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491_第05話2

Last-modified: 2007-12-02 (日) 17:59:12

 ――格納庫は地獄と化していた。

 何人もの研究員が血に染まって倒れており、中には鬼に喰われている最中だった。

 その数は、ざっと十匹以上。

「……こいつら」

 睨み付ける。状況は正直芳しくない。だがそれでも奴らにゲッターを破壊されるわけにはいかなかった。

 左手で上手く狙えるだろうか、と思案していると背後から複数の足音が聞こえてきた。

「シン、無事だったか!」

「達人さん!? それに早乙女博士も!」

 振り返ると三人の男たちが駆け寄ってきていた。

「達人さん、その傷……」

 首と右肩の中間あたりが赤く染まっていた。血の出が激しかったのか、肩のほとんどが真っ赤になっていた。

「少しへマをしただけだ。見てくれほど酷い傷じゃない」

 とてもそうは見えなかったが、頷いた。こんな傷で参るような人ではないのは分かっていたからだ。

 早乙女博士は格納庫全体を注意深く見渡していた。こちらのことはどうでもいいらしい。

 ――そして、もう一人。

 今さら確認するまでもない。一度写真で見ただけだがその顔には見覚えがあった。

 ――野性味を感じる相貌、傷だらけながらも鬼たちとは違った意味で引き締まった体つきの男。

 怪我をしたのか腹と肩に包帯が巻かれており、何故か防災用の斧を持っていた。

 この男が、流竜馬。

「……下駄ジジイに鬼の次は赤目のガキか、おまけになんだよあのデカブツは。もう何が出てもちっとやそっとじゃ驚かねぇぞ」

 こっちを見るなりそう言われた。

 ――あ、少しカチンときた。

「……なんだよ、そっちは半裸の斧男じゃないか。こっちが驚きだっての」

「ンだとこのクソガキッ!」

「喧嘩は後にしろ、奴らをゲッターから引き離すんだ」

 いつの間にか早乙女博士は行動していた。鬼がこっちに迫ってくるというのに怯みもせずゲッターに近づいていく。

「チッ……なんだかわからねぇが、やるしかねぇみてぇだなァ!」

 そう叫んで男――竜馬は駆け出した。電光石火の速さで鬼に肉薄し、斧で頭を砕き、首を撥ねる。

 一撃必殺。ほとんどの鬼は初撃で頭をやられて骸と化した。瞬きをする度に鬼の数が減っていく。

 ――強い。

 小振りな斧だけで、というだけではない。鬼も追いつかないほどの俊敏な動きと骨すらも容易く両断できるほどの膂力、どれを取っても並の、いや戦闘用に調整されたコーディネイターすら凌ぎかねないほどの身体能力だった。


「って見てても仕方ない、こっちも行くか!」

 左にマグナムを持って鬼の群れへと飛び込む。大柄な鬼が振り下ろす腕を掻い潜って接近、顎に銃口を押し当ててトリガーを引く。

「ッ!」

 衝撃がキツイ、だがそれでも確実に当てるにはこの方法しかなかった。いくら電磁ナイフとはいえ自分の腕力では鬼の首を一瞬で切断できるほどのパワーもスピードも生み出せない。


 一匹、また一匹。確実に仕留めていく。

 やがてドック内の鬼のほとんどが殲滅された。おそらく最も多く倒したのは竜馬という男だろう。

 ……無茶苦茶だ、あの男。仕舞いには離れたところにいた鬼に斧を投げつけるような真似さえやってのけた。

「無事か?」

「はい、なんとか……これで終わり、ですか?」

「いや、まだだ」

 険しい表情で駆け出した達人の後を追い、外に出ると分厚い雲が歪んでいるのが見えた。竜馬も早乙女博士も遅れてそれを目にしていた。太陽のものではない光が差し込み、その中から巨大な物体が現われ出てきた。


 ――無数の棘が付いた球状の下半身、鬼。右手の巨大な鎌が鈍く光を放っていた。ゆっくりと空中を漂い、ある場所で動きを止める。

「アイツは!?」

 いつの間に研究所から抜け出していたのか、鬼が巨大な鬼の目の前にいた。巨大な手に掴まれ、角から放電したと思った時には口の中に放り込まれていた。

「共食い……?」

「あれも、敵だってのか?」

「怖気づいたか?」

 その言葉の反応が気になって竜馬の様子を盗み見る。

「――なわけねぇだろ」

 笑っていた。虚勢でも狂ったわけでもない、獰猛な眼光に一切の陰りも感じられなかった。

「そいつは頼もしい……父さん」

 早乙女博士が頷き、達人はドックの中に戻っていく。

「待ってください! 俺も……」

 何をするのか、というのは簡単に想像できた。だからこそ、自分も行かねばならないと思った。

「俺だけでいい。そんな手では足手まといになるだけだ」

 ……見抜かれていたらしい。だがそれでも食い下がる。

「整備が充分でも一人じゃ無理です!」

「無茶はするが、無理はしない。どの道このままじゃジリ貧なんだ。俺が行くしかない」

 振り返って顔には決意が固まっていた。

「お前はここに残れ。父さんたちを守ってやってくれ」

「……分かり、ました」

 ――またか、また自分は……

「そんな顔をするな、死にに行く気はないさ」

 軽く笑いながら、背中が遠ざかっていった。

「攻撃、来ます!」

 背後を向くと宙に浮かんだ鬼の下半身の棘がミサイルのように放たれた。

「うわっ!?」

 衝撃。しかし施設へのダメージは皆無だった。研究所の周辺に展開された光の膜がミサイルを防いだのだ。

「光波防御帯!?」

 研究所の塔から発生されたバリアは連合の技術――確かアルテミスの傘とか言われてるものに酷似していた。

 もっともあちらは発生器が複数必要であり、こちらは発生器がひとつのみではあるが。

「状況は!?」

 声がした方へ振り返ると早乙女博士と竜馬が外から帰ってきていた。研究所内の鬼は全滅してしばらくは持ちそうではあるものの、多くの研究員が犠牲になったらしい。


 ――鬼の角に蒼い光が宿り、雷撃が研究所に降り注ぐ。直後に司令室の中が暗黒に包まれる。

「敵の攻撃で送電がストップ! 自家発電に切り替わりました」

 室内に光が灯る。自家発電でもバリアに問題はないらしい。もはや要塞だ。

「しかし今の衝撃で地崩れが! このままでは危険です!」

 細かい震動が床のさらに奥から響いてくる。直撃はなくともこのままでは研究所が崩壊してしまう。

「なにか武器とかないんですか、この研究所!?」

「無茶を言わないでくれ! これが精一杯だ!」

 ……近くの研究員に問いかけたら怒鳴り返された。えぇい、そんなとこだけ普通の研究所ぶって!

 ――鬼が右腕の鎌を振り上げる。このままバリアごと研究所を叩き潰すつもりなのか。

「クソッ……」

 どうにもならないのかと諦めかけた瞬間、鬼は横薙ぎに放たれた砲弾の雨に弾き飛ばされた。

「何が起こった!?」

「カメラを切り替えろ!」

 巨大なスクリーンに一瞬砂嵐が映り、すぐに別の場面に変わる。

 ――巨大な赤鬼、その両腕には巨大なマシンガンが握られていた。

「達人さん!? 無謀です、単独操縦は!」

『無謀だろうがなんだろうが、今奴らに渡すわけにはいかねぇんだッ!』

 達人と共が?二挺のマシンガンが吼える。その名称とは裏腹に戦車砲に匹敵するサイズの弾丸が鬼の全身を穿った。

 ――グァァァァァァァァァァァァッ!

 外から鬼の絶叫が聞こえてくる。画面では鬼が斜面に叩きつけられたてからも絶えず鉄の嵐に巻き込まれ、土埃の中に姿を消していた。

「おい! アイツはいったい何を守ろうとしているんだ!?」

 後ろで竜馬が叫んでいた。自分か、早乙女博士か、どちらに向けての言葉か分からなかったが自然と目線はドックに吊るされたゲッターに向いていた。それは早乙女博士も同じだったらしい。


「……あれが?」

「そうだ。あれが守らねばならぬもの、ゲッターロボだ」

 ――ゲッターチームは俺を含めてコイツを乗りこなせるほどの技量も能力も持ち合わせちゃいなかった。

「そしてあれを操れる男、流竜馬! お前のこともな」

「俺が……操る?」

 ――だから俺たちは……俺は命がけで守る。この機体を、それを操るパイロットを。

 あのときの言葉が鮮明に浮かんできた。だからこそ達人は不利と分かりきったこの状況で一人プロトゲッターに乗り込み、鬼にただ一人立ち向かっているのだ。

 ……なら、自分はどうだ?

 自分に今なにができる?

「博士! 達人さんの様子が!」

「えっ……?」

 画面に向き直る。

 ――信じられない、信じたくない光景がそこにあった。



 ――ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 多銃身の砲口から吐き出された無数の弾丸が鬼に向かって降り注ぐ。パイロットの搭乗人数に左右されない威力を持つ武装としてゲッター用に開発されたマシンガンだが前回の戦いでは牽制にもならないほどに無力なものだった。


 その反省を活かし、秒間数百発の発射できるように改良した多銃身のバルカン砲でゲッター線による特殊加工を施したAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を使用することで大幅な威力向上の実現を果たした。


「――どうだ?」

 トリガーから指を離し、コクピットの中で達人は固唾を呑んで土煙の向こう側に目を凝らす。

「畜生がッ!」

 煙の中に蠢く影を視認して再びトリガーを引く。再び撃ち出された暴虐の嵐は、しかし数秒で治まった。

「野郎……」

 EMPTY(弾切れ)の表示を苦々しく睨みつけ、前方に視線を戻す。

 土煙の中から現われた鬼は……無傷。ところどころに弾痕が見られるものの、ダメージを受けた様子は見られなかった。

 ――ズゥンッ!!

 マシンガンを足元に落とす。こうなったら基本武装で挑むしかない。最終手段として炉心をメルトダウンさせてもろともに消し飛ばすことも出来るが、研究所に近すぎるのがネックか。


 ……なんにせよ、今は戦うしかない。

「ゲッタァァァァァァ……」

 腹部の装甲が展開して光が収束した、瞬間、

「ッ!?」

 ズグリ、と肩の傷が疼いた。

 疼きはじわじわと身体中に広がっていき、頭に激痛が走る。

「ぐ、ぅ……ああああああアアアァァァァァァ!!」

 頭蓋骨が軋み、何かが額から生えてくるのを感じた。

 そして、ブツリと意識が断絶した。



 ――司令室はしばしの間静寂に包まれた。

 当然だろう、画面の中で達人がまったく別の生物に変異する場面を余すことなくすべて見せ付けられたのだから。

 額から二本の角が生え、肌はくすんだ緑色に変わり、鋭利な爪が伸びて眼球が裏返るという過程を。

「達人、さん?」

 その目に、正気は感じられなかった。凶暴な獣性だけがあった。

 プロトゲッターが研究所に向き直り、ゲッタービームが発射される。

 ――バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!

 同じゲッター線を利用した兵器だからか、ビームは光のパネルを端から分解していく。

「そんな……」

 鬼の鎌が振るわれる。もはや防ぐ手段を失ったバリアの発生器である塔が呆気なく両断された。

 次いでプロトゲッターからトマホークが投げつけられ、その衝撃でイーグル号を吊り上げていたワイヤーが切断して落下した。その影響は司令室にまで及び、砕け散ったガラス片が数少ない生存者に襲い掛かった。




「危ないっ!」

「ッ!?」

 突き飛ばされて倒れこむ。爆風が身体の上を通り過ぎ、破片が上から降ってきた。

 ドサリ、という音で顔を上げる。自分を庇った研究員が目の前にガラスの角を生やして転がっていた。

「そんな……嘘だろ? 嘘だろ、こんなのっ!」

 状況は最悪を通り越して絶望的だ。もはや研究所は鎧を剥がされ牙も折られ、さらにその牙で滅多刺しにされているようなものだ。

「博士、避難してください! ここはもう持ちません!」

 生き残った研究員が早乙女博士に駆け寄っていた。どうやら無事らしい。その向こうで竜馬も頭を振ってガラスの破片を払っていた。

「研究所なんてどうでもいい、なんとしてでもあれを守り抜け!

 あれ――イーグル号はあれだけの衝撃でありながらも全くの無傷であった。だがその頑丈さが鬼と、そしてプロトゲッターの前にどれほど耐えられるのだろうか……

「あれに――」

 そのとき、竜馬の声が静かに響いた。

「あれに俺が乗れば、どうにかなるってのか?」

 ゆっくり立ち上がり、機体を見据えている。

 ……戦う気なのか? あの機体で?

「そんな無茶な! 未完成のイーグル号だけじゃ手も足も……」

「いや、なる!」

 早乙女博士に言葉を遮られた。

「操縦なんかしたことねぇぞ!?」

「構わん、とりあえず操縦桿を握れ! あとはこちらで指示する」

 ズン、と研究所に再び震動が走る。これ以上は研究所も持たないだろう。

「急げ! もうそこまで来ている!」

 崩れたドッグの向こう側に鬼の姿が見えた。角が青白い光を放ち始める。

 ――間に合わない!

 目を瞑り、最後の時を覚悟した。

「……?」

 予想していた攻撃は来なかった。目を開けると鬼がプロトゲッターに背後から締め上げられている。

「これって……達人さん!?」

 司令室に駆け戻り、通信を開く。

「達人さん! 無事なんですか!?」

 問いかけるが返ってくるのはノイズばかりだ。



「クソッ、繋がれ!」

 拳を叩きつける。すると画面に砂嵐が走り、途切れ途切れに画像が映し出される。

「達人さ……!?」

 映像が届いた直後、硬直した。

『――発進、しろ。発進するんだ……俺の意識が、残ってるうちにッ!』

 ……達人は自分の肩にナイフを突き立てていた。肌の色は元に戻り、瞳には理性が宿っていたが、額の角と牙は健在だった。

「達人……レバーを引け、竜馬!」

「は、博士!?」

『どうしようってんだ?』

「達人が奴を抑えている間に体当たりで破壊するんだ!」

 ――待て。

『おい! それじゃアンタの息子まで死んじまうぞ!?』

「構わん! それが必要な犠牲なら息子だろうが!」

 ――待てよ。

「あ……アンタって人はッ!」

 襟首を掴んで詰め寄る。

「他に方法はない!」

「だからって! だからってこんなのはないだろ!?」

 ――こんなに簡単に、親が子供を切り捨てるなんてあっていいのかよ!?

『……シン、俺のことは気にするな』

 達人からの通信が届く。

「達人さん、すぐに助けに行きます! だから……」

『俺にこれ以上、生き恥を晒させるなッ!!』

「っ……!?」

 ――何も言えなかった。言える筈がなかった。

 その信念を聞いていた筈なのに。なんて無意味な気休めの言葉をかけていたのか。

『流、竜馬……考えるな。敵を倒すんだ。これ以上は持たんぞ」

 画面の中で達人はさらにナイフを深く抉りこませる。



『――俺の屍を越えていけぇッ!!』



 血を吐くような絶叫。懇願と叱咤と、覚悟が綯い交ぜになったような雄叫びだった。



『……先に』

 イーグル号のブースターに火が宿った。

『――先に地獄で待ってやがれッ!』

 一瞬にして離陸速度を突破した真紅の機体は砲弾のように鬼の腹に突撃し、背後のプロトゲッターごと貫いた。

 両断されたプロトゲッターから炎が噴き出し、爆散した。

「達人さんっ……!!」

 研究所を飛び出し、黒煙の上がる地点を注視する。

 ――鬼とプロトゲッターの残骸。生き残った者がいないと分かりきっているのにそれでもその中に動くものがないかを探す。

「……新しい所員を、集めねばな」

 下駄の音が横を通り過ぎていく。

「言うことはそれだけかよ……アンタはッ!?」

 非情な背中を睨みつけて、気付いた。隠し切れない悲しみがそこから滲み出ていることに。

「――わしと、わしと竜馬さえ生き残っていればいいのだ」

「クッ……」

 視線を外す。自分の中の何かが耐えられそうになかった。

 ――雨が、降っている。気付けば斜面を滑っていった紅い機体の元へと駆け出していた。



「生きてるか?」

 開け放たれたコクピットで竜馬は全身に雨を受けていた。

「ああ……身体がぶっ飛ぶかと思ったけどな」

 手を差し伸べて引っ張り上げる。足元がふらついているが、それほど深刻な影響はないようだ。

「……あの人は、俺の師匠だったんだ」

「あ?」

「たった一ヶ月半、それでもあの人から……あの人たちから、いろんなことを学んだんだ」

 自分の感情を止められない。何を言いたいのかも分からずただ言葉が止め処なく溢れ出す。

「あんたは……あんたはこれを操れる男なんだ。俺の最終目標はあんたなんだ」

 ――今回もまた何も出来なかった。ただ喚くだけで何を為すことも出来なかった。

「だから、だから俺はっ……!」

 そこまでだった。悔しさや的外れな怒り・憎悪・妬みが混ざり合って、最後に残ったのは虚しさだった。

「――俺は流竜馬だ。お前は?」

 突然名乗られる。何のつもりなのか分からなかったが、それでもなんとか名乗り返す。

「俺は……シン。シン・アスカ」

「シン、か……」

 確かめるように呟いて、それっきりだった。雨の降りしきる空を見上げたまま互いに沈黙を保つ。

 ――俺の屍を越えていけ。

 その言葉が胸の奥深くに突き刺さっていた……





 鬼の襲撃から数ヶ月、流竜馬・神隼人・武蔵坊弁慶の新生ゲッターチームは鬼に対して圧倒的な力を示していた。



 しかし未だにゲッターを御することの出来ないシンは苦悩する。

 自分がこの世界にいる意味があるのか? 何故自分はこの世界に招かれたのか?



 新たな鬼の襲撃によって新早乙女研究所に未曾有の危機が迫る!

 その最中、シンが見たものは!?



 次回! ゲッターロボ運命(デスティニー)

 『兵どもが夢の跡』

 に、チェンジ・新ゲッター1!










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