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08_種を蒔く人after_第02話-1

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:45:04

第2話 旅立ちとすれ違い

 メイリンは安定期に入ってつわりも大分良くなったらしい。
 少し前まではメイクでも隠し切れない程やつれていたが、今では血色も良くマタニティドレス姿も板に付いている。若干メイクが濃いようにも見えるが。
 私は久しぶりにメイリンを行き付けの喫茶店に呼び出した。
 メイリンはお腹が空いているからとベーグルにワッフルにシフォンケーキに宇治金時を注文した。
 私はアイスティーをオーダーし、二人っきりの姉妹の会話を楽しんでいる。
 「何をいっているの?お姉ちゃんみたいな女が一人で生きて行ける訳無いじゃない」
 メイリンは嘲笑を浮かべて私を見据えている。予想通りのメイリンの反応に私は思わず鼻白んでしまった。
「私には判る。お姉ちゃんはシン・アスカを追い掛けてオーブに行くんでしょ。自分を棄てた男に未練があるなんて、女としてのプライドは無いの?恥ずかしいったらありゃしないわ」
 私が何も言えずにうつ向いていると、メイリンは追い討ちを掛けるかのようにまくしたてて来る。
「確かにお姉ちゃんは男にすがって生きていくしか能の無い女だわ。でもね、私、お姉ちゃんに幸せになって欲しいのよ。私の気持ち、判るわよね?」
 判らないと言えたらどんなに楽だろう。
 シンに未練が無いと言えば嘘になる。彼の感触は今でも残っている。
 けれど、私がオーブ行きを決めた理由は違う所にある。
 ラクス様だ。私はラクス様とメイリンの結婚式以来仲良くさせて頂いている。
 お茶を楽しんだり、長電話でお喋りをしたりしている中で、私はラクス様の心を読み取れたような気がしたのだ。
 議長に祭り上げられ窮屈な生活を余儀なくされ、恋人とは中々会えずに不安が続く日々。
 ラクス様は笑顔で自分は幸せだと言っていたけれど、私にはどこか寂しそうに見えた。
 勿論、メイリンも幸せだとは思えない。嫉妬や妬みではなく、本心からそう思うのだ。

 メイリンは立派なお婿さんを貰って、母親になる日も近い。一見幸せそうに見える。
 だがメイリンは周りから自分がどんな噂をされているかを知らない。
 ――男に媚を売る術だけをコーディネートされた女。
 ――計算高さが顔に滲み出ている女。
 ――婚前交渉を恥だと思わない女。
 聞くに耐えない破廉恥な噂もある。私はそんな噂を聞いて密かに幸せを感じている。
「メイリン、私が何をしようとアンタには関係無いわ。もう決めた事よ。オーブでの生活に慣れてきたら連絡するわ」
「関係あるわよ。お姉ちゃんは自分から幸せを棄てているじゃない。私はお姉ちゃんが哀れで――可哀想でならないのよ」
  私はメイリンの話をこれ以上聞きたく無かった。一刻も早くこの場を去りたかった。
「私が幸せかどうかは私が決める事よ。アンタには判らないだろうけれど。それに私はアンタと違って赤なのよ。それを肝に銘じておきなさい。じゃあね」
 メイリンの声が聞こえたが、私は無視して歩き出した。
 ふしだらだのあばずれだのおてもやんだのおかめちんこだのあっちょんぷりけだのと言われても、私には関係無い。
 除隊の手続きは進めてある。後は書類を提出するだけだ。
 オーブに向かうのに荷物は要らない。新しい生活を始めるのだから、全てを新しい土地で揃えたい。
 それ位の蓄えならある。何せ私はザフトの赤服だったのだから。

 ねえ、シン。アンタは今オーブで何をしているの?
 アンタはあの女の弟を殺したのよ。あの女から拒絶されたアンタの姿が目に浮かぶわ。
 アンタには私しかいないのよ。私だけがアンタを救えるの。
 だから、大きな声で今すぐ私の名前を呼んで。

「ラクス様。私、必ず帰って来ます。その時には一緒にお茶を楽しみましょうね」
 ルナマリアさんはそう言ってオーブへと旅立って行きました。
 メイリンさんの結婚式以来、私は彼女と仲良くさせて頂きました。私の家でホームパーティーをしたり、コスメや靴やジュエリーの話をしつつハーブティーを楽しんだり。
 ルナマリアさんは私を普通の女の子として扱ってくれる唯一の存在でした。
 議長と云う慣れない職務に疲れた私を癒してくれるかけがえのない親友でした。
 ふと時計を見やると、既に日付が変わっています。今夜もキラは午前様です。
 寂しくなどありません。キラは私の為に頑張っているのです。弱音など吐いてしまったらキラに申し訳ありません。
 例え寝室を別にしていたとしても、お互いの気持ちはいつも側にあると信じていたいのです。
 人は誰しもそれなりの悩みを抱いて迷いが消える事はありません。だからこそ生きていくのでしょう。
 私は用意しておいたキラの夜食をシンクにぶちまけました。いつもの事です。
 食器を洗いながら、私はミーア・キャンベルさんの歌を口ずさみました。
 私は彼女の事を嫌いにはなれません。彼女は私の可能性の一つだったと思うのです。
 彼女の歌に想いを馳せ、私は大きな声で歌いました。
「―きっとこの空は夢の形――」
 私の夢はキラが叶えてくれると約束してくれました。私はそれが間違いの始まりだとやっと気が付いたのです。
 夢は自分で叶えるものであって、誰かに叶えて貰うものではなかったのです。
 私はキラが帰って来るまで声を上げ続けました。

 帰宅すると、ラクスは真っ暗闇のダイニングで家中の食器を洗いながら歌を歌っていた。
 その光景を見た時、僕にはラクスが何を考えているのか判らなくなった。
「――只今」
 僕は一言告げて寝室へ向かおうとした。僕は今疲れている。体が休息を欲している。
「あら、キラ。帰ってたんですのね。私、全然気付きませんでしたわ」
 ラクスは歌うのを止めて僕の方へと振り向いた。
 目を細め笑顔を浮かべている。その表情に邪気が無い分、僕は恐怖を感じた。
「ラクス。今夜は疲れているからもう寝るよ」
「貴方の為に熱いお湯を沸かしてありますわ。汗を流した方が良いですわよ」
 ラクスは泡だらけの手を洗い、僕に一歩ずつ近付いて来た。僕は動けずにいる。
「私、たまにはキラと……。疲れているのでしたら私が癒して差し上げますわ」
 ラクスが僕の背中に手を回して来る。僕の胸に顔を埋めて来た。
「ラクス、僕はヘトヘトなんだ。君の夢の為に頑張っているんだ。それに今日は排卵日では無いだろう。」
 僕はラクスの腕を振りきろうとしたが、ラクスは力を込めて僕から離れまいとふんばっていた。
「キラ。私は貴方の子供を作る為の道具ではありません。私はただもっとキラと触れ合いたいのです」
 いつからだろう。ラクスがこんな風になってしまったのは。
 以前の彼女はもっと清く正しく美しかった。僕は彼女の笑顔を守りたいと思っていた筈だった。
「僕は疲れているんだ!僕の事を思うならゆっくり寝させてくれ」 僕は彼女を振り払い寝室へと向かった。ドアの鍵を締めベッドに倒れ込む。
 彼女は僕の気持を全く判ろうとしない。自分の感情だけを僕にぶつけて来る。
 僕は唐突にフレイが懐かしく思えた。

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