれらを把握
できる能力であり、今回は移動するストライクとデュエルと自分を常に一直線に成るように移動しデュエルの
隙を伺っていたのだ……3次元的な宇宙空間をメビウス・0で多数の敵と有線式ガンバレルで戦っていた時に
比べれば認識する数は少なく地上での戦いは2次元、ムゥにとっては朝飯パクパク!な事なのだ。
 こうして自分が罠にハメられた事と自分が相手にしているのが連合切ってのエースパイロットだと言うこと
を思い知らされたイザークであったが、思い知らされっぱなしになるイザークではない。
 <アグニ>を放たれたと認識した瞬間にその場に下に向かってスラスターを噴射、砂漠に無様に突っ伏すハメ
にはなるが直撃を避わそうとする。
「浅いかっ!?」
「うぉぉっ!」
 ムゥの放った<アグニ>は前のめりになっていたデュエルの右肩口に命中、アサルトシュラウドの装甲ごと<シヴァ>を破壊、それでも余力のあった<アグニ>がデュエルの肩の装甲の一部を抉ってフレームを露出させた。
「そこだっ!」
「ぬしゃーーーっ!!」
 さらに上空のキラが砂漠に無様に突っ込んでうつ伏せになったデュエルを真上からビームライフルを射撃。
 外れる筈の無い距離……だった筈だが、意味を持たない奇声というか雄叫びを上げつつイザークは砂漠を蹴
り上げデュエルで前転、MSででんぐり返りをすると言う前代未聞の行動を取って直撃を避けたのだ。
 しかし無事では済む程キラも甘くは無い……キラはビームライフルを放った時のデュエルの前転でビームラ
イフルが外れたと思った瞬間、頭部のイーゲルシュテルンを打ち下ろして前転の際に残ったデュエルが腕に持って
いたPS装甲では無いデュエルのビームライフルの数箇所を破壊。
 ビームライフルが役に立たなくなったと見切ったイザークは舌打ちしつつビームライフルから手を離してネック
スプリングの要領でデュエルを跳ね上がらせ、起き上がりの駄賃とばかりに左手のビームサーベルですれ違う
ムゥのスカイグラスパーに斬りつけた。
「くっ!」
 高度十数mで高速飛行する中で墜落もせずに更に機体を捻る超高等技術を見せ付け、ムゥは尾翼の一部をビーム
サーベルで焦がされつつギリギリで回避して即座に上昇に移る…デュエルに畳み掛けたい所だが速度か高度を
稼いでおかなければ自分が危ない……エースパイロットは決して無理をしないものだ。
「きしゃまぁーーーーっ!」
 デュエルを立たせたが脚を取られてそのままつんのめりそうになるデュエル…だが機体をターンさせてスト
ライクに無理矢理向きを変えると、周囲に飛び散った砂全てを吹き飛ばそうとするような噴射で地面に着地す
るストライクへ弾丸のように突貫する!
「来るっ!!」
 イーゲルシュテルンでデュエルのビームライフルを破壊したのはいいがその代償にストライクはそのまま着
地してしまい、デュエルの突貫を避わす余裕は無い。
 キラは格闘戦を行う覚悟を決めシールドを前に突き出しながら腰のラッチにビームライフルを装着し、空い
た右腕でエールストライクに装備されていたビームサーベルを抜いた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
 左上から袈裟懸けにシールドごと斬り裂かんと振り下ろされるデュエルのビームサーベル。
「くそぉ…っ!」
 後ろに跳び退って避けるキラ。
 デュエルは左腕に持ったビームサーベルを使っていたが…これは左手にシールドを持つストライクにとって
その反対側から攻撃されている事になり、シールドでの防御がし難くなっていた。
 その為シールドを前面に突き出しシールドでカバーしきれない右半身を一歩引かせると当然右腕も後ろの方に来る……。
 つまりビームサーベルを繰り出そうにも右手を振るうには引いてある右半身を前に出さねばならず、その短
い瞬間はデュエルに攻撃される無防備な時間を晒すハメになるのだ。
 イザークはもちろんそれを踏まえて左手に持ったままビームサーベルを使っている…赤服は伊達ではない。
「どうしたストライク! 押されっぱなしだぞ!!」
 ビームサーベルを左上から袈裟斬りに振り下ろし、返すビームサーベルを腰程度まで戻して水平に振るう。
 これらを全てバックステップで避わされたイザークだが、それでも更にスラスターで空中に浮きながら前進
しつつ斬り込みをかける……着地したら脚を滑らせる可能性があったからだ。
「このままじゃ…前に出なきゃ!」
 防戦一辺のキラは意を決して右手のビームサーベルを振り被ると、右脚を前に振り出しつつ右半身を前に進
めてビームサーベルを上段から斬り下げた。
「てぇぇぇぇぇっ!!」
「みえみえなんだよぉっ!」
 脚部のスラスターを使いつつ推力を真上からちょい後ろ気味に変更してデュエルは空中でホバリングし、
踏み込んでくると予測して斬り込んだキラの間合いを外して空振りさせた。
 右半身を引いていたストライクが攻撃する為には、イザークがそれぐらいの事ができる時間を有したのだ。
「ハズしたっ!?」
「これでぇぇぇぇぇっ!!」
 多少の斬り込みではストライクは斬れない…ストライクが空振りした今この瞬間こそ好機!
 イザークは更にスラスターを吹かして左腕を上段に振り被りつつ体当たりをかけるように突進すると、
今度こそストライクを真っ二つにするべくビームサーベルを振り下ろした。
「しまった!」
「死っっっねぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
 避わすには体勢が悪く、エールの推力を使おうが最早間に合わない。
 ならば反撃だ……振り下ろしきった右腕を振り上げればデュエルの左腕を切り落として無事かもしれない。
 しかしストライクもデュエルもいわば同系機…腕を動かすモーターはほぼ同じであり、それであれば重力を
味方に機体ごとビームサーベルを斬り降ろすデュエルに、今腕を振り下ろしたばかりのストライクの腕の降り
上げる速度が勝る筈が無い……このままでは殺られるのは……自分だけ!?
「殺られるっ!?」
 瞬間、それまでの人生を思い出す……これが俗に言う走馬灯なのか!?
 とキラの脳裏に印象に有ることからすっかり忘れていた事まで、流れるようにそれまでの事が思い出された……。
『……お前みたいに機体を素早く正確に操作できる場合は、突きを高速で繰り出した方がいい……』
 その時思い出していたのは出撃前のシローの言葉であった…そしてそれが引き金となりその前後の出来事が
頭の中を駆け巡った……その途端死を目前に朦朧としていた意識が霧が晴れるようにクリアーになる。
「……これかっ!」
 キラは腕を振り上げて斬り上げるのでは無く、左の軸脚で砂漠を蹴って右脚を踏み込んで前へと体を伸ばす
とビームサーベルを持った右腕を水平に伸ばす事でデュエルを突いた……まるでフェンシングのように。
 先にビームサーベルを当てたのは確かにイザークである。
 キラが踏み込んで腕を伸ばした為にストライクの肩のラインより上にあるショルダーアーマーにビームサー
ベルの中程が触れる……その先端はストライクの頭部のすぐ横を通過しており、そのまま下に降り降ろせば十
分にコクピットやバッテリーをも斬り裂ける位置に当たったのだ。
 ショルダーアーマーに当てられたビームサーベルはPS装甲であるその部分を周囲に閃光と火花を散らしつつ
易々とビームサーベルの幅分切断して更にその下にある上腕の部分まで達する……だが、それまでだった。
 ビームサーベルはPS装甲で無力化できない。
 それ故に最初に当たったショルダーアーマーは斬り裂かれたが、それはビームサーベルの角度とショルダー
アーマーの角度がほぼ水平となった結果、触れた面が一番大きかったからでもある。
 だが、断熱圧縮による空力加熱や大気圏との摩擦等で1500度以上にまでなる大気圏突入時の熱にも耐え
るのがPS装甲だ。
 そしてイザークは、ストライクよりも先に攻撃する為に剣速を最大以上に加速していた。
 その為ショルダーアーマーを切り裂いた後の上腕から脇腹を高速で通過したビームサーベルの直径大のビーム
の通過にも、PS装甲はその表面を焦がされ裂かれ溶かされつつも完全に切り裂かれる事なく内部を護り切ったのだ。
 まさに棒状にビームを固定しているだけのCE式ビームサーベルの欠点を露呈した結果と言えよう。
 即ち……ホースから出しっぱなしの水のように物体に命中しても速度が落ちない為に振り下ろした速度で通過
したビームサーベルのエネルギーでは、当たった面積が大きく無い限りはビームライフルが普通に命中した時よ
りも装甲に与えるエネルギーが小さく…装甲を完全に破壊して内部にダメージを与える前に過ぎ去ってしまうのだ。
 もしこれがUCのビームサーベルであれば、振り下ろしたビームサーベルはM粒子の作った“力場”により
当たった後で斥力により速度を落とし……PS装甲であろうが斬り裂くのに十分なエネルギーを与えつつゆっ
くりとストライクを袈裟懸けに斬り裂いた事であろう……熱したナイフでバターを斬るように。
 もしもイザークがゆっくりとビームサーベルを降っていたならPS装甲を破壊するだけのダメージを与えら
れる為に装甲を切り裂いて内部にもダメージを与え、ストライク自身にも致命的なダメージを与えただろう
――もっともその場合はキラに回避や反撃の余裕を与える事になるだろうが――。
 もしくは対艦刀「シュベルトゲーベル」のような両端からビームを繰り出すより強力な近接武器であれば
ビームサーベルなら通過しただけの速度でも切り裂けたかもしれない。
 だがそれらは所詮“IF”、今イザークは高速でCEのビームサーベルを降り抜いたのだ……それ故にスト
ライクには致命的なダメージは与えられなかった。
 対してキラの攻撃は突きである。
 キラの突いたビームサーベルもデュエルの左腕肩口に当たったが…アサルドシュラウドを貫き、PS装甲の
ショルダーアーマーも貫いて内部の上腕に命中する…上腕もPS装甲だ。
 だが突きだった為ビームサーベルは通り過ぎる事無くその場に止まり、ショルダーアーマーを貫いてなおも
エネルギーはその場に放出されている……それはそのまま上腕を貫いて内部に達し、デュエルは左腕の関節を
貫かれた上に一部は機体内部に入り込んだ。
 プロペラントの無い部分であり、また主にモーターで可動するCEのMS故に大爆発する事は無かったが…
小爆発とスパークを起しつつ、エネルギーの供給を絶たれたビームサーベルが縮みながらデュエルの左腕は砂漠に落ちた。
「なんだとぉぉぉぉぉぉっっっ!?」
 ビームサーベルの斬りと突き、UCとCEのビームサーベルの原理、そしてPS装甲……。
 これらの事が瞬間的に頭を駆け巡ってたどり着いた結論は、高速で切り下ろされたビームサーベルにPS装
甲が耐え抜く可能性と、突いたビームサーベルなら同じような状況で敵にダメージを与えれる可能性の2つだった。
 そしてキラはそれらの可能性という賭けに勝ったのだ。
「なぜだ~~~~~っ!!!」
 自分の必殺の攻撃を耐え抜かれた事をイザークは信じられない、いや、それどころか同じような…自分が有
利な攻撃をした筈なのにより大きなダメージを受けたのは自分なのだ。
 ビームサーベルで斬ればPS装甲でも斬れる、それぐらいしか連合製のビームサーベルと連合製のPS装甲
に対しての知識が無かったイザークにはこの現状は理解できなかった……それも仕方が無い事であろう。
 だが戦場では『仕方が無い』では済まされない。
 イザークは今自分に起こった事を否定するかのように気勢を上げ、残った右腕でビームサーベルを引き抜き
左腕を引き落とされた衝撃で膝を付いたデュエルを立ち上がらせ、ストライクへ斬りかかる。
 刹那の超思考と導き出した結論、その結論に沿って即座に行動を起す……1秒かかったかどうかのこの瞬間
はキラを想像以上に消耗させていた。
「ハァ…ハァ…はぁぁっ!!」
 刹那の超思考と導き出した結論、その結論に沿って即座に行動を起す……1秒かかったかどうかのこの瞬間
はキラを想像以上に消耗させていた。
「ハァ…ハァ…はぁぁっ!!」
 腕を斬り落としたデュエルを見つめるように荒い呼吸を肩で吸吐しいていたキラだが、奇声を上げて立ち上
がるイザークと同じくして気合を吐いたキラもデュエルへ振りかぶりつつ突貫した。
 砂を撒き散らしてストライクとデュエルがビームサーベルを閃かせつつ斬り結ぶ。
 デュエルが真上から斬り降ろすとストライクはサイドステップで左に避けそのまま突きを繰り出し、デュエ
ルがそれをぎりぎり身を右に捻って避わしそのまま全身を乗せた右肩からのショルダータックルをストライク
に繰り出せば、ストライクはそれをシールドで受けつつ左腕を下げて勢いを殺し、デュエルがそのまま右腕を
水平に降るってビームサーベルで斬ろうとしたのを上にジャンプしてバックジャンプで間合いを取る。
「この俺が二度も三度もぉぉぉっ!!」
 怒気を撒き散らして避けなければ確実に致命的な剣撃を繰り出すイザークと、冷静に判断して的確にそれを
避わして攻撃を繰り出すキラ。
 両者の戦いはまさしく一進一退、その剣の舞いは見る者を魅了するがごとく、しかし裸で真剣を使って斬り
合うような緊張感があった……。
 この巨人達の演舞はまるで永遠に続くかのように思われたが……その終焉はあっけなく訪れる。
 デュエルは今だ完全に砂漠には対応していない…ゆっくり歩く程度の適応性しかなく、故にイザークはスラ
スターでの空中機動を心掛けていたのだ。
 この砂上の斬り合いでは、今ではシロー達のもたらしたデータを取り込んだキラのOSにより完全に砂上の
戦いに対応したストライクと違い、まるで種も弾けよといわんばかりのイザークの集中力がデュエルをそれま
でのように倒れる事無く操作していたのだ……だが、その集中力も長くは続かなかった。
「うおぉぉぉっ!?」
 ほんの少し機体の流れる方向を制御し切れなかった…踏み込んだ脚を蹴り上げるのが早かった…右腕を振っ
た時に失った左腕とのバランスをしくじった……普段なら些細なこの小さなミス達が、致命的な機体バランス
の崩壊――ストライクのすぐ前で脚を滑らせて前に倒れる――を呼び込んでしまった。
「しまったぁっ!!」
「今だっ!」
 砂漠にうつ伏せに倒れたデュエル……そんな決定的なチャンスにもキラは冷静に、そして即座にデュエルの
失った左腕側にステップして突き降ろした…。
 こうなったら満身創痍のデュエルでは避ける事は最早不可能。
「こんな所でぇぇぇっっっ!!」
 機体を転がしつつ全推力で避けようとするイザークだが完全に砂漠に伏してしまった今、どうやろうともストライクの突きを避わせそうも無い……。
 それでも諦める事無く機体を操作しつつも、十数年の短い走馬灯を見るのは今度はイザークの番であった。

「待ってたぜ……この瞬間(とき)をっ!!」
 2体の巨人同士が光剣で斬り突き結ぶ生死を賭けた華麗な演舞を見せていた時、ディアッカはバスターを中
程度離れた砂丘の影に潜ませていた。
 そして94mm高エネルギー収束火線ライフルを前にし350mmガンランチャーを後ろに連結した超高インパルス
長射程狙撃ライフルを構え、その瞬間(とき)を待っていたのだ。
 ……狙撃するには2体の動きが早過ぎて誤射する可能性もあり狙いが付けられなかったからだ……誤射など赤服として最低の行為。
 ディアッカは射線がズレるのは地表から上昇する大気の揺らぎの為と考えていた…それはキラが修正した
『砂漠の熱対流』とは少し違ったが、外的要因で狙いが外れるという読みは外れていない。
 それにをスカイグラスパー2号機を撃墜(とディアッカは思っている)してからここまで移動するのに数回
の試射する事で狙いとズレを修正し、中距離程度であれば狙いもMSの大きさの中に納まる程度になっていた。
 左腕を失ったイザークには悪いがしばし様子を見、ストライクが停止する瞬間を待っていたのだ……その停
止する瞬間がイザークの大ピンチだったのは少々良心が痛んだが、自分がストライクを仕留めるには仕方ない。
 微調整も終了し、撃てば超高インパルス長射程狙撃ライフルから放たれたビームがストライクを貫く…そんな
瞬間を描きつつ舌なめずりしてトリガーに指をかける。
「さぁ、グゥレイトショットの時間だぜ!!」
 だがディアッカは前方に集中する余り、バスターの後ろの砂丘からゆっくりと上昇してくる機体に気が付く
のが遅れる……それは左側の翼端のエンジンブロックを破損した機体…ミケルとシローの乗るスカイグラスパー2号機が垂直離陸してきた姿だった。
「させるかぁっ!!」
 トリガーを引こうとした瞬間、殺気を感じたディアッカは後ろの視界を得る為にバスターを振り返らせつつ
機体を右に倒すようにわざとバランスを崩して倒れこむ……だが間に合わない、回転砲塔式ビーム砲から一直
線に伸びたビームはバスターの頭部に突き刺さる。
 それでもディアッカの回避行動により直撃は避けたが…バスターが振り返った事で後頭部のやや斜めから命
中してPS装甲を付き破り、そのまま内部を破壊しつつ頭部前面まで貫通したのだ。
 MSの頭部はセンサーの塊でもある…だが逆に言えば頭部内部にはそれらしかなく、またバスターは頭部に
イーゲルシュテルンも持っていない為に大爆発等は起こらない。
 小スパークとビームの命中した衝撃――ビームと言えど荷電化粒子を打ち出しているので反動もあれば衝撃
もある――に加えてディアッカが自分で機体を倒したので、バスターは砂漠に倒れ込んだ。
「隊長、ナイスショット!」
「なに、フラガ少佐のおかげさ」

 ミケル機がこの場所に潜伏していたのには訳がある……それを指示したのはムゥであった。
 ムゥがまだデュエルと交戦していた時、ミケルとシローからバスターを取り逃して自機も損害を受けたとの連絡があった。
『すみませんフラガ少佐、バスターの足止めも出来ずに…』
『いいって事よアマダ少尉…ミケルも無事なんだな?』
『ハイ、ただ機体はいつもの7…60%程度の推力しか出ませんし、残弾も残り一回の交戦分です』
『そっか……まぁ無事で何よりだ』
『戦力的には心許無いですが榴散弾頭ミサイルもあと一発残っています、バスターの足止めなら……』
『ちょい待ち! ん~……ミケル、この辺に移動して潜伏しておいてくれないか?』
『え、ハイ、可能ですが……』
『……バスター、もしくはデュエルをそこに追い込むんですね?』
『正解だアマダ少尉。
 より正確にはそっちはバスターを狙ってくれ、デュエルはキラと接近戦になってるから狙い難い。
 そっちを撃墜したと思い込んでるだろうバスターならば油断の一つもしてる筈だし、射撃戦メインのバスターな
ら狙撃しようと足を止めるだろうからな』
『なるほど~』
『了解しました、スカイグラスパー二号機はこれより指示されたポイントに潜伏します!』
『気を付けろよ…停止しているヒコーキが先に見つかったんじゃお終いだからな!』
 このような通信の後、シローとミケルは指示されたポイントにVTOLの特性を生かして潜み、ムゥは密か
にキラに指示を与えつつデュエルを誘導し、その戦場へバスターが移動しようとするとシローとミケルの潜ん
でいる位置を通過するようにしていたのだ…これもムゥの優れた『空間把握能力』とそれを有効に使いこなし
たムゥの指揮能力のおかげと言えよう。

「ミケル、いつまでも止まっているな! 反撃されるぞ、すぐ逃げろ!」
「りょっ、了解!」
「シィィィット!」
 モニターの一部がノイズしか映さないままのコクピットの中、ディアッカは撃たれたと思う方向にバスター
を転がらせて向かせミサイルポッドを……撃とうとしてこのままではミサイルを撃っても砂漠か機体に当たる
今の体勢を思い出し、超高インパルス長射程狙撃ライフルのドッキングを外して350mmガンランチャーを撃つ。
 もちろんその間にミケルは砂丘に沿って退避しており、散弾はむなしく砂漠と青空へ消えた……。
 頭部が破壊されて優秀なその照準システムも破壊されている為に、すぐ撃てたとしても当てられたかどうかは判らないが。

 
 

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