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08MS-SEED_96_第4話7

Last-modified: 2013-12-23 (月) 20:01:32

 イザークが砂漠に伏した時、頼みのディアッカもまた頭部を破壊されて砂漠を転がっていた……
その場にイザークとデュエルを救う者は居なかった、その筈であった。
「!!!」
 視界の隅で何かかが接近してくる気がしたキラは視線を向けて確認する前にその方向にシールドを掲げる。
 次の瞬間何かが命中したシールド上端はビームコーティングが全て剥げ落ちて貫通され、溶解したシールド
の構造物と光を撒き散らすビームの奔流がストライクを掠めて拡散して行ったのだ。
「一体何が!?」
 その場に止まっているのは得策ではない。 トドメを刺せる状態のデュエルはもったいないものの、まだそ
の位置も正体も把握していないがシールドを突き破るビーム兵器を持った新手が現れたのだ。
 キラはストライクをその場から大きく斜め後ろにバックステップさせ、そこからエールの推力を使って上昇を
……と操作しようとした瞬間ビームが飛んできた方の砂丘から何かが飛び出した。
 それは、遠目にはバクゥに見えたがカラーリングが今までと違っている……全体的にオレンジ色で所々に黄
色が入ったそのバクゥは砂丘を超え機体を現した瞬間、背中に背負った2連装のビーム砲から再びエネルギー
の奔流を放って来る……。
 バクゥのようにレールガンが砲口から撒き散らす火花やプラズマでビーム兵器っぽく見えるような品物では
ない、PS装甲を貫通して有り余る破壊力を持った光の煌めきを放っているのだ。
「くぅっ!」
 キラが思わず苦言を漏らす程の激しいGをもたらす推力を振りまいて、キラはストライクを上昇させその場
から一度引いた……正体不明の相手と戦うのにまずは間合いを取ってその力を見ようと思ったのである。
『待たせたな、少年達!』
「ば…バルトフェルド隊長!」
「助かったぜ!」
「損傷の激しい機体は今のうちに引いておけ、じきレセップスも来る」
「自分はまだやれます!」
「片腕の上に武器のほとんど失って何言ってんの……二機共合流して航空機に警戒して待機」
「しかし…!」
「ここは現場の指揮官に従え、君達の予備のMSは無いんだ……壊しちまったら次の出撃は当分来ないぞ」
「うぐっ……」
「判ったらそれ以上MS壊すなよ!
 ……さぁ~て、連合のMSがどの程度の物か見せてもらいましょうかっ!」
「フラガ少佐、敵の増援にバクゥが一機現れました!
 火力強化型らしくビーム兵器を搭載していて、細部が違いオレンジを主体としたカラーリングをしています!」
『なんだって、オレンジ色の……バクゥ!?
 気をつけろキラ、そいつはひょっとすると……“砂漠の虎”のお出ましかもしれん!』
「“砂漠の虎”?
 ……よし、試してやる!」
『気をつけろキラ、お前さんにはまだ……』
「やれます!」
 そう叫ぶとビームサーベルを元に戻して右腰のラッチからビームライフルを取り出し、上空から高速で接近
するオレンジ色のバクゥに向かってビームライフルを打ち下ろすキラのストライク。
 だが走りながら横っ飛びに跳ね退いてビームライフルを回避し、速度を微塵も落とさず接近してくる“砂漠
の虎”のオレンジ色のバクゥ。
「当たらない……っ!」
「正確な射撃だ……それ故に攻撃間隔さえ覚えれば回避は容易いよ、連合のMS君」
 キラの撃った数発のビームライフルでは速度を落とす事もできず牽制にもなっていなかった……それなりに
あった筈の距離もいつの間にかかなり接近してきている。
 今のキラのエールストライク滑空プログラムでは自由自在に空を飛べる訳ではない。
 上空へ飛翔し、振り返ってオレンジ色のバクゥに正対しビームライフルを撃っていたのでストライクは後ろ向
きに砂漠へ降下して行く……このままでは砂漠に降りた時にはオレンジ色のバクゥは目の前に来ているに違いない。
「だったら!」
 キラは再びビームライフルを右腰のラッチに戻すとビームサーベルを抜き放ち、着地と同時に全推力でオレ
ンジ色のバクゥの正面に突っ込んで行った。
「バクゥの弱点はアマダ少尉から聞いてるんだ!」
 最初にシローがバクゥと戦った時に見つけた弱点、それはバクゥが格闘戦では有効な攻撃武器を持っていな
いと言う事だ。
 正面から突っ込んでも体当たりや蹴り以上の攻撃は無い、シローのように受けても耐えきったり避けてしま
えばビームサーベルを持つストライクの方が有利とキラは判断する……。
 オレンジ色のバクゥはそれを知ってか真っ直ぐに駆けて来る……その様子はまさに犬まっしぐら、キラは
シールドを構えて来たるべき衝撃に備えながらオレンジ色のバクゥの距離を測った。
 殴る、蹴る、体当たり等と武器を持った時の違いは攻撃の間合いにも関係する、手足の長さに大した変わり
が無いならどうやっても武器を持つ方が間合いは長いのだ。
「はぁぁぁっ!」
 このままでならビームサーベルで突けば先に当てられる……キラはデュエルの左腕をもぎ取った必殺の
フェンシング風の突きをシールドの影から繰り出した。
「え…!?」
「格闘戦は素人だな……間合いが遠いっ!」
 キラが突きを放った瞬間、オレンジ色のバクゥは身体を小さく丸めるように身体を捻ってジャンプしていた
……キラの突きを読んでいたかのようにギリギリで――しかも余裕がある――避わされていた。
 まるで完全に間合いを見切られたかのようだとキラは愕然としたが、実の所小さな……そして大きな見落と
しがあったのだ。
 キラはただ単にオレンジ色のバクゥと考えていたが、バルトフェルドの乗るこのMSはTMF/A-803 LaGOWE(ラゴゥ)で
バクゥの後継機として開発されたが指揮官用に少数生産される事になる機体であり、副座型コクピットや出力の強化等により
機体サイズもまた一回り大きくなっている。
 だがキラもコンピュータはラゴゥもバクゥと考えていたし、レーダーの効きも悪く目視により距離を判断し
ていた為……距離を読み間違っていたのだ。
 ここで電子戦パックのESM(電子支援手段)が失われAAからのデータの送受信等の後方支援を喪失してい
た事が響いていた……AAの能力を持ってすればラゴゥがバクゥとは違うMS、少なくとも大きさが違うMS
と判断出来たであろう。
 かのように後方支援とは直接的な戦力ではないがその能力は前線の戦闘に直結する重要や要素であり、
それが無い今…代償は自ら払うしか無い。
 ほんの一回り大きいだけの大きさの勘違い……だがそのほんの少しの勘違いはエースパイロットでもある
バルトフェルドにとって付け入るのに十分過ぎる隙だった。
 空中で捻りつつ身体を伸ばしながら急速に接近するラゴゥ。
 キラは必殺の突きが避わされた事に少々動揺しつつも、上端が破壊されたシールドを掲げて体当たりを受け
ようとストライクの重心を下げつつ身構えた……だが、頭部の左右にある棒状の突起からストライクの持つ
ビームサーベルと同じ光の剣が突き出したのだ!
「ビームサーベル…っ!?」
「バクゥとは違うのだよ、バクゥとはっ!!」
 ストライクのシールドとラゴゥのビームサーベルが垂直に交差する……激しいスパークが辺りに飛び散りス
トライクのシールドは上半分がばっさりと切り落とされ、切断面は今だ赤熱化したまま砂漠に突き刺さった。
 シールドを斬り裂いてもラゴゥの勢いは止まらない…ストライクの顔面にPS装甲では防げない光の奔流が
迫り来る。
「!!!」
 キラは咄嗟に先程自分が見た光景…デュエルが自分から倒れる事で攻撃を避わしたと同じ様な手を取った。
 わざと脚を滑らせ上半身を後ろに仰け反らせ、まるでリンボーダンスのようにビームサーベルをかい潜ったのだ
……そのままでは砂漠に仰向けに倒れてしまうのでエールのスラスターを噴射してその状態をキープする事は忘れない。
 それでもギリギリ過ぎて頭部右側のアンテナがビームサーベルに触れる…そのとたん短く火花を発しながらアンテナは切り落とされた。
「避わせた!?」
 オレンジ色の機体が目の前を通り過ぎて瞬間安堵するキラ……このままエールの推力を上げて上半身を戻せ
ばすぐに体勢を立て直してすぐ反撃も可能だ、と体勢を戻そうとした時。
「まだまだっ!」
 ラゴゥは行き掛けの駄賃と言わんばかりに後ろ足でストライクの頭部と肩を踏み付けその反動で大きく跳躍し、
間合いを外すと同時にギリギリのバランスで仰け反った状態を保持していたストライクを砂漠に突き刺したのだ。
 即座にエールの推力を上げて周囲に炎と砂塵を撒き散らし砂漠から機体を引き抜いて急ぎ上昇するキラ……その直後
それまで居た場所にはラゴゥから放たれた2本のビームが突き刺さり、キラは嫌な汗が流れるのを感じずに居られなかった。
「っ……強い……っ!」
 先程までのデュエルとの戦いや今までの戦いが苦戦しなかった訳でもなく、決して楽だった訳でも無い。
 だが今この瞬間の戦いは、相手が数多くの実戦を潜り抜け戦闘と言うスキルを積み重ねたエースパイロット
であると言う事をただの一度で気が付かされたのだ。
「これが…“砂漠の虎”……っ!」
 半分に切り裂かれたシールドをラゴゥの方向に掲げつつ、その後ろに隠れるようにストライクの重心を落と
すストライク……脚に溜めがあるのでどんな攻撃も回避でき、また切りかかったら即座に反撃出来る……。
 そんな隙の無い体勢を見、バルトフェルドも相対するパイロットに非凡な物を感じていた。
「これだけの動き、ナチュラルに出来るとは思えん……いや、自分でそう思いたいだけか?
 なんにせよ、試させてもらおう!」
 砂漠での移動速度や旋回性や安定度は、いかにOSが砂漠に対応したストライクと言えども局地戦に特化したラゴゥには敵わない。
 あっと言う間にストライクの格闘戦距離から離れたラゴゥはストライクを中心に大きく周囲を旋回し始める。
「もうあんな遠くに…この距離じゃ……」
 キラはビームサーベルをエールに戻して腰のラッチからビームラーフルを取り出すが、その隙をバルトフェルドが見逃す筈も無い。
 横向きのまま2連装のビームキャノンを旋回させ、中心に居るストライクへ攻撃した。
「うわっ!」
 転がるように右に横っ跳びして砂漠の上で1回転して起き上がるストライク……その時既にラゴゥは顔の両
脇にビームサーベルを閃かせて目の前に接近していた。
「!!!」
 咄嗟にシールドをラッチから外してラゴゥの視界を奪うように正面に向けたまま放り出す。
「そんな物っ!」
 首の一薙ぎでバルトフェルドはシールドを切断、返す首の一閃でそのまま正面に居るストライクに切りかかった
……が、その場に見えたのは上空に抜けるストライクの脚のみでビームサーベルは飛び越んで避わされていた。
 シールドでラゴゥの視界を奪った一瞬にキラはラゴゥに向けてジャンプして飛び越えたのだ……しかしそれ
が精一杯で反撃できる余裕は無い。
 砂漠の砂を撒き散らして着地し、すぐ振り向いて禄に照準もつけずにビームライフルを放って牽制しつつ、
超人的な反射速度で左右に跳び退って回避したラゴゥの未来予想位置にビームライフルを放つキラ。
 だがラゴゥは前足を砂漠に差し込むようにして速度を落としてキラの予想を覆し、その上前片足を軸にして
機体方向をくるりと180度変え、正面に固定した2連装ビームキャンをストライクに放ったのである。
「凄い…っ!」
 その機体の操縦に上昇するGに奥歯を噛んで耐えるキラの口から思わず感嘆が漏れる……攻撃が避わされた
時点で上空へ飛翔してなんとか攻撃を回避していたのだ。
 攻防一体、回避行動が同時に次の攻撃に繋がる…こんなMSの操縦は今まで見た事が無い。
 上空に回避したストライクにラゴゥから容赦ない2本のビームが登ってくる…狙いはキッチリとストライク
の未来位置に向けられていた。
「くぅ……っ!」
 無理矢理機体を下に向けて飛翔する推力で地面に向かうストライク。
 推力以外にも重力加速度が付くのでビームが命中するより早く位置を変えることができた……当然砂漠に墜
落となるのであるが。
「ダメだ……僕の滑空プログラムじゃ移動が直線的過ぎて空中じゃただの的だ……っ!
 でも地上の速度は向こうが上……どうする……!?」
『キラ、無事か!?』
『ヤマト少尉、状況はどうなっている!?』
「フラガ少佐、アマダ少尉!
 このバクゥ……強敵です!
 二連装のビーム砲を装備して速度も運動性もこちら以上でビームサーベルも付いています!」
『……やはり“砂漠の虎”か……っ!?』
『無理をするな少尉、レジスタンスの退避はほぼ終わっている……直にでも撤退は可能だ!』
「でもエールストライクの滑空じゃただの的です!
 あのパイロット……“砂漠の虎”かは判りませんが、今の僕じゃアイツからは逃げ切れません!」
『ちぃ……よし、俺が奴に攻撃を仕掛ける、その隙に離れろ!』
「了解! 気を付けてください!!」
 上空からラゴゥに向かって急降下するムゥのスカイグラスパー、攻撃される前からバレルロールを描いて攻撃に備えていた。
「うるさいのが来たか……アイシャが居ないからあーゆー類は……ん……そうか…その手があったか……」
 上空から落ち降ろされる<アグニ>を速度を落とさないまままるで左右にテレポートするような速度のステップで身軽に交わすラゴゥ。
 お返しとばかりに上空に2連装ビームキャノンが銃口を持ち上げ、光の奔流をムゥのスカイグラスパーに向けて放つ。
「なんとぉっ!」
 バレルロールから更に機体をスピンさせつつ速度を上げて地上に落下するように突っ込むムゥ、砂漠の地表
ギリギリまで降下するとそれまでの位置エネルギーを速度に変えて高速でラゴゥから離れる。
 それにやや遅れるように追尾したラゴゥの2連装ビームキャノンは、ムゥのスカイグラスパーが速過ぎるの
か方向違いの方へビームを放っていた。
 結局ラゴゥをある程度牽制はできたがキラが逃げる程の時間が稼げた訳ではない……だが。
『……?』
『……?』
「……!?
 フラガ少佐、アマダ少尉、見ましたか今の!?」
『……ああ……どうやら』
『……気が付いたのが自分だけじゃないならば……間違い無いようですね』
『隊長、何かあったんですか?』
『ああ、大有りさミケル……今の少佐の機動を見て気付かなかったか?』
『ハァ…バレルロールから錐もみして加速しそのまま地上ギリギリで離脱なんて凄い操縦テクだと……』
「それだけじゃありませんニノリッチ伍長、この場合注目すべきは敵の行動です。
 上空から地上スレスレで離脱した少佐の機体に、奴のビーム砲は追従が遅れてあらぬ方向へ射撃した……」
『そうだ、つまり“砂漠の虎”のMSのビーム砲は旋回速度が遅い……そうだろキラ、アマダ少尉!』
「はい、もしくは照準の速度と砲自体の速度がシンクロしていないと言う事になりますが……どちらにしろ水
平方向で高速移動するなら奴の攻撃は当たらない可能性があります」
『よし……ちょっと試してみるか……!』
 ムゥは機体を巡らせるとビーム砲塔を機体横に向け高速でラゴゥの真横を通過するように動き、スレ違いざ
まにビーム砲で攻撃する。
 水平に近い状況からの攻撃なのでラゴゥはそれまでのようにサイドステップで回避できず、空中へジャンプ
してそれを回避。
 そのまま走りつつもビーム砲塔を旋回させてムゥのスカイグラスパーを攻撃したが、その方向はムゥに追い
付く事が出来ず30度以上の差で砂漠の空へ霧散していった。
「やっぱり……」
『ああ、奴のビーム砲には致命的な欠陥がある…っ!』
『そこを突けば離脱も可能だが、問題はストライクの移動速度か……いくら奴のビーム砲の追従速度が遅くて
もストライクの飛翔速度では捉えられてしまうんだな、ヤマト少尉』
「はい……それにバクゥ自体が方向を変えれば追従性の遅さはある程度相殺されてしまいます」
『『「…………」』』
『…………それにしても少佐、そんな低空でよくそこまで機動できますね』
 膠着しつつある戦場と重く圧し掛かる空気に耐え切れず、ミケルがムゥに先程からの高度な機動を褒めた。
『まぁ地面が近い程大気の密度が濃いからこそだよ……スカイグラスパーは安定性もいいし、砂漠の真昼の上
昇気流にでも乗っかれば多少無茶な機動しても失速はしないから……』
 ムゥもその軽口に乗り、その場の雰囲気をリラックスさせて良い知恵を出そうと試みる。
『……グランドエフェクト……地面効果……!?』
 その時、シローの頭に閃く物があった。
『地面効果……地面効果翼船……表面効果翼船……エクラノプラン……これだっ! ヤマト少尉!!』
「なっ、なんですか、突然!?」
『地面効果だ、ストライクで地面効果翼機みたいな事は出来ないか?』
「地面効果……確か高度が主翼の長さの半分よりも低くなると随伴渦と地面の干渉により自身への吹き下ろし
角が減少する事で空気抵抗が減少し、機体が同じピッチ角の場合は揚力係数が増加する……って奴ですか?」
 キラは自分の中にある知識を簡単にまとめてから口に出す……異世界人であるシローの言う『地面効果』が、
自分の知っている物と同じかどうかを確認したかったからだ。
 キラは少し前までは工業系カレッジに属していた素性を隠していたコーディネイターである……その能力故、ナチュラルとして彼らと同様の時間を過ごすだけでは大幅に時間が余っていた。
 そこでキラは暇つぶしと称して暇な時間の多くを図書館で過ごしていた経緯がある。
 コーディネイターのキラは本を読むスピードも速読法を会得しているナチュラルより早く、読むだけで十分
理解でき、そして記憶力も並ではない。
 その為工業系の知識全般をそこで記憶していたのだ。
 砂漠の熱対流や地面効果もその時に得た知識であり、それが今大いに役立っている……正に身に付けた芸(知識)
は無駄にはならないと言う典型であった。
 ……もっともこんな特殊な状況に置かれるの人物は滅多に居ないであろうが……。
『詳しくは知らないがきっとそれだ!
 翼が地面に近付けば揚力が増し空気抵抗が減るなら空中よりは速くなるだろ!』
 だからシローが詳しく知らないと言った時、ちょっとガッカリすると同時に物理法則はどこも変らないのだと納得する。
「……そうか……エールストライクの空中飛行は空気抵抗とかエールストライクの揚力が十分じゃないから推
力でそれを補って、それでも失速が怖くて空中での機動は制限されるし上昇後はゆっくりと降下するしか無い……。
 でも地面付近で揚力が増えて空気抵抗が減るならエールストライクでも飛行機みたいに動けるかも……っ!
 フラガ少佐、プログラムを作って試します……時間を稼いでください!」
『よぉし任せろ!』
『でも少佐、さっきのMSもこっちに合流しつつありますよ!』
『本当かミケル……ちっ、こっちに来やがったか……合流するつもりか?』
『少佐、MSの方は片腕機と頭部破損機です……そんなに怖くは無いでしょう。
 脚止めだけなら損傷しているこっちの機体でも可能です』
『判った、そっちは任せるが……無茶はするなよ。
 キラ、聞いての通りだ、俺達が時間稼ぐからさっさと作っちまえ!』
「了解、皆さんご無事で!」
 こうして3機は別々の方に散開した……それぞれの役目を果す為に。

 

 ムゥのスカイグラスパーはストライクとラゴゥの間を突っ切り、そのかなり前からランチャーストライクに
は右肩に装備される350mmガンランチャーから装填されている弾を一定間隔で発射し、それは空中で爆発する
と白煙を噴出して長い煙幕の回廊を作った。
「なに……スモークだと!?」
 驚くバルトフェルドの眼前に、時々きらきらと光を反射するチャフが混ぜられた真っ白な煙幕が壁のように立ち塞がる。
 本来ガンランチャーとは通常弾とミサイルの両方を撃てる砲を意味するものであり、ランチャーパックのガ
ンランチャーも複数の砲弾やミサイル等を発射できる射出装置として装備されていた。
 今回はレジスタンスの救出が主目的だったので、このガンランチャーには万が一交戦中から脱出しなければ
ならない時を考えてスモークディスチャージャー代りにチャフを含んだ煙幕弾が装填されていたのだ……
ここでもマードック班長の判断が功を成した形になる。
「何を……企んでいる?」
 バルトフェルドは煙幕の中には入らず、かといって停止する事も無く一定の距離を取って煙幕に沿って移動した
……戦車戦等で煙幕を展開して視界を塞ぎ、そこを突っ切って出てくる敵を狙い撃ったりするような作戦は古
来より良く使われてきた手だ。
 NJ影響下でロクにレーダーが使えないこの場所では主に目視で敵を確認しなければならない……こちらの
視線を塞ぎ、飛び出してきた所を攻撃するのは連合のMSのあの反射速度でなら可能だろう。
 また上空の航空機も油断ならない相手だ、煙幕の内部に飛び込んだとしても視界を塞がれるこちらの方が不
利になるし煙幕を張ったのは向こうなのだ……相手の作戦に乗ってやる必要は無い。
 さりとて脚を止めたり何もしないのも無策にも程がある、時間を稼ぐのが目的であるなら果させてしまうも
のの高速で煙幕を迂回した方がいいだろう。
 引くならそれはそれでいい、ラゴゥもアイシャの居ない今は本調子とは言いがたいのだから。
 そうしてバルトフェルドが周囲を警戒しながら移動していると……極太の光の凶弾が煙幕の壁を突き破るよ
うに突然襲い掛かってきた。
「なにっ!?」
 煙の壁を薙ぎ払って直進してきた光の凶弾、それはムゥのスカイグラスパーから放たれた<アグニ>である。
「レーダーも効かない地域――しかもご丁寧にチャフを仕込んだスモーク越しに――でどうやってこちらの位置をっ!?」
 驚くバルトフェルド……それでも自失呆然とする事が戦場では死を招く事は良く知っている。
 煙幕の回廊から離れランダムな回避行動を取りながら砂丘の陰まで退避しようと位置を変えるが、それでも
極太の光の凶弾はバルトフェルドをラゴゥを追従して迫り来る。
「ちぃっ、外れたか!?」
 ムゥは煙幕の回廊を作った後に反転して煙幕の反対側に回り込み、ラゴゥが居ると思われる位置に向かっ
て<アグニ>を撃ちこんだのである。
 これにはもちろんムゥの突出した『空間把握能力』を存分に発揮した攻撃である……ムゥはこの辺に居るだ
ろうと感じる場所に向かって<アグニ>を撃っていたのだ。
 完全な狙いでは無い……むしろ驚くほど正確な時もあれば、随分離れている時もある。
 しかし回避する方にとってはそちらの方が避け難い……来ると判っているなら良ければいいのだが、こう狙
いが適当だと避けた先に来る可能性があるからだ。
 ストライクも見失い追い立てられるように砂丘の陰に逃げ込んだ時、煙幕の壁を突き崩しつつバルトフェルド
の上空をムゥのスカイグラスパーが高速で通り過ぎていった。

 

「なぁイザーク、やっぱり離れてた方がいいんじゃないか?」
『何を言うディアッカ、このままではバルトフェルド隊長にストライクを取られるぞ……それでいいのか!』
 別にいいんだけどナァ……と、声には出さないが心の中でディアッカは呟く。
 交戦意欲旺盛なのは結構なんだがまずは自分の機体の状態を考えて欲しい、そして何より自分を巻き込まないで欲しい。
 顔にも声にも出さないがディアッカは心の中で何度目かのため息を吐いていた。
『それに……敵が来たぞ』
「なにっ、ストライクか!?」
『いや、MAだ。 大型砲が無いからお前が相手していた奴だろう』
 せめてもの手段として機体の損傷を理由に牛歩戦術を取っていたが相手はMA、その気になればすぐにやって来れるのだ。
「そうか……イザーク、被害を与えてる筈だが油断するな。
 奴は操縦が上手いと言うよりは戦い方が狡猾なタイプだ……一機でも舐めると痛い目に合うぞ」
『お前の被害を見れば判る……まったく、ナチュラルのパイロットは卑怯な奴しか居ないのか!』
 お前が直情過ぎるんだよ……と思うがもちろん口には出さない。
 無言で上空に350mmガンランチャーを向けると、早い段階で電磁レールガンから散弾を撃ち出した。
 牽制も兼ねての射撃であったが散弾は主に敵MAの後方に抜けて行く……きちんと狙えていない証拠だ。
「ちっ、やっぱいまいちだな」
『照準がか?』
「ああ、メインカメラが破損しているおかげで精度が出せない……お前だって飛び道具が無いんじゃないか?
 ここはこれ以上の損害を被るより引いた方が……」
『頭部の機関砲がまだ残っている!』
 釣べ落としに降下しつつたまに発砲するミケルのスカイグラスパーに向かって、よろよろと位置を変えつつ
頭部の<イーゲルシュテルン>を盛んに吐き出すイザークのデュエル。
「……奴にしては無策だな、こっちに損害を与えたんで舐めてるのか?
 急降下ってのはなぁ……こっちに向かってくる分当て易いんだよっ!」
 確かに目標への急降下は航空機は真っ直ぐに目標に向かう事になる、つまり航空機が近づいて来る為にどん
どん大きくなって行く……それはどんな回避行動を取ろうとも基本的に当て易い目標でしかない。
 ディアッカはバスターの350mmガンランチャーをチャージが終わり次第散弾を打ち上げつつ補助カメラから
の情報を総動員して敵MAを凝視して敵の回避パターンと撃つべきタイミングを計り、94mm高エネルギー収束
火線ライフルでの精密射撃を試みる。
 散弾の方は牽制と、敵MAの攻撃による損害できちんと照準が付けられなくなった事を意識させる為のフェイクだ。
 敵MAは相変わらず機体正面を向けたままなのが一直線に向かってきている証拠、油断している今が撃ち時。
「そこだっ!」
 ここまでは数々の騙し討ちや奇策で思わぬ苦戦を強いられたが、これで終わりと言わんばかりにディアッカ
は一発必中の心意気でトリガーを引いた。
「ホワァィ!?」
 だが、必殺の筈の攻撃は敵MAの上方をすり抜けしまったのである。
「何故だ、何で当たらないんだっ!」
 ディアッカとて赤服、MSによる偏差射撃の訓練は受けている、ところがこの場合敵MAは真っ直ぐに突っ込
んできているにも関わらず当たらないのだ……当たらない方がおかしい。
 ディアッカの焦り具合は最早狼狽と言ったレベルに達し、チャージが終わった94mm高エネルギー収束火線ラ
イフルも次々に撃ちまくったがそのいずれも掠らせる事もできず、逆にイザークに
『いつまでも無駄弾使ってないできちんと狙え!』
 と言われる始末……まぁイザークも<イーゲルシュテルン>を当てられずに既に弾切れになっていたのだが。
 そしてイザークがそのカラクリに気が付いたのは攻撃する武器の角度が水平に近づき、敵MAが地表スレス
レになって急降下から水平移動に移行してからであった。
「くそっ、そう言う事かっ!!」
 シローの指示でミケルが操縦したスカイグラスパーは単純に目標に向かって急降下していたのではない。
 スカイグラスパーの優秀な姿勢制御やVTOLも可能な可変ノズルを利用して常に敵MSに機体正面を正対
させながら、見せ掛けより降下角をさらに深く取りって降下していたのだ。
 レーダーが使用できない戦場、ましてやメインカメラを失った目視のみの射撃、そして相手に損害を与えた
から侮っていると思わせるMAの動きと、そう考えている上でのディアッカの行動……。
 悪条件が重なったと言うより、こっちがその状況に置かれて考えているであろう事を読み切られて罠に掛け
られたと認めざるを得なかった……しかもこんなに単純で簡単な罠に……。
 ディアッカは今まで自分が狡猾だと思っていたが敵はそれを上回っている……これでは狡猾ではなく迂闊ではないか!
 悔しさに奥歯を噛み締めながら武器のチャージが終わらずトリガーを引いても弾が出ないコンマ数秒……
それはディアッカには永遠にも感じる時間であった。
 特に敵MAが先程バスターをフェイズシフト・ダウンにさせたミサイルを発射したのであればなおさらである。
『ぐあぁっ!!』
「イザーク!」
 デュエルのアサルトシュラウドの無い部分がブレるようにボヤけ、灰色に変って行く。
 自分に来ると思ったミサイルが隣のイザークを襲ったのを見、自分を追い込むような狡猾な敵がほぼ戦力が
無いMSに使う意図を計りかねて首を捻るディアッカの頭上をスカイグラスパーが機体を180度捻って背面
飛行に移りながら通過する。
 何故背面飛行を……と更に首を捻ったディアッカが目線を上げてサブモニターで敵MAを確認した瞬間その
問題は氷解した、敵MAから光の筋が向かって来たのだ。
「ぐあぁっ!!」
『ディアッカ!』
 スカイグラスパーのビーム砲塔のビームはあくまで加速した粒子なので光速ではない、だが通常の実弾兵器
よりは余程高速である。
 たたらを踏むような優雅さとは程遠いステップだったが当てられるよりはマシ、そんな回避をしたものの避
けきれずに94mm高エネルギー収束火線ライフルとそれを持つ左腕の一部が破壊される。
「大丈夫、左腕の装備が殺られただけだ……くそっ、ナチュラルの癖にあの速度で当ててくるとは……っ!」

 

「隊長、良くあの速度で当てられましたね!
 背面飛行で上空を通過しろと言われた時には何の事かと思いましたが、この為だったんですか……っ!
 MSの頭上を通過するなんてヒヤヒヤ物でしたよ!」
「なぁに、種を明かせば簡単な数学さ。 あらかじめ砲塔を真後ろに向けて45度で固定しておいた。
 速度と高度が判れば後は何秒後に当てられる位置に来るかは暗算で求められる……それに、MSにとって直
上は死角みたいな物だからな、一番被害を受ける可能性も低かったし」
 高度と同じ距離だけ敵の頭上から移動した位置、それが背面飛行で真後ろ45度に固定したビーム砲塔が当
たる場所であり、高度と速度で簡単にはじき出せる……そしてその時間は宇宙(そら)でMS等を運用できるパ
イロットであれば、コンマ秒単位までの体感時間は叩き込まれていた。
 そう、シローは狙ったのではなく固定したビーム砲塔がその砲口を敵に向ける時間を計算して撃っただけなのだ。
「うまく当たってくれたようだな……これでヤマト少尉の時間を十分稼いだだろう。
 よし、反撃はこれからだ!」

 
 

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